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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
32/62

ドラゴン戦想定訓練

 エルフの駆除も落ち着き、当初の目的通り、ドラゴン領を目指す途中でドワーフの村に立ち寄った。

 姫は、装備の出来映えを確認してくるとのことで、暇な僕らは人気のない郊外で、ドラゴン戦を想定した訓練をする事に。

 特に僕はドラゴンに対する有効打を見つけなくてはいけない。


「やっぱりドラゴンと戦うにあたって、高所から落ちた時のことは、想定しておくべきだと思うんだよね」


「そんなの、足に思いっきり力入れればいいだろ」と闘士が言う。


「いや、そんなので大丈夫なの闘士だけだから」


「そうですよ。普通は、体がぐしゃぐしゃになるスピードより完全回復するしかありません」と僧侶が言う。


「いや、そんなので大丈夫なの僧侶だけだから」


 二人とも規格外すぎる。

 三者三葉、性能がとがりすぎていて、お互い何の参考にもならない。


「姫は、憑依術使えば浮かべるはずです」


 憑依型の死神みたいなあいつか……。

 魔力消費量が半端なかったけれど、いざというとき落下耐性があるのは、うらやましい。


「大丈夫じゃないの僕だけか。どうにかしとかないと」


「あたしが回復しますよ?」


 つぶれたトマトみたいになってから、血だまりの中から復活する自分を想像して、首を振る。


「いざってときはお願いするけど、痛いの嫌だし、自分でもどうにかできろようにしておかないと」


「例えば?」


「登山者が滑落したときは、ピッケルを持って、速度を落とすらしいから、崖が近くにある時は、聖剣を両手で逆手にもって、崖に突き立ててやればいい。これなら魔力も使わない」


 変な力がかからなければ、聖剣は相当丈夫だ。


「崖がないときは、どうします?」


「高さによるけどまずは受け身かな。受け身でダメそうなら、着地地点が固いから怪我するわけだから、柔らかいものを置けばいい。一番簡単なのは、水の魔法で衝撃をやわらげるとかかな」


