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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
37/62

防衛戦

 死んだと噂されていた第三王子がじつは生きており、姫の領地を攻めてきた。

 あちらの世界の事情は知っていたのに、それ以上に王子の動きが早い。

 キリーナ姫からでた指示に従い、領地が隣接している町に急ぐ。


「お願いします。なんて言われると調子くるいますね」


「姫はいつもしなさいだしな。だけど、妹君のお願いはすべてきくのが、姫の命令だからな」


「ですね」


 涙を浮かべた美女に懇願されると、苛めたくなる。

 姫の妹君なので、もちろんそんなことはせずに快諾した。

 闘士が馬より走った方が速いというので、闘士があたしをおんぶして移動している。

 最近なんだかこの移動方法をよく使っている気がする。

 乗り心地は、悪くないのが、少し嫌。

 ただ文句もいっていられない。

 そんなことを考えているうちに、遠くに町並みが見えてきた。

 あちこちから火の手もあがっている。

 ただ燃え尽きていないので、攻撃を受け始めたばかりともいえる。


「急いでください闘士」


「わかってるって」


「それに今回は殲滅戦じゃありません。なるべく町の人を巻き込まないようにしてください」


「なるべくじゃだめじゃね。出来るだけだろ」


「出来るだけでも本当は怒られそうですけど」


「どうやって敵味方見分ける?」


「町民を襲っていたら敵、町民を守っていたら味方、わからなかったらとりあえず昏倒させましょう」


「いいなそれ。分かりやすい」


 闘士におんぶされたまま、町中に突入するとさっそく戦いあっている兵士がいたので、とりあえずパラライズサンダーを当てて二人まとめて昏倒させる。

 近くにいた町民に、敵を束縛し味方を介抱するように指示して次にすすむ。

 これは想像以上に楽しいです!


