プロローグ『夢の始まり』
勇者の死因が自殺とか、物語として最低すぎる。
僕は目を覚めた瞬間、
足が地についていない浮遊感と首が急速にしまってい窒息感に慌てて、
腰から剣を引き抜き、首につながっていたロープを断ち切った。
どさっと地面に落ちて、思いっきりせき込んだ。
「がはッ、くそ、なんなんだよ」
僕は、なぜか使える回復魔法を、首に当てた。
回復魔法の威力が弱すぎて、いっこうによくならない。
僕は、酸素の足らない頭のまま、辺りを見渡した。
「どこだここ?」
今寝たばかりのはずなのに、なぜか目が覚めた。
しかもベッドのうえではない。
場所は森の中。
というより、寝たら見ている映像なのだから、
夢の中という方が正しいのだろう。
「僕は、勇者?」
頭の中に記憶が流れ込んでくる。
自分が、悠久という人間であることを忘れてしまうほどの、奔流だ。
それに、随分設定が作り込まれている。
物心ついたころからの記憶が鮮明にある。
今しがた自然に魔法が使えたのもこのためだろう。
だけど、勇者の人生の記憶に憤りを感じた。
「なんだよ。このダメダメプロット、やる気あんのか僕は」
中学卒業と同時に付き合い始めた彼女の影響で書き始めた小説。
正直まだ初心者だけど、それにしてもというやつだろう。
駄作も駄作。
何かの賞に入賞しようとか以前に、読んでもらおうという気概も感じられない。
大体主人公である僕が弱すぎる
一般男性以下だ。
ハズレスキルすらない。
ちょっとチートと呼べるのは、偶然引き抜いた聖剣ぐらいだ。
別にこの剣を使えば、主人公でなくても強くなれる。
「勇者物、魔王を倒すのなら無双系目指したプロットだよな。無双系めざすなら手っ取り早く、チートスキル設定した方が書きやすいし、逆に成り上がり系なら、外れスキルか不遇設定もってこないと」
特徴なさすぎる。
「うわ、弱いくせに全属性コンプリートとか、一番小説書きにくくなるパターンじゃないか。特徴なさすぎる」
大体、なんで勇者が、何もなさずに自殺しようとしてるんだよ。
「今物語がスタートしたということは、プロローグだよな。敵はどこだよ。バトル物なら、まずはかっこよく戦闘シーンからが鉄則だろう?」
爆発オチより最低すぎる。
「意味わからん。この小説書こうとしたの本当に僕か?」
大体僕は、映像を思い浮かべて、文章化するタイプの物書きではなくて、
文章が直接頭に浮かんでくるタイプの物書きだ。
普通見る夢も色どころか、文字の雨が降っているような、全部文章の夢だというのに、今日の夢は、
すごくリアルだ。
よろよろと近くにあった湖に自分の姿を映してみる。
水面に映る姿は鎧を着てはいるもののどう見てもいつもの僕だし、
思い浮かべる仲間も、彼女と親友にそっくりだ。
もう一人の女の子は見たことはないけど、
天使系と銘打ってそうなアイドル顔。
どこかテレビにでも出ていたのだろう。
他の登場人物も現実の知り合いに似た人が多い。
多分僕の記憶を元に考えているんだと思うけど。
「夢だから、無意識に没にした内容で構成されているのだろうか」
僕は夢かどうかわからないときにする、べたな確認方法であるほっぺたをつねるという方法を取ってみる。
「あれ、痛いな」
結構、強めにやったので、ほっぺがヒリヒリする。
僕は、剣の刃に親指をあててみる。
想像以上にスパッと切れた。
「めっちゃ痛いぞ」
血が流れてきた。
僕は回復魔法をあてて、傷を治す。
「なんだこれ本当に夢か? まあ、いいや」
覚めたら夢。
覚めなければ現実。
簡単だ。
もしも目が覚めたら、明日からいろいろないことを試してみればいい。
バトル小説に必要なリアルな描写をするために、いろいろ経験が必要だ。
夢ならやってみたいことはいっぱいある。
現実ではできないことを。
「作者は、体験したことしか書けないだったな」
そんな言説でSNSが埋め尽くされたこともある。
これだけリアルな夢ならば、
「体験に違いない」
僕は聖剣を引き抜き見つめる。
綺麗な刀身には、人生で一番楽しそうな自分がいた。
そんな笑い方できたのかと自分で思うほど凄惨な笑み。
「とりあえず、今日は仲間のところに戻るか」
頭に流れ込んでくる記憶を頼りの僕は歩みを始める。
この世界は、
夢か現か。
どちらだろうか?