「でもそれだと結構水量いりますよね。勇者の魔力で足りますか?」


「ギリギリかな。何回もは使えなさそう」


「足場も悪くなりますし、微妙です」


 地面がグチャグチャになって踏ん張りがきかなくなるのは、その後の戦闘に影響がでるか。


「なら、受け身を補助する魔法はないのかよ。いつもみたいに風でぐるぐるすればいいんじゃね?」


 闘士が案をだしてくれる。


「地面が平らだったらそれもあり」


「先に地面平らにする魔法を先に使います?」


「落下中にそんなうまく地面削る魔法ないと思うんだけど」


 土属性魔法が使えれば楽だったんだけど、あいにく僕は発動しない。


「凍らしたらどうですか」


「その手があったね。ああ、そっか。滑り台にすればいいのか。こう落ちながら、水を出して、その水を凍らせれば行けそう」


「複合魔法ですね。構成難易度高そうですけど、魔力量は少なくてすみそうです」


 僕は、魔導書を広げて、構成を仮組みしてみる。


「こんな感じかな。僧侶見てくれる?」


 魔導書を僧侶に見せる。

 僧侶が指さしながら指摘する。


「落下するより先に水を落とさないといけないんですよね。もう少し水の出力あげた方がいいんじゃないですか」


「そうかも、水と氷の魔法切り替えるタイミングはどうかな?」


「それはやってみないとですね」


「試してみようか。怪我したときは僧侶お願いね」


「わかりました」


 僕は少し高めの木に登った。

 普段もこのくらいなら受け身がとれる高さだ。

 ジャンプしながら、自分の側面に魔法を発現させる。


「アイススライダー」


 水か出現しながら、パシパシと氷付き、滑り台が形成されていく。

 僕はシャーと軽快に滑り降り傷一つなく着地した。

 なんか楽しいぞ。


「いいですね。あたしも落下したときはお願いしますね」


「オーケー、僧侶も使うなら、もう少し滑る面平滑にしておこうかな」


 ローブだと引っかかるかもしれない。

 基本はいいけど、もう少し魔力も抑えたいし、要見直しかな。


「なあ、勇者、これ、使ったあといらないよな」


 残った氷の滑り台を見ながら闘士が言う。


「もちろん。何か使うのか?」


「先端尖ってるし、折ってドラゴン投げたらつよそうじゃね?」


 闘士のパワーならそんなこともできるのか。


「いいね。やってみてよ」


 闘士は殴って折ると、滑り台を持とうとした。滑って落ちた。


「ナックルつけてるとうまく持てないな」


 槍投げみたいにするつもりだったようだが、氷が滑りうまくいかないらしい。


「滑り台のリサイクルは諦めて、僕が作った氷直接殴ってみる?」


「おう」


 僕は闘士の前に水の魔法で、大きな水滴をつくり、氷結させる。

 しっかり凍ったのを確認してから、闘士がぶん殴った。

 当たった木の幹が大きく凹む。


「おお、なかなかよさそうだね」


 まだ即興で構成を組んで、氷結度合いが足らず、氷の強度が不足していたにも関わらずこの威力。

 雹で家の屋根ぶち抜けたりする事例もあるぐらいだし、氷塊に闘士の打撃力が加われば、かなりの威力になりそうだ。

 もちろん直接殴ったほうが威力は高いだろうが、遠くを攻撃する手段としてはかなりいい。

 練習すれば、空飛ぶドラゴンにもあたるようにできるかもしれない。

 ようやく光明が見えてきたぞ。


「よっしゃ、練習しようぜ」


 闘士が気合いをいれる。

 戦闘はチーム戦だ。

 ひとりでできないのなら、二人でやればいい。

 スポーツではないのだからルールはない。

 どんな手を使っても勝った方が勝ちだ。


◇ ◇ ◇

 

「ドワーフの里も滅ぼしてやろうかしら」


 一人で装備を確認した帰り道、ワタクシはひとりごちた。

 今は、戦略的にそんなことはできないのはわかっている。

 魔族皆に優しい魔王様を演じているのだから。

 ドワーフにドラゴン戦用の専用防具を取りに行ったら、


「人間がドラゴンに挑むんですかい? 悪いことはいわん。魔王様やめときな、はっはっは」


「ドラゴンは太古の時代は神の兵器として使われていた種族ですぜ。無理というもんですぜ」


 などとイラッとくる口調で嘲笑されて、腹がたった。

 防具のできがこちらの指示通りでなければ、全員霊繰術で操って、ドラゴンに特攻させていたところだ。


「ドラゴンに敵わないようなら、お兄様には絶対敵いませんのに、それにドラゴンが気まぐれに攻めてきたら一番最初に攻撃されるのはここでしょう。まったく呑気もいいところでしょう」


 一応、ドラゴンに勝てるような作戦も考えてはきた。

 ただ勝てるという保証は何もないのも事実。

 無謀だと言われてしまうと最初から少なかった自信も底をついてしまう。

 宿に戻って、勇者達がどこにいるかと店主にきくと弁当をもって郊外に三人で出かけていったとのこと。

 店主に教えてもらった場所に行くと、森の中の開けた場所の真ん中で三人は呑気ピクニックをしていた。

 勇者と闘士は話しながら弁当を食べているし、僧侶はリスのようにおいしそうにクッキーを頬張っている。

 もうすぐ、ドラゴンに挑むというのに、緊張感の欠片もない。

 僧侶が気づいて、ワタクシの方を見る。


「あっ、姫様、用事は終わったのですか?」


「ええ、終わりました。あなた達はここでなにをしていたのでしょう?」


 ついイライラした口調になってしまう。

 本来、なにも指示を出していないのだから、何をしていてもいいのですが。

 三人とも気にした様子もなく。


「ちょうどよかった。姫、見てくれる?」


 勇者は立ち上がると、左手で魔導書を開き、右手で羽ペンを構えた。

 魔法使いスタイルの勇者は珍しい。

 新しい魔法なのでしょうか?

