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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第一章 僕と姫
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僕がよくみる夢の続き

 夢で見る僕は弱すぎて、正直、勇者と呼ばれるのが嫌だった。


◇ ◇ ◇


「勇者。いつまでのんきに寝ているのですか。起きなさい」


 いつも聞く声、だけど夢の中では無理に少し高く維持しているのだろうか。

 キンキンと耳に響く。


「いたたたた」


 背中がいたい。

 そういえば、移動するからと昨日の夜は、馬車の中で寝たのだった。

 起き上がると現実でもよく見る顔があった。

 ののかに瓜二つの姫だ。

 ただし、髪は姫の方が随分と短いし、雰囲気もいつものほほんとしているののかと対照的にピリピリとしている。


 そんな姫も僕は好きだけどね。


 いろんなののかが見たいという僕の願望なのかもしれない。

 ゆったりと姫を見つめながら、準備を始める僕に姫はイライラしながら話を続ける。


「覚えていますか? 昨日話した作戦のこと。今日は、ここから西の村に住み着いているワーウルフを掃討してほしいとのことです。国から直接の指令。魔族を倒せば父も喜ぶことでしょう」


 姫が言う父とは、当然国王のことだ。

 現国王は、先代魔王を倒した元勇者だ。

 現役のころは、それはもう強かったらしい。


 そういう設定もありがちだよね。

 まあ、僕の物語の没設定からできている夢だろうから、それもしょうがない。


 それにしても、ワーウルフかぁ。

 俊敏で力も強いので、厄介だ。

 ただ設定上の記憶ではあるが、昔倒したこともある。

 大丈夫だろう。

 夢であっても、設定はやたら作り込まれており、物心ついたころからの記憶まであるほどだ。

 現実では有り得ない魔力が体の中でみなぎっているのも感じる。

 手を開け閉めしているうちに、夢の世界に心がなじんでいく。


「んー」


 僕の隣にあった布団の塊がごそごそ動き出して、中から女の子が出てきた。

 パーティーでヒーラーを担う僧侶だ。

 僧侶はのそのそと起き上がるとかわいく背伸びを一回して、さっとさっとセミロングの髪に手櫛をかけるとぽすっと帽子をかぶった。


「おはようございます」


 起き抜けとは思えないほど、あどけない笑顔が可愛らしい。


「お前ら本当にねぼすけだよな。もう日も上がって随分たつぞ」


 馬車を運転してくれていた闘士が声をかけてきた。


「魔力回復には、寝るしかないんですよ。姫様みたいに魔力吸収できないので」

 僧侶が代弁してくれた。


 魔力は精神力から変換されたエネルギーだ。

 荒れ狂う戦乱の世に、精神を回復させる手段は、基本睡眠しかない。


「わかってるよ。だから運転してやってるんだろ。そろそろだからな。しっかり目覚ましとけよ」


「オーケー」

と、僕は答えた。


「では、勇者お願いします」


「はいはい」


 僕は夢の世界に来た後で、自分で編み出した。

 能力――魔力感知を働かせた。


 敵を倒すような効果は全くない。

 僕は属性は全部あるものの、量が少なく他人の魔力に敏感だ。

 なので、魔力を持つ者の魔力の強さや属性、量がわかる。

 ただそれだけだ。


 ただ、この世界の人間はほとんど――闘士のような人物を除いて――みんな魔力を持っている。

 索敵にはものすごく優秀だ。


ピーン。


 そう遠くない距離に敵の気配を感じる。

 敵の移動速度が思ったよりも速い。


「みんな、敵が近い!」


 僕は慌てて装備を身につけた。

 闘士は僕らの起床時間にあわせて、敵陣にはいる時間を調整してくれていたのだろうけれど、ちょっとギリギリすぎではないだろうか。


「やばい。来る」


 闘士が声を上げた。

 僕らは、武器を手に取ると馬車から飛び出した。

 馬が悲鳴をあげる。

 馬車が横転していく。

 どうやらこちらの接近に気づいた敵が先制攻撃してきたようだ。


「よっと」


 闘士が空中で体を回転させながら、攻撃してきたワーウルフを拳で打ち抜いた。

 奇襲したはずのワーウルフが、頭上からの攻撃になすすべなく倒されていた。


「さあ、やるか!」


 頭蓋骨から拳を抜きながら、闘士はワーウルフより獣じみた笑顔を見せる。

 金色の髪の毛と同じように金色のナックルが、明らかに敵を挑発していた。

 周りを見渡すと、森ほどまではいかないがそれなりに木が生えていて視界が悪い。


 僕は再度、魔力感知を働かせる。

 視界に頼らずとも数を把握する事ができる。

 なるほど、囲まれてはいないが2方向から攻めてきている。


「姫、右2、正面5」


 僕は姫に魔力感知結果を報告する。

 すぐさま姫は呪文を唱える。


幽鬼軍勢(ゴーストレギオンズ)


