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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
16/62

井の中の最弱

闘士回です。

 待ち合わせ場所に行くと、五人の男女が、待っていた。

 一人は、見た目も豪奢で明らかに違う、きっと雇い主の王子だろう。

 あとは、騎士のような風貌の男が二人と魔法使いかヒーラーの女が二人だった。 


「新入りだ。あとはそこのお前適当にやっておけ」


 指名された男が返事をする。

 多分リーダーなのだろう。

 王子はそれだけ言うとさっさと行ってしまった。


「俺はロミスミ、ヒーラー付の護衛だ」


「ヒーラー付の護衛ってなんだ?」


「はあ? 戦えない魔法使い、ヒーラーには護衛をつけるのが普通だろ?」


「そうなのか」


 じゃあ、なんで姫と僧侶は護衛を付けていないのだろう。

 戦えるからか?


「じゃあ自己紹介してくれ」


 促されて頷く。


「闘士だ」


 自己紹介は終わった。


「そんなの見ればわかるだろ。名前だよ。名前」


「名前? 名前名乗るのか」


「当たり前だろ。命を預け合う関係だぞ。親睦を深め信頼関係を築き戦に望むもんだろ」


「そういわれれば、そうだよな」


 随分長く戦っていたのに、あいつらの名前はろくに覚えていない。

 信頼関係なんて気にしたこともなかった。


「俺の名前はカミリ、よろしく」


 拍手され歓待を受ける。

 なかなか気分がいい。


「よし、じゃあ早速親睦会をしよう」


 俺はナックルを装備し直した。


「なんでカミリは装備を整えているんだ」


「親睦会って技合わせとかじゃないのか」


「飲み会に決まってるだろ。本当に王子から聞いた通りの戦闘狂だな」


 勇者はよく俺の修行の場に顔を出し、俺の攻撃の合間に魔法を使う練習をよくしていた。

 プライベートでの交流はそれぐらいだったかもしれない。

 何度か酒一緒に飲まないかと誘ったこともあったが未成年がどうとかとよくわからない理由で断られて以降誘っていない。

 飲み会が始まるとすぐにヒーラーの女が話しかけてきた。

 名前はマホマというらしい。


「ヘッドハンティングって聞いたけど、あなた随分田舎者なのね」


「ああ、そうだな」


「素直にそう言われると肩すかしだけど、ふふふ、聞きなさい。実は私たち4人とも王都の学園出身なのよ」


「へー都会っ子なのか」


「都会っ子って何よ。学園よ学園。エリートなのよ」


「ああ、ごめん。俺、魔法もない地域の出だから、イマイチピンとこなくて」


「今時、そんな地域あるのね。よくそんなんで傭兵になろうと思ったわね」


「わざわざ俺を村まで雇いに来た姫はそれがいいって言ってたけど」


 そういえば、その理由もちゃんと姫に聞かなかった。

 まあ、いいか。

 姫のメンバーにはいったのだって、ただ金払いがいいと聞いていたからだ。

 多く出してくれるところで稼ぐ。

 それが傭兵の基本だろう。


「魔力が少ないのではなくて、ないのね。魔力で肉体強化してるのではなくて、魔力になるはずのエネルギーで直接強化しているのかしら」


「そっか姫がなんかそんなこと言ってたな」


「さっきから言ってる姫って誰よ?」


「前の雇い主。確か第十王女とかなんとか」


「第十王女って、確か魔法が一切使えない学園きっての落ちこぼれって噂の? 王族だから、コネでは学園に入れたらしいけど」


「姫はバリバリ魔法使うぞ」


 むしろ最強クラスの魔法をポンポン使っていた。


「どんな魔法」


「敵を操る感じの魔法? 魔法詳しくないから、口で説明できないな」


「光属性魔法の洗脳かしら、そんな魔法がつかえるなら落ちこぼれなんていわれないわね。姫なら他にもいるし、第十ではないんじゃない」


「そうかもしれない」


 俺は物覚えよくないし勘違いしていただけかもしれない。


「なんにせよ。今度の雇い主は第三王子、前の姫より上でしょ。よかったわね」


「まあ、そうだな」


 そのあとは、飲みものを持ってきてくれた。ロミリアも交えて楽しく飲んだ。

 ヒーラー付き護衛といっていたから、ロミリアはマホマの護衛ということだ。

 魔法使いがエレナーゼ、エレナーゼの護衛がリクアというらしい。

 端から見てもなかよさげで、信頼関係が築けているのがよくわかる。

 ロミリアは俺のことをいろいろ聞いてくるが、情報を引き出しているというより、話題を探している感じで悪い気はしない。

 話題に応えようとするとどうしても、勇者たちのことが出てきてしまい、顔が浮かぶ。

 あっさり分かれてきてしまったが、僧侶は少し怒っていたし、勇者は少し寂しげな顔をしていたかもしれない。

 あいつらとももう少し交流しておけばよかった。


◇ ◇ ◇


 次の日、戦地に向かう途中でロミスミがこぼした。


「ついに魔族との戦いか緊張するな」


「ついに?」


 まるで戦ったことがないような言い方だった。


「ああ、いままでは魔物とばかりの戦いだったから」


「そうなのか。てっきり経験済みだとばかり」


「そんなに普通魔族と戦ったりしないだろ」


 姫にはガンガン戦わされていたけど……。

 魔族と魔物との戦いはまるで違う。

 慣れているのなら問題ない。

 今日はみんなの戦いぶりを見てからどんな感じに戦えばいいか考えればいいと思っていた。

 ただ素人ばかりだったのなら、自分ともしっかり技合わせなどの連携をしておいたほうがよかったのではと少し思った。


 多分、勇者ならきっとそうする。


 まあ、学園? きっと訓練所のようなところではしっかりやってきたようだから、どうにかなるだろう。

 援護は得意ではないけれど、しかたない。

 状況を見ながら撤退も視野に入れないといけないだろう。


「今日は俺がお前らの援護してやるから、無理せずに」


 そこまで言ったところで王子にさえぎられた。


「おい。何勝手なことを言っているんだ。お前は俺の援護をしろ。ロミスミ、ちゃんと説明したのか」


「す、すみません」


「まあ、いいだろう。お前は俺についてきて援護しろわかったな」


 雇い主の指示なら従うしかない。


「ああ」


 俺がそう答えると、王子がぎろりとにらんだ。


「カミリちゃんとはいと返事した方がいい」


 ロミスミが小声で伝えてくる。

 姫も王子と同じように偉そうであるが、態度については何も言ってこなかった。

 普通王族に対しては、ちゃんとしなくてはいけないのかもしれない。


「わかりました」


 慣れない敬語でそう答えた。


 

