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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
19/62

ミイラ取りはミイラになるけれど

 僧侶の雷で伸びてしまっている女の子に僕は水魔法をかけてたたき起こした。

 起き上がると同時に随分自己主張のはげしい胸が揺れる。

 角が生えた頭をふって目を覚ますと、僕らの姿を見て、女の子は震え上がる。


「なんなんですか、あなたたちは。お父さんが作ったガーゴイルとデュラハンのオジサマが倒されたから急いで、魔法でお父さんの幻影をつくって、すぐ逃げたのに、一瞬で気づくし、抜け道とか関係なしに壁は壊れるし、あんな遠距離魔法が逃げてる私にあたるし、どうなってるんですか」


「チームワークのなせる業かな?」


 僕は答えてあげた。

 それにしてもよく考えられてたな。

 さっきの魔王は幻術か。

 魔力感知がなければわからないほど精巧だった。

 多分攻撃を受けた瞬間に逃げるのを装って消える仕組みになっていたのだろう。

 さっきの王座は、ぱっと見すぐに外に出られるような、扉のようなものはなかった。

 この子の逃げ足もたいしたものだった。

 僕の魔力感知と闘士の怪力と僧侶の雷撃どれか一つでもなければ、逃げ切れただろう。


「終わった。あたしの人生終わった。お父さんの遺言なんて無視すればよかった。はい。もうなんでも話すんで許してください。もうそれかスパッとやっちゃってください」


 なんかこの子めんどくさいな。

 本当にスパッとやってしまいたい。

 姫から指示があればやるんだけどなぁ。


 僕が姫を見ると、姫はずいと前にでながら、質問する。


「お父さんということは、あなたは魔王の娘ですか?」


「そうですよー。魔王はもう死んでるんですよ。だから見逃してください。ね?ね?」


 懇願するように上目遣いで両手を合わせる。

 そんな魔王の娘を、姫は目を細め冷たく見下ろす

 そんな懇願の姫には効くわけない。


 姫が魔法を発動する。

 魔王の娘に触れていないから霊躁術ではないようだ。

 なんの魔法だろう?


「洗いざらい話しますか」

 威圧的に姫は言う。


「はい」


「なんでもやりますか」


「はい」


「幽鬼軍団に入りますか」


「はい。えっ?」


「はい。これで契約完了しました。あなたは死後私の奴隷幽鬼軍団として使役されます」


 姫の魔力が魔王の娘にまとわりつき、魂が魔力の鎖でつながれていく。

 初めて見たけど、そんな感じなんだ。

 幽鬼軍団に入れる方法。

 特殊な魔法発動中に、相手の承諾を得るのか。

 西遊記のきんかくぎんかくみたいだな。

 間違って返事したら一巻の終わり。


「もしかして、私ただ死ぬより悪い状況ですか」


 悲壮感を漂わせてふらふらしている魔王の娘。


「死ななければどうということはありません。もう一度聞きます。なんでも言うこと聞きますか」


「はい。喜んで!」


 魔王の娘は、涙を流しながら答えた。

 本当に酷いな。

 一瞬で奴隷にしたぞ。


「では、もう一度聞きますが、魔王はどうなったのですか? 詳細に話しなさい」


「は、はい……。魔王である私の父は三年前に死にましたよ。魔法の暴発です。歳だったのに無理して強い魔法を使い続けたもんだから、体が限界だったんですよ。父の遺言で、父の死後も次の強い魔族が台頭してくるまでは、父が生きている風に装いなさいと言われていたので、私が得意の幻術で父が生きている風に見せていたんです。もう、なのになんで攻めてくるんですか。全然意味ないじゃないですか」


