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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
31/62

夏祭り2

 完全に部活動だということを忘れて、手をつないで歩く悠久先輩とののか先輩の後をつけて、トウヤ先輩と歩く。


「あの人たちはどう思う?」ののか先輩が悠久先輩に聞く。


「三か月ぐらいかな。女の子が袖だけつかんでいるのが、本当は手をつなぎたいけど、言い出せない初々しさがあるよね」


「あそこに男の人が女の人の腰に手をまわしてるカップルは一年ぐらいかなぁ」


「顔もいいし、あの手慣れた手つきは、ホストとかの人で、実は今日あったばかりとかなんじゃない」


「そのパターンかぁ。私、おもいつかなかった」


 悠久先輩とののか先輩は、付き合ってどのぐらいかゲームをやっていた。

 勝手に見つけたカップルが付き合い始めてからどのくらいかを当てるゲームらしい。

 答えを本人に聞いたりしないので、それっぽい理由を言ったほうが勝ちということらしい。

 あの婚約指輪は高そうだから、夜景の見えるホテルでプロポーズしたに違いないから3年目とか、普通の手のつなぎ方から恋人つなぎに変えたから半年ぐらいかもとか、永遠と二人で楽しそうに言い合っている。

 文芸部の二人らしい楽しみ方だった。


「あいつらの祭りの楽しみ方は特殊すぎるだろ。ついていけない」


 トウヤ先輩は、たこ焼きを頬張りながらいった。


「なんであいつら、こんなに出店でてるのに、財布から一円も金出してないんだ」


「二人とも祭りいくためにお小遣いもらったから、本買おう言っていましたね」


 どうやら、二人ともお小遣いを本に換算してしまうから、他の物が何一つ買えないらしい。

 トウヤ先輩が呆れている。


「割高なのはわかるけどさ。せっかく祭りに来たんだから普通の楽しみ方しろよ」


 トウヤ先輩の言う普通が気になった。


「トウヤ先輩、お祭りって普通どうやって楽しむんですか?」


「どうやってって」


「その、あたし、お祭りはじめてきたのでわからなくて」


「そうなの?」


 小さいころ来た記憶はある。

 中学に入って、心壊れる前の小学生の頃、お母さんに手を引かれて、楽しそうに笑っていた。

 けれど、それはあたしであってあたしではない。

 記憶はあっても感情はわからない。

 それに、あっちの世界ではこんなお祭りはなかった。


「いろんな出店並んでるの見てるだけで楽しくならない?」


 そういうものなのだろうか。

 よくわからない。でも、


「お腹はすきました」


 あたしはお腹をおさえてみせる。

 トウヤ先輩は手に持っていた残りのたこ焼きをくれる。


「ありがとうございます」


 あたしが頬張ると、トウヤ先輩は嬉しそうにした。


「とりあえず、他にもなにか食べ物、買ってくるよ」


 そういうと喧騒に消えていく。

 しばらくして戻ってくると、


「ジャーン」


 トウヤ先輩は両手いっぱいにいろいろ買って来てくれた。

 ポテトに、お好み焼きに、唐揚げに綿菓子、いろいろある。

 全部おごりでいいとのこと。

 闘士だったら絶対考えられない。

 先輩の空手の試合に差し入れでも持って行ってお返ししよう。

 あたしはそう心に決めて、今日は甘えることにする。


「あれも、食べてみたいです」 


 店の前に赤くて丸くておいしそうなリンゴが並んでいる。

 すぐにトウヤ先輩は、お金を出して、買ってくれた。

 トウヤ先輩から渡されたリンゴ飴をペロリと舐める。


「おいしい?」


「甘くておいしいです」


 素直な気持ちが口からこぼれた。

 お腹が膨れれば幸せを感じるのは、多分みんなと変わらない。

 食べ物の話なら、普通の会話ができることをあたしは学んでいる。

 トウヤ先輩との会話は食べ物の話でつないでいこう。

 話題になりそうな出店をさがしてみる。


「あっちにもおいしそうなお魚がいますね」


 赤くて小さいお魚がいっぱい泳いでいた。

 唐揚げにしたらおいしそうだ。


「冗談面白いね」


 トウヤ先輩に笑われる。

 冗談言ったつもりはなかったのに……なにか失敗したのだろうか。


「あれ金魚だよ。金魚救ったら持って帰れるよ」


「食べないのに、持って帰るんですか?」


 不思議そうにあたしがきくと、トウヤ先輩が、もっと不思議そうな顔をした。


「飼うんだよ」


 どうやらものすごく当たり前のことだったらしい。

 どうしてこんな魚を飼うんだろう?

