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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
28/62

ゴブリンの村

「この先、ゴブリンの村があるはずです。魔王といえば、寝床と食料ぐらいならすすんでもらえることでしょう」


 たかるきだな姫。


「ドワーフに注文を頼んだ使者も同じようにここを通ったはずでしょうから、魔王が来ることはわかっているはず、盛大に歓待してくれるでしょう」


 自信満々で尊大な姫。

 アイカと三人で随分回ったから、知名度もかなり上がっている。

 そろそろ貴賓として歓待をうけてもおかしくないかもしれない。

 ただ歓待を受けて当然と思っているのは、随分図々しいには違いない。


「おい。見えてきたぞ」


 馬車を運転してくれていた闘士が教えてくれた。


 僕らは馬車を降りると、ゴブリンの村に近づいた。


「変だな」


 姫の言い方だったら、魔王様御一行いらっしゃいませ!ぐらいの旗がたっていてもおかしくなさそうなのに。

 姫を見ると、さっきまで自信満々だったのに、少し拗ねている。


「まだ新任だし、そういうこともあるよ」


「なんのことでしょうか」


 姫がそっぽを向いた。

 僕は、『ははは』と笑って、


「用意が間に合ってないだけかもしれないし、とりあえず村に入ってみよう」

 と、言った。


 それにしても門番もいないなんて不用心だな。

 どこの魔族の村も見張りはいつも二名ほどたっていたのに。

 村の中に気配はあるから、留守ということではないだろう。

 国境近くでもないから、警戒心が薄いのだろうか?

 僕らは、門を勝手にくぐった。

 虚ろな目をしたゴブリン達が一人の女性を執拗に追い立てていた。


「はぁ、はぁ」


 女性は荒い呼吸をしながら、こっちに向かって必死に逃げてくる。

 青い瞳は宝石のようで、長い髪は金糸のように光り輝いている。

 長身でプロポーションがよいが、洋服は所どころ破けており、陶器のような曇りのない綺麗な肌が見えている。

 はだけたフードから見えた耳は角のように長く。


「た」すけてください

とでも言い掛けたのだろうか。


 僕は頭で考えるより早く、目の前の人物の胸に聖剣を突き立てた。

 突然突き立てられた聖剣を見つめ信じられないものをみたかのように僕をみる。


「どうして……?」


 どうしてと言われても。

 女性の見た目がどうみてもエルフだった。

 姫にエルフは問答無用で殺せと言われていたから、急いで殺したただそれだけ。

 それに見た目とは裏腹に、光属性の魔力は、歪で醜悪で、感じるだけでも、耐えられない程だった。

 どうやら女は何かしらの光属性魔法を放とうとしていたようだが、心臓を貫かれたことで、魔力不足で不発に終わる。

 僕が剣を引き抜くと、魔法を切り替え自分自身に回復をかけようとした。

 聖剣の回復阻害がそれを許さず、みるみるうちに胸から血を流して、絶命してしまった。

 僕は殺してしまった女をぼんやり見降ろしていると急に不安に駆られた。


「あっ、ヤバい」


 耳を見た瞬間エルフと判断して殺してしまったけど、もしかして逆だったのか。

 ゴブリンがこの殺してしまった女のことで、エルフが目の前にいる醜い小鬼たちのことであるとか。

 物語の読み過ぎでどうしても固定観念ができてしまっている。

 どうしようと姫の顔を見ると


「勇者、まさかそれがエルフでしょうか」


 姫の方が逆に聞いてくる。


「ご、ごめん、間違えちゃった? あっちにいるのがエルフ?」


「いえ、あれらはゴブリンで間違いありません。ワタクシもエルフの姿はよく知りません」


「そうなの」


「ええ、百年に一度だけなので、人間で覚えているものはいません。ですが、その女がエルフだとしたらワタクシ達に、放とうとしていた魔法は知っています。テンプテーション、魅了の魔法でしょう」


「はっ? 魅了?」


 そんな魔法僕は知らない。


「しかも、ワタクシの霊繰術とちがい、魂を操るタイプではなく、好意を増幅させる光属性魔法のため、使用条件が緩いと思われます。好意が一切なければかかりませんが、エルフは男女ともに見た目美しく、多少は惚れてしまうため、多分、返事をしただけで操られていたと思います」


