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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
15/62

新規メンバー

「同じ顔なのに、トウヤ先輩は闘士と大違いですね」


 食堂に行くと、わかりやすく機嫌がなおった僧侶がいた。


「魂違うからね。見た目一緒の別人だよ」


 基本的にトウヤは、最初からレミちゃんのことをかなり好きで、いいとこみせようと頑張っている。

 いいとこみせようとするとうざく感じる女の子も多いかもしれないが、レミちゃんというか、僧侶の身近な男である、僕も闘士もそんなことしないので、気分がいいのだろう。

 闘士は僧侶にいいとこ見せるどころかいなくなってしまったわけだけど。


 そんなことを言っていると姫がやってきた。

 体が大きな男を引き連れている。


「あなた達、ちょっといいですか、新しいメンバーを連れてきました」


「姫様もう見つけてきたんですか?」


 昨日の今日で、もう見つけたのか。

 本当に仕事が早い。

 闘士なんかいなくても代わりがいるというのを立証するためムキになっている気もする。

 大丈夫だろうか。


「守護戦士のアイミネートリストリだ。よろしく」


 歯をキラリと光らせた。

 一言で表すなら、さわやかな巨漢だ。

 名前長いな。

 覚えられなかったぞ。

 姫が促して来たので僕らも応える。


「勇者だ」


「僧侶です」


「ワタクシのことは、姫と呼びなさい」


 一瞬で自己紹介が終了した。


「名前は?」


「名前がどうかしたのか?」


僕が聞き返す。


「普通、仲間なんだから名前で呼ぶだろ?」


「そうなのか。名前呼んだことないんだけど、普通名前呼ぶものなの? このパーティー以外いたことないからわからないんだけど」


 ジョブで呼び合うのがこの世界の常識だと思っていた。

 どうやら違うようだ。


「ジョブの方が呼びやすくていいですね」


 僧侶はブラフだけどな。


「姫は?」


「私は集める側でしょう? いちいち名前で呼んだりしません」


 姫が名前で呼ばないから、きっとみんな呼ばないのか。

 上司にはしたがうものだからな。

 部活によって、先輩よびするかさんをつけるかいろいろあるようなものだろう。


「まあ、そうだよね。アイミネート……守人でいいか」


 僕は名前で呼ぶのを諦めた。

 もう忘れかけてる。

 

「まあ、いいだろう。郷に入れば郷に従えというしな。それに俺が来たからには、百人力、すべての攻撃を守るから安心してくれ」


 サムズアップして、またキラリと歯を光らせる。


 守護戦士だから、当然そうなるのか。

 単純な闘士の穴埋めというわけにはいかないだろう。


「姫、フォーメーションどうするの?」


 僕は姫に聞いたのに、守人が答える。


「フォーメーションなんて勇者が前で敵を蹴散らし、俺が女性陣を守りながら、女性陣が魔法で攻撃するでいいじゃないか」


 ……。

 まあ、普通はそうなんだけど。


 僕が答えようとすると、

「勇者はパワーがないので、そんなことは無理でしょう」


 姫が断言した。


 その通りなんだけど、姫に言われると傷付くな。

 守人がいぶかしげな視線を僕に向ける。


「勇者なのに?」


 なのに言うなよ。


「前衛は、ワタクシがやりましょう。勇者はサポートしなさい」


「えっ。姫が前やるの」


「なにか文句がありますか?」


「いや文句というか……」


 雇い主が前に出て戦っていいものなのだろうか。


「今日はとりあえず、魔物で練習してみましょう」


 いきなり魔族と戦闘でないなら、いいか。


◇ ◇ ◇


 姫はそこそこの強さの魔物の情報を集めてきた。

 グリズリー、クマ型の魔物が人里近くまで餌を求めて降りてきているらしい。

 魔物というのは、動物が魔力を持ち狂暴になったものを指す。

 知能は元の動物のままだが、なめてかかると人間でも死ぬことがある。

 あちらの世界でも、普通の熊でも人が死ぬことがあるし当然と言えば当然かもしれない。

 そんなに遠くもないとのことで、歩いて移動することに。


「いいですか。私の属性は雷なので、正面には立たないでくださいね。あまり近すぎると感電するので、ある程度離れておいてください」


「安心してくれ。俺が君を守るから」


 ほれぼれするようなセリフだ。

 僕と闘士は、僧侶を囮に使っていたので、守ろうとしたことがない。


「だから、話聞いてますか」


 僧侶ががんばって自分の魔法の説明をしているが、芳しくなさそうだ。

 僕も僧侶も姫もレア属性持ちなので、一般的な知識ではダメだから、不安だ。

 情報通りの場所に、グリズリーはいた。

 普通の熊より、爪が大きく発達していて、大きさも1.5倍はあるだろう。

 数は5体多くも少なくもない。

 練習にはちょうどいいだろう。


「勇者戦闘開始です」


 姫が僕に声をかけてくる。


「ああ」

 

 うん。わかっているけど?