 家を守るために犬を飼うのは、理解できる。こんな魚が何の役に?

 よくわからなくて、近づいてしゃがみこんでじっと見ていると、隣の小さな女の子がとれた金魚を見て、「かわいい」といって喜んでいた。

 どこがどうかわいいのだろう。

 おしりにふんをつけたままのもいるし、汚いのに。

 むしろこれがかわいいのだろうか。

 全然わからない。


「やってみる?」


 興味があると思ったのかトウヤ先輩がきいてくる。


「いえ、いいです」


「どうして?」


 無意味に生き物を飼うと、虐待したくなるとは言えない。


「餌やりとか、わすれそうです」


 咄嗟におもいついた言い訳を口にした。


「そうだね。出店の金魚は、ちょっと餌やらないだけで、すぐ死ぬから可哀想だもんね」


 あたしはそういうことにするため、柔らかく笑って見せた。

 生き物が死んで可哀想なんて思ったことは今まで一度もない。

 そんな感情があるのなら、あちらの世界でも拷問師や傭兵なんて職種を選択していない。

 トウヤ先輩は金魚が死んだら可哀想だと思うらしい。

 次からは間違わないようにしないといけない。

 感情が伴わなくても、知識があれば、演技ならできる。

 金魚が死んだら可哀想、金魚が死んだら可哀想……。

 あたしは、トウヤ先輩が考える普通を心のメモに刻んでいく。


「トウヤ、そろそろ場所取りしよう。もうすぐ花火だよ」


 どうやら、悠久先輩はあたしたちの存在を忘れていたわけではなかったらしい。


「ああ、わかったよ」


 トウヤ先輩が返事をする。

 花火が見える土手の方にあたしたち四人は移動した。

 悠久先輩が四人座れるシートを広げてくれた。

 腰を下ろすと、ののか先輩は、悠久先輩が持っていたバックから弁当箱を出して、おにぎりを悠久先輩に渡した。

 悠久先輩はかわりにののか先輩に水筒を出して、お茶をののか先輩に注いであげる。

 見た目は高校生なのに二人の動作のスムーズさは、熟練夫婦である。

 イチャイチャしているのに、表情はリラックスしていたり、相反したものが同時に存在している。

 付き合ってどのぐらいかゲームをしている人が二人をみたら、頭がバグりそうである。

 あたしは、そんな二人をトウヤ先輩が買ってくれた食べ物を食べながら、ぼんやりと眺めて、過ごした。


「あっ」


 ののか先輩が楽しそうな声を上げて、空を見上げた。 

 あたしもつられて、空を見上げると、大きな花火が頭上に広がった。


「きれーい」


 ののか先輩が、うっとりと感嘆の声を上げる。

 対して、あたしは初めて見た花火は、うるさいしまぶしいし何がいいのかわからなかった。

 周りの人達が楽しそうに見ていることから考えるときっとみんなの目には花火が綺麗に見えるということだろう。

 今ここで雷を撃ち込めばみんな苦しんで楽しいだろうなとか、あの花火に人をくくりつけて打ち上げれば面白いのに、なんてことは誰も考えないのだろう。

 悠久先輩を見れば、ののか先輩と同じように楽しそうに花火を見ている。

 悠久先輩、みんなが綺麗と思う物を綺麗と思えるだけまだマトモです。

 勇者は、綺麗な花を駆除できるタイプなら、あたしは枯れた花をみる方が好きなタイプ。

 花火同様、野に咲く花も綺麗だと思ったことはない。


「レミちゃん、花火綺麗だね」


 トウヤ先輩が笑顔であたしに同意を求めてくる。


「はい。そうですね!」


 あたしは笑顔で嘘をついた。 

 トウヤ先輩の目には、あの花火みたいにあたしのことが普通の女の子に映っていますか。

 トウヤ先輩が笑ってあたしを見てくれるとあたしは普通の女の子になれた気持ちになれます。

 いつまで本当のあたしに気づかずにいてくれますか。

 自分らしさなんていらないから、いつまでも、あなたにとっての普通であれますように。


 

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