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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
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闘士の離脱

 朝起きると食堂で姫と闘士がもめていた。


「前回あげたとき言いましたでしょう? これ以上は上げられません」


「あっちは今の1.5倍払うって言ってるんだぞ」


「だからなんですか?」


 冷めた表情でいることの多い姫だが、今日は目をつり上げて完全に怒っている。 


「俺がいないと困るだろ」


「あなたのかわりはいくらでもいます」


 売り言葉に買い言葉、どちらもカンカンに怒って行ってしまった。


「姫と闘士なにやってたんだ?」


 傍観をきめこんでいた僧侶に僕は尋ねた。


「賃金交渉ですって、どうも他のパーティーからここより高めに提示があったみたいで姫にあげてくれって頼んでるみたいですよ」


「ヘッドハンティングなんてあるんだ」


「ヘッドハンティングはあたしも来ましたよ」


「ああ、そうなの。僧侶は賃金交渉しないの?」


「ヘッドハンティングしてきた相手も信頼できるかわかりませんし、もうそれなりに貰ってますから。あと姫に恩義もありますし、姫とあたしの魔法の相性がかなりいいので、安心というのもあります」


 たしかに電気で麻痺にして、動けないうちに霊躁術をかけるコンボは極悪だ。

 姫以外に、ネクロマンスの使い手なんていないだろう。


「それにしても賃金交渉とか考えたこともなかったな」


 いままではただの夢だと思っていたので、お金を有効的に使おうなんて発想がなかった。


「僕の給料も姫からかな」


「ちがいますよ。勇者の大元の雇い主は国ですからね。あたしと闘士は姫に直接雇われてますから、賃金の支払いは姫ですから、交渉先も姫になります。大体闘士は、いまでも相場の10倍はもらってるんですよ。あたしですら、5倍です。このパーティーであいつ最弱なのに」


 僧侶の言葉に違和感を覚えた。

 闘士が最弱? そんなことはないだろう。


「なに言ってるの。僕が一番弱いよ」


 魔法も初級魔法しか使えないし、パワーもない。


「弱いのは弱いですけど、もしかして勇者自分のこと理解してません?」


「なんのこと?」


「昔の勇者より明らかに強いです。なんで強くなったか分かりますか?」


 あらためて聞かれるとよくわからない。

 小説でよくあるチートスキルなんてものは、僕にはない。

 わからないので、僕は僧侶にきく。


「魔法の威力が上がったとか?」


「いえ全然。むしろさがってますね」


「剣術かな?」


「むしろ落ちてますよ」


 はっきり断言された。

 余計わからなくなった。


「僕は魔法剣士なのに、魔法も剣術も落ちてるのに強くなってるの? 意味分からないんだけど」


「自分のジョブ魔法剣士と思っていません?」


「そうじゃないの?」


「それが間違いなんですよ。確かに昔の勇者は魔法剣士でしたけど。今はもう魔法剣士じゃないですよ」


 剣と魔法を使うんだから魔法剣士だろう。

 他になにがあるというのだろうか?


「意味がわからないんだけど、どういうこと?」


「例えば、ファイアーボールどんな感じで使ってますか?」


「できるだけ小さくして、敵の目をねらってるかな」


「水の魔法は?」


「炎と合わせて水蒸気発生させて煙幕に」


「氷の魔法は?」


「滑らしたり、敵の足止めかな」


「風の魔法は?」


「足音を消すために使ってるかな」


「強敵を倒すためにはどうしますか?」


「後ろから近づいて首をかっきるかな」


「決闘挑まれたらどうします?」


「勝てるわけないから、夜に寝込みを襲うかな」


「ほら、それのどこが魔法剣士の戦い方なんですか。どう考えても、暗殺者アサシンですよ。日本でいう忍者です」


「……言われてみれば、そうかもしれない」


 僕のジョブは忍者だったのか。

 いつのまにジョブチェンジしたんだ。


「聖剣持って、鎧着た忍者ってどうなんだろう。でも確かに鎧はずっと邪魔な気がしてたし、装備変えようと思っていたけど」


「その鎧、国支給ですよね。いいんですかね? 勇者としてのアイデンティティ何にもなくなりますよ。そういえば、剣は、自分のだって言ってましたね」


「なんかどっかに封印されてたのを引っこ抜いたらしい」


 記憶はあるけれど、僕が憑依する随分前のことだ。


「そういえば、なんか最近勇者の聖剣短い気がします」


「ああ、ちょっと折ったからね」


「いや、なにしてるんですか!? 伝説の聖剣ですよ」


「うるさかったし」


「うるさい?」


「ああ、いや、使いにくかったから」


「使いにくいからって折ったらだめですよ。というか普通使いにくいから、折ろうって発想になりません。勇者は本当に自由ですよね。技は自由って言うより、卑怯ですけど。卑怯技オンパレードになって勇者めちゃくちゃ強いですよ」