 闘士も立ち上がると、構えを取る。


「闘士いくよ」


「おうよ」


 勇者の掛け声に闘士が答える。


「アイスニードル」


 勇者のかけ声で魔法が発動したのは、分かったが、ドカーンと突然近くの大木が爆発したように倒れた。


「姫どう?」


 勇者が聞いてきます。


「まあまあでしょう」


 何が起こったのかわからなかったため、とっさにそう言ってしまったものの、よく木を見ると大きな氷が突き刺さっており、それが大木をなぎ倒していました。地に根を生やしている大木でこの威力なのですから、人間なんかに当たったら、数十人串刺しになって吹き飛んでいってしまいます。

 というか勇者初級魔法しか使えないはず、今もそんな大きな魔力がつかわれた様子はないのにどうなっているのでしょう。


「ほら見ろ、まあまあだとよ。全然ダメじゃねぇか」


 まあまあは、まあまあであり、全然ダメとは言っていないのですが。


「ドラゴンにダメージ与えるにはまだまだかな。やっぱり氷の形状をドリル形状にしてみようかな。闘士殴るとき、もっと肩入れて拳回転させてくれない。コークスクリューブローって殴り方なんだけど」


「こんな感じか」


 闘士がやって見せる。

 ブーンと風が巻き起こる。

 勇者がうなずく。


「そうそんな感じ、じゃあもう一度行くよ」


 勇者がさっきとは若干違う構成で魔法を放つ。


「アイスドリル」


 今度はしっかり魔法を確認する。

 水を発生させる、凍らせるという基本魔法しか使っていないにもかかわらず、精緻な氷のドリルが出来上がる。

 闘士は、できた氷のドリルを拳をひねりながら殴りつけた。

 ギュルルルと音を立てながら、氷は地面を大きくえぐり、地面に突き刺さった。


「おい、威力はでそうだけど、狙いさだまんねぇぞ」


「もう少し綺麗に中心を殴れない?」


「なら中心がわかるように目印つけてくれ」


「引っかかりやすいように螺旋状のギザギザいれてみようかな」


 勇者は魔導書の構成を書き直す。

 勇者の魔導書を見ると、氷の形状パターンだけですごい数がある。


「あと、出現位置もう少し手前にしてくれ。そっちのほうが殴りやすい」


「分かった」


 もしかして、さっきのでも高威力だったのに、最大威力がでる方法を模索しているのでしょうか。

 隣でのんびりしている僧侶をみると、ドワーフの里で買ったのか、『収斂による威力強化』という題の魔導本を読んでいた。

 なんだかゆったりとしていて、必死でやっている雰囲気はまるでないが、三人でドラゴンを倒すための訓練をしていたらしい。


「あ、あなた達」


「姫、まだちょっと時間かかりそうなんだよね、あと二、三日、だけ時間もらえないかな。そしたら、せめてあそこの岩ぐらいは貫けるようにするからさ」


 勇者が指さしたのは、象ほどの大きさのある岩だ。


「それは構いません」


 二、三日でどれだけ威力あげるつもりでしょうか。そんなことより


「あなた達はいつもこんなことをしてまして?」


「特に何もないときは暇だからね。大体昼からかな」


「お前らいつも遅いもんな。俺は、朝から暇つぶしに雑魚の魔物倒して、素材換金してるぞ」


「仕方ないだろ。魔力回復させるためには寝ないといけないんだから。いつもこんな感じだけど、姫、どうかした?」


「いえ、別に」


 三人の連携は日に日によくなっていると思っていましたが、こういうことでしたか。


「あなた達は、ドラゴンに勝てると思いますか」


「だって姫が戦うって言うなら勝てるよね。勝てるようにしないと死ぬし」


「そうだな。勝てなかったら俺たちの精進が足らないってことだろ。姫様」


「姫様、ドラゴンなんてあたしが雷でドーンとやっつけますから」


 ドワーフと違い、三人とも倒す気満々だった。


「よろしい。では、今からドラゴン捕縛の作戦を伝えます」


 他の連中に何言われても関係ありません。

 倒すと決めたら、3人を信じて実行するのみでしょう。

 ワタクシは胸を張って堂々と三人に作戦を伝えた。

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