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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
34/62

部活動悪役令嬢物

 新学期もはじまり、いつもの学園生活が始まっていた。

 僕とレミちゃんは、部活が始まる前のわずかな時間に、あちらの世界の話をするのが習慣になりつつあった。


「レミちゃん、今あっちの世界でどこにいる? 姫はドワーフの里だろうって言ってたけど」


「それがその……姫の領地まで戻ってて」


「えっ。嘘だろ。ドラゴン領まで馬車で10日ぐらいはかかるだろ。まだ別れて2日しかたってないじゃないか」


「そんなことあたしに言われても、闘士に言ってくださいよ。目を覚ましたらついてたんですから」


「どういうことだよ。距離にして、500kmぐらいあるじゃないか」


「闘士は一直線に帰ってきた言ってました」


 あいつ山岳地帯を無理やり突っ切ったのか、いつも馬車運転してくれてるだけあって、方向感覚は抜群なのはしってる。そうしたら、確かに200kmは短縮できる。

 ドラゴンと戦闘したのが、一番太陽が高かったときだから、僧侶が次の日目を覚ますまで、20時間ぐらいマラソン選手が時速20kmぐらいで走れるらしいから……帰れるな。

 あくまで理論上は。

 でも、僧侶背負ってだぞ。

 嘘だろ……。


「闘士はすぐ戻れるから大丈夫言ってましたが……」


「あいつの距離感おかしくないか」


 徒歩で500kmが近所のコンビニぐらいの感覚か。


「もどっちゃったのなら、とりあえず、こっちは戦闘はなさそうだし、キリーナ姫の指示に従ってくれたらいいんじゃないかな」


「そうですね。そうしたほうがよさそうです。そろそろまずそうですし」


「何が?」


「第一王子と第三王子が直接対決するかもしれません」


「どういうこと」


「決闘ですよ。姫が言ってた王族が序列を決めるときに行うと言ってたあれです。戦争はジリ貧、どちらにしろどちらかが倒れるまで続くのなら、ということになったらしいです」