 魔族は、リザードマン、沼地近くに住んでいる、トカゲ型の亜人だった。

 戦闘が始まると王子は援護がいるのかと思うほど強かった。

 火属性の魔法は、相手の水属性の攻撃を一瞬で蒸発させて、相手を焼き尽くす。

 上級魔法どころの威力ではない。

 土属性で敵の水属性の魔法は簡単に防いでしまっている。

 複属性持ち、魔法は上級以上、多分他にも持っている属性がありそうだ。

 剣は相手の固い鱗をものともせず、両断していく。

 剣技も完璧。非の打ち所がない。

 自分が前にでようとすると不機嫌になるので、仕方なしに、後ろからついていく。

 王子が倒し損ねた奴をぶん殴るだけ、これなら、楽勝だ。

 ふと後ろを見ると、他の奴らがついてこれていない。


「しまった」


 いつもの癖で前に出すぎた。

 何も考えず、王子についてきすぎた。

 間があきすぎて、敵が流れ込んできて分断されてしまっている。


「おーいロミスミ、大丈夫か、ぐっ」


 後ろのロミスミ達に声をかけようとして、息が詰まる。

 よく考えると戦闘中に大声なんて出したことない。

 姫はどんな遠くからでも通る声で指示を出していた。

 後ろを気にしすぎると前がおろそかなになる。

 ギリギリで敵の攻撃をかわし反撃する。

 後ろを気にしながら、戦うのは骨が折れる。

 勇者はいつも余裕でやっていた。

 勇者は俺のフォローをしながら、僧侶と姫と連携も完璧だった。


「王子! あいつらがついてこれていない。戻らないと」


「ふん。ついてこれないのなら、別にいい。俺は攻撃魔法も回復魔法も自分でできる。足手まといはおいていくとしよう。お前はついてこれるようだな。合格にしといてやろう」


「あいつらは今日が魔族初戦なんだ。このままだと死ぬぞ」


「この程度で死ぬようなら俺のパーティーに相応しくない。辞めさせる手間が省けていい」


「王子が自分で雇ったんじゃないのか」


「斡旋所で適当に手配させただけだ。金は払うがな。あそこともめるのは王族でもめんどくさい。生きていればな」


 姫はわざわざ俺の地元まで雇いに来ていたぞ。

 それが普通じゃないのか……。

 いや、そろそろ俺もわかってきた。

 あのパーティーが特殊だったに違いない。

 今ならよくわかる、勇者も姫も僧侶も普通じゃなかった。


 俺はロミスミ達の方に足を向けた。


「どこに行く」


「助けに戻る」


 まだ俺が戻ればどうにかなるかもしれない。みすみす見捨てるなんてできない。


「いいだろう。好きにするといい。俺の手は煩わせるな。俺は魔族共を滅ぼすとしよう」


 仮でも許可がでたのは、ありがたい。

 俺は、一直線に向かった。

 

  

