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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
17/62

スタート地点

 失敗した。

 僧侶からヘッドハンティングの話がきているというのを聞いてようやく気づけた。


 闘士が給料を上げてほしいという言葉を頭ごなしに怒る前に、もっと情報を聞くべきだった。

 普段から情報が漏れないようにするために、徹底的に魔族をせん滅している。


「つまり、ワタクシのパーティーメンバーが腕利きだなんて、情報はほとんど知れ渡っていないはずなのに」


 つまり、闘士が腕利きだと推測できるのは、報奨金をもらうために殲滅を報告している兄である第二王子から話を聞ける人間ということだ。

 それに闘士が辞めるに合わせて、ちょうど現れた人間をもっと疑うべきだった。


 ぼんやりと傭兵のプロフィール集を捲る。

 代わりなんていくらでもいると言った手前、代わりを急いで用意するはめになってしまった。

 元々は五人パーティーを考えていた。

 前衛と後衛を兼任している勇者。

 魔法使いとヒーラーを兼任している僧侶。

 二人の負担を減らすために騎士か戦士は採用を考えていた。

 闘士が抜けて慌てて碌に確認もせずに採用してしまったので、余計に二人に負担をしいてしまった。


 ワタクシももっと素直に話せたらいいんでしょうね。


 給料はもうどうしてもこれ以上出せない。

 計画を進めるため、私の手持ちが本当にギリギリなのだ。

 二人にも闘士を引き止める手伝いをしてもらえばよかった。

 信頼できる仲介役だと思ったのだけど、ダメだった。

 焦っていつもと違う仲介役を利用したのがいけなかった。

 雇うときは、自分の足と目を使わなくてはいけないことは学んで来たはずなのに。


 雇用契約書の裏に念のため仕込んでいた魔法が反応している。

 表の契約内容を破ることが幽鬼軍団への入団資格。

 ワタクシは入団届けを持って、新しい団員を迎えに行くことにした。


◇ ◇ ◇


 いつも通り、朝食を食べながら、僧侶と話をする。

 守人が入って一週間、どうにか形になってきたのが、僕が敵の周りをぐるぐる回って敵を追い立てて、集まったところを姫が一撃でしとめるというもの。

 全然戦っているという気がしない。


「羊を追い立てる犬みたいな気分になるね」


 僕はため息をついた。


「いいじゃないですか。勇者は役目があって、あたしはやることがないんですよ」


「ヒーラーって本来そんなものだろ」


「あの人この位の怪我ならヒールもいらないとかカッコつけて、あたしはそういうの求めてないんですよ。怪我をパッとなおして、心の中でドヤりたいんですよ。わかります?」


「そんなヒーラーあるある言われてもわからないよ」


 僕も回復魔法は使えるけど、碌に治らない。

 僧侶がいれば、僕は使えても使えなくてもあんまり変わらない。


「僕とかは、小さい怪我でも機動力落ちるから治してもらいたいかな。守人は違うからな」


 守護戦士は、敵の攻撃を受けるのが役目である。

 動きまわる必要はあまりない。


「適度には仕事ないと腕落ちそうでいやなんですけど」


 僧侶は、ほっぺを膨らまして不満そうだ。


「確かにそれはわかる」


 綺麗に振ったときとそうでないときの切れ味ってかなり違う。

 実戦で定期的に敵を切らないとどうも感覚がにぶってしまう。


「あのストーカーどうにかなりませんかね」


 誰を指してるのかすぐわかる。


「ストーカー言うなよ。一応、僧侶を守るためにやってるんだから」


 死にかけても、完全回復を使える僧侶がいれば復活できるけど、僧侶自身の大怪我は、僧侶自身でしかも治せない。なので、ヒーラーを守るのは基本、もちろんそれはわかるんだけど……。


「そうは、いってもねぇ」


 合う合わないがあるんだよね。

 そんな消極的な闘い方は、僕と僧侶には合わない。


「守人に何言ってもダメそうだから、僕らで工夫するしかないんだろ」


 意見を変える気が無い人間に期待するのは、無駄だろう。変化できるのは、自分の行動だけだ。


「そうですね。一応今考えているのは、魔法の発生源を移動させれないかなとおもうんですよ」


「どういうこと?」


 僕は、僧侶のアイデアを聞いて、身を乗り出した。僧侶は、指を立てて得意気に話し出した。


「アトミックサンダーはかみなりを降らせるから発生源は空じゃないですか。他の魔法はなんとなく手から出してますけど、発生位置を移動させられないかなと」


「なるほど」


「せめて1メートルぐらいずらせれば、守人をかわして魔法が撃てます」


「いいねそれ。それができるんなら、注意を引くために、僕の姿を蜃気楼かなにかで映す魔法とかもできそうかな」


 初級魔法でも、構成うまく考えればいけそうだ。


「勇者無意識にいってます?」


「何が?」


「それ忍者の陰分身ですよ」


「あ、本当だ」


 なんで僕は剣と魔法で忍者マスター目指してるんだ?