 決闘って命がけだよな。姫は第一王子の方が強いって言ってたけど、第三王子も周到で狡猾どうなるかわかったものではない。


「でも、そうなると片方はいなくなるわけだから、姫にとっては都合がいいのかな」


「どうですかね。軍はあまりダメージ受けずに、片方が吸収することになるとしたら、強大になりますよ」


「つぶし合いしてくれなくなるわけか」


 そのあと、魔族領攻めてくるとしたら確かにまずい。


「状況姫に伝えておくよ。あ、ののかが来そうだ」


 僕は扉の外に、闇属性の魔力を感じた。

 ののかは姫の記憶があるとはいえ、あまりあちらの話を聞かれたくない。

 僕らは、他の人がいるときは、あちらの話をしないようにしている。

 扉があいて、ののかが部室に入ってくる。


「先輩こんにちは」


 レミちゃんは、表情筋を豊かに使い、ののかに挨拶した。

 さっきまでのけだるげな表情とは大違いだ。


「レミちゃん、こんにちは。もう悠久、最近全然待ってくれないよね」


「しょうがないだろ。クラス違うし、ののかの担任話が長いんだから」


 という、いいわけをした。


 本当は部活の前しか、レミちゃんと二人で話すタイミングがないから、全力で部室にきているからなんだけど。


「トウヤは?」


「今日はトウヤ君試合が近いから、空手に行くって」


 ののかが教えてくれる。

 トウヤとののかは、同じクラス。

 僕だけのけ者にされた気分だ。

 昼休みも僕はひとりで図書館で過ごすことが多いので、学校来てからは、ののかと初めて部活で顔を合わせることになることも多い。

 登下校は一緒だし、家では一緒にいるから、まあ、よしとしよう。


「じゃあ、部活動を始めよっか」


 僕は立ち上がるといつものようにホワイトボードの前にたった。


「はい! 先輩、今日はお願いしたいテーマがあります」


 トウヤがいなくて、若干ぶりっ子が外れたレミちゃんが勢いよく手を挙げた。


「どうぞレミちゃん」


「悪役令嬢物でお願いします」


「レミちゃんなんで今日そのテーマにしようとおもったの?」


 ののかが尋ねた。


「そういうジャンルがあるって最近知ったんですけど、読もうかどうか悩んでて」


「そうなの。私も大好きだよ」


「そうなんですね。楽しみです!」


「悠久、進行お願いね」


「オーケー、女性向けが多いから、そんなには読んでないけど、僕の知る限りで、よくあるパターンから話していくよ。令嬢とつくぐらいだから、舞台設定は中世ヨーロッパの乙女ゲームに入り込んでしまったというのが多いかな。そのゲームのなかで主人公ではなくて悪者、つまり悪役側に転生してしまったどうしようってところから物語が始まることが多いかな」


「わあ、いいですね。面白そうです。その悪役令嬢になりきって主人公をいじめるんですね。ゲームをやりこんでいるので、主人公がいい感じに回避できないように完璧にいじめ抜くんですよね」


 レミちゃんは、ガッツポーズをした。


「あれ? ののかそんな感じだっけ?」


 実際は女性ものが多いので、僕は片手で数えるほどしか読んでいない。

 そんなパターンもあるのだろうか。


「んとね。私が読んだのは、主人公をいじめても仕方ないからって逆に仲良くなって世界を救う感じだったかな」


「俺が読んだのは、主人公のほうが実は腹黒の悪い奴で、そいつをやっつけるって話だったかな」


「それどこが悪役なんですか。ただのいい奴じゃないですか」


「確かにそうだね。まあ、悪役令嬢ものって大枠のジャンル的には転生物の一種で、悪役令嬢の中に入り込んでしまう人はいい人が多いからね」


「結局、勧善懲悪ものですか」


 レミちゃんはがっかりしている。


「一応ね。女性に大人気の超有名な物語でシンデレラというのがあるんだけど、女性がひどい目にあってるけど、健気に頑張ってたらなんやかんやあって、お姫様になって幸せになりました。という流れの物語でね。そういう系統の物語を総じてシンデレラストーリーって言うんだけど、多分悪役令嬢もシンデレラストーリーに分類される物が多いと思うんだよ」


「シンデレラなら、あたしも知っています。でも別にシンデレラは悪役じゃないですよ?」


「まあ、そうなんだけど、悪役かどうかってことよりも、重要なのは、物語の冒頭で主人公が不幸かどうかってことなんだよね」


「不幸ですか?」


「物語は最初の不幸と最後の幸福の差が大きければ大きいほど、面白く感じるんだよね。例えば、私は生まれた時からお金持ちで、死ぬときもお金持ちで幸せでした。と言われても、だからどうしたのって感じだよね」


「まあ、そうですね」


「主人公を冒頭で不幸にする理由付けとして、悪役令嬢はすごく使いやすい」


「なるほど」


「ということを一応踏まえて、なんで私が悪役令嬢なんかにって始まる物語とキタコレ悪役令嬢に転生した!って始まる物語レミちゃんはどっちが読みたい?」


「絶対キタコレですね」


 あーそうなっちゃうよね。


「レミちゃんはそうだよね。だけどさっきも言ったとおり、残念ながら、世間はなんで私が悪役令嬢にのほうが好きなんだよ。残念ながら世の中、好きな人間が多い方の物語で溢れている」


「そうなんですか。悪役令嬢物がっかりです」


「レミちゃんがっかりするのはまだ早いよ」


「えっ。だって私が読みたい悪役令嬢物はないんですよね」


「今回は、僕も、ののかも、ものすごく読み込んだジャンルでもないし、探したらレミちゃんが好きなパターンもあるよ。それにここは何の部活をしていると思う?」


「文芸部です」


「そう。つまり、ないんだったら?」


「書けばいいですね!」

 

「そう!その通り。僕らは別にプロじゃないから、売れるかどうかを気にするよりも、自分が面白いかどうかで物語を書いた方がいいよ」


「なんだか俄然やる気が出てきました。先輩書き方教えてください」


「よしじゃあ、今日はいっぱい完全な悪役の悪役令嬢物を書こう!」


「はい!」


 僕らは早速鉛筆を持ち、書き始める。


「女性向けがおおいので、僕がわかる範囲で話していくけど、転生物の一種なので、一旦主人公を現代社会に登場させて、なにか不幸な目に合わせて、死なせてみて、次にメインの舞台である、中世ヨーロッパ風の舞台に登場させるといいと思うよ」