 なんとか敵の隙をついて魔法使いのエレナーゼのところまで戻ってきた。


「きゃああ」


 さらに後方から悲鳴があがり、そちらに視線を向ける。

 マホマが敵からの攻撃に驚き悲鳴をあげたようだ。

 なんとかロミスミが敵の攻撃を受け押し返している。

 ロミスミはリーダーに選任されるだけあって、それなりに戦えている。

 ただロミスミ・マホマペアとリクア・エレナーゼペアの距離も少しあいてしまっている。


「なんでロミスミ達とはなれたんだ」


「だってあなたと王子が先に行くから」


 確かにひとのことは言えない。

 もっと後ろに気を使いながら進むべきだったのに。

 敵は数の多さをいかして包囲網を縮めてきている。


「とりあえず、魔法でどんどん攻撃するんだ」


「わかったわ、ファイアフレイム」


 上級魔法も、水の魔法と厚い鱗に阻まれてほとんどダメージが通らない。

 エレナーゼの方が、敵よりも魔法のレベルは上に見えるが、相性がわるい。

 王子と違い魔法の力量差がそこまでない。


「おい、なんで炎属性で攻撃するんだ」


「なんでって、これが私の魔法で一番威力がたかいのよ」


 火属性は魔法の中でも威力が高い。

 だけど、火は水に弱いなんて、学校で習わなくてもわかるだろ。

 魔法の相性は、いつも勇者が得意げに話していた。

 有利属性で攻撃すれば、一つ上の魔法にも押し勝てると。

 逆にいうと、火属性の上級まほうでも、水属性の中級魔法に負けるということ。

 水に効くのは、


「氷とか、雷とか持ってないのか」


「あるわけないでしょ、そんなレア属性、私は火と風よ」


 あいつらの属性レアなのか。

 なら姫のはもっとレアだろう。

 あいつら戦い方だけじゃなく魔法も特殊なのか。

 とにかく二択しかないのなら、


「なら風だ」


「わかったわ。エアロカッター」


 さっきのようにまるで効果がないわけではないが、相性がなければ力比べだ。

 確かに火より威力が落ちているように見える。

 中級魔法と中級魔法ではどちらもたいした攻撃にならない。

 敵も無理して近寄ってこない。

 エレナーゼの魔力切れを狙っているにちがいない。

 俺は何匹か殴り殺したので、相手は警戒して遠くから、遠投系の武器を投げて攻撃してきている。

 前にでたいが、リクアの武器さばきは覚束なく、ひとりで、エレナーゼの分までの攻撃をはじけないだろう。


「ぐっ」


 リザードマンの魔法使いから、硬直の魔法が飛んできて、体が動かなくなる。

 視認性の悪いデバフ系の魔法か。

 普通は、多少でも魔力があればレジストできるらしいのであまり使われないが、ダメもとで使ってきたのだろう。

 それは魔力が一切ない俺にはよく効く。

 僧侶はいつも雷の魔法で敵を攻撃しながら、離れていてもカウンターレジストを飛ばしてくれていた。

 マホマを見ると回復専属なのに、俺がデバフを受けたことに気づいてもいない。

 僧侶がくれたペンダントが俺のデバフを受けたことに反応してレジストしてくれた。

 間一髪、飛んできた銛をはじくことができた。

 僧侶にありがたさを感じると同時に、ようやく皮肉にも気づいた。

 ペンダントがなければ、きっとあっさり死んでいた。

 俺の動きが遅くなった一瞬を狙って大量の銛が飛んできた。

 リクアの方に。

 フォローに入れなかったことで、リクアに攻撃が集中してしまった。


 ザクザクザクとリクアに銛が大量に突き刺さる。


「い、いやー」


 動揺で、エレナーゼの魔法の構成が乱れる。


「おい。魔法止めるな」


