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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き

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ドラゴンの友達

 ホワイトドラゴンの王の元に、あわてた様子で、部下がやってきた。


「王、大変です」


「どうした?」


「わが国に、魔王と名乗る人物が現れて」


「何、魔王だと、魔王はつい先日、勇者に倒されたはずでは」


「それが魔王の娘に信任を受けた正式な魔王と言っており」


 王は、内心憤慨した。

 現魔王が倒れたら、次こそは我が魔族をも統一してみせると思っていたのだ。

 様子をみていたのは、人間側の挙動である。

 王は先代勇者が魔族領を攻めて来たときのことを覚えている。

 あのとき勇者は魔王を倒し満足して帰っていったが、そのときこの地にも来ていたらと思うと震えがとまらない。

 だが人間の命は短い。

 100年ぐらい待ってやろうと長い気持ちで構えていた。


「どこの種族のものだ」


「そ、それが人間でして」


「はぁ、人間だと」


「それがあの時の勇者の娘らしく……」


「何!?」


 人間は老いるはずなのに世代交代してまで世を苦しめるか。


「広場で王との面談をご所望です。いかがいたしますか」


 人間ならば、能力をすべて引き継いでいるとは限らない。

 皆の目の前で一ひねりして見せれば、いい。

 力を見せつければ、30年前の汚名を返上できるだろう。


「いいだろう」


 王は首を縦にふった。


◇ ◇ ◇


 目の前の人間の女が手を上げると、ドラゴンたちからわーっと声援が巻き起こった。


「魔王様いらっしゃいませ」


「よくきてくれました」


 広場にあつまるドラゴンのみなが親愛の声をあげる。

 ドラゴンたちは長生きだ。

 30年前の勇者侵攻のことを忘れたわけではあるまい。

 ドラゴンに直接的な被害があったわけではないが、あまりの強大さにみな、恐れおののいていた。

 だというのに、いつの間にこんな短時間に、取り込んだのだ。


「あなたが聡明なドラゴンの長でしょうか」


 人間の女は、まずそういった。

 聡明というワードにぐっと来るものがある。


「このような場をもうけていただきありがとうございます」


 優雅に一礼する。

 一応、礼儀はわきまえているようだ。

 殺すのは簡単だろう。

 護衛もたった一人しかつけておらず、護衛は剣に手もかけていない、戦う意思もないように思える。


「いろいろ思うところもあるでしょうが、ワタクシが今回訪問したのは人間のためではありません。魔族の王として、この地に来ました」


 誇り高きドラゴンに対して、人間の分際でなにか要求をつきつけてきたら、八つ裂きにしてやろう。

 そう思っていた矢先に出鼻を挫かれた。


「特に何かお願いがあるわけではありません。お会いできただけで光栄です」


 要求が何もないと言われ、理由もなしに殺してしまえば、我がただの悪者になってしまう。


「ただ友好をむすんではいただけないでしょうか」


 その言葉にドラゴンの民衆が湧く。

 これほどまでに公の場にドラゴンが集まることが珍しい。

 今この娘を称えている拍手がそのまま我に……。

 あがらうことができない承認欲求に思わず首を縦に振ってしまう。

 のばされてきた手をとり握手を交わした。


「今ここに、魔族とドラゴンの融和が成し遂げられました。ドラゴンの長よ。すばらしいご判断をありがとうございます」


 ドラゴンの長をたたえる拍手が鳴りやむことはなかった。


◇ ◇ ◇

 

 民衆から、あの手この手をつくして、信頼を得るのには数週間費やしたが、王との交渉はあっさり終わった。

 僕らは人通りの少ない道を選んで帰ることに。


「案外簡単に行くものだな」


 レッドドラゴンが感心している。


「ただの圧倒的多数決でしょう。たいしたことはありません」


 絶対的な王も、民衆の数の前には屈する。


「そうだったとして、よくもまあ、ドラゴンの前に堂々と立てるものだ」


「勇者がいますから」


「こいつがいるからなんだってんだ。俺様にも、四人いてどうにかだったくせに、一人で勝てるわけないだろ」


「あの場から姫抱えて逃げるぐらいなら、僕にもできるよ」


 逃げ足だけは、自信がある。


「逃げるなんてしないんじゃなかったのか」


「誰も逃げないなんて言ってない。勝ち目があるときは、撤退しないといっただけで。あの場で攻撃されたなら、逃げるが勝ちだろ」


 勝ち目がなければ、当然逃げるし、自分が勝てなくても、仲間が勝てるのならやっぱり逃げる。

 戦略的なら僕は逃げてばっかりだ。


「そういうことです。ドラゴンは体こそ強いですが、性格は温厚。無抵抗の人間を虐殺しようとしたという事実ができれば、民間のドラゴンを先導し、王の座から降ろすかとも可能でしょう。そのあと、新しい王と同盟は結べばいいだけのこと。もうあの場に王が現れた時点でワタクシの勝ちでしょう」