「でもなんで転生物って、最初に現代社会に登場させるんですか。めんどくさいです」


「まあ、そう言わずに、現代は地球の裏側までどうなっているか知っちゃってるし、宇宙にはロケットがないといけないこともわかってるから、本当の意味でよくわかってないのは来世しかないんだよ。本当に行けるかもしれないってリアリティを出すためには転生物しか残っていないのかな」


 僕らは死なずに世界を渡っているし、レミちゃんは生まれた時から、魔法が使える世界の出身だから実感がわかないのかもしれない。


「僕がわかるのはそのくらいかな。どうせアウトローな話書こうとしてるんだから、そんなテンプレもやめちゃってもいいと思うよ」


「そうします」


 レミちゃんはうなずいた。

 しばらく書いていると、レミちゃんが愚痴のように言った。


「やっぱり世の中いい人の方が多いですからね」


「それはどうなんだろう。いい人だから、悪役令嬢ものを見るわけではない気もするけど」


「どうしてですか。いい人が幸せになっていくところを見たいんですよね」


「でも、最初は不幸だからね。人の自慢話は嫌われるのが一般的なんだよ。なんというか自分より不幸な人間が多少幸せになっているところを喜んであげるという優越感。もしくは、主人公に自分を重ねて、自分も現状を打破して幸せになれると夢見てるパターンかなと思う。ののかどう思う?」


「えっ。先輩そんなことを自分の彼女に聞くんですか」


「うーん。私の場合は両方かなぁ」


「そして、普通に答えるんですね。ののか先輩」


「変かなぁ。小説を書くのなら、自分の気持ちは素直に表現したほうがいいと思うなぁ」


「そうそう。ののかの言う通り」


「それに悠久は、私がどんなにひどいこと考えても嫌いにはならないよ」


「それも、ののかの言う通り」


「先輩たち、トウヤ先輩がいなくてものろけはやるんですね」


 レミちゃんがうんざりしている。

 なんだかリアクションがトウヤに似てきている気がする。

 

 それからずいぶん時間がたち、暗くなってきたので部活はお開きになった。


「今日は、悠久先輩とののか先輩に教えてもらいながら、あたしの理想の悪役令嬢の物語を書いて楽しかったです。続きはまた明日書きます」


 なんだかずいぶん力作のようなので、

 僕はちらりとレミちゃんの悪役令嬢物の冒頭を覗き見た。


『私は悪役令嬢になった!

 富、名声、力すべてを利用し、人々を地獄の底に落としてみせる!』


 ちょっと冒頭パワーありすぎだろ。

 でも、面白そうだ。


「ちょっとまだ書いている途中なんですから見ないでくださいよ」


 レミちゃんに隠されてしまった。

 書き上げたら見せるつもりなのが、レミちゃんも文芸部員らしいよな。


「人のを見るならまず自分のを見せてください」


「ああ、いや僕は、今日は全然かけなかったよ」


「先輩が書けないなんて珍しいですね」


 なぜか悪役令嬢を想像しようとすると、姫の顔が思い浮かんできてしまい素直な気持ちを書いたらなんだかラブレターのようになってしまった。とはレミちゃんに言えなかった。

 僕は書いた内容を思い返す。


◇ ◇ ◇


 僕らのように、胸に正義を抱かずに戦い続けれる方が異常なのだ。

 悪は滅べと、僕ら以外の誰もが思ってる。

 悪に対する基準はみんな違うのに。

 だから、あいつは、あんな悪いことをしたんだ。

 こんなひどいことをしたんだ。

 事実を積み上げて、悪人に仕立て上げる。

 そして殺してしまえという。

 

 それのどこが正義というのか。

 それのどこがいい人なのだろう。


 だから、姫のすべてが明らかにされても、

 姫のことを非道だと

 皆が後ろ指を指したとしても

 僕は姫の味方でいるから。

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