復縁
過去回です。
僕とののかは幼なじみで恋人だ。
へたれで曖昧な関係では決してない。
だけど、小さい時からずっと仲がよかったかというとそうでもない。
幼なじみと言うぐらいなのだから小さなころはもちろん仲良かったけれど、中学生の間は一度も話していない。
正しくは僕から話かけたことはない。
たいした理由があるわけでもない。
普通に多感なお年頃で、友達から彼女や嫁と揶揄されるのがたまらなく恥ずかしかった。
ただそれだけのこと。
それでも、また仲良くなって恋人にまでなれたのは、家が隣同士で親が仲がよかったおかげかもしれない。
卒業式のお祝いをふた家族でする事になった。
僕は当然参加を拒否。
普段は、別にそれで両親は何も言わなかったが、
「なんでお前の卒業祝いにお前がこないんだよ」と親父がぶち切れ。
どう考えてもその通りで、母親が味方になってくれるわけでもなく。
しぶしぶ僕はついて行くことに。
ののかの家には、もちろんののかがいる。
「おじゃまします」
おずおず口にすると、
「いらっしゃい」
ののかもおずおず答えてくれた。
ブランクがありすぎて、うまくしゃべれない。
ののかの家で両親がとったピザやオードブルなどを乾杯したあとは、僕は黙って食べた。
オヤジと、ののかのお父さんは楽しそうにゴルフの話で盛り上がっている。
僕は、つまらなそうにその話を聞いていると、僕の態度が気にくわなかったのか
「話がつまらないなら、ガキは二人でゲームでもしてろ」親父は強引に僕とののかにコントローラーを渡すとゲームの電源を入れた。
ここ人のうちなんだけど、オヤジ。
多分ゲームはののかの物だろう。
ちゃんと許可とろうよ。
ののかをみると、困ったように笑っていた。
「昔、二人でよくやったよね」
「そうだな」
「……」
「……」
会話が続かず、そのままゲームがスタート。
入っていたゲームは有名機種の格闘ゲーム、いろんなゲームのキャラがでてきて、フィールドの外側に叩き出すことによって、相手を倒すゲームだ。
僕がやっていたのは一つ前の機種ででていたやつだが、キャラも操作も同じなので大丈夫だろうとこのときまではおもっていた。
画面にファイトの文字がでたとたん。
僕はボコボコにされ一つもダメージ与えられず、叩きとばされた。
「なにそれ強すぎだろ、そんなキャラ見たことないし」
「このキャラ、最近拡張パックででたんだよね」
「なにそれずるだろ。昔もいたキャラ使ってよ」
「わかった。いいよ」
今度も速攻負けてしまった。
「なんか今下に一気に落とされたんだけど」
「そのキャラね。50パーセントぐらいのダメージででこのくらい飛ぶから、ここで構えて、メテオ当てると倒せるよ」
「メテオってなんだよ。強すぎじゃないか」
「たまにオンラインで対戦してるけど、強い人はもっと強いよ」
「オンラインしてるの?」
「たまにね」
とはいえ、小学生のころは互角だったのだから、どうにかすれば勝てるはず。
「もう一回、次は絶対勝から!」
再戦すると当たり前に絶対負けて、ボロボロである。
「もう一回」「ずるい」「卑怯」「どうやってやるんだ。教えてくれ」
「弱いなぁ」「普通だよ」「ハンデあげるよ」「それはね、こうするんだよ」
話しているうちに昔みたいに話せるようになった。
きってないのか、小学校の時に比べて髪がずいぶん伸びている。
少しだけ大人びた横顔、だけど楽しそうな笑顔は昔と変わらない。
中学の間にののかは、ののかじゃなくなっている気がしていたけれど、そんなことはなくて、あんまり変わらなかった。
多分変わったのは、僕の方で、少しはなす度になぜか心臓が変にはずむ。
ゲームに集中していると、それもなんだか自然に自分に馴染んでいくのを感じていた。
「なにゲームばっかりやってるんだ。帰るぞ!」
親父の声で現実に引き戻された。
「ゲームでもしてろって言ったの親父だろ」
「こっちは明日仕事なんだ。人のことを少しは考えろ!」
理不尽すぎる。
「絶対人のことを考えてないのは親父だって」
「だいたいお前ら明日休みだろ、明日やればいいじゃないか」
「え、明日?」
確かに卒業式は終わった。
入学式はもう少し先、確かに明日から春休み。
特に予定も何もない。