「闘士、このまま移動しましょう」


「おう。そうだな。こっちのほうが、効率いいな。俺手加減苦手だし、攻撃は任した」


 闘士の馬より速い移動で走り抜けながら、確実に敵だとおもえる兵士にはショックサンダー、よくわからなければ、パラライズサンダーを撃ち込んで、どんどん倒していく。

 しばらく進んでいくと、敵兵とおぼしき塊が見えたので、ライトニングサンダーを放った。 

 放った雷撃が突然そそり立った土の壁に妨害された。


「むっ。土属性ですか」


 闘士が砂埃をあげながら、急ブレーキする。

 立ち止まって、あたしを降ろした。

 壁の隙間から、ローブを着た男が見える。


「お前は雷属性だな」


 男はそう言った。

 馬鹿なのですか。

 そんなことをいちいち聞いてくるとは。

 あれだけ雷撃放って、雷属性じゃないことはないと思うのですが。


「知ってるか? 雷属性はな、土属性に効かないんだよ」


 そんなことは言われなくても、常識です。

 土属性の魔力持ちの人間は、雷属性魔法攻撃に対して異常にレジストが強い。

 あたしの唯一の弱点属性。

 なのであたしが馬鹿正直に戦う必要はない。


「闘士、お願いします」


「おうよ」


 闘士が拳を構えると、前に飛び出した。


「ゴーレム召還」


 大地が鳴動し、岩の巨人が現れる。


「土属性魔法の上級魔法ですか」


 土属性を扱う為には、その特性状、大量の魔力がなくては、初級魔法すら発現しない。

 熟練の使い手ですね。


「ですが、相性を魔法属性でしか話せないのは、魔法使いとして二流ですけど」


 ゴーレムが放つ拳を闘士は片手で受け止めた。


「せいや!」


 闘士が空いた手でゴーレムをぶん殴ると、ドンっと爆裂音とともにゴーレムが魔法使いに向かって吹き飛んだ。


「うぁあ」


 慌てて魔法を解いたところで、岩の塊には違いない。

 土属性の魔法使いは、自分が召還したゴーレムに虫けらのように叩き潰された。


「よし。楽勝!」


 土属性の魔法は、すべて純粋な物理攻撃。

 つまり、馬鹿力に弱い。

 あたしにとっては弱点であっても、闘士にとっては唯一楽に勝てる魔法使い。

 しっかり準備を終えていたあたしは、そのまま魔法を唱える。


「ショックサンダー」


 優勢を信じていた兵士達に、電撃をお見舞いする。

 敵兵がバタバタと倒れていく。


「勇者がいないと無駄口たたく奴がいて不愉快ですね」


「そうだな。あいつはそんなことしてる奴は、速攻殺してしまうからな」


 それに、勇者は、相手が魔法を使わなくても、属性がわかるので、土属性の魔法使いがいると優先して倒してくれるのが常だった。


「よし、じゃあどんどんいくか」


「そうですね。あたしの雷撃に耐えれるのはどれだけいますかね」


 今日は姫がいないので、敵だとわかれば、霊繰術用に加減する必要もない。

 それに、敵は魔族でなくて人間。

 昔の感覚が戻ってくる。

 キリーナ姫からお願いされたという大義名分もしっかりある。

 久しぶりに殺戮を楽しみましょう。


「ふふふ」


 あたしは思わず笑みをこぼした。


◇ ◇ ◇


「ごめん、姫失敗した」


 僕は起きてすぐに姫に報告した。

 報告を聞き終えた姫は頷いた。


「しかたありませんね。いずれお兄様には、バレるとは思っていました。ののかさんに怪我がなかっただけよしとしましょう」


 本当に姫はののかにだけには優しいな。


「僧侶と闘士が先に帰っていたのは、僥倖でしょう、あと数日でワタクシ達も領地につきます。慌てたところで、馬の速さが速くなるわけではありません」


「それはそうなんだけど」


 気持ちだけが焦ってしまう。


「装備の整備でもしておきなさい」


「わかった。そうするよ」


 剣を抜くと、鏡のように自分の顔が映る。

 随分酷い顔をしていた。


◇ ◇ ◇


 城につくと、あわてた様子でキリーナ姫がやってきた。


「姉様いいところに。いやよくはないんですけど、大変です。第三王子軍が攻めてきました」


「思っていたより、動きが早いですね。僧侶と闘士はどうしましたか」


「すでに出発してもらいました」


「よろしい。勇者、ワタクシ達も行きますよ」


「姉様自ら行かれるのですか。なら私も」


「あなたは戦闘慣れしていないでしょう。それより、魔族に応援の連絡をしなさい。そちらは任せました」


「は、はい」


 慌てたように、キリーナ姫は戻って行った。

 僕たちは、城に入ることなく、再度馬車に乗り込み出発した。

 馬車に乗るときに伝令から伝えられた情報を整理する。


「もう入り込まれているだなんて」 


「鎖国していたわけではありませんからね。ただ入り込まれたとはいえ、先兵でしょうからそれほど多くはないでしょう。やることはいつもと同じ敵を殲滅するだけです」


「久しぶりの殲滅戦か」


「本隊が到着するまでに、入り込まれた兵士は殲滅して、封鎖しておきましょう。それで、町民を逃がす時間は稼げるはず」


「時間しか稼げない?」


「魔族の応援が来てからが、本番でしょうね。そもそも圧倒的に不利な状況を無理やりひっくり返そうと今までやってきました。小さな土地のただの領主がお兄様に勝とうなんて無理な話。ですが今は魔王として迎え撃つまででしょう」


