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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き

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23/62

部活動 禁断の恋系

「お待たせ、レミちゃん、トウヤもいるね。時間もおしてきたので、早速今日の部活動を始めよう」


 僕とののかは、部室に戻ってくると早速部活をはじめた。


 ののかが席に着くのを確認すると、僕は、いつものようにホワイトボードに大きくテーマを書いた。


・禁断の恋系


「今日のテーマは禁断の恋、障害が多ければ多いほど二人の恋は燃え上がり、愛の前に二人を妨げるものは何もない。どうトウヤ禁断の恋してみたい?」


「えっ、いや別にいい」


「そんなつれないこと言うなよ。一回やってみようよ」


「そんなに言うなら、自分がやれよ」


「そんなこと言われても、僕は恋してるけど、禁断ではないし親公認だから」


「見てトウヤ君。私、悠久の家の鍵もってるよ」


 ののかが僕の家の鍵を掲げて自慢する。


「障害なさすぎだろ。お前ら。本日ののろけはもういいからテーマにいけよ」


「じゃあ、まず定番の禁断の恋から。まずは歳の差だね」


「ちなみに、私と悠久は同じ誕生日だよ」


「年も同じで、家も隣で、誕生日も同じとかどれだけ運命的なんだろう」


「どれだけ障害ゼロなんだよ。だから、もうのろけはいいんだって」


 トウヤがとてもいやそう顔をするので、仕方なく僕は本題に入ることにした。


「定番の年の差の中でさらに定番は、生徒と先生だね。新任の先生だと23歳で僕らが16~18歳ぐらいだから7歳差ぐらいかな」


「そう考えるというほど離れてないな」


「ベテランの先生にすると、結構離れるけど、この場合の禁断である理由はは、年の差よりも立場だからね。結婚できない僕らに、思いとどまらせないといけない先生が、手を出したらいけないよね」


「まあ、そうだな」


「思いを胸に、卒業まで我慢できるのか。それとも誰にもばれずにうまく付き合えるのか。なにかと理由をつけて、会いに行くだけでもちょっとしたドキドキが止まらない。先生が男、生徒女、先生が女、生徒男どっちのパターンでも作りやすいよ。どうトウヤも先生に恋してみない? 若い先生だとそうだな、あの生活指導の先生とかよさそうじゃない?」


「いちいち勧めてくるなよ」


 本当につれないな。 


「次に年の差の定番はオネショタ、ロリオジだ」


「なんだそれ?」


「言い方はいろいろあるけど、オネはフツーにお姉さん。ショタはショタコン、小学生くらいの男の子、オジはオジサマ、ロリはロリコン小学生くらいの女の子だ。歳の差が7歳以上ぐらいかな。歳の差は先生生徒と一緒ぐらいだけど、禁断具合がさっきより増してるね。なんせ小学生に手だしちゃってるからね。結婚できる年になるまで、さっきのだと数年だけど、今度は10年以上待つ必要があるよ」


「うん。だめだろそれ」


「なぜか年上の方を美男美女にすると物語としてはいい感じになるんだよ」


「なんでだよ」


「小学生も、年上の美人のお姉さんお兄さんにあこがれているからだろうな」


「ちょっとはわかるけど」


「歳の差恋愛の下限は小学生かな」


「だから、禁断って話だろ?」


「この場合の下限は小説を書く場合のことだよ。法律でいいか悪いかは一旦おいといて、恋愛感情をお互いにいだいて不自然じゃないかってところかな。物語を書く上では禁断ではあってもいいけど、恋じゃないといけない。両思いである必要性はないけれど、完全に一方方向からだとただの欲情かな。会話が成立しないと物語が作れない」


「確かに、赤ちゃん相手に恋愛っていうのはちょっと違うよな」


「他は年の差、そうだな。話としてなくはないけど、私が30歳年上の彼氏とつきあいだした理由とかで話がはじまるとただのハートフルな話になっちゃうし、今回の禁断ってテーマから外れるので割愛しようかな」


「そこまではなされると、気になるからもう少し教えてくれ」


「当たり前だけど、成人してれば年が離れてても別に禁断でも何でもないからね。実際年の差婚って少ないけど、ありえるからね。特に芸能界、あそこはある意味現実のファンタジーだけど、若さよりも、顔がいいとかお金持ちとか他の魅力が勝つと結婚しちゃうんだろうね。男性の方は、歳をとっても子供作れるし、生物学的にもおかしいことではない。ということで、次に行くよ」