 もちろん、ドラゴンの民衆皆からいいように思われているわけではない。

 姫に対して好意的だったドラゴンだけあの場で王に会うと告知しておいた。全員サクラみたいなものだ。


「お前ら、本当に極悪だな」


 それは僕らにとってはほめ言葉。


「戦闘能力だけが、勝つ方法じゃないよ」


「それに、今回は、ドラゴンにとっても、不利益は何も生じていません。いわばウィンウィン両者とも勝ちでしょう」


「さすがは魔王様」


 ブルードラゴンは、姫をほめたたえた。

 とはいっても、ドラゴンには利益も生じてはいないんだけどな。

 いわばこちらは虎の威を借りに来た狐。

 ただ友としていてくれるだけで、メリットがある。

 人間と戦争になったときドラゴンがどちらの味方かということを示すだけで効果は絶大だ。


「あなた方も、協力感謝します」


 姫がドラゴン夫婦にお礼を言う。


「無理やり手伝わせといてよくもまあ」


「魔王様にそう言ってもらえるなんて、光栄です」


 ブルードラゴンは夫の言葉を覆い尽くすように言った。

 不満がありそうなレッドドラゴンに対して、ただの部下になってしまっているブルードラゴンが感激している。

 カリスマと言えばいいのか、姫は、エルフみたいに光属性じゃないのに、洗脳性能高すぎる。

 僕も姫に洗脳された一人と言えるのかもしれない。

 

 

 前から歩いてきたドラゴンがこちらに近づいてきた。

 黄色髪の人間の女に人化したドラゴン。

 

