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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
29/62

もうすぐ夏休み

 

 エルフはゴブリン以外の村も襲撃していた。


「エルフ、ワタクシの下僕を横取りしようとするなんて許せませんね」

と、姫は激怒していた。


 その通りなんだけど、言い方が不適切すぎる。

 目下の優先事項は、ドラゴンとの対話から、エルフ討伐になってしまった。

 エルフについての容姿の情報は魔王領中に伝えたものの、魔族たちは、性根が優しいせいか面白いように魅了の魔法にかかってしまい被害が広がっていた。

 それに対して助けに行った僕ら四人も魅了の魔法を一度受けてしまったが、誰一人として効果がなかった。

 人間のクズとして立証されたようで悲しい。

 僕が食堂でうつむき気味でご飯を食べていると


「なに勇者落ち込んでいるんですか」


「なんで僕らは、魅了の魔法受けないんだろうと思って」


「いいことですよね?」


「そうなんだけどさ」


「自己分析してみたらどうですか。あたしは1ミリも好意なんてエルフに感じないからかからないのは当然です」


「僧侶はそうだよね」


「姫は、エルフを不届きものとしかおもってないですから」


「それはそう」


「闘士はしりません」


「闘士は欲情と好きは違うって言ってた」


「最低ですね。ですが、男の人はそんなものですよね」


「僕は別に欲情はしてないよ。普通にきれいだなぁって思うんだけどな」


 きれいって気持ちがものすごくきれいに増幅されている気はしてる。

 だけど殺しちゃうんだよね。

 魔族を助けに行っているのだから、対応としては間違ってはいない。


「勇者はあれですよね。きれいな花が咲いていて、毒草だとわかったら、きれいだと思いながら、しっかり駆除するタイプですよね」


 きれいという気持ちが増幅されたら、普通の人は、ためらうんだろうな。


「ほらそうとは限らないんじゃない。僕はののかと姫以外は好きにならないし、一途なだけだよね」


「勇者はののかさんのことを考えて必死に魅了にかからないように耐えていました?」


「いや、深刻な状態にはなっては……、何も考えずに殺してたかも」


「最低ですね。それに最低なのはあたしもです。でも、こっちの世界では最低な方がいいんですよ。魅了の魔法なんかにかかって奴隷にされたらかないません」


「そう……だよね。わかってはいるんだけど」


 あっちの世界でも、殺しなんてとんでもないなんて言う人間も、誰かが殺してくれた牛やニワトリのお肉をおいしそうに食べてるなんてことはよくある。

 僕はただ、牛やニワトリを殺せる側の人間ただそれだけだ。

 例えベジタリアンでも、病原菌を運んできた蚊が自分を刺そうとしているのに、殺すなとは言わないだろう。

 この世界では、最高峰の美しさを持つエルフが人類にとっての蚊にあたるそれだけのこと。


「少しだけ、自分がきれいごとを言う側の人間だったらよかったのにと思うだけなんだよ」


「どんなに頑張っても大元の性格は加工できませんが、あたしは、あっちの世界で表面だけでも普通の女の子みたいに生きられたらそれでいいと最近は思うようになりましたよ。先輩たちのおかげです」