「初見殺しかよ」


 見た目の良さを利用するなんてなんて極悪な。

 きれいな花にはとげがあるっていうけどさ。


「どうみても初見で殺してるのは勇者ですけど」


 僧侶にツッコまれた。


「確かにそうだけど、ってその手はなに?」


 僧侶を見ると、発現しかけた魔法がバチバチと音を立てている。


「その女にパラライズサンダー撃とうとしたところですよ」


「エルフだから?」


「いえあたしもエルフの姿は知りませんよ。あたしは知らない人から助けを求められたら、パラライズサンダーを撃つことにしています」


「僧侶は、素性がわからない初対面だとパラライズサンダー撃つの?」


「そうです」


 断言された。

 確かに無条件に人のことを信じられる世界ではないけど、


「確かに、僧侶は助けた後に治してあげればいいからか」


「別に助けを求められても、助けませんけど?」


「いい人かもしれないよ」


「いい人だろうが悪い人だろうが、別に見ず知らずの人なら助からなくてもよくないですか? 勇者知ってますか。女囚人が助けてって言うときは、大体助けた男の看守を殺して逃げますからね。これ常識です」


 育った環境が劣悪すぎて、常識も劣悪すぎる。


「闘士、僧侶になんか言ってやって、って闘士はなんでロープ構えてるの」


 捕り物よろしく闘士はロープを構えていた。


「そうだな。まず助けるときは謝礼の確認からだろ」


「そうじゃないだろ」


「まあ、まて勇者、最後まで聞け、俺は学んだ。今は雇われの身、まずは無力化して、姫の許可を得るから」


 そういう問題なのか。


「無力化って具体的に何?」


「鳩尾にワンパン?」


「闘士の膂力で?」


 みんな死ぬって。


「手加減するぞ。多少間違っても僧侶いるから、大丈夫だって、ほらあと最近は縄で縛るのも練習してるんだぜ」


 屏風のトラすら捕まえる勢いだ。


「そんな得意げに言われても」


「謝礼よこさずに逃げるかもしれないだろ。もしかしたら追ってるやつに突き出したほうが、もっと金もらえるかもしれないし」


 闘士は頭の中、損得勘定しかないのか。


「本当に酷いな僕のパーティー」


「もう一度いいますけど、今日一番ひどいのは勇者ですよ」


「うん……。そうだね」


 確かに、率先して殺しちゃったのは僕だけどさ。

 身の危険を感じると、頭で判断する前に、脊髄反射で動いちゃうんだよね。


「勇者よくやりました」


 姫……、自分の性格の悪さにへこんでるときに褒めないでほしいな。

 僕らがしょうもないことを話している間に、エルフが死んだことで、魔法がとけたゴブリンたちが正気に戻っていく。

 一番先頭にいたゴブリンが頭を振りながら、話しかけてくる。


「あなた達は?」


「ワタクシは魔王です」


 姫が堂々と言った。


「あなた方が、最近就任した人間の魔王ですか。どうしてここに?」


「助けに来ました。大丈夫でしょうか」


 本当に姫は息はくように嘘をつく。

 ただ通りかかっただけなのに。

 それどころか無償で食料と寝床の提供させようとしていたのに。


「ありがとうございます。魔王様」


 ゴブリンは素直に信じてお礼を言った。

 僕らと大違いだ。


「どうしてエルフがこの村に?」


 僕はゴブリンに尋ねる。


「村のそばで行き倒れていて、介抱してあげたら、こんなことに。見慣れない種族の方でしたがまさかエルフだったとは……。エルフだと分かっていれば、介抱などしなかったものの」