「久しぶり、王宮で働いていたとき以来かしら」


 どうやらブルードラゴンの知り合いのようだが、親し気に話しかけたブルードラゴンに対して険しい顔をする。


「どうしてそんな奴らのことを連れてきたの」


 きっ、っとにらみつけると、突然刃をとりだして、ブルードラゴンに突撃してきた。


刃が氷結竜の腹に迫り、


ブスリ。


「うあああ、フーリー!」


 レッドドラゴンが叫ぶ。

 尻餅をついたブルードラゴンはお腹を押さえる。


「あれ? 私は何とも」


 ドサリと暗殺者が倒れる。

 瞬時に間に割り込んだ、僕が襲撃者の剣を弾き飛ばし、カウンターで相手の腹を刺していた。

 暗殺者が手に持つ綺麗な刃が音を立てて、地に落ちる。


「僕の目の前で暗殺なんてさせるわけないだろ」


 僕は血塗れの聖剣を血振りする。

 魔力感知は常時発動していた。

 不信な動きをする者がいたらすぐに対応できるように。

 本当はこうならないことをどれだけ祈ったことか。

 ドラゴンが僕にとって戦いづらい理由は、ひとえにドラゴンが巨体であることにほかならない。

 心臓を貫こうにも、首を断ち切ろうにも、僕の刃は短すぎて、皮を切る程度にしかならない。

 さらに回復魔法を阻害する効果も、異常な自然治癒力の前には意味がない。

 ただ人型形態であれば、急所は人間と同じ、殺しやすい。

 僕は地に落ちている剣を見る。

 暗殺者の手から落ちた剣は武器屋の図鑑で見たことがある。

 ドラゴンキラー。

 ドラゴンキラーをドラゴンが使うなよ。

 僕の聖剣とは対極に位置する効果、自然治癒力を阻害する効果があると聞いたことがある。

 確かにこの剣はドラゴンにとって天敵だろう。

 ドラゴンがドラゴンを殺すためにも必要ということだろうか。

 暗殺者は腹を押さえてよろよろと後ろに下がる。


「どうして、こんなことを」


 ブルードラゴンは暗殺者にむかって問う。


「どうしてだって……それはこっちのセリフよ。私たちが強く生まれて来たのは、戦うためなんかじゃない」


 一万年前、神の兵器として使われてきたと聞いたことがある。

 随分、昔の話だが、数千年生きるといわれるドラゴンのことだ、そう何世代も前の話ではない。


「その人達はいずれ私達を戦争の道具に使う。同盟なんていらない。私達は自分達の国さえ守れればそれでいい」


 そうだよな。

 そう思うよな。

 そう思うまともな奴がいなければ、丸く収まったんだけど。


「ワタクシは人間と戦います。そのとき後ろから攻撃されたくなかっただけです。ドラゴンに兵を出して欲しいと要請はしません」


 確かにそれは本当だ。

 変な要求をして逆上されたら困るという消極的な理由だけど。


「ワタクシはあなたたちと戦いに来たのではありません。お友達になりに来ただけです」


「嘘だ!」 


「ワタクシは嘘をついたことがありませんから」


 レッドドラゴンが信じられないものを見るような目で姫を見る。

 嘘をつかないってわざわざ言う奴は大体嘘つきなんだよな。

 僕は姫から学んだ。

 どさりと襲撃してきたドラゴンは地面に倒れる。


「急いで病院へ。ドラゴンですからまだ助かるでしょう」


 姫自ら、ドラゴンを抱える。

 姫ならそう演技するだろうと思っていたよ。

 だから、僕は殺せたが、殺さなかった。

 急所がわかるからこそ、急所を外した。

 完全な正当防衛だったが、せっかく友好が結べたのだ。

 ドラゴン一匹殺してしまってケチはつけたくない。

 間違いなく助かる程度の大けがを負わせた。

 自分を殺そうとしたドラゴンも助けたと姫のさらに印象はさらに良くなるに違いない。


「フーリー、案内なさい」


「は、はい」


 僕は病院へと急ぐ姫とブルードラゴンを見送りながら、僕は落ちているドラゴンキラーを拾った。

 手に取った瞬間にわかった。

 この剣は僕の剣だ。

 今まで握ったどの剣よりも僕の手になじむ。

 根元がぐいとまがり持つ部分より前にでた刃は、逆手に持つことが多い僕にとって、コンマ数秒相手を早く殺せることを意味する。

 執拗なまでの執念をもって込められた敵の命を刈り取ろうとする機能が、相手の自己回復力を阻害している。

 もらっておこう。

 名前は書いてない。

 警察はないから届ける必要はない。

 これはもう僕の物だ。


「おい、追わなくていいのか」


 剣に気を取られていた僕にレッドドラゴンがきく。


「大丈夫だよ。姫はあの襲撃者に霊躁術をかけていた。襲撃者は、ケガしたから体が動かないと思うだけだろう。病院について、攻撃できない程度に離れたら霊躁術を解けばいい」


 僕は姫の思惑をレッドドラゴンに説明してあげる。


「全部計算ずくか、お前のとこの姫は、悪魔かなにかなのか」


「ただの魔王だよ」


「人間で魔王な時点でただのじゃねぇよ。くそ。もう嘘でも友達になるしかないじゃねぇかよ」


「でも、それは本当のことだよ。知らないのか? 拳を交わして、友達を作る方法もあるって。僕たちはお前たちと友達になりにきたんだ。ここ何週間かは楽しかった。多分姫も」


 殺すことに躊躇いはないが、殺したい訳ではない。

 物語に出てくるドラゴンはどれも勇ましくてかっこよくて、僕は昔から最強のドラゴンの友達も欲しかった。


「なんと思われてもいいけど、僕はもう友達だと思ってる」


「姫は酷いが、勇者は卑怯だろ」


「ははは、ありがとう」


「だから、褒めてるんじゃねぇよ。それにしてもお前は変な気がするな。もしかして転生者か?」


「違うよ。向こうの僕は寝ているだけ」


「ああ、なるほど、夢見者ドリーマーか。あっちの世界でお前はどんな感じなんだ」


 可愛い彼女に、楽しい部活動メンバーとともに重ねる高校生活、何も不満もない。


「毎日楽しく過ごしているけど? それがどうしたんだよ?」


「なるほどな」


「いや、何がだよ?」


 一人で合点しているレッドドラゴン


「お前の世界とこの世界は魂が移ろいやすい。

 昔から転生者は数多くいたが、平和な国でぬくぬく過ごしてきて、この世界で戦いながら生き残れる奴はほとんどいなかった。

 平和な世界ですら弱者がこの過酷な世界で生き残れるわけがない。

 運悪く死ぬような間抜けが、他の世界に転生したところで運悪く死ぬだけだろ。

 俺様が知ってる転生者で唯一強かったやつは、元の世界で侍だと言っていた。元の世界で何百人と殺してきたと、死因を聞いたら、寿命だと言っていた」


 戦国時代の負け知らずの侍か。

 確かにどうあがいても強いだろう。


「この世界で強い奴らを思いうかべてみろよ。どう考えても頭のネジがぶっ飛んだ奴ばっかりだろ」


 僕は、姫、僧侶、闘士の顔を思い浮かべる。


「まあ、確かに」


「そしてお前もな」


「人聞きが悪いな」


「お前の使っている体は、どこにでもいるような普通の青年だ。ドラゴン領を平気で歩ける強さじゃない。

 お前の強さは、抑圧されていた才能が解放された類のもの。

 お前はこの世界で何かを得たから強いのではない。

 最初から強かった。

 ただそれだけだ」


「奥さん助けてやったからって、買いかぶりすぎだろ。いつだって僕は必死にどうにかこうにかやっているだけ、たいして強くもないよ」


「お前その剣使ってもいないだろうが」


 ドラゴンが僕の聖剣を指差した。


「何言ってるんだ? 攻撃したとき使ってただろ?」


 僕は首をかしげてみせる。


「そう言うなら、そういうことでいい」


 レッドドラゴンは、あらためて僕に対して頭を下げた。


「勇者よ。フーリーと、我が子を助けてくれてありがとう」


 ブルードラゴンのお腹のなかから、大きな魔力を感じていた。

 ドラゴンキラーでけがでもしたら、死産は確実。


「いいよ。友達だろ。助けて当たり前だ」


 原因は僕らにあった。

 あそこで助けなければ、平穏な暮らしをかき乱した僕らのことをレッドドラゴンは一生恨むだろう。

 それは、友達作り失敗だった。

 助けられてよかったと、

 本当に心の底から思っていた。

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