 どうしたんだろう。


「だから、何をしているのですか。戦闘開始といっているでしょう」


 怒気を強めて言われた。


「ん? ああ、ごめん」


 戦闘開始すると、いつもだったら、闘士が何も考えずに突っ込んでいくのを追う癖がついてて、待ってしまった。

 この場合だと僕からいかないといけないのか。

 慣れないな。


 とりあえず、姫に言われるまま、飛び出してみたものの、注意を引いた方がいいのか、不意打ちした方がいいのかわからない。

 不意打ちするにしても、四つん這いの魔物は背骨が真横になっているので、僕の得意な回転切りでは、急所に刃が通らない。

 真っ正面から行くと、押しつぶされるだけで僕は死ぬので、論外だ。

 周りを見渡すと大きな岩が地面から突き出ているところがある。

 よしあの岩の上から飛びかかってしとめるか。

 腕力が足らないのであれば、全体重を利用して攻撃するだけだ。

 動きを僧侶に止めてもらおう。

 闘士がいなくても、僧侶とのコンビネーションはいつも通りやればいい。

 僕が僧侶にアイコンタクトを送る。

 僧侶が気づいて移動してくれた。

 僕は無意味に魔法で風を起こしてグリズリー達の気をひく。

 途中で、僧侶にスイッチすれば注目を僧侶が持っていってくれるだろう。

 そしたら、僧侶の雷撃で動きを止めったところでとどめを刺してしまえば終わりだ。

 グリズリーを僧侶のそばまで引っ張ると、僧侶と僕の間に守人が割り込んだ。


 守人は、なにしてんだ?


「俺が君を守るから、安心して」


「前が見えないんです。邪魔ですって!」


 敵を攻撃するのが大好きな僧侶だ。

 ヒーラーとして守ってもらうのが気に食わないのだろう。

 すでにエンジェルの仮面が剥がれている。

 手からは紫電がバチバチとほとばしっているのに、守人のせいで出力を上げれずにいる。

 雷の魔法は攻撃が直線的なのだから、射線を通すのが基本。

 周りに放電も起きるので、数mは距離をおかないと巻き添えをくらう。

 さっき僧侶が説明していたのにまるで聞いていなかったらしい。

 グリズリーは自分たちと同じぐらい大柄な守人に突っ込んでいくのは、遠慮している。


「となると」


 せっかく注意が僧侶に向きそうだったのに、グリズリーたちは、また僕の方に突っ込んできた。


「そうなるよね」


 こうなると僕は逃げるしかない。


「勇者、そのままグリズリーを引きつけておいてください」


 姫が僕に指示を出す。


「わかった」


 なるほど。このフォーメーションだと囮役は僕になるのか。 

 僕は風の魔法をつかいながら、グリズリーを一か所にまとめるように動き回った。

 僕の炎の魔法では、少しもひるんでくれないので、僕はグリズリーの爪をかわすしかない。

 5体もいると、隙を見せてくれない。

 かわした先に、別のグリズリーがしっかり回り込んでいる。

 全然僕らよりグリズリーの方がきれいに連携している。

 ちょっと長時間はしんどいかもしれない。

 頼みの綱の姫は、魔力を高まらせて、魔法を構成している。

 姫は魔力を流し込み高らかに呪文を唱えた。


 「『残虐なるソウルリーパー』」


 姫の陰からゆらりと一体の幽鬼が立ち上がる。

 今まで見たことない幽鬼だ。

 全身布をかぶったような姿をしており、手には身長の二倍以上はある大きな鎌を持っている。

 幽鬼は姫に覆いかぶさるように重なると、姫の動きに合わせて動くようになった。

 いつもの自動迎撃型ではなくて憑依型のようだ。

 姫は動きを確かめるようにその場で二度ほど鎌を素振りした後で、姫の鎌を姫は構えた。

 ぐあああんと姫が後ろに鎌を振りかぶる。

 魔力濃度が極端にあがり、鎌が具現化する。

 ただでさえ大きかった鎌の刃がぐんぐん大きくなっていく。


 えっ、まさか。

 そこから届くの⁉

 