 僧侶はエンジェルスマイルで笑って見せた。

 久しぶりにその笑顔をまっすぐ見たかもしれない。


「ははは、ありがとう。少し元気出たよ。気にしても仕方ないよね。切り替えていかないと。そうだ。もうすぐ夏休みだから、文芸部のみんなで遊びに行こうよ」


「海とかは嫌ですよ。あっちの体は貧相なので」


「まるでこっちならいいみたいないいかだね」


「だって、こっちの方が3つも年上ですから」


「えっ。そうなの。あっちの僧侶、若干幼く見えるのは、髪型だけのせいじゃなかったのか。言われてみればそうかも」


「年だけじゃなくて、動いている量も違うので、発育も随分ちがいます。ってあんまりじろじろ見ないでください」


 僕は無意識に僧侶に不躾な視線を送ってしまっていた。


「ごめん。全然気づかなかったから」


「こっちの服はふわっとしてて着やせしますから、身長もこっちの方がたかいですし」


「そんなことなくない?」


 僕から見てどちらの世界でも僧侶は同じぐらいの身長差だ。


「全員5cmぐらい高いんですよ。だから違和感なくて、身長差を感じないんです」


「なるほどね。気づかなかったな」


 姫もののかよりプロポーションよかったりするのだろうか。


「姫の水着姿とか見てみたかったなぁ。こっちの世界で海で遊ぶとかないだろうし」


「そうですよね」


 海にも魔物はいる。水着なんて装備でうろうろはできない。


「でもしょうがないね。嫌なら別のとこにしよう。夏祭りとかどうかな」


「いいですね、いい感じの理由つけて、トウヤ先輩引っ張ってきてください。勇者そういうの得意ですよね」


「オーケー。文芸部らしい、いい感じの理由ね。考えてみるよ」


 そういうことになった。


◇ ◇ ◇


 放課後、いつも通り僕はホワイトボードの前に立った。


「おい、悠久、今日のテーマはなんだ」


「今日はテーマじゃなくて、夏休みの部活動について話そうかなと思って」


 テーマの代わりに『夏休み』と大きく書いて、となりにカレンダーを持ってくる。


「なんだよ。文科系なのに夏休みも活動するのか?」


「もちろんだよ。文芸部にとってはとても重要な時期だよ。当たり前だけど、高校2年生の夏というのは、人生で一度しかない。小説で甘酸っぱいひと夏の思い出となると、大体高校2年生の夏休みが舞台になることが多いよ。理由としては結構ある、それなりに子供でそれなりに大人であること。恋愛感情がしっかりある。高校生活に結構慣れている。受験勉強までそれなりにまだ余裕があるので時間がある。つまり僕らはちょうどいいお年頃ってことだろ。いろんなことを実際にその年に経験しておくことは物語を書く上で重要だね」


「高校2年生って、自分探しもしたくなるねー」ののかが同意する。


「トウヤ、考えてみろよ。すでに彼女がいるならともかく、学生の本分は勉強だって言ったって、机にだまってかじりついていて彼氏彼女ができるわけないだろ。人生に勉強は大切だよ。だけど物語に勉強時間はいらない」


「そう……だな」


 彼女のいないトウヤはダメージを受けている。


「でも勉強合宿はやろうか。とりあえずみんな最速で宿題終わらせといてね」


「お前は何を言ってるんだ。勉強合宿って勉強するんだろ、なんで宿題終わらせてからやるんだよ」


「勉強合宿っていうのは、勉強する気で、みんなで集まって、結局、いろいろ話をしていたら勉強は進まないイベントだよ。だから先に終わらせておくんだよ」


「そんな予防線のはりかたないだろ」


「ゲームとかお菓子とかの用意は、私に任せて!」


「ののかちゃんも最初から勉強する気ないだろ」


「そんなことないよ。レミちゃん宿題わからないところがあったら教えてあげるね」


「はい! ありがとうございます」


「勉強合宿は夏休み四日目ぐらいにやろうか」


「お前まさか三日で宿題終わらせる気かよ」


「遊ぶために、宿題なんかはさっさと終わらせてだ」


「夏休みだよ。ちょっと遠目の歴史資料館とかの文献もあさりたいよ」


「図書館には当然通いたいし、SF小説書くために、科学館とかにも行きたいだろ」


「お前らが二人が頭おかしくて、ものすごく頭いい理由がよくわかったよ」


「夏祭りもいこう」


「それはいいな」


「最低4回はいきたいな」


「おおいだろ」


「祭りと言ってもいろんなパターンがあるし、味わい尽くしとかないと、それに」


「それに、なんだよ」


「ののかの浴衣姿は何度でも見たい」


「えへへ」ののかが照れる。


「それはよかったな」怒ったようにトウヤが言う。


「怒んなよ。きっとレミちゃんも着てくれるよ」


「えっ、あ、はい。いいですよ」勢いで話をふると同意してくれた。


「よかったな」


「……」


 トウヤはレミちゃんの浴衣姿を想像して、固まってしまった。

 よっぽどかわいかったのだろう。


「あとは、そう。キャンプ行きたいね。でも、ののかの家許可おりないか」


「お父さん心配性なんだよね。悠久いるから心配ないんだけどなぁ」


 ののかのお父さんが心配性の原因は、僕の所為なんだけどね。


「僕の家の庭で、バーベキューしようか。庭狭いけど、テント張ったら雰囲気でるかな」


「いいですね! おいしいお肉食べたいです」


「それは楽しそうだな」意識が帰ってきたトウヤが同意する。


「そうだな、他には……」


 僕が迷ったふりをするとトウヤが期待した視線を送ってくる。


「僕からはこんなもんかな。他にどこか行きたい人いる?」


 僕はみんなに聞いた。

 トウヤが何か言いたそうにしたが、結局言わなかった。

 僕は祭りの日程などを携帯で調べながら、カレンダーに予定を書き込みながら、トウヤを見る。


「なんだよ」


 拗ねたように、トウヤが言う


「いや別に」


 僕はトウヤが何を言いたかったのか想像がついた。

 トウヤは海にいきたかったのだろう。

 同じ男だからよくわかる。

 好きな子の水着姿は見て見たいものだから。

 トウヤは僕に海と言ってほしかったのだろうけど、レミちゃんに海にはいきたくないと先に言われていたからな。

 トウヤが誘えば当然僕とののかは一緒に行くし、レミちゃんも嫌とは言わないだろう。

 トウヤが誘わないのなら、僕はののかを誘って二人で行くつもり。

 高校2年生の夏は一度きりだ。

 トウヤ、やりたいことをやりたいと言わなくて後悔しても知らないぞ。

 

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