 ゴブリン、めっちゃ親切だな。

 魔族領でも奥地、人間の侵略に怯えず慎ましく生きているからかもしれない。

 それにしても、こんな親切なゴブリンにもヤバいと認識されているエルフって


「一体、エルフってどんな悪行を行っているんだ」


「操られているときは、なにも疑問に思っていませんでしたが、私達を奴隷にするつもりのようです。どうやら百年周期で、奴隷の補充を行っているようです」


「俺たち以外にも操られたゴブリンがいるんだ」


 他のゴブリン達も一斉に訴えかけてくる。


「人の意に反して操るなんて許されないことでしょう」


 相変わらず、それを姫が言うのか。


「ワタクシ達に任せてください。必ずや、皆を取り戻してみせましょう」


 おおっとゴブリン達が沸く。

 本当にのせるのが上手い。

 姫はくるりと僕の方を向くと、


「では、勇者お願いします」

 と指示を出した。


「あーはいはい」


 働くのは、僕に決まっている。

 僕はまずゴブリンに尋ねた。


「あんたらの中に腕利きの魔法使いはいる?」


「いえ、いません。すみません」


 ただでさえ小さいゴブリンがさらに小さくなった。


「いや、いない方がいいんだよ。わかりやすいから」


「わかりやすい?」


 僕はゴブリンの質問には答えずに魔力感知を働かせた。

 村はずれに、でかい魔力が五つあるな。

 きっとエルフだ。

 さっきのエルフは門番、外からやってきたものにたいして、タイミングよく被害者を装い、魅了の魔法をかける役割だろう。

 演技派だったな。エルフは殺せという姫の指示がなければ、普通に助けようとしたかもしれない。

 その場合は闘士に縛られて、僧侶にパラライズサンダーを撃たれていただけではあるけれど。

 それはともかく、仲間が戻ってこないことに疑問を思う前に倒してしまいたい。


「勇者どっちですか?」


 僧侶が聞いてくる。


「東に大きな魔力が五つあるよ。光属性が二つ、風属性が三つ。僕が先行して出来るだけ倒すから、僧侶と闘士は少し遅れて来てくれる?」


「了解です」


 僕は僧侶の返事を聞いてから、駆け出した。


◇ ◇ ◇

 