 姫の影から2体の幽鬼が立ち上がった。

 姫は闇属性の魔法使い。

 ジョブはネクロマンサーだ。

 幽鬼達は、僕が指さした右手の敵に向かっていく。


「右側は私が抑えます。正面の敵を数匹こちらに誘導してください」


 姫から澄んだ声で指示が飛ぶ。


「おうよ!」


 闘士が言うやいなや、闘士は真っ正面から来ている敵の方へ駆け出した。

 僕も追うようについていく。

 すぐにワーウルフが視界に入ってきた。

 闘士は相手のワーウルフが振り下ろしてきた腕に同じように拳をぶつけ腕を弾き、開いた胴体にずどんと反対の拳を叩きこんだ。

 ワーウルフは胸のあたりからメキメキと嫌な音をたてながら吹き飛び大木にぶつかった。多分、即死だろう。


「相変わらずの馬鹿力だな」


 僕は闘士の後ろからついていきながら、軽く火球を飛ばし、妨害していく。

 この程度の魔法なら、僕でも可能だ。

 闘士は1対1の力比べならばオーガにだって負けないので、同時攻撃を仕掛けようとする敵に魔法弾を放つ。

 少し姫と僧侶との距離をとる。

 敵がいつの間にか回り込んでおり、僧侶と姫に襲いかかろうとしていた。

 前衛二人が前に飛び出したのだ。

 女性で見た目魔法使いの二人を狙うのは、当然といえる。

 つまり、姫の指示通り、誘いこめたようだ。

 ワーウルフが爪を振り上げるよりさきに、僧侶は呪文をとなえた。


「サンダーパラライズ」


「ぐああああああ」


 バチバチと空気がはじける音を響いた。近距離、速射のスタンガンのような電気を浴びて敵は体が動かなくなっていた。


 僕は、前から風の魔法を使いながら一気に戻ってくると、

「隙あり」

 ザクッと敵を背中から斬りつけた。


 どさりとワーウルフが倒れる。


 僧侶はヒーラーである。

 服装もヒーラーそのものだ。

 スキを見せると真っ先に狙われるジョブだ。

 だけど、僧侶は雷系の魔法もつかえるため、わざと囮にして敵を誘い出し、相手を麻痺にしたところを僕が背後から仕留めるのが僕らのパーティーの定石だ。


「よくやりました」


 姫は倒した敵に近づくと、魔力ドレインを行ったあと、今度は自身の魔力を注ぎこんだ。

 姫の得意魔法は、魔力のないもの、もしくは魔力の尽きたものに直接触れて魔力を流し込み操る強制隷従、王族に伝わる魔術だ。

 倒したワーウルフはゆらりと立ち上がると今度は自分の仲間を襲い始めた。

 魔物とはいえ、同族に対する情は当然ある。もうほぼ死んでいるとはいえ、攻撃するのを躊躇うとそのすきに攻撃を加えて倒す。

 倒れた敵に僧侶が雷撃で麻痺にし、姫が魔力を流し込む。

 そしてまた操り人形が増える。


 掃討戦において、効率がよく、そしてなんとも

「相変わらず姫さんの術えげつないよな」

 前衛から戻ってきた闘士が、小声でぼそっと僕の心情を代弁してくれた。


「お前達正気を取り戻せ! 我らの誇りはどうした!」


 敵の大将と思われる大型のワーウルフがほえている。

 だけど無駄だ。

 姫の術は精神論でどうにかなるような生半可なものではない。

 大将が意を決して、仲間を攻撃しようとしたところで、


「ファイアボール」

 僕は大将の目に火球を当てながら、

「アースフリーズ」

 足下を凍りつかせる。


 初級魔法だ。

 たいした威力はない。

 だが、ちょっとした足止めには十分だ。

 ぞくぞくと集まる操られた仲間たちに行くてを阻まれ身動きがとれなくなっている。

 多勢に無勢である。

 僧侶が高威力魔法の詠唱にはいっている。

