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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
26/62

出発準備

 実家に滞在して数日、姫が帰ってきていると知り、隣町を拠点としている姫の妹君であるキリーナ姫もやってきていた。

 燃えるような赤髪と真紅の瞳。口からは鋭い犬歯がのぞいている。

 妹君はヴァンパイアと人間のハーフであり、ダンピールと呼ばれている種族だ。

 姫の話によると、国王が連れ去ったヴァンパイアの姫君に産ませた子らしい。

 ダンピールはヴァンパイアにとっては忌み子だ。

 自分たちと同等の能力を持ち、それでいて自分たちの弱点を打ち消した最強の存在。

 ヴァンパイアの姫君は、生まれてきたわが子を殺そうとして、国王に殺されたそうだ。

 話を聞くだけで壮絶な生い立ち。

 自分の母親の種族であるヴァンパイアからは忌み嫌われているのに、魔族に支援を行っていた心優しき存在。

 僕にとっては真逆に思える性格をしているが、姫を大層慕っているようである。

 そんな妹君と姫との会話が風にのって聞こえてくる。 


「キリーナ、あなたもこちらに移動しておきなさい。魔族の支援をおこなっていくのであれば、魔族領に近いこちらの方が都合がいいでしょう」


「お母様と暮らしたあの家はどうしたらよいですか」


 お母様とは姫の母親のことだろう。

 もう亡くなっていると聞いたことがある。

 どうやら昔は三人で暮らしていたようだ。


「家がなくなるわけではありません。たまに使用人に手入れさせればいいでしょう」


「そう……ですね。わかりました」


 姫は支援を理由に妹を避難させているのだろう。

 そのくらいは素直に言ったらいいのに。


「お父様のお葬式は……」


「行けるわけないでしょう。全くあなたは、お父様からも二度と王都には来ないように言われていたでしょう」


 お父様の葬式? 

 国王死んだのか?

 あまり調子は良くないとのことだったが、急変したのだろうか。


「でも……」


「あまりワタクシを困らせないで頂戴」


 ぴしゃりと姫はさえぎった。


「ごめんなさい。お姉様」


 うなだれたまま妹君は、行ってしまった。

 僕は姫に近づき尋ねた。


「姫、国王亡くなったの?」


「勇者、それは、その通りでしょう。ワタクシも少し混乱しています」


 姫も珍しく参っているようにみえる。


「大丈夫?」


「すべての元凶はお父様とはいえ、ワタクシたち姉妹にとっては優しい父親でしたので……。まだ情報整理が終わっていないので、詳細は、あとで話します。急ぐ必要が出たので、勇者も出発準備しておきなさい」


「わかったよ」


 姫の背中を見送りながら、時代が随分動いていることだけは僕にも理解できた。


◇ ◇ ◇


 出発前にもう一度だけ、父親に挨拶しておこうと思い、父の執務室を訪れた。


「ユイクイド、もう行くのか?」


「そうだよ」


「ゆっくりしていけとも言いたかったが、そうもいっていられなくなった」


 多分姫から国王の死について聞いたのだろう。

 父親は、それについては何も語らず、別のことを言った。


「ようやくノノアール様から今後の方針の全貌について聞くことができた。どうやら完全に王国から離反するつもりらしいな」


「まあ、魔王だからね」


 姫のことだから、王国と仲良くするために、魔王にはならないだろう。

 なんせ目標は世界征服なのだから。

 自分がトップにたってこその征服だろう。


「本心を言えば、王国に反旗を翻してどうにかなるとは思えないが、ノノアール様は、魔族領ではなく、王国側の防壁を最優先で作るように昔から指示していたことを考えると最初からそのつもりだったのだろう。今さら私がどうこう言ったところで揉めるだけだろう。ノノアール様に従うほかあるまい。お前もノノアール様の勇者をやめるつもりはないのだろう」


 僕はうなずいた。


「まあ、そうだな。仮に王国側についたとして、皆が幸せになれる保証はまるでないからな。急にこんなに町が発展しているのは、ひとえに南に位置する第三王子領からの流入だ。こちらにきたものから話をきくとすごい圧政がひかれているそうだ」


