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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
38/62

ゲリラ戦

 魔力感知を最大働かせながら、僕は森の中を駆ける。

 沢山の魔力を感じる。

 次が精鋭部隊ということだろう。

 高い木に飛び乗り、目視でも敵の確認を行う。

 10人ほどのパーティーで組まれた小隊がいくつも確認できた。

 敵も出兵してきてるだけあって、それなりに警戒している。

 あくまでそれなりだ。


「行儀よく隊列なんて組んで、まあ」


 包囲網を敷いていっているらしい。

 単純で効果的な兵士が多い場合にとれる作戦だ。僕にとっては動きがわかりやすい。。

 それに当たり前だけど全員人間だ。

 僕は、魔法はすべて感知できる。 

 魔法以外で、想像を越えた動きをしてくる奴はいないのなら、怖いものなど何もない。

 僕は、聖剣を引き抜き、自分の顔をみた。

 負けるなんて考えていない、いつも通りの自分の顔があった。

 僕は、くるりと回して、親指と人差し指で掴むように、剣を持ち替えた。


「さてやるか。対戦よろしくお願いしますと」


 僕は一番先頭にいた強そうな槍使いにむかって、聖剣を投擲した。

 元野球部、投げるのは、得意だ。

 腕力はないとはいえ、魔力で強化している。

 聖剣は、まっすぐ吸い込まれるように、相手の首筋に突き刺さる。


「がはっ」


 認識のわずかに外からの攻撃に、相手はなすすべもない。

 さらに聖剣には、回復阻害がついている。

 そんな伝説級の武器が飛んでくるとは誰も思わないだろう。

 聖剣は僕の剣ではない。

 人の物なら、壊れようがどうだっていい。

 雑に扱える。

 人がひとり死んだときの敵兵の初動を頭にいれる。

 手に取る武器がなにか、警戒するのがどれだけ早かったかなどで、殺す順番を考える。

 僕はドラゴンキラーに持ち替えると、素早く木からおり、駆け出した。

 木から降りる直前ヒーラーが慌てて、ケガを治そうと駆け寄っていた。

 光属性単、回復専門なら、当然護衛がつく。歩みが止まる。

 草陰から飛び出して、ヒーラー付きの護衛とヒーラーの首をまとめてはねる。

 けが人をすぐ治そうとするなんて、優秀だな。

 優秀すぎて動きがテンプレでわかりやすい。

 すぐに僕は茂みに飛び込むと、森を駆け抜ける。


「くそ、尋常に勝負しろ」


 他の兵士が吠える。

 僕は笑った。

 嫌に決まっている。

 僕は武器を持っていない魔法使いの前にわざと飛び出すと、魔法が発動するタイミングで飛びのいた。

 おもしろいように、同士討ちが起こる。

 僕は相手の属性がわかるから、どの魔法が誰に効果的なんてすぐにわかる。

 厄介そうな魔法使いは、先に倒してしまい、恐怖ででたらめに魔法を放つ魔法使いだけ、わざと残して、僕は他の奴を殺していく。

 後ろを向いていても動きがわかるのだから、味方が増えたようなものだ。

 倒したい敵と魔法使いの間にたっておいて、魔法が放たれたら、かわすだけ。自分の魔力の節約にもなる。

 魔法使いが最後の一人になったら、僕は魔法使いの方を振り向いた。


「お前みたいなやつがいるなんて聞いてない」


 魔法使いが、僕に言う。

 弱いものいじめにでもしにきた気分なのか。

 殺される覚悟もなしに、攻めてくるなよ。


「敵国を攻めているんだから、敵はいるだろう」


「こんなに敵がいるんだぞ。何で1人で攻めてくるんだ」


 僕らはいつも四人で何十人も相手にしている。

 ひとりで十人ぐらいたいしたことはない。

 それに見ればわかる。個々のレベルは高くても、連携がとれていない。

 そんな奴らなら、むしろ人数が増えれば増えるほど、僕にとっては御しやすい。

 魔法使いは後衛しかしたことないのだろう。

 魔法は多彩で威力も高い。

 大部隊の安全なところから、撃ち込む魔法はさぞ楽しいことだろう。

 魔法使いは、話しながら、密かに魔法を構成している。

 僕は魔法使いが放った風属性の不可視の刃をよけた。


「なんでわかるんだ」


 魔法使いは愕然とする。

 完全に不意を突いたつもりだったんだろう。

 魔法を使って僕の不意を突くなんて不可能なのに。

 僕は素早く近づくと、首をはねた。

 豆腐を切るように、刃筋が通る。


「ははは」


 朝までが嘘のように、調子がいい。

 今ならいくらでも殺せそうだ。

 僕は、次の目標に向かって駆け出した。


◇ ◇ ◇

 

