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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
27/62

再出発

 馬車などの出発準備が整ったので、姫が僕らを集めた。

 姫はいの一番にアイカにいう。

 

「アイカはここでキリーナのサポートをしていなさい」


 張り切って大きなリュックを背負っていたアイカは捨てられた子犬のような顔をした。


「私おいていかれるのですか」


 姫はため息をつき、僕らを見る。


「ではたとえば、アイカが敵に襲われたらあなたたちどうしますか」


「別にどうもしないけど」と僕。


「見てます」と僧侶。


「応援する」と闘士。


「酷い!助けてよ。私戦えないのに」


「いや、嫌がらせで言ってるんじゃなくて、僕戦闘中、人守る余裕ないから」


「あたしは、ちゃんと死なないように回復し続けますよ。助けたりはしませんけど」


「戦いたいなら、一緒に修行するか?」


 闘士がシャドウボクシングをやって見せながら提案する。

 僕ら3人の中なら、闘士が一番優しい……のか。休みの日はフルマラソン走って修行している奴と一緒に修行したら、強くなれるか、戦う前に死ぬかどっちかだろう。

 アイカは頭を抱える。


「いえ別に戦いたいわけでは……あれ? よく考えたら、おいていかれる方が私にとって幸せなのでは? どうして私はついて行きたいと思って」


 もう自分が奴隷であることに何も疑問を感じていないようだし、自ら奴隷としてあるべき姿を模索しはじめていたようだ。

 調教は完璧に終了している。


「給料はキリーナに渡すようにいってあります。金額は自分で交渉なさい」


「えっ、給料もらえるんですか?」


 姫があほの子を見るように目を細めた。


「あなたはお金もなくどうやって生きていくつもりですか。ミノタウロスだから、道の草でも食って生きていけるのかもしれませんが」


「そんなことできないよ。無理だよう。どうしてそんなこというのですか」


 牛だもんな。姫もあっちの知識があるからそう思っても仕方ない。


「お金がいらないのなら、キリーナの手伝いをする必要もありませんし、どこに行ってもかまいません。ただし、あなたは他の者にとっては、私の直属の部下、みすぼらしく生きられるとワタクシの品格が落ちます。ワタクシについていけば幸せになれると思えるような生き方を率先してしなさいわかりましたか」


 姫は正論を言った。

 あれ? 変だな。全然酷いところがない。僕は混乱した。


「えっ。どういうこと? 私幸せになっていい???」


 アイカも混乱している。


「少なくとも他人から幸せに見える生き方をしなさい。命令です」


 一周回りきってお花畑みたいな命令になったな。

 なるほどと僧侶が頷く。


「つまり、用済みってことですね」


「台無しだよ僧侶」


「そういうことでしょう」


「肯定するなよ。姫」


「もちろん。用済みなのは、魔族とのコネクションとしてです。地盤はかたまりましたから、これからは、私の魔族代表の模範的な部下を演じてもらいます」


 アイカは奴隷であるとバレてはいけない奴隷だ。

 本当はブラック企業なのに、求人情報紙の笑顔いっぱいで写っている社員の代表みたいなものだろう。


「ああ、もう。せっかくいい感じでまとまりそうだったのに」


 僕は嘆いた。

 結局いつも通りの酷い指示になってしまった。


「あはは」


 僕と違いアイカは笑った。

 そういえば、笑顔は初めて見るかもしれない。


「本当にめちゃくちゃ」


 そうだよね。姫はいつだってそうだ。


「どこにでも行っていいということは、もう逃げられないってこと」


「そうでしょうね」


 姫が答える。


「私は、姫のこと、神様で救世主だと思っています」


「そのとおり」


「きっとこれからも姫を魔王にするため一生懸命頑張ります」


「いい心がけでしょう」


「私はこれから幸せに見えるようにふるまわなくてはいけないんですね」


「頑張りなさい」


「奴隷なんて最低な状態なのに、どうして私の望んでいた状態にどんどん進んでいくんだろう。私は、お父さんのあとなんか引き継ぎたくないから、ずっと誰かに魔王になってほしかった。戦争をなくしたいなんて思っているのに、なにもしていなかったただの引きこもりだったのに」