 卑怯技ってなんだよ。

 必殺技の対極みたいな響きだな。


「僕が強いのは、僕がおかしい人間だからみたいじゃないか」


「みたいじゃなくて、そう言ってます」


「でも、僕より僧侶の方がおかしいだろ。たまに敵も回復してないか?」


「おかしくはないですよ。相手をいたぶるために死なないようにヒールかけてあげるのは拷問士として普通です」


「拷問士が普通じゃないんだけど」


「それにしても僧侶は器用だよね。回復魔法と攻撃魔法同時に使ってない?」


「拷問士ってメインはヒールする事ではなくて痛めつけることなんですよ。だから、回復魔法しながら、攻撃魔法使うのが普通なんですね。普通の僧侶でも攻撃魔法使える人はいますけど、基本的に仲間が怪我したら、怪我を治すことを優先します。ですが、あたしの場合は勇者が動ける程度なら攻撃を優先します。どの程度なら動けるのか。どの程度なら死なないかの見極めが得意なので」


 それはそうなんだろうけど。


「僕が死にそうでも、『わー勇者死にそう、うける(笑)』とか思ってそうだよね」


「その通りです」


「……否定してほしいかな」


「絶対本当に死なせたりはしないので、安心して苦しんでください」


「安心できる要素はどこに?」


 今まで以上に怪我しないように頑張ろう。


「それにしても、本当に僕ら狂ってるね」


 こっちの世界も現実だとわかってきて、自覚も出てきたけど、直せそうにない。


「ヒーラーは拷問士にしようって考えて私を雇いに来た姫が一番狂ってるとは思いますけど」


「そうだね。そうなってくると闘士が一番普通?」


「普通には、かなり強いですけど、魔法使えませんからね。いつもあたしがレジストしてあげるのにどれだけ苦労しているか知らないんですよ……はぁ」


「この調子だと、闘士パーティー抜けるのかな」


「そうですね。仕方ありません。作っといてあげましょうか。エンチャントってあまり得意ではないのですけど」


 僧侶は胸からペンダントのようなものを取り出すと、自分の魔導書を開き、魔法を込め始めた。


 エンチャントとは、物に魔力を込めることだ。

 エンチャントされたものを、魔道具という。

 先に道具に魔法を込めておくことによって、戦闘時にいつでも魔法が使えるようになる。

 魔法が使えない人間や、魔法が使えても、同時に二種類の魔法をつかったりと戦闘に幅が出るので重宝する。

 僧侶の魔道具が完成したころに、大量の荷物を抱えた闘士が二階の寝室から降りてきた。


「闘士、行くのか?」


「ああ、行くよ」


 引き留める……。

 ほどの言葉を僕は持ち合わせていなかった。


「はい。どうぞ」


 僧侶はにこりと笑ってペンダントを渡した。


「これは?」


 闘士が不思議そうにペンダントを見つめる。


「餞別です。レジストの魔法が三回分入っています。あなたは、レジストの魔法があれば簡単には死なないでしょうから」


「ありがと」


 闘士は受け取ったペンダントをポケットに押し込んだ。

 僧侶の皮肉は、どうやら伝わっていないようだ。

 僧侶はレジストがなければ、闘士は簡単に死ぬよと暗に伝えているのだけど。


「世話になった。またどこかで」


 闘士は風のように出て行った。


「大丈夫かな闘士」


「レジストが三回あるうちに身の程に気づかなかったら、死ぬだけですよ。弱いんですから。ばぁか、ばぁか、闘士のばぁか」


 こんなにあっさり別れが訪れるとは思わなかった。

 命をかけるのだから、それ相応の対価が欲しくなるのもよくわかる。

 僕らには正義もないから、やりがいもない。

 契約ベースのつながりでしかないのだ。

 まあ、こういうこともあるだろう。

 せっかく姫とはわだかまりがとけてきたところだというのに今度は闘士とは。


 僧侶はいつまでも、闘士に対する悪態をつき続けていた。

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