 僕ごと切るかのように、横なぎに一閃を放った。


「うぉおわ」


 僕は地面に伏せるようにして、回避した。


 その場にいたグリズリーが全員、体を分断された。

 僕は地面を転がりながら、一瞬グリズリーのきれいな断面図を見た。

 闘士がなぐって敵がぐしゃぐしゃになるより数倍グロイ。

 僕が足場にしようとしていた大岩もきれいに両断されている。

 なんて威力だ。


「ちょっと姫見たことない幽鬼急に出さないでよ」


 僕は立ち上がって、抗議の声を上げる。

 本当に死ぬかと思った。

 僕は荒くなった息を整える。


「あなたならかわせるでしょう?」


 なんだよその突然の信頼。


「ギリギリだったよ。事前打ち合わせなしにほんとやめて」


「はあ、はあ、今後はわかったでしょう」


 姫も息が荒い。

 幽鬼は霧散し、姫の影へと帰っていた。

 いつも使う剣士のような幽鬼にくらべて、具現化時間も短いのに魔力は相当消費している。

 威力は申し分ないけれど、制御しきれていない。

 多分、姫にとって奥の手にあたる魔法ではないのだろうか。

 こんな雑魚の魔物に使う魔法ではない。


「そんなに魔力消費したら他の業務にも支障がでるよ」


 僕らは、戦闘が終われば、宿屋に帰って寝るだけだが、姫はいつも夜遅くまで、自分の領地の長に指示をだしたり仕事をしている。

 これではもたない。


「問題ありません。ただ今日はこれで切り上げましょう。では、解散」


 姫は無表情にそう言うとスタスタと帰っていってしまった。



 無理してるな。

 僕らにつかれているところを見られたくないのだろう。

 僧侶が雷を打てないことで、姫は安心して敵に近づけない。

 弱った敵から魔力ドレインがつかえず、魔力の補充ができていない。

 姫は魔力が多いとはいえ、ネクロマンスは、あの死神のような幽鬼でなくても、全体的に魔力消費量が大きい。

 長時間戦闘するのなら、敵から魔力吸収は必須だ。


「やっぱり、ちょっとフォーメーション変えようこれはやりずらい」


 僕は僧侶と守人に提案した。


「そうですね。姫はああ言っていますが、姫には後衛してもらいましょうか」


 僕と僧侶は、地面に枝でフォーメンションを書き始めた。


「おいおい姫が解散って言ったのにまだやる気かよ。自分からいうのもなんだが、親睦を深める歓迎パーティーとかやらないのか?」


 親睦パーティーなんだそれは?

 入ったばかりだから、歓迎してやらないといけないのか?

 ……。

 よく考えたらそれが普通か。

 


「でも、今日はまだそんなことしてる場合じゃないだろ。こんな調子じゃ魔族とは戦えない」


 頭の悪い魔物でこれだけ苦戦するのだ。

 魔族に勝てる訳がない。


「大体誰のせいで、うまくいかなかったと思うんですか、守ってくれるのはいいですけど、せめてあなたはもうちょっと前で戦ってください」


「守護戦士は、魔法使いを守るもんだ! 離れてどうやって守れというのだ」


 守人もいらだっている。


「あたしは、雷属性なんです。近すぎると巻き込むんですってさっきからいってますよね。いい加減にしないと敵ごと撃ちますよ!」


 僧侶もおかんむりだ。

 闘士と違ってかなりレジストは高そうだから、それでいいかもしれない。

 守人は、今度は僕をにらみつけた。


「勇者なんだから、敵を正面から蹴散らせばいいだろ」


「他の勇者がどんな感じか知らないけど、そんなこと僕はできないんだって、何度言ったらわかるんだよ。人には向き不向きがあるんだって」


 僕はだいぶげんなりしてきた。

 会話がループしているせいで、全然話し合いにならない。


「なんでそんなんで勇者名乗ってるんだ」


「称号は姫がくれたんだよ」


 頭の中で何かが切れる音がした。

 フルアーマーだが、関節は動かせるということは、装甲が弱い部分が当然ある。

 氷の魔法で転ばして、全体重かけて突き刺せば刃は通る。

 殺すのは簡単……。


「勇者ストップ、ストップ。勇者それはシャレになりません」


 僧侶が慌てて、大声をあげた。

 僕は無意識に剣を握りしめていた。


「なんで俺じゃなくて、勇者を止めるんだ。俺が負けるって言うのか」


「勝ちとか負けじゃなくて、死ぬんですよ。怪我ならあたしが治してあげますけど、勇者の聖剣は回復阻害の効果があるんです。怪我したらあたしでも回復できません。それに仲間同士の戦いはだめです」


 いや、さっき僧侶は敵ごと守人を撃つって言ってたのに。

 あーでも、僧侶は自分で治せるもんな。

 僕は急所を突く攻撃しかできない。

 手加減とかできない。

 僕の攻撃を受けたものは死んでしまう。

 死んだ人間は生き返らせることはできない。

 それは魔法のあるこちらの世界でも同じこと。

 僕も少し、冷めてきた。


「やっぱり続きは明日にしよう」


 僕はそう言った。

 まだ初日だ。

 慌てなくてもいい。

 姫にたのんで、魔族を攻めるのはもう少し様子をみてからにしてもらおう。

 僕が頼めば、しぶしぶ了承してくれると思う。多分。

 無理だったら、僕と僧侶が動いてムリヤリポジショニングをかえてやればいい。

 それこそ、僧侶が守人ごと雷をうちまくればいつも通りやれる。

 間違いなくパーティー仲は最悪になるだろう。

 とてもじゃないが、親睦会なんてやる雰囲気ではない。

 そもそも、守人がどんな奴かなんてあまり興味もないし、背中を預けられない奴に、腹割って話したりしたくないというのが本心だ。


「ふん」

 と鼻を鳴らして、守人は宿屋に帰っていく。


「散々だったね」


「そうですね。あたし達仲良くないなんて言ってましたけど、全然闘士とのほうがましです」


 仲良くなろうとしていなかっただけで、気は合っていたということだろう。


「闘士とは、親睦会ぐらいやれば良かったよ」


「確かにそうですね」


 僕と僧侶はため息をついた。


 闘士がいなくなってからため息ばっかりだ。

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