「オーケー」


「次は立場の違いかな。一番有名どころだと、ロミオとジュリエットだよ」


「名前以外、よく知らないんだけど立場がちがうのか」


「そう。敵対勢力どうしの恋模様、有名なせりふ、ああロミオどうしてあなたはロミオなのは、どうしてそっち側の人間なんだと嘆いているんだ。最後も駆け落ちしようとするものの、すれ違いからうまくいかなくて二人とも死んでしまうし、禁断の恋の悲恋物としては、最上位間違いなしだね」


「そんな話だったんだな」


「昔からこの手の悲恋物は大人気。ということをふまえて、立場の違いの恋を考えるといろいろ出てくるよね。天使と悪魔。警察官と怪盗。ヒーローと怪人。敵国のスパイ同士。表では殺し合いやらなにやらしてるのに、裏では恋しているとかドキドキしてくるだろ」


「いいですね。ドキドキします」


 年の差のところでは、つまらなそうに聞いていたレミちゃんが生き生きとしている。

 多分殺し合いというワードに琴線が触れたのだろう。どれだけ戦闘狂なんだ。


「立場の違いには、身分の違いもあるかな。庶民と殿様姫様の恋とかも、熱いよね」


「定番だよね。私大好き」


 今度はののかが目を輝かせている。


「ののかは歴史好きだからね。自由恋愛ではなかった時代に、自由を成し遂げようとするのがいいよね。人間の感情は損得だけではどうにもできない感じがたまらない」


「うんうん。悠久。そのとおりだよ」


 ののかが大きくうなずいてたまらないといった感じで、ノートに書きだした。スイッチが入ってしまったようだ。


「よし、次に行こうか。外せないのは不倫、二股関係かな。昼ドラでよくあるぐらいだし、主婦の皆様に受けがいいよ。いけない感じがいいんだろうね。ただ不倫物はあんまり高校生には受けないね」


「なんでだ?」トウヤが首を傾げる。


「そもそも結婚してないから、想像つかないからだと思う。高校生向けなら二股ものより、どうせならハーレムものまでいったほうが刺激が強くて良さそう。でも、ハーレム系は結婚してない限り、モテまくること自体は、犯罪にはならないし、禁断の恋ってジャンルにするには、足らないと思うよ」


「一夫多妻が認められている国もあるしなぁ」


 トウヤが同意した。


「男女比はどうしても、完全に一対一ではないし、戦争などでバランスが崩れることもあるからね。時代背景によってはハーレムも逆に仕方なかったりするものだからね。えーと、他には」


「まだあるのかよ」


「異種族間恋愛も、禁断だよね」


「動物とかってことか」


「そうそう。現実だと、普通動物によって染色体のかずが違うから、交配できないから、恋愛対象にならないし異性として魅力的に映らないことが多いんだけど、見た目が人型だと錯覚して恋に落ちる」


 僕はエキドナやアラクネなどを思い浮かべる。


「亜人とかってことか、まあ、それなら禁断まではいかないんじゃないか」


「ファンタジー要素が入ってくるから、とりあえず法律とかは良しとしよう。生物学的には、僕はやっぱり禁断だと思うよ」


「どうしてだよ」


「例えば、猫科どうし、豹とライオンの雑種でレオポンっていうのが生まれたことがあったんだけど、一代限りで生殖能力が著しく落ちることが知られているよ。そんなちょっとした種族の差でも交配が厳しいから、こっちの世界では基本無理だから禁断だね」


「こっちってなんだ?」トウヤが聞き返してくる。


「え? ああ、現実世界ではって意味」


 僕は慌てて訂正した。


「じゃあ、亜人ぐらい違ったら、生殖能力落ちるのか……。そういえば、ヴァンパイアと人間の子供は、ダンピールっていうんだろ。めちゃくちゃ強いって聞くけどやっぱり生殖能力ないだろうな」


「それは聞いてみないとわからない」


「なんだよその、知り合いにいるみたいな言い方」


「ははは」


 僕は笑ってごまかした。

 なんか今日は失言してしまう。

 レミちゃんを見ると、しっかりしてくださいみたいな視線を送ってくる。

 発言を気にしなければいけないのはトウヤだけだから気が抜けているのかもしれない。


「次は……」


「おい。悠久、まだあるのかよ。もう胸焼けしてきたぞ」


 トウヤはげんなりしてきた。


「とりあえず今日は次で最後にしよう」


「今日はって、まだまだありそうな雰囲気だな」


「最後は兄弟姉妹、親族だな」


「最後にガチで禁断持ってきたな」


「日本の法律だと三親等までは結婚できないので、その範囲が禁断だね」


「三親等ってどこまでだ」


「親と子が一親等、祖父母と兄弟姉妹が2親等、オジオバが三親等、いとこは4親等だから、結婚できるのはいとこからだね。近親交配は、障害性のある劣勢遺伝子が顕在化しやすいんだ。普通に子供を不幸にしたくないのならやめた方がいいので、法律でも禁じてるんだろうね」