「あなたは魔族の村が殲滅されていることに気づいていたのですか」


「そりゃそうですよ」


「なのになにもしなかったのでしょうか」


「幻術しか使えない私にどうしろと」


 たしかにそれはそうか。

 それにしても幻術とはめずらしい。

 魔力感知を働かせて、魔力属性を調べると光と闇。

 なるほど属性複合魔法か。珍しいわけだ。

 でも、あくまで幻術、攻撃力があるわけではない。

 魔力量はかなり多いが、戦闘は不得手なのだろう。

 全力で逃げ出してたし。

 前勇者である国王が戦いを控えたほどの、魔王が生きてる風に装っていたのに、ガンガン攻めてくる姫は恐怖そのものだっただろうな。

 こちらとしては、魔王と戦わなくて済んだのは僥倖だ。

 あとはこの子から魔王の遺品か何かを取り上げて、姫が魔王を倒したことにすればいい。

 そうすれば目的は完遂。

 姫も考えは同じだろう。

 僕は姫の言葉を待った。


「では、命じます。私を魔王にしなさい」


「はっ?」と僕。


「えっ?」と僧侶。


「何言ってるんだ姫?」と闘士。


「えええええええええ」と魔王の娘。


「返事は?」と姫がドスの利いた声で脅す。


「はい。喜んで!」

 魔王の娘はヤケクソ気味にこたえた。


「いや、なんで姫が魔王になるんだよ」

 代わりに僕が質問する。


 魔王とりが魔王になった。

 ミイラとりがミイラになったの最上位互換かよ。

 意味わかんないよ。


「プランCです」


「プランBはどこ行ったんだよ」


 プランAは魔王倒して国王になることだろう。

 Bが余計気になる。

 夜も寝れそうにない。

 僕は、夢の中でも起きてるようなものだけど。

 でも、それより、


「姫、魔王になってどうするんだよ」


 僕はもう一度言った。


「世界征服するに決まっています」


 姫は迷いなく言った。


「予定違うじゃないか」


 行く前のすべて話します。

 みたいな雰囲気で話した内容はどこいった。


「国王になっても世界制服するので、たいした違いはありません。問題ないでしょう」


「問題大ありだよ」


 そんなこと一言も言ってないし。

 殺されるから仕方なしみたいな感じだったよね。

 いつのまに全力悪役みたいな理由になったんだよ。

 いつも以上についていけない。


「ということは、あたしたちは魔王軍幹部ですか」


 今度は僧侶が質問する。


「そうなります」姫が答えた。


「いいですね。それ!」


 いいんかい僧侶。順応はやいな。


「でも、傭兵の契約って魔王倒すまでだったよな」


 次は闘士が質問する。


「給料倍で再契約しましょう」姫が答えた。


「よっしゃあ!」


 闘士はガッツポーズで喜ぶ。

 闘士お前は文字通り現金な奴だな。


 姫は最後に僕に言った。


「勇者もいいですね」


「まあ、いいんだけども」


 僕には選択肢なんてないよ。

 姫が魔王でもどこへだって行くよ。


「魔王にうまいこと霊躁術をかけれたら、魔王国を占領する予定でしたし、一石二鳥です」


「プランBそれか」


 よかった。わかって、夜も寝れる。

 今僕の本体は寝てるけど。


「この子が幻術使いというのは都合がいいでしょう。ふむ、そうですね。さらに予定をかえて、魔族の皆さんに私が魔王だと認知してもらうための時間をかせぐため、一旦死んだふりをしようと思います」


「死んだふり?」


「本当は、不意打ちで、王都で魔王を倒したと宣言した後で、他の兄弟と殺し合いするつもりでしたが」


 結局殺し合いはするのかい……。


「王位継承権が突然一位になれば、まあそうなるのか」


 穏便におめでとうとはならないよね。


「私が魔王を倒したと噂を流せば、ダグルお兄様は手柄を横取りしようとやってくるはず。それを利用して死んだふりしてみようと思います。すると王位継承権がダグルお兄様になるので、長兄のお兄様と揉めるはずです」


「揉めるってどうなるんだ」


「具体的には戦争でしょうね」


「気が短いうえに、規模がでかいよ」


 どうなってるんだよ。

 王族は。


「二人はどちらも王妃の子なので、長兄のお兄様が引き下がれば、穏便に終わる可能性もあるでしょうが、状況を動かすいい刺激にはなるでしょう。お父様もすぐ死ぬわけではありませんから、それなりには揉めてくれることでしょう。それよりワタクシが足取りを消せるのが重要でしょう。魔王になれば、当然魔族領に潜伏できますから」


「なるほど」


「死んだふりするのは、戦闘をするわけではないので、闘士と僧侶は手紙をもって私の領地にいる妹を訪ねてください」


「妹ですか?」


「腹違いの妹ですが、私の領地を任せています。兄弟姉妹で唯一仲が良く信頼できます。妹がワタクシが死んだと思って暴走しないように、うわさが流れてくる前に教えておかないといけませんから。手紙を渡したあとは妹の指示に従ってください。連絡は勇者を通して僧侶にします」


「ん? どうやって? 電話もないのに、ああ、そういうことか」


 僕と僧侶はあっちの世界で話せばいいからね。

 姫はののかの記憶があるから、僧侶があちらの世界にいることも知っている。

 いいように使われているな。


「勇者は私と来てください。死んだふりとかは、得意でしょう?」


「まるで僕にそんな卑怯な技しかしないみたいじゃないか」


 ……。


「まあ、その通りなんだけどさ」


「あなたもその幻術、役立ててもらいますよ」


「……はい。喜んで」


 魔王の娘は、うなだれながら返事をした。


 もうなんか不憫だなこの子。

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