 仲間が怪我することも、死ぬことだって、想定ないだろ。


 俺が大怪我したときだって、僧侶はいつも通り回復しながら、攻撃してたし、勇者はむしろトドメを差しに来た敵の隙を逆について攻撃していた。


 当然、敵が隙を見逃してくれるはずもなく。


 特攻してきた大型のリザードマンは、大きく口をあけると、エレナーゼの胸から上を食いちぎった。

 あまりのグロさに合流しようと近くまで来ていたロミスミの手がとまる。

 硬直魔法が再び俺に飛んできて、体が固まる。

 ペンダントがレジストしてくれるまで、ほんの一秒。

 ただその一秒が戦場では致命的だった。


 そんなことで次々投げ込まれる銛を防げるはずもなく。

 自分の左腕に腕に銛が突き刺さり……。


 ヒーラー付きの護衛。

 その使命を果たすため、

 マホマだけは守るように、ロミスミは体をはって全部の攻撃を受けた。


「あああ、ロミスミ」 


 マホマの叫びが響き渡る。


 崩れるときは一瞬だ。

 せめて、ヒーラーのマホマだけでも。

 刺さった銛を無理やり引き抜きマホマに組み付いてエレナーゼと同じように喰い殺そうとするリザードマンを殴りつけた。

 敵から無理に引き離したせいで、爪が食い込んでいた腕のところが大きくえぐれた。

 顔にも、大きな傷がはいっている。


「いたい、いたい、いたい」


「落ち着け、ヒーラーだろ。まず自分自身の回復を」


 ヒーラーでも、なんで自分自身の身ぐらい守れないんだ。

 僧侶ならむしろ自分の身を囮に誘い出して……。


 逆なのか。

 普通自分の身を守れるヒーラーがいないからこその囮。

 普通じゃないからできる芸当。

 マホマと比べたらよく分かる。

 僧侶の身のこなしは、前衛職のレベルだ。

 あんなに優しそうに笑うのに、

 どうしてあんなに異常なほど強いのだろう。


 ようやく自分の身の程がわかってきた。

 井の中の蛙なんて話じゃない。


 あのパーティーの中でも自分は弱くて、

 井の中ですら弱かったのに。

 どうして調子にのって大海にでてしまったのか。


 後ろなんて気にかけず、目の前の敵を大量に、そして、どんな強敵も倒す。

 あのパーティーではそれが俺の役割だった。

 そういう分担になっていたにすぎない。

 メンバーが違えば役割も違う。

 指示がなければ自分で考えなければいけなかったのに。

 痛みで呼吸が乱れ拳に力が入らない。

 その分感覚は研ぎすまれている。

 魔法使いがまた硬直の魔法を撃とうとしているのがわかる。

 もうペンダントのレジストは残り一回しかない。


「死にたくないだろ。マホマ、レジストを早くくれ」


「は、はい」


 とは言っても、守りながら戦うなんて、器用な真似が自分にできるはずがなく。

 背中を守ってくれる味方はいない。

 10匹以上のリザードマンに包囲され退避もできない。

 絶体絶命。


『レジストの魔法があれば簡単には死なないでしょうから』


 僧侶の言葉を思い出す。

 レジストはもらった。

 なら自分はどうにかできるはずだ。

 自分にできるのは、敵を倒すことのみ。

 考えるべきは、どういう順で敵を倒すか。

 そこまで考えれば、思い至るのは一瞬だった。

 なら、マホマを中心に円を描くように全員倒してやる。

 大地を踏む足に力を入れる。

 いつもの突進主体の攻撃ではなく、回転主体の連脚。

 攻撃しようとしている敵に横から蹴り込むことで、相手を倒しながら、攻撃を逸らすことができる。


「せいっ!」


 メキャりとリザードマンの首がねじれるように吹き飛んでいく。

 そのときに、硬い鱗が足に食い込む。


