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07、 痛みを感じないわけではない


 現段階で、アニマート最強キャラが自分の相棒であることはすぐに変えることはできない。他の人がもっと強いキャラを召喚するか、ありえないほどのスピードで能力を上げてもらうしかないからだ。

 そうなると、マルコシアスを隠したほうがいいだろう。初心者が連れていてもおかしくないレベルを装うことが出来れば、トラブルに巻き込まれることはない。

 能力の制限というか、限られた能力以外を使わせないようにすれば大丈夫か?でも、鑑定のできる人からも隠すことができるのだろうか……?

 本当になんで俺はアニマートを調べずにプレイし始めてしまったのか、今となっては後悔しかない。

 スタッフには獣の姿を見られたが、よくいる幻獣と思われているし、そっちはいいだろう。でも、瞬間移動する前にはじまりの街の人の何人かには人形を見られているので、今後しばらく人形を取ってもらったほうが違和感はないかと思う。

 確か、悪魔を召喚することは珍しくないとの話だったから、低級悪魔ということにしておきたい。低級と上級の見た目に、あからさまな違いがあるのかないのかもわからないが……やはりアニマートの常識をきちんと把握していないのが痛い。



「我が主よ。悩むことは成長に必要ではありますが、悩みすぎるのは病んでしまいかねます。宜しければ、私が貴方様の召喚に答えた理由をお伝えしてもよろしいですか?」



 突然正面から声をかけられて顔をあげると、眉を下げてこちらを伺うような表情のマルコシアスが立っていた。

 考えすぎてすっかり忘れていたが、座っている俺に対してマルコシアスは立ったままだった。俺が召喚したこともあり、座る許可を出さなかったから立ちっぱなしだったんだろう。考え事をしていたとはいえ、放っておいて申し訳ない気持ちになる。それなのに心配までしてくれて……自分の召喚主が考え込んでいるからだろうけど、なんだかいたたまれない。

 それに、召喚に答えた理由を教えてくれると言い出したのは、俺が悩んでいる内容もある程度わかっているのかもしれない。そうだ、マルコシアスの能力を知りたいと思ったとき、言葉にしていないのに人形を取って「教えてくれる」と話していたではないか。



「マルコシアスは、人の心が読めるのか?」

「いいえ。私は主従を結んだ方のことであれば、ある程度思考を読むことができますが完全に読みとることはできません。また、他の人のことになりますと予想をすることしかできません」



 俺が「そうか」と答えると、ゆっくりと俺の座っているソファの横まで移動して、視線を合わせるためなのかしゃがんで、こちらを見上げた。そして「他人が考えていることが気になりますか?」と聞いてきた。

 その目はあまりにも穏やかで暖かく、全てを受け入れようとしてくれているように感じた。俺の過去を知っているのか想像しただけなのかわからないが、核心を突く質問だったのもあり固まってしまった。



「……マルコシアス。それは俺の召喚に応えたことにもつながるのか?」

「聡明でいらっしゃいますね。ご自身の能力を上げていったにもかかわらず、過去に囚われあくまで普通であろうと努力した貴方様だからこそ、私が側でお仕えしたいと召喚に応えたのです」

「そんな人間、他にもたくさんいただろう?なんで俺だったんだ。普通でありたいと思う俺にあんたみたいな強いヤツが仕えたら、今みたいに悩むと思わなかったのか?」

「我が主はご自身のことを何も理解しておりませんね。幼い頃から勉学や武道を学び、知識を身に着け続けた貴方様はゆくゆくは『勇者』にも『賢者』にも『錬金術師』にもなれた。それだけの選択肢があったのに、ご自身の評価が低いために『門番』という自らの知識や技術で戦うことの少ない職をお選びになってしまった。努力をし続けられる、そういう人間は多くはありません。特に、この世界では所詮ゲームと思っていらっしゃる方も多い。本格的に知識や技術を学んでおられる方が、わざわざこの世界に来ること自体があまりないんです。それに加えて、私が仕えたいと思えるほどの純粋さをお持ちの方がいらっしゃることも稀です。この世界に来る殆どの方は欲望にまみれていて、とてもじゃありませんが召喚に応えたいと思えません」