 妹にすら平気で手にかける王子のことだ、想像に難くない。

 だがそうなってくると心配することはただ一つ。


「王子が攻めてきたら?」


「もう戦うより他あるまい。ただ姫様の話では、最悪は、魔族領に逃げれる手はずになっているとのこと。そのためにも今のうちは、魔族にできるだけ、恩を売っておきたいので支援を進めておくようにとのことだった」


 さすが姫よく考えている。


「ここ数年は、かなり豊作で、備蓄も多い。姫は魔族の支援と言っていたが、体よく自分の支配下になった魔族の村に食糧庫を作らせて、移動かけるということらしい」


 支援という名の避難先の確保。

 せっかく備蓄できていても、そこを攻撃されては意味がない。いざというときに食べるように伝えておけば、ほとんどの魔族は手を付けないだろう。


「なにもしらず純粋に魔族の支援を行いたいキリーナ様を騙すようで心苦しいが、本来の領主はノノアール様それも仕方あるまい」


 心の底から善人を全面に押し出していくことによって、裏を読まれないようにするわけか。

 姫はどれだけ騙すことに特化しているのだろう。


「この城は今まで見たことない作りをしている」


 あっちの世界でも珍しいしなぁ。


「城からであれば、敵が攻めてきても、こちらからは一方的に魔法で攻撃できる。跳ね橋をあげたら、敵は泳いでしか、こちらに来る方法がないので、物理的にも強固だ。それに、人間領側が町で、魔族領側に穀倉地帯がひろがっていて、その間にこの城がたっている」


「つまり、籠城しても、食糧が尽きないということ?」


「そういうことだ」


 どれだけ考えつくしたんだよ。

 ののかと融合して知識を得たのは、ついこの間だというのに。


「心配なのはノノアール様から、もう資金源は尽きたとのことだった。王国側には、死んだふりしているそうなので、当然そうなるだろう。そうなってくるとこのまま計画を進めていくためには、税金を上げざるを得ない。防衛費だといえば、皆も納得するだろうとのことだったが加減は難しいな。あまり税金を上げすぎて、経済が止まってしまっては意味がない」