 姫はアイカから魔王の座を奪い取り、むりやり砦から引きずり出し働かせた。

 何かをなすためには、天秤に命を乗せなくてはいけない。

 自分で乗せることができなかったアイカを、姫は無理やり命の天秤に乗せた。


「戦うの怖いなと思っていたら、戦わなくていいんですか」


 アイカはなぜか笑顔のまま泣いていた。

 どういう感情なんだろう。

 僕にはわからなかった。


「戦いに足手まといはいりません。ただそれだけでしょう」


「あはは、酷いのに、3人が姫のこと慕っているのもよくわかります」


 アイカはぼくらから少し距離を取ると大きく息を吸い込んだ。


「では、みなさん行ってらっしゃい! 私はみなさんの帰りをここで待っていますから」


 まるで普通の仲間のように僕らに手を振り続けていた。

 それは僕にはとても幸せそうに見えた。


◇ ◇ ◇


 馬車に乗り込む。

 運転台の闘士が馬を走らせ始めてから、


「さて、ここからが本題です」


 姫はそうしきりなおした。

 

「正直、お兄様を舐めてましたね。まさか王位継承権が一位になったら、すぐお父様を手に掛けるとは、思っていませんでした」


 姫が言うには、第三王子は王位継承権一位を宣言すると、父親を殺し、国王を名乗ったそうだ。実の母である王妃も殺してしまったそうで、第一王子と第三王子は殺し合いに発展、第三王子は自分の領地に逃げ帰ったようだが第一王子の怒りが収まるわけがなく。第三王子の領土に軍を侵攻。今まさに戦争中であるということ。


「個人としては、コーヤお兄様の方が強いでしょうが、軍のレベルは互角。コーヤお兄様が攻めている間は、ダグル兄様も余裕はないでしょうから、後数ヶ月は持ちそうでしょう。コーヤお兄様もずっと攻め続けられるわけではないでしょうから、戦況が膠着したら、ダグル兄様近隣のつまりワタクシの領土を引き込みたいとおもうはずです。こちらに目が向く前に、今の内に魔族達を仲間に引き込んでおく必要があります」


 確かにそれは理にかなっている。

 姫は一拍おいてから言った。


「手始めにドラゴンを仲間にしましょう」


「手始めにやることじゃないだろそれ」


 いつものことながら姫の発言には、びっくりする。

 なんせドラゴンはこの世界で最強の代名詞とも言える存在だ。

 ドラゴンと渡り合えたのは、全盛期の現国王ぐらいだと聞いている。


「ドラゴンに勝てないようではお兄様には勝てません。正直、あまり時間はありません。弱い魔族を仲間にして回るより、強い仲間がほしい。ドラゴン領は魔族領の奥地。後ろから攻撃されて挟まれたらひとたまりもありません。仲間にできるならよし。仲間にできなくても、せめて話はつけておかないと」