「あっちの世界でしっかり忍術調べてきたらどうですか?」


「そうだね。確か忍者はののかが好きだったはず。今度の部活動は忍者物にしてもらおうかな。開き直って徹底的に忍者目指した方が強くなれそう。なんにせよ、まだまだ工夫次第でいろいろやれそうだ」


 僕らは、朝食を終えると守人か姫が来るまで、魔法の研究をする事にした。

 魔力制御の仕方を変えてみたり、魔法の構成の違うパターンを試してみたりと研究してみる。

 ようやくマンネリを打破する道筋が見えてやる気がでてきた。


 魔法以外にも見直す点がないかと考える。


「そういえば昔いい本買ってた気がする。ちょっとまってて持ってくるから」


 僕は部屋から持ってきた本を僧侶にみせる。


「パーティー編成指南書? なんですかこれ」


「タイトル通りだよ。多分どっちかというと雇い主側の本だと思う。僕たちのジョブを理解するのには向いてそうだなと思って」


「本当に、先輩……ちがった」


 僧侶が言い間違えた。

 多分、本を持っているとあっちの世界の雰囲気になるのかもしれない。


「勇者は、本読むの好きですね」


「まあね。こっちの世界の本はあんまり読んだことなかったけど、この世界ならではの知識もやっぱり必要だよね。えーとまずパーティーを編成する上で、メンバーのジョブの構成が重要である。前衛近接職2、後衛魔法職2、守護職2、回復職2、指揮者1の九名を基本とするとよい」


「あたしたち4人しかいないんですけど」


 人手が足らなすぎる。


「えーと、メンバーが不足する場合は、兼任するとよいだって」


「闘士がいたころの、構成はどんな感じでしたか?」


「前衛近接職が僕と闘士かな。後衛魔法職がやっぱり僕と僧侶になるのか」


「そうですよね」


「守護職は、姫かな。ネクロマンスのゴーストレギオンで人数を疑似的に増やせるのが強いね」


「回復職はあたしと勇者ですか?」


「一応そうなるのかな。僕は擦り傷ぐらいしか治せないけど」


「指揮者は当然姫だよね」


「一応兼任だらけですけど、満たしてますね」


「確かに」


 どうにかなってる。

 だから、やれていたのか。


「今はどうですか」


「えーと、前衛近接職が僕と姫、後衛魔法職が……僕と僧侶のはずだけど、機能してないのか」


「守護職が守人ですね。回復職はやっぱりあたしと勇者、指揮者は姫ですけど、姫が近接だとそんな余裕ないですね」


 そういえば、全然姫は指示出してくれなくなっていた。


「僕は一撃離脱スタイルだと、近接と魔法交互にできるけど、このメンバーだと敵から僕が一番倒しやすそうにみえて、注目が僕に向くから、魔法使う余裕がないんだよね。うーん、指揮者は僧侶がやるしかないんじゃない?」


「無理ですよ。姫に指示なんて出せないです」


「そうだよね。立場的にも姫が前衛ってありえないだろうし、そうなるとせめて近接はもう一人ほしいなぁ」


 剣士でも、闘士でもいいけど、敵をどんどん倒してくれる奴がいないと、みんな実力が発揮できそうにない。


 そうこうしているとようやく姫がやってきた。

 

「姫遅かったね。今日は手頃な魔物がいなかった? あと守人知らない? まだ来ないんだけど」


「守人は合わないとのことで、昨日、辞めましたよ」


「えっ。もう?」


 ブラック企業もビックリの早さだな。

 新たな発想も出てきて今からという感じではあったけれど、辞めてしまったのなら仕方ない。


「戦力は増強できたので、良しとしましょう」


「なんだそれ? 意味わかんないだけど」


 なんで辞めたのに、戦力が増強できたんだ?