「生物学的にも、法律的にも禁断なのな」


「まあ、普通、兄弟姉妹に恋心は抱くことはないよ」


「いやお前、一人っ子の癖に何言ってるんだ」


 ついうっかり勇者の妹を思い浮かべてしまった。

 かわいいとは思っても、絶対好きにはならない確信がある。

 だからといって、こっちの僕がその経験を持っているのは確かにおかしい。


「あーまあ、常識に当てはめると?」


 なんだか雑な言い訳になってしまった。


「お前ほど、常識はずれな奴は、俺は知らないぞ」


「ということで、トウヤはどの禁断の恋がお好み?」


「えーと、……ってどれ選んでもダメだろ。罠はるなよ」


「私は身分差恋かな」ののかがくいぎみで答えた。


「あたしは、敵国スパイ同士推しです」レミちゃんも負けじと答えた。


 二人とも完全に書くモードに入っている。


「ずるいぞ、二人とも比較的禁断感が少ないやつで」


「選べないならトウヤは兄弟姉妹にしとこうか」


「なんで一番重いやつなんだよ」


「一番重いやつからいっとけば、他は軽くいけるようになるだろ」


「重犯罪やったら軽犯罪は、ノーカンみたいな考え方やめろよ。ぜんぶだめだっていってるだろ」


 小説書くだけなんだけどな。


「仕方ないな。兄弟姉妹恋愛で初心者向けの魔法の一行教えてやるよ」


「そんなのあるのかよ」


「『血のつながりがなかった』って一文を入れるといい」


「それなら、なんだか。気が楽になるな」


「まあ、普通に結婚できるからね。養子と養方の傍系血族とはその限りでないって法律に定められてるから」


「つまり全然禁断でないってことか?」


「実は血のつながりがなければ、兄弟姉妹のままで夫婦ということもありえるんだよ。何も気にせずイチャイチャしたらいいと思うよ。でも、それだとさすがにつまらなさすぎるから、書き方としては、最初は知らないことにしたらいいんじゃないかな。『どうして私お兄ちゃんのことが好きになっちゃったんだろう』なんやかんやドキドキハプニング、からの衝撃の事実で両親は連れ子同士の再婚だった。『血のつながり実はないんだぁ』からの唐突のハッピーエンド。ドキドキ感だけ味わうだけ味わっといて、不幸なところは見たくないという、ちょっとご都合主義だけど、兄弟姉妹恋愛物だと多いよ」


「なるほどな。なんだか書けそうな気がしてきた。いやでも書いていいものなのだろうか。怒る人とかいそうだよな」


「まあね。なかには虚構と現実が区別つかなくなって犯罪を犯すっていう人もいる。多分だけど、そういうこと言う人は自分が虚構と現実がつきにくいから他人もそうだと思うんだろうね。大多数の人はちゃんと区別がつくから大丈夫。それに確かに絵とかだと子供の精神に悪影響を与えるものもあるけど、小説はそれなりに語学力がないとそもそも読むこと自体無理だからね。最初からそれなりにフィルターはかかってるよ」


「漢字とかで子供はそもそも読めないか」


「いけないことって、やっぱり魅力的だよね。魅力的ってことは欲望のままに動くとそうしてしまう可能性もあるってことだから、いけないことをいけないことだと知っていることも大切。いけないことだと知っていれば、当然心にブレーキがかかるよ。ブレーキをかけるためにも、想像の中ぐらい、欲望を満たすという意味で、こういうジャンルは大切だよ」


 これは他のジャンルの小説にもいえることだ。


「何やったって怒る人は怒るから気にしないほうがいいよ」


 僕はそう締めくくった。


「そうだよな。あくまで物語か」


 トウヤはそういうと、鉛筆をにぎりノートに書き始めた。

 トウヤを見ながら、僕は思う。

 僕の場合は、区別がつくからこそ、あの世界は現実ではないと初めに判断してしまった。

 夢という形態が、心のブレーキを壊した。

 僕は欲望の思うがままに生きて、醜い本能をさらしていた。

 僕は命を軽んじている。

 他の人の命だけではなく、自分の命も。

 気づいたときには、いくつも禁忌を犯していた。


「一度犯罪を犯すと取り戻せないよな」


 トウヤが言う。


「そうだね」


 僕は頷いた。

 もう僕はもう取り戻そうとも思わない。

 姫のような非道の心は、あの世界で生き抜くためには必要な力だ。

 姫の隣を歩くというのなら、今の方が都合がいい。

 取り戻せない過去を憂うより未来を見つめて進んでいくためには。 

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