 そう言ってマルコシアスは笑った。その笑い方は今までのプレイヤーを蔑むようなものではなく、少し悲しそうに見えた。

 俺自身は自己評価が低いとは思わない。周りも努力している人が多かったし、頭だって大したことはないと思う。現に学校での評価はそこまで高くはない。

 武道なんてそれこそほとんどやった覚えがない。子どもの頃から親戚で集まっていろんな遊びをしたが、その時に空手や合気道を習っている子やその子の親からお遊びとして教えてもらったりしたことはある。でもそれだってほんとにお遊び程度で、それ以降にきちんと習ったわけではない。

 努力し続けたと言われたって、将来なりたい夢があるわけでもなかったから選択肢を増やそうとしていただけだ。子どものことから夢を追っている人に比べたらすべてが中途半端だと自覚している。

 それらすべてを、無駄だと思ったことはないが評価されるものでもないと思っていた。


 家族や友人ではない人から、ほぼ初対面で高評価されると……詐欺師かどこかの宗教の勧誘かと思えてくる。実際は、マルコシアスは人間ではないけれど。

 それでも、今までの自分を認めてもらえたことは嬉しい。努力は誰かに見せるものじゃないし、評価が常に努力に見合うわけでないことも経験上よくわかっている。マルコシアスが俺の召喚に応えたのは、俺の今までの努力の積み重ねがあったからこそだと言われていると思うと、どう反応すればいいのかわからなくなる。



「我が主は、この世界をどうお考えかわかりませんが、この世界を生きている我々にとってはここが現実です。そう私が感じるのも、ゲームの設定と考えていただいてもよろしいのですが、そう考えているからこそ、仕える方を私達も選ぶのです。単純にお金を稼ぐためやゲームとして軽く始める方もいますが、そのような方達に私は仕えたいと思えませんでした。貴方様の召喚時に願った『思いもよらない体験がしたい』という言葉だけではなく、共に流れ込んできた感情は初めて私が仕えてもいいと思えるものでした。召喚士の職業を選ぶ方は特に、ご自身の知力や体力に自身のない方や、召喚したいものが決まっていることが多く、言葉と共に流れてくる感情も我々に『頼りたい』という思いが強く感じられます。ですが、喚ばれる側の我々としては頼られっきりでは困ります。死ぬことはほとんどありませんが、痛みを感じないわけではないのです。召喚時に名を呼ばれた者も、強制ではなくお願いなので従うかどうかは本人次第。そうなるとほとんどの方が身の丈に合わない願いをされるので、代わりに召喚士と同等程度のものが召喚されるのです」



 俺が黙り込んでいるからか、マルコシアスは話しを続けた。それはおそらく、俺が先に情報を集めていたとしても知り得ないような内容であるが、落ち着いて考えればわかることだ。

 召喚獣だって道具のように使われるのは嫌だろう。そこに生きている彼らにとっては、力のない人に仕えないようにするのは自己防衛と言っていい。もし強い召喚獣を召喚したら、自分ではなく召喚獣に合わせて強い敵に向かっていく可能性だってあるのだ。

 アニマートはゲームではあるが、あの街は本物に近いと感じた。それは体感的には現実に近かったからこそ、NPCにだって感情があると言われても違和感はない。

 全てのキャラに人工知能が搭載されている可能性もあるし、そうなるとあながち設定ではなく本当に感情があるのかもしれない。

 マルコシアスは俺の感情を読むことができるし、考えすぎてはだめだと言われている。それなら一人で考えるより話をして、二人で今後どうすべきか考えた方がいいだろう。



「俺は、良いことばかり言われると信じられなくなるから、本音で話してくれた方が嬉しい。考え出すと止まらなくなることが多いとよく言われるから、その時はさっきみたいに声をかけてくれ。あと、マルコシアスは俺の呼びかけに応えてくれたわけだから、一緒にこの世界をまわる相棒になってくれるんだよな?それなら、目立つのは苦手だから周りから浮かないように俺のレベルに合わせた能力だけを使ってほしいんだ。俺はアニマートのことをほとんど知らない。だから、すでにマルコシアスのことを感知とか予知とかなにかしらの能力で知っている人がいるなら教えてほしいし、まだ誰も気付いていないならそのまま気づかれないようにしたい」

「かしこまりました。現在、感知や予知のような能力をお持ちの方は私より低ランクなので『強い何かが現れた』程度にしか認識されていないかと思われます。同様に