商業ギルド
ダンダリオンの壮大な桜の下で、イベントは静かに…ヘットフォンを持つものには、にぎやかに開催された。
年に一度、7年を経過し、作者が了承した作品のエンディングを探す祭りが開催される。
様々に名前を変えるそのイベントを、いつしか人は『ファイナル』と呼ぶようになった。
この期間は、サイト内で7年更新が無く、音信不通の作者の作品の二次作を公式で楽しむ、読者の祭典である。
この期間、作者は様々なアバターに変身し、匿名で作品のエンディングを作り、ポイントの花を咲かせるのだ。
今年は春…そして、アバターは著作権の切れた名探偵。
エンディングを探すらしいけど、我々、平民には関係ない…雲の上ならぬ桜の上の神の遊び。
私は、平民仲間のユリエちゃんと仮想空間を楽しむことにした。
メガバースの仮想世界は、下層世界と言えども美しく作られている。
大正時代を赤レンガの街並み。
華やかなモダン・ボーイズ&ガールズ。
物理法則を突き抜けた、桜の巨木と美しい洋館…
思わず見とれているとユリエちゃんが話しかけてきた。
「ミチコちゃん。さあ、いつまでも遊んでないで、仕事しよう。」
ミチコは私の今日の名前。今日は、皆、特別のアバターを身につける。
これで、日頃の評価に左右されずに、自分をアピールできる…
例えるなら、ネット小説界の仮面舞踏会なのだ。
私たちは、乱歩の作品のアバターをチョイスした。
「うん…。でも、私たちにも依頼なんて受けられるかな?」
心配そうな私を、ユリエちゃんは、商業ギルドにつれて行く。
ネット小説が盛んになり始めた頃、異世界もので、よく使われた場所らしい。
今回は、レトロ風味でそれを採用したんだそうだ。
「商業ギルド…と、言うより、時代劇の口利きやさんみたい。」
私は、昭和の銭湯のような建物にぼやく。
が、形はどうでも良い。
花が貰えそうな依頼があるかが問題だ。
人気作は、上級が扱うし、読者が複数人で本を予約するような話は、一ヶ月も前から中級を中心に募集がかけられる。
でも、上手く話を作る才能がなくても、このイベントには参加ができる。
未完作品の依頼は、完結ばかりではない。
結局、結末はどうなのか、
面白い結論だけ、聞ければ良い。と、いった読者もいて、人生相談みたいな、ズバッと短いコメントでも、お花を貰える。
私達だって、チャンスがあるのが楽しい。