4話サクラ
今回の招待客へのカードのPDSを明智は見る。
「家紋…ですか。」
数十人の招待客には、一人一人に、花を模した家紋が張られている。
「それが、IDになるみたいよ。4年ぶりの春のイベントと言うことで、サクラの家紋をいれたみたい。」
女主の言葉に明智は、小さな違和感がはしる。
「サクラ…睦月さんがそう言ったのですね?」
明智は、一つ一つの招待状と家紋を比べる。
家紋とは、一族を示す紋章の事だ。
遡れば、平安時代まで歴史があり、 様々な物を題材に作られている。
植物は人気のある題材で、葵、菖蒲など、様々にあるが、武士の世の中になると、短く散る桜はあまり、人気がなかったようだ。
とはいえ、男らしい潔さを愛し、家紋として採用する者もいて、桜紋のバリエーションは少なからず存在する。
五弁のサクラから、八重、山桜に、山と桜…
サクラの花を蝶に見立てたユニークなデザインなど、それらを装飾した美しいIDは、確かに、春のイベントにふさわしく感じた。
「ええ。皆にサクラを見てもらおうって。とても、熱心にしていたわ。」
女主人の言葉に、明智は、少し、思案する。
「しかし…中に、梅が紛れています。」
「梅?」
女主人がしばらく、フリーズする。
「あら、本当。蝶や、月に惑わされて気がつかなかったわ。でも…それがどうしたの?」
女主人は不思議そうに明智にきく。
家紋も種類に限りもあるだろうし、梅が混ざったところで、それほど問題とも思えない。
「サクラの家紋を貰った人物です。」
明智は、サクラの家紋のリストを女主人に見せ、話を続けた。
「彼らは、ネットであまり良い噂の絶えない人達です。」
「まあ……。」
「桜…サクラは、水増し要員の隠語でもあります。
昔、芝居小屋などで、場の雰囲気を盛り上げるためにタダで観劇できる代わりに、掛け声などで盛り上げた人物をさして言ったそうですよ。
なにしろ…花見は『無料』ですから。」
「あなた、相変わらず、トリビア上手ね。でも、考えすぎではないの?サクラの祭典ですもの。」
女主人の言葉に明智は、梅の紋章のリストを突きつける。
「こちらのリストも偶然でしょうか?」
梅の紋章の人物は、盗作や順位工作などで被害を受けた事のある人物が集まっていた。
「梅の紋章は、菅原道真とゆかりがあります。」
「道真…無実の罪で怨霊と化した人物。
でも、このリストの人たちは、復讐なんてするようなメンバーではないわ。」
女主人の言葉に明智も同意する。
「確かに、これは、家紋を使った意味付けを表しているんだと思います。
本命は…これ。」
と、中心の丸を囲むように6つの丸で作られた家紋を指差す。
「6弁…確かに、これは桜ではないわ。もちろん、梅でも…
でも、それがどうしたと言うの?」
女主人の言葉に、明智は、不敵に笑う。
「ええ、これだけが…仲間はずれなのです。」