ストーリーテラー
魔法をかけましょうか…
天と地に青い平原が広がる世界で、男が呟いた。
そして、呪文と共に世界を一変させる。
小高い山に美しい西洋風味の城を……
正確には、東京駅のように赤レンガに白い帯石で装飾する…辰野式建築に影響を受けた、和洋折衷…の豪華な屋敷である。
気の遠くなるような広い空、その下を煌めく海が広がっていた。
男はその景色に満足して、それから、一番大切なものの作成に取りかかる。
桜の木…
それは、みるみる大きく成長し、そして、爛漫の桜を咲かせる。
「舞台は整いましたから、奥さまに報告しましょうか。」
男は先ほど自分で作成した屋敷に向かって歩きながら、自分の身支度を始める。
それは、袴姿の書生風であり、
昭和のモダンボーイでもあった。
執事風のモーニングや、
DJのような、アクセサリー多目のカジュアルな雰囲気のものにも挑戦し、
そして、玄関につく頃には、90年代を思わせるダブルのスーツに細身のネクタイで落ち着いた。
屋敷のドアの前に立つと、立派なドアの竜のノッカーに軽く触れ、ドアを画面に変えて、自分の姿を写し出した。
軽く画面に写る自分の髪に触れ、もう少し、ソフトモダンな感じのオールバックに整える。
身なりが整うと、ドアはもとの姿に戻り、そして、ノッカーの竜が彼に名前を聞いた。
男は、少しだけ恥ずかしそうに微笑んで、それから、キリッと気持ちを入れかえてこう答えた。
「私は、今回の『ファイナル』のストーリーテラー。明智小五郎です。」
しばらくの沈黙。
そして、竜が目を開き、明智と名乗る人物の情報を記録した。
「記録しました。どうぞ中へ。」
どこからか、穏やかな女声が響き、ドアが開く。
明智はゆっくりと女主のもとへと向かった。