「僕の報酬金はすべて使っていいよ」


「いいのか」


「僕も死んだことになっているだろうから、もう増えることはないけど、寝かせておくよりはいいと思うから」


「背に腹はかえられない、ありがたく、つかわせてもらう」


「うん」


 たいした足しにはならないかもしれないけど、

 ないよりはいいだろう。

 父親は少し顔を曇らせて言った。


「本来姫に資金源があるというのも変な話なのだが……」


 普通そう思うよな。領主である姫は領地からの税収で生活するものだ。

 どこから手に入れてきているんだって話だ。


「……昔、姫の資金源を不審に思い一度だけ姫のお金の出所を調べたことがあったが、王国から軍の維持費として、多額のお金が振り込まれていた」


 第三王子が言っていた軍が何だったのか分かった。

 姫は軍を率いて、魔族の村を滅ぼしていることにしていたのだろう。

 架空の軍の運営費を自分の領地の発展に使っていたのだろう。

 僕たち三人をこき使って。闘士が知ったら怒りそうだな。


「キリーナ様に直接資金を送るのではなく、まず私に送っていることを考えると……いや、何でもない」


 たぶん父親は、なんとなく気づいているのだろう。

 姫の軍、(架空ではあるが)というものが、何をするための名目のものか。

 僕は姫と違って、嘘が下手だから、僕に聞いてしまって、僕が黙ったら、それが答えのようなものだ。

 最悪、姫はほとんどの内容を父親にはなしていることを思うと、資金源についても僕の父親にばれるのは、仕方ないとおもって、マネーロンダリングをしているのだろう。

 純粋無垢な妹のために。

 そして、その妹すら、利用している。

 父親をみると中間管理職らしい苦悩の表情を浮かべている。

 僕はねぎらいの言葉を送った。


「僕は僕の戦いをするから、父さんもがんばって」


「お前がそんなことを言うなんて、成長したもんだ」


 成長なんてしていない。

 中身が完全に別人なだけ……結局、僕も姫と同じようにみんなをだましている。

 僕は姫と違って、嘘は苦手だけど、黙秘だけなら得意だ。


「もう昔のように、勇者を目指すのはやめろなんて言わない。こんな世の中では、どこでどんな風に生きていても明日死ぬかもしれないからな。お前も気をつけろよ」


「ありがとう。父さん」


 心配している息子は、別人に乗っ取られていると知ったら父さんはどう思うのだろうか。


◇ ◇ ◇


中庭にでると、妹と僧侶がいた。


「僧侶さん、雷属性持ちなんだね!」


「そうです」


 妹と僧侶は同じ雷属性持ちということで意気投合していた。

 雷属性はレア属性。もっている人間はほとんどいない。

 雷属性は僕も持っているけど、妹よりさらに魔力量が少なく。なにも魔法が発動しない。

 持っていないに等しい。魔力感知で判別するのに役に立っているだけだ。

 妹は、僧侶に提案した。


「通信魔法交換しましょう」


「通信魔法ですか?」


「雷属性の魔法って、普通学校で唯一習うのがこの魔法だよ。雷属性の魔法で、遠くにいるひとと交信できるんだよ。すごいでしょ。でも雷属性のひと他にいなくて使えなかったんだよね」


 戦闘しないのなら、機械もないのに、発電してもしょうがないもんな。


「あたし学校行ってないから」


「働きながら学んだの?」


「そうです」


 拷問も立派な仕事……なのだろうか。

 なんにせよ働きながら学んだには違いない。

 妹は、両手を空にかかげ、魔法を構成する。

 完全に絵面が、完全に宇宙との交信なんだけど……。

 僧侶は、ピキーンとなにかを受信すると、同じように両手を空に掲げた。

 僧侶は慌てて応える。


「はい。もしもし、梅川です」


「もしもし? 梅川? えっ、なに?」


 僧侶の返事に妹は混乱した。

 もしもしはわかるけど、梅川ってなんだ?

 あっそうか。僧侶のあっちでの名字だ。

 あっちでもレミちゃんとしかいわないからすっかり忘れている。


「すみません。ついくせで」


 僧侶は、両手を掲げたまま、ぺこりとお辞儀する。


「くせ? 通信魔法初めてだってさっき」


 僧侶はちらっとこっちを見た。


「えーと、勇者説明お願いします」


 言い訳思い付かなかったからって、こっちに丸投げするなよ。


「あー、もしもしは申す申すの略だよ」


「確かに言いやすいかも」


「梅川は、コードネームかな。魔法使っているってことは、魔法で干渉できるから、他の魔法使いに、名前聞かれるかもしれないし」


「僧侶の時点で本名わからないのに?」


「確かに」


 そういえば、僧侶ってジョブ名だったな。

 僧侶って言い慣れすぎて、僧侶って言葉自体が僧侶の名前だと錯覚していた。


「なんにせよ。これで僧侶は妹とだけは通信できるようになったんだね」


 これかなりでかいんじゃないか。

 妹から魔族領に行っている間も王国の情報がわかる。

 姫が先に、僧侶を人間領に帰していたのは、連絡手段としてだ。

 姫がこれから先、何をするのかまだわからないけれど、戦闘するのであれば、アイカは戦えないし、僕と姫だけではどうしようもない。

 僧侶と闘士と一緒に行動する必要がある。

 そんな中、妹は、連絡手段として適任だ。

 植物学者兼通信機とかスペック良すぎて、姫に利用されつくす未来しか見えない。


「どうしたの、お兄ちゃん? 悲しそうな顔をして」


「いや、優秀な妹を持って、誇らしいと思って」


「お世辞でも、褒めてくれるなんて、ありがと。お兄ちゃん」


 無邪気に喜ぶ妹の未来を憂えた。

 憂いながらも、ちゃんと姫に報告しないとと思うひどい兄だった。

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