「くそ」


 手にはめているナックルと違い、足の装備は安物である。

 リザードマンの首筋に蹴りを叩きこむと、反動で足が軋む。

 腕より力がでる蹴りだが、ダメージを受けると、機動力が落ちるのが欠点だ。

 だけど、途中ではもう止まれない。

 止まったらもう動けない。

 痛みや疲れを置き去りにして、勢いだけで、せめてこの場の敵だけでも倒しきる。


「うぉおおおおお」


 俺は人生一の雄叫びをあげた。


◇ ◇ ◇


 さすが俺。

 やればできるじゃないか。

 絶対絶命の状態から、敵を倒しきった。

 遺体の数を見れば、二十を越えている。

 だけど、いつもは勇者と二人で五十倒しても余裕だった。

 今日の敵だって、勇者が凍らした敵を、俺がガンガン一撃で砕いていけば楽勝だったはずだ。


「だ、大丈夫?」


「足にヒールをくれ」


「は、はい」


 ヒールをかけてもらうと、足の傷が塞がっていく。

 腕に刺さっていた、銛を引き抜き止血をする。

 魔法の系統も種類も多分、いつも僧侶がかけてくれているものと同じだけど、パッとは治らない。

 単純に使用している回数、経験、練度が違う。

 リザードマンの村のあちこちで火の手があがっている。

 風に乗って怒号や泣き声が聞こえてくる。

 敵がこっちにこなくなったのは、王子が一人で暴れているのだろう。

 

 しばらくして、王子が戻ってきた。


「なんだ噂ほど、全然役に立たないじゃないか。期待はずれか。その様子なら不合格だ」


 見下すように、見つめる王子。

 そのとおりなので、言い返すこともできない。


「ほら金だ」


 王子は目の前に金貨の入った袋を投げてよこした。

 重みからして、姫からもらっていたお金の二倍はある。あくまで、日割り計算したらだけど。


「弱いお前らもう用済みだ。どこへなりと行くといい」


 王子は足元に転がるロミスミ達の遺体には気にした様子もない。

 ロミスミのそばで立ち尽くしている、マホマの手を引いた。

 マホマは、ひっく、ひっくと嗚咽を漏らしている。


 気のいい奴らだった。

 仲の良さも伝わってきた。

 男女で命を預けているのだから、ほとんど恋人のような関係だったのかもしれない。

 近すぎる関係は、失ったときの心の傷が大きすぎる。


「ああ、そっか」


 それで俺は今まで、勇者達と仲良くなろうとしなかったのかもしれない。


 ロミスミ達を弔ってやりたいとは思った。

 だけど、残党が残っている気配がある。

 王子のやり方は姫の徹底した殲滅に比べると随分雑だ。


 これ以上は、俺も戦えない。


 急いでこの場から離れた方がいい。

 仲間の遺体も埋葬してやれなかった。


◇ ◇ ◇


 安全な場所まで来て、繋いでいた手を離した。マホマの顔色は悪い。


「解散でよかった。私は実家に帰ります。もう怖くて戦えません」


 初めてあったときの傲慢さは影に落ちている。

 実家まで、送っていこうかと提案したが、そこまでは、迷惑かけられないと断られて引き下がった。多分、無理してでも送ってやるのが本当の優しさだろう。


 俺は薄情な奴だから、今日も生き残っている。


 一番近い人間の町まで送っていくとそこで別れた。

 多分もう二度と会うこともないだろう。

 さあ、どうしたもんかと考えて、


「最初から俺は失うものもないし、ダメで元々か」


 たいしてない荷物をまとめると、目的地に向かって走り出した。

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