「気にしなくてよろしい。ただやはりあと二人ぐらいは雇いたいもの。候補者に会いに行ってみようとおもうのですが、何か希望はありますか?」


 姫が僕らに相談してくるなんて珍しい。


「ジョブってことなら、やっぱり前衛近接がもう一人いるとやりやすいかな」


 僕はさっき僧侶と話していた内容を姫に伝えた。


「そこまで考えているのならいいでしょう」


 姫は、持ってきた冊子を僕らに見せてくれた。

 びっしりと、戦闘スタイル、魔力の属性、特技などが一人一人書いてある。

 ただリストの人間には全員バツ印がついている。

 なんだろうこのバツ印は。

 全員についているから、死んだ人とかそんな不吉な意味ではないだろうから、

 あまり気にしなくていいのかもしれない。


「一緒に選びましょう」


「そうだね」


 珍しい姫の雰囲気に戸惑いながら、僕は姫の隣に座った。


 その時、すごい勢いで扉が開いた。

 驚いて僕らは、扉をみる。


「はあ、はあ、よかった、いた」


「あ、闘士」


 現れたのは、闘士だった。

 随分装備はボロボロになっている。

 ずんずんと近づいてきて、


「姫様、申し訳ありません。できることなら、俺をもう一度パーティーに入れていただけませんか」


 闘士が深々と頭を下げる。

 敬語も使っている。

 こんなことをする闘士は珍しい。


「私がそんなことすると思いますか」


 そんな闘士を姫は冷たくあしらった。


「ははは、だよな」


 闘士は、わかっていたといわんばかりにうなだれた。

 その姿を見て、姫は続ける。


「ですが、こちらも戦力に不安があるのも確か。土下座して『私はパーティーいち弱いので、最低賃金で構いません。今後は二度と姫に失礼な態度は取りません。許してください』と三回いえば考えてあげます」


 姫は鬼なのか。


 僧侶は僕に本性がばれているのをいいことに、僕の後ろで「姫様さすが」とこごえで言いながらガッツポーズをしている。


 僧侶は悪魔なのか。


「土下座ってなんだよ」


 闘士が狼狽する。

 確かにこっちに土下座なんて文化ないしな。

 姫、ののかの記憶から引っ張ってきたんだろう。

 でも、あっちの世界でもやってるのもさせてるのも見たことはないんだけど。


「勇者教えてあげなさい」


「うん? いいけど、えーと、闘士、膝をついて座って」


「こうか」


 闘士が片膝をつく


「両足とも」


 闘士が正座をする。


「そう、そのまま両手を地面につけて、額も地面につけて、そうそんな感じ」


 闘士がまごうことなき土下座をした。


 それを見た僧侶が後ろから足を上げて、踏もうとするのを思いとどまっていた。

 何してるんだよ。僧侶は。


「俺はパーティーいち弱いので、最低賃金でかまいません。今後は二度と姫に失礼な態度は取りません。許してください」


 本当に言うんだ闘士。


「あと二回」


 本当に三回言わせるんだ姫。


「俺はパーティーいち弱いので、最低賃金でかまいません。今後は二度と姫に失礼な態度は取りません。許してください。俺はパーティーいち弱いので、最低賃金でかまいません。今後は二度と姫に失礼な態度は取りません。許してください」


 闘士はやりきった。

 プライドの塊みたいな男だったのにすごいな。

 どんな目にあってきたんだよ。 


「そこまでしたのなら、仕方ありませんね。入れてあげます。ワタクシの信頼をどうにか回復したら賃金も考えてあげますよ」


 顔を上げた闘士は、自尊心を粉々にくだかれ、歪みきった顔をしていた。

 ただほんの少しだけほっとした安堵の表情も伺える。

 正直、そこまでして、戻るほどいいパーティーとは思えないのだけど。

 まあ、僕としては、闘士とのコンビは戦いやすいしありがたい。


 僕が、闘士に声をかけようとしたところで、僧侶が先に闘士の手を取って「よかったぁ」と、言った。


 僕も同じような言葉をかけようとしていたが、僧侶の場合は戻ってきてくれてよかったといっているのではない。

 屈辱まみれで苦痛の表情がよかったといっているのだ。

 そんなことがわかるはずがない闘士は頬を赤く染めている。

 もしかしたら、恋に落ちたのかもしれない。

 大丈夫だろうか。

 僧侶の本性は悪魔だけど。


「辛かったですよね。詳細まで詳しく話を聞かせてくれませんか」


 確かにこうまでして戻りたいと思うのだから、何かあったに違いないのだけれど、容赦がない。

 普通そっとしておくトラウマもしっかり掘り起こしていく。

 体の傷はしっかり治してくれるが、心の傷には塩を塗り込んでいくタイプのヒーラー。

 表情は優し気を装っているので、傍目には心配しているように見える。

 悲壮感漂わせて俯きながら、ポツリポツリと話す闘士をにまにましながら眺めている。

 恋は盲目というが、悪魔が天使に見えるほどなのか。


 普通わかんないよね。

 僧侶の内心なんて。

 昔の自分もそうだったので、人のことは言えないけれど。


 僕は隣に戻って来た姫に声をかける。


「姫さ。たまには親睦会しようよ」


「そうですね。闘士の奢りでやりましょう」


 姫が冷ややかに言う。

 僧侶に愚痴と言う名のトラウマを語っていた闘士が、姫に抗議した。


「給料減らしといてそれはないだろう」


「出戻りするほうが悪いよ」


 と、僕は言った。


「勇者まで、そりゃない」


「でも闘士が戻って来てくれて嬉しいよ」


 僕は補足した。


「本当かよ。嘘っぽいぞ」


「いやいや本当だって」


 姫も態度はあれだけど、多少はそう思っているに違いない。


 未来永劫ずっと、この4人というわけではないだろう。

 だけど、今はもう少しだけ仲良くなっておこう。

 ようやく戻ってきたスタート地点でそう思うのだった。

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