「まあ、久しぶりに遊びにくるの? おやつ作って待ってるわね」
ののかのお母さんの一言で予定が確定してしまった。
今さらやっぱり止めるなんて言って、悲しい顔をさせることはできない。
ゲームで負けたままなのは悔しいし、僕は最新機種のゲームを持っていないのでゲームをするためには遊びに来るしかない。
「また明日ね」
「ああ、また明日」
ひさしぶりにその言葉を口にした。
小学生のときは毎日そう言って別れていた。
なんだかののかは嬉しそうな顔をしていて。
きっと自分も同じような顔をしていた。
◇ ◇ ◇
数日後、珍しく早く帰ってきた親父が話しかけてきた。
「映画のチケットもらったんだが、お前いるか」
急に父親から渡されたのは、映画のチケットだった。
しかも恋愛映画の。
「こんなの誰と見ればいいんだよ」
「しらねぇよ。俺はいるかいらないか聞いたんだ。チケット二枚あるんだから、一人で二回みればいいだろ」
確かに親父は誰かなんて聞いていない。
僕は誰かなんて言いながら、誘える人物は1人しか思い至っていない。
「誰かデートにでもさそって行くなら、お小遣いあげるけど」
母親がちらりと万札を見せた。
「じゃあ、そうする」
母親から万札を取ろうとしたところでかわされた。
「連絡あったらね」
「誰からだよ」
「それは秘密」
きっとののかの母親から連絡が来るようになっている。
父親と母親が数枚上手だ。
全部バレてるんだろうなぁ。
チケットをもらったというのも嘘かもしれない。
誰が親父に恋愛映画のチケットなんて渡すんだよ。
僕がもらわなかったら、母さんと二人で行くつもりであれば別に無駄にはならない。
いいさ。
ここはありがたく作戦にのっかろう。
◇ ◇ ◇
早速僕はののかの家を訪問した。
「親父から映画のチケットもらったんだけど、一緒にいかない?」
ののかは一瞬嬉しそうな顔をして、うつむいてこたえた。
「幼なじみとは、映画館には見に行かない」
一緒に行ってくれるとばかり思っていたので、僕はショックを受けた。
あれでも、悠久とではなく、幼なじみと行かないとはどういうことなのだろう。
意味は一緒のようで違うような。
「映画館にいかなくてもいいよ。お家でみよ」
僕と映画が見たくないわけではないと分かり少し安堵した。
ああ、そうか。
ただの幼なじみと外で遊んで、また恋人などとからかわれて仲が悪くなるのが嫌なんだ。
中学のころには戻りたくない、僕も、ののかも。
お家にいれば、からかう人は誰もいない。
仲のよい幼なじみでずっといられる。
だけど……。
そろそろ関係を前に進めないといけない。
映画を一緒に見るのは、手段であり、目的じゃない。
本当にののかとしたいことを伝えないといけない。
「僕はののかとデートに行きたい」
あの頃は、ただの幼なじみ、ただの仲のよい友達だったのに、恋人と言われて恥ずかしかった。
今は違う。むしろ
「恋人として隣にいたいし、恋人として周りの人に見られたい」
これが僕の本心。
「僕は、ののかとデートがしたいから映画見に行かない?」
「うん。絶対行く!」
ののかが飛びついてきた。
頬と頬がふれる。ののかの体温を感じる。
触れたのは、いつぶりだろう?
ふと奥を見るとののかのお母さんが扉の陰からこっそり見ていた。
スマホで何か文字をうっている。
きっと僕の母親にでも、メールしているのだろう。
正直恥ずかしかったが、でももう恋人なのだ。
抱きつくくらい普通だ。
そんなことはないか。
節度は大事だ。
ののかを少し引き離すと、奥を指差した。
ののかのお母さんは光の速さで引っ込んだが、ののかも見えたのだろう顔を真っ赤にしていた。
だけど、もう慌てて離れたりはしない。
手をつないでいるところを見られても気まずくなったりしない。
恥ずかしいけど、平気が正しいかもしれない。
そう、僕とののかは中学最後の春休みに恋人になった。
僕らは心を交わし、満たされた。
幼なじみ兼恋人と穏やかな日々。
不満も不安も特にない。
もちろん。物語は大好きだ。
僕は別の誰かの旅路を見るのが好きだった。
僕自身が本当に勇者になりたいと願ったことはない。
だけど、
もしもこれが誰かの願いだとして、
もしもあべこべに叶ったのだとしたら、
きっと勇者が僕のことを夢に見たかったのだろう。