 自信に満ち溢れている姫。

 それに対して、僕はなかなか立ち直れずにいた。


 もうすぐ町に着くというところで、姫が僕に聞いてきた。


「勇者どうですか?」


 いつものように魔力感知を働かせて、状況をさぐる。


「東側のひときわ大きい雷属性が僧侶だと思う。あっち側は動きが少ないから、僧侶達が倒してくれてるんじゃないかな」


「では、ワタクシ達は西側から攻めることにしましょう」


「了解」


 町につくとあちこちで火の手があがっている。

 ぐらりと意識がぶれる。

 記憶と変わってしまった町並みが僕の瞳に映る。

 許さないと、僕のうちにあるもう一つの魂が訴えかけてくる。

 自分の記憶でない記憶が流れ込んでくる。

 あの街角の雑貨屋で買い物したとか、あそこの武器屋でいつも模造刀を整備してもらっていたなんて、知らない。

 僕は知らない。

 だから、知らないんだって。

 姫の言うように、明らかに敵だとわかる兵士はそれほど多くない。

 戦える町民はそれほど多くないのだろう対応できずにいた。

 建物の中に隠れているのだろうが、敵の兵士は容赦なく、火属性の魔法を放っている。

 目の前に映るものすべてを守れと魂が叫んでる。

 僕は足が勝手に動く。

 いつものように戦い方を頭の中で組み立てられない。


「勇者、待ちなさい」


 姫の静止の声を振り切って、無鉄砲に飛び出すと当然目立つ。

 敵がとばしてきた火球を水を纏った剣で相殺する。

 魔法剣。

 本物の勇者がよく使っていた魔法だ。

 剣に属性を付与して何になるというのだ。

 剣は切れればいいだろうとすぐにやめた魔法の一つ。

 敵は嫌がらせに、自分でなく、町民にも飛ばす。

 飛んでいった火球を聖剣の側面ではじく。


「ぐっ」


 いつも完璧な剣筋で敵を切る時は、少ししか握力がいらないのに、変な風にひねってしまった所為で手がしびれた。

 畜生。

 回避は得意でも、防御は苦手なんだよ。

 わかっているのに、なぜか体が思い通りに動かない。


「こいつがどうなってもいいのか?」


 敵は子供の喉元に刃を近づけた。

 子供の顔に見覚えがある。

 いや、ないはずなのに。


「ユイにい助けて」


 子供が僕に助けを乞う。

 あのころに比べると随分大きくなっている。

 あの子がたまに修行場に遊びに来ていたなんて僕は知らない。


「チャンスです。勇者!」


 姫が叫ぶ。

 何がどうチャンスなのかわからない。


「パラライズサンダー」


 横から飛び出してきた、僧侶が人質ごと敵を感電させた。

 苦しむ男の子を僕は呆然と見つめた。


「勇者何をしているんのですか。トドメを」


「あ、ああ」


 僕は急ぎ刃を構え、敵に刃を振るう。

 心臓を刺して、とどめは刺せた。

 だけど、上手く引き抜けない。

 聖剣はいつもとかわらない。

 手が震えて、剣先がぶれたせいだ。


「しっかりなさい。勇者」


「いや、だって敵が人質を」


 僧侶は、人質だった子供にヒールを急いでかけている。

 そうだよ。僧侶なら痺れぐらいすぐ回復できる。たいしたことはない。

 わかっている。わかっているのに。

 近づいてきた姫にグイっと体を引っ張られて、まっすぐ見つめられた。


「あなたの役目は、私の剣でしょう。しかも、防御力は低く、守るには適さない諸刃の剣」


 それは自分でも分かっている。

 敵の攻撃は回避して、自分の攻撃を叩き込むのが自分の戦術。

 守る方法なんて学んでいない。

 僕の強さは誰かに与えられたものではない。

 弱い勇者の体を酷使して、自分で鍛え上げたものだ。

 最速で強くなるために、防御は捨てて、殺すことのみに特化した。


「敵を殲滅しなさい。人質を守ることより、敵を殲滅する事を優先しなさい」


「だけど」


 今までは、侵略だった。

 周りは全て敵だった。

 敵を殺すことに躊躇いはないけど、味方が殺されることに慣れた訳ではない。

 姫も、僧侶も、闘士も僕より強いと思ってる。

 だから守らなくていい。

 見ず知らずのやつなら多少どうにかなったとしてたいしたことはない。

 だけど、知り合いはダメだ。

 友達ならなおのこと。

 救えなかった生徒会長の瞳を思い出す。

 どうして助けてくれなかったのかと、訴えかけていた気がした。

 抱きしめたののかの震えが、僕にほんの少しだけ普通の人のように恐怖を与えた。

 今の僕は、この世界に来た頃より弱いかもしれない。

 姫が僕の瞳を見つめ伝える。


「そもそも人質が意味がないと理解すれば、こちらを優先して攻撃してきます。そして、敵がいなくなれば守る必要もありませんから」


「それはそうだけど」


「勇者は剣、闘士はハンマー、僧侶は魔導書、盾を私は雇っていません。言うなれば、盾は私自身です」


 うなだれていた僕の目線をあげさせる。


「ワタクシがあなたに守りなさいと指示だしたことがありますか? よく凝らして見なさい。この戦場はあなたの得意分野でしょう?」


 僕は顔を上げ、あたりを見渡した。


 敵が人質に刃を向けているということは、こちらに刃が向いていないということ。

 人質を抑えているということは、手がふさがっていて、身動きがしにくいということ。

 敵も味方も入り乱れているということは、障害物が多いということ。

 短い剣は振り回しやすく。

 敵を倒しやすい。

 敵だけ攻撃すればいい。

 守ろうなんて思わなくていい。

 あとで、守れたかどうかの結果だけ分かればいい。

 僕はいつだって、敵を殺すことだけ考えてきたはずだ。

 内側から訴えかけてくる声を、僕はねじ伏せる。

 お前は、何一つできなかったから、諦めたのだろう。

 今更、出しゃばってくるな。

 お前は、僕に魔力だけを提供し続ければ、それでいい。

 僕は勇者の剣である聖剣を納刀し、代わりにドラゴンキラーを抜刀する。

 僕はもう迷わない。


「分かりましたね勇者」


 ほんの少しだけ姫は微笑んだ。


「ああ」


 本当に姫は酷いな。

 その笑顔は反則だろうに。


「では行きなさい」


 僕は本来の残虐性を瞳に宿し、駆け出した。


◇ ◇ ◇

 

 敵がまた子供を捕まえなにか喚いている。

 内容はもう頭に入ってこない。

 素早く、後ろに回り込み首に一撃加え、武器持つ腕の筋を斬る。

 運がよければ、子供は助かるだろう。

 その程度でいい。

 弱い僕が全員助けるなんておこがましい。

 できることは敵を減らすこと。

 それで結果的に助かる人が増えるはずだ。

 勇者の記憶が、ほんの少しだけ役に立つ。

 町民は皆見覚えがあった。

 見覚えがないやつが敵で間違いない。

 間違ったって別に構いやしない。

 敵が殺したと言い張ればいい。

 いままでだってさんざんそうしてきたのだから。

 僕は次々と敵の首をはねていく。

 魔族と違い、人間の首は柔らかく、速度さえのれば簡単に胴体から切り離せる。

 次々と無心にやっていくと、敵はあっさりすべていなくなった。

 町に入り込んだ敵はほぼかたがついた。

 魔力感知を働かせるとこちらに向かっている強めの魔力をいくつも感じる。

 姫の言葉を思い出す。


「敵がいなければ、そもそも守らなくていいだったね」


 僕は町の外に駆け出した。

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