「今回は対話か」


「もちろん対話です。せめて1体か2体ぐらいは霊操術で操って交渉に臨みましょう」


「やっぱり戦うんだね……」


 霊躁術つかうのか、それはそうか。

 仲良くなるためには、時間かきっかけが必要だ。

 時間はない。

 ならばきっかけを作るために、まずはアイカのような存在を手に入れる必要がある。


「そのためには、装備を手に入れる必要があります。すでに友好的になった魔族に発注はしてありますので、ドラゴン領に行く途中で回収しましょう」


 それはありがたい。

 僕も姫も、死んだふりしたときに国支給の装備はすべて身代わりに置いてきてしまったから、今は随分安物の装備をしている。

 僕の装備は鎧ですらなく、強化布で仕上げた服だ。軽くて動きやすいので、これはこれでいいとは思う。

 姫は前の装備に似た女性向けの鎧をつけているが、特殊金属ではないし、前と違い王家の紋章なども入っていない。

 紋章はもう必要ないが、姫は早めに上等なものに変えた方がいいだろう。


「武器が作れて、友好的になった魔族ってドワーフですか?」


 僧侶が質問する。


「そうです」


 ドワーフか随分メジャーな種族が出てきたな。

 ドワーフは僕の想像通り、ずんぐりむっくりなひげおやじなのだろうか。

 会うのが楽しみだ。

 それに、


「ドワーフがいるなら、エルフもいるの?」


 僕は興味津々でみんなに聞いた。


「あのクズの一族か」と闘士。


「引きこもりの傲慢な連中のことですか」と僧侶。


「あれらとは会話するだけむだでしょうね」と姫。


 そんな扱いなのかエルフって。


「勇者、もし見かけたら、問答無用で殺してください」


「えっ。だって今は姫は魔王を目指しているんじゃ」


「エルフ領は魔王領ではありませんし、エルフは人間どころか他の魔族とも仲が悪い。前魔王もすべての魔族を支配下に置いているわけではありませんでした。エルフは和解の余地はありません。。連中は100年に一度ぐらいしか、里を出てこないので会うこともないでしょうが」


「わかったよ」


 エルフは美男美女と相場が決まっているので、一度は見てみたかった。

 話が切れたタイミングで闘士が姫に聞いた。


「それより姫、今後のお金の支払いってどうなるんだ?」


 闘士は本当にがめついな。いいことだとは思うけどね。


「安心なさい。闘士と僧侶には、キリーナから払い込まれます」


 姫の収入源は、領地の税収だけになったのだから、姫経由で支払うより効率がいい。

 よっしゃー!と闘士は運転しながら喜んでいる。


「勇者は聞かなくていいんでしょうか」


 姫が僕に言う。


「えっ。僕?」


 たしかに王国の勇者出なくなったから収入源はないけど、別にいいよね。


「財布は一緒なんだから。姫払ってくれるんじゃないの? 夫婦なんだし」


 ののかの話ではそういうことだったような。


「な、な、なにをいっているのでしょうか」


 姫が動揺する。姫が動揺するところなんて初めて見たかもしれない。

 あれ? でも、ぼくおかしなことなんて言ったかな。


「あれ? 違った」


 そういえば、姫の口からはそうだとはきいたことはない。

 違うのなら、僕が姫のために戦う理由はなんだろう。

 嫁のためなら、命を懸けるのもいいと思っていたんだけど、


「違うんなら。僕も金もらいたいな」


 命を懸ける理由としては、お金は簡単でいい。

 いまさらパーティー抜ける気はないし。


「違いませんが、もっと段階というものがあるでしょう?」


 それを姫が言う?


「なんもかんも段階飛ばしたのは、姫だと思うんだけど」


「そういう単語はもっと盛り上がったタイミングとかで使用するものでしょう。こんな薄汚れた馬車の中で、他の仲間もいるのになぜそういうことを言うのでしょうか」


「別に好きとか愛してるとか言ってるわけでもないのに」


「だからそういう単語をそう簡単に使わないでください」


「別に簡単には使わないよ。姫にしか使わないし」


 姫は顔を真っ赤にする。


「そう。ちょっとあなたたちは日常的に愛の語らいをしすぎでしょう。恥を知りなさい」


 あなたたちってののかと僕のことか。


「別にいいだろ。恋人なんだから、恋仲は常に最高潮をキープし続けなければいけないんだよ」


「あなたは馬鹿ですか」


 姫からそんなストレートな罵倒ははじめてだよ。

 事情を知っている僧侶が口をはさむ。


「誰がどう見てもバカップルですからね」


 僧侶は僧侶でひどいな。


「あなたには、デリカシーがないのでしょうか?」


「姫様、勇者にそんなのあるわけないですよ」


 まだ、姫と僧侶よりはあると思うんだけどな。

 口が達者な女性二人と言い争いするのは分が悪すぎる。


「ちょっと闘士、姫と僧侶が酷いんだけど」


 僕は馬車の運転をしてくれている闘士に加勢を頼んだ。


「ああ、悪い。聞いてなかった」


「闘士は本当に金以外のことに興味ないな」


「そうでした。とにかく、勇者の支払いは、ワタクシがしておきます。それでいいのでしょう」


「うん。それでお願い」


 まあ、いいか。

 夫婦にはちがわないみたいだし、盛り上がったタイミングならいいんだよな。

 その時はがんばって、思いを伝えるか。

 全然そんなタイミング来る気がしないんだけど。

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