 僕は走りながら、魔力感知を働かせて、エルフそれぞれの距離感を確認しながら作戦を立てる。

 大きな魔力五個のうち、二つはそれぞれ動いている。

 別行動をしているようだ。

 さてまずは個別で行動している二人から仕留めていこうかな。

 僕は魔力感知に従って進んでいくと、茂みの近くで、ぼんやりしていた女のエルフを発見した。

 敵陣の只中だと分かっているのだろうか。

 仕事をさぼっているのか、他の仲間から離れて休んでいる。

 僕は後ろの茂みに回り込む。

 口を押さえ込み、茂みに引きずり込みながら、喉をかっきる。

 そのまま葉っぱで軽く死体を隠す。

 まずは一人目。

 よし次。

 同じように、魔力感知を働かせると、川辺で男のエルフを見つけた。

 川で水を汲もうとしていたので素早く近づき、後ろから一突き。

 着水の瞬間に氷漬けにし音を立てないようにしする。

 エルフは氷塊となって流れていく。

 下流にエルフがいないことは確認済みだ。

 これで二人目。

 随分あっさり殺すことができた。

 ゴブリンたちを全部洗脳しきったと思っているからか随分油断している。

 楽な仕事だ。

 鎧を着ていないので、随分体が軽い。

 よしこの調子でいこう。


「あと三人は固まってるな」


 僕は木に登ると、エルフがいる方向を確認した。

 馬車が三台並んでいて、

 虚ろな目をしたゴブリン達がゆっくり自ら馬車に乗り込んでいっている。


「好都合だな」


 三人は近くには、いるものの、それぞれ別の馬車に乗せる作業をしている。

 僕はせっかく上った木を降りるなどせずに、木の上をつたって近づいていく。

 僕は目から入ってくる情報と魔力感知の情報を照合しながら、移動する。

 全員馬車の正面側にいるので、後ろ側から回り込むことにする。

 僕は少し車高の高めの馬車の下に潜り込む。

 随分近づいたが、さっきの茂みで殺した女エルフのように引きずり込むには距離がある。

 なら、あっちから近づいてきてもらおうか。

 僕はゴブリン一人の足元を凍らせて、わざと馬車の車輪に激突させる。


「何してるのよ。壊れてないでしょうね」


 女エルフが車輪を確認しに近づいたところで、足を掴み馬車の下に引きずり込む。


「ぎぃ」


 ぎゃああ、とでも叫びたかったんだろうが、口をおさえた手で、氷結魔法を流し込み、肺を一瞬で冷凍する。

 呼吸ができなければ、叫ぶこともできない。

 組み敷いた女エルフと目が合った。

 僕の右手に持つ聖剣を見ると、エルフの美しい顔が、恐怖で歪む。

 僕は何も気にすることなく、聖剣を振り上げる。そのまま豊満な胸をひと突き。

 絶命するのに数秒もかからない。 

 僕はエルフの死体もそのままに、馬車の下から残りのエルフを覗き見る。

 男のエルフ二人は、そのままゴブリン誘導を続けていた。

 よし、まだこちらに気づいていない。

 残り二人なら一気に行くか。

 僕は腰を低くし、短距離走のクラウチングスタートのような構えを取る。

 ゴブリンたちがぞろぞろ動いているから、音はそこまで気にしなくていい。

 エルフが二人とも視線が切れるのを待つ。

 今だ。

 無音強襲。

 音を立てずに、大地を強く踏みしめながら、高速で聖剣をふるう。

 僕が回転しながら、エルフ一人の隣を通り過ぎる。

 エルフの首が宙を舞う。

 死んだことすら気づかない突然の即死。

 魂の消失した肉体がゆっくりと倒れていく、僕はゆっくり聖剣を順手に持ち替えた。

 どさりとエルフが音を立てて倒れた。

 倒れた音を、荷物を下ろした音とでも勘違いしたのか、


「おい、そっちは終わったのか?」


 エルフ最後の一人が、仲間が全員死んでいることに気づかずに僕に背を向けたまま間抜けなことを言った。


「ああ、すべて終わったよ」


 僕は代わりに応えながら、最後の一人の背後からそ聖剣を突き立てた。


◇ ◇ ◇


 僕は、手ごろな石に腰を下ろすと、正気を取り戻していくゴブリンを傍目に、聖剣についた血をぬぐいながら、闘士と僧侶を待っていた。

 しばらくしてからやってきた闘士は僕に言った。


「勇者、全部一人でやったのか? 勇者は極端だよな。一人も倒せなかったり、全滅させたり」


「相性があるんだから、仕方ないだろ」


「エルフは高度な魔法を使うはずですが?」


 僧侶が僕に尋ねる。


「強い魔法も使わせなければどうということはないよ。エルフは全員、魔力量なら僧侶にも引けを取らないぐらい持っていたけど、今となってはどんな魔法を使うのかもわからないよ」


 僧侶は呆れた。


「勇者は、アサシンみたいとかじゃないですね。アサシン以外のなにものでもありません」


「そうだよね」


 自分でも、そう思う。

 今回の戦闘でわかったのは、僕は鎧を着ていない方が断然強い。

 隠密性が上がったことで、敵に近づきやすくなった。

 聖剣も短いので、狭いところで振り回しやすいので、狭いところに引きずり込むと一方的に殺せる。

 油断している魔法使いとか、僕にとっては格好の的だ。

 魔法を使われたら勝てないだろうが、それなら使わせなければいい。

 それにエルフは完全に人型。

 急所が人と同じなら殺し損ねたりしない。

 僕にとっては、皮膚が厚くて、僕の腕力では殺せなかったりする魔物や急所が人と違ったりする魔族の方が殺すのが難しい。

 そういう意味では、多分僕が一番相性が悪いのはドラゴンなのだろう。

 硬い皮膚、分厚い肉、回復魔法を必要としないほど自己再生能力が高い肉体は、僕の聖剣の効果である回復阻害が何も役に立たない。

 近い将来戦うことになるであろうドラゴンのことを考えると僕は憂鬱になってきた。

 ドラゴン討伐なんて勇者の花形みたいな仕事だろうに、戦力になる気がしない。

 魔族や魔物より人を殺す方が向いている勇者ってどうなんだろう。

 僕はため息しか出なかった。

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