 僕は、敵に突き刺さったままだった聖剣を引き抜いていると、闘士と僧侶がやってきた。


「勇者、今日は一人で全員やってしまいやがって、いつもは俺に出過ぎっていうのによ」


「ああ、ごめん」


 僕は、謝りながら、剣についた血を布で拭う。


「姫は?」


「町のみんなを落ち着かせるってよ。被害の状況も確認しないといけないみたいだし、俺たちいても役にたたないから勇者探してたけど、こんな近くまで他の敵が来てたんだな」


 見渡すと見える範囲だけで、数十人は死んでいる。

 森中走り回って、殺して回ったから、三桁ぐらいはいっているかもしれない。

 闘士は最初にたおした兵士の顔をみて驚いた。


「げっ、こいつ、前回武闘大会の優勝者だろ。どうやって倒したんだよ」


「草むらから、剣投げて不意打ちで」


 僧侶は、僕が同士討ちに利用した魔法使いを見下ろした。


「こっちは有名な大魔導士ですね」


「体術はたいしたことなかったよ」


「こっちの魔法戦士はどうしたんですか。勇者の魔法じゃ破れないですよね」


「そこの魔法使いの魔法を誘導して当てたよ」


 闘士と僧侶は呆れている。


「勇者は、混戦なら無敵だな」


「本当ですよ。普通に考えたら倒せない相手が、なぜか死んでるんですから」


 敵の数が増えれば増えるほど戦いやすい。


「せっかくなんでアイテムもらっておきましょうか。勇者の殺しかただと防具や装備が綺麗なのでいいですね。闘士だといつもグチャグチャですから」


 きれいといっても血まみれにはちがいないんだけどな。

 僧侶が大魔導士と言った人物の装備をあさっているのをみて、闘士がきく。


「大魔導士ってやっぱり、究極魔法とか使えるのかな」


「さあ、どうなんですかね。あたしは一つしか使えませんが」


 思わぬ回答がきて、僕は僧侶にきいた。


「僧侶究極魔法使えるの?」


「? 使えますよ」


 僧侶が不思議そうに僕をみた。


「使って見せてよ」


「いつも使っていますよね?」


「えっ。どれ?」


「アトミックサンダーですよ」


「そうだったのか」


 よく考えれば、ライトニングサンダーで上級魔法なのに、あれより明らかに威力が高かった。

「いつもは少し威力弱めて撃ってますから、ドラゴンには全力で撃ちましたけど」


「ドラゴンのおっさん、究極魔法受けてしびれる程度だったのか」


 ドラゴンものすごいな。

 究極魔法でようやくダメージが入る程度なのか。

 最強の代名詞といわれるだけある。


「ただアトミックサンダーは、広範囲殲滅魔法。最大の特色は威力より、範囲ですからね。今日はそうですね。あと一発だけなら撃てそうです。全力で撃ってみましょうか」


「なら本隊攻撃してくれない? 今倒してしまったのが精鋭部隊の先兵ってところで、本部隊がひかえてる」


「そうなのか。よくわかるな」と闘士。


「魔力感知は、魔力使ったあとのほうがよくわかるから」


「勇者、どのあたりですか?」


「まだ随分先だけど、東側だよ。あの先端が折れ曲がった木があるあたりかな。かなり遠いけど」


「本当だ結構いるな」


「闘士ここから見えるのか」


「見えるけど、どうかしたのか」


 目良すぎだろこちらのほうが高台とはいえ、何キロ離れてると思うんだよ。


「じゃあ、いきますね」


 僧侶が魔法の詠唱に入る。

 ゆったりと歌のように呪文が響きわたる。

 十分に魔力をみなぎらせた短縮なしのフル詠唱。

 言葉によって、きれいな構成が組みあがっていく。

 僧侶は指を向けて狙いを定めた。


「アトミックサンダー」


 幾重にも折り重なった雷が僕が指定した場所に降り注ぐ。

 森だった場所が、範囲数キロにわたり焼け野原になった。

 ふうと息を吐き、僧侶がきいてくる。


「どうですか勇者」


「八割ぐらい魔力が消滅したよ」


 魔力源が消滅した、つまり人が死んだということ。


「一撃で、僕が頑張った分より明らかに倒してるよね」


 あんなに頑張ったのに、自信なくす。


「確実に殺せるわけではありませんから、強い人達は残ってますよ。虫の息ですけど」


「魔族殲滅の時、最初から使えばよかったのに」


「殲滅はできないからですよ。雷なので、遮蔽物によわいんです。敵が室内にいれば、威力が極端に落ちます。魔力消費量が多いですし、見えている敵を1人ずつ殺すなら、他の魔法の方が有効です」


 魔力量がおおい僧侶もドラゴン戦で三回しか撃てなかった。

 たしかに乱発していい魔法ではない。


「あとはいつも通りいくか」


 闘士が拳を構える。


「怪我しないでください。回復魔法に使えるほど、魔力ありません」


「魔力ないんだったら僧侶は引き上げる?」


「いえ、敵を殺すぐらいの魔力ならあります」


「それなら、回復用にとっておいてよ」


 なんで味方が死にかけた時用より、敵殺す方が優先なんだよ。

 そりゃあ、ドラゴンのおっさんも頭おかし言うわけだよ。

 不服そうに、僧侶は唇を尖らせる。


「しかたないですね。姫には、あまり使うな言われているんですけど、たまにはこっちでやりましょうか」


 僧侶は、懐から出した鞭を構えた。


「僧侶、武器使えるの?」


「これが本職です」


 そういえば、拷問士だったね。

 鞭をしならせて振る。

 メキャキャと、大木が抉れた。

 呆然と僧侶を眺める僕と闘士。

 そういえば、闘士のこと雑魚言っていたけど、もしかして魔法が使えないからという意味でなくて……、僧侶、魔法使わなくても、強い?


「どうしましたか? いきますよ」


「あ、うん」


「お、おう」


 僧侶が味方で本当に良かった。

 気を取り直して、僕は、剣を抜刀する。

 闘士は、拳を構える。

 僧侶は鞭を張る。

 僕ら三人は視線をかわして、うなずくと、敵陣にむかって駆け出した。

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