 僧侶の最大魔法は範囲が広いため普通であれば仲間に当たらないようにするのが大変だが、敵の大将をおさえているのは僕らからしてみれば敵である。

 なにも気にしなくていい。

 ほぼもう仕上げの段階だ。


「アトミックサンダー」


 僧侶の詠唱と共にワーウルフの大将の頭上から巨大な雷が降り注ぐ。

 仲間たちに押さえ込まれ、回避などできるはずがなく大将は倒れた。


「ぐっ」


 大将は呻き声を上げた。

 まだ息があるのか。

 たいしたものだ。

 だけど、これから自分が行うことを思えば、死んでいた方が幸せだったかもしれない。

 姫はゆっくりと近づくと大将の頭の上に手を置き無慈悲に言った。


「さあ、あなたの手で、あなたの村を殲滅しなさい」


◇ ◇ ◇


 僕たちは少し離れた丘の上からワーウルフの村から火の手があがるのを見ていた。


「勇者様、腕大丈夫ですか?」


 僧侶が心配そうに、声をかけてきた。

 自分の腕を見ると少し血が出ている。

 いつの間にか、軽く傷をおっていたらしい。


「今ヒールしますね」


 僧侶がヒールするために、腕をぎゅっと握ると痛みが走り、僕は顔をしかめた。

 僧侶はそんな僕を見ても微笑みを絶やさない。

 まるで天使のようだ。

 すぐに痛みが消えていく。


「僧侶、回復魔法の腕あがってるよね」


 なんだか昔よりヒールの治りが早い気がする。


「練習してますから」


 ん? 練習?

 怪我人もいないのにヒールの練習ってできるものなのだろうか?

 僕は変な想像をしてしまう。


「ヒールの練習ってどんな、まさかわざと自分を傷つけて……」


「そんなんじゃないですよ。ボランティアです。戦闘ない日は、修道院行ってますから」


 そうだよね。一瞬変な想像してしまった。

 姫からそれなりに給料もらっているとはいえ、ボランティアとは。白衣の天使といっても過言ではない。

 これが夢でなければ絶対惚れてる。

 それに設定上だと、僧侶のことを好きだということになっている。

 設定上好きとか、何も心がこもってないが、アイドルとかかわいい女優をテレビで見たときと同じぐらいの気持ちだろう。

 ののかの方がかわいいし、断然好きだ。

 そんな、ののかにそっくりの姫は、殲滅を行っているワーウルフの村を冷えた目で見続けている。

 現実では、見ることができない表情も新鮮でぐっとくる。

 残虐な行為もただの作業といわんばかりだ。

 とはいえ僕も多少心が痛むが、罪悪感を感じるほどでもない。


 所詮自分の夢物語だ。


 どうせ夢なら、最初はもっとチートスキルを与えてくれてもいいのにと思ったが、弱いスキルで工夫を凝らして、仲間との連携で格上の敵を倒す爽快感は、現実のゲームでは得られないだろう。


 剣で敵を切り裂く感覚。

 魔力が実際自分の中にある感覚。

 現実とは違った、異世界の風景。

 ストーリーは駄作だとしても、

 得られるものはたくさんある。


 なにより

 僕らに殺されて絶望していく魔族たちのリアリティ溢れる表情があんなにリアルに感じられるのは、物語を書く上で最高だった。


 僕が今日の体験の文字起こしを、頭の中でやっていると、僧侶が眠そうに眼をこすった。


「ふぁあ。眠くなってきましたね」

 小さくあくびもしている。


「そうだね。今日も終わりかな」


 魔力がつきて眠くなってきた。

 つまり現実の目覚めが近いということ。


 僕は明日もこの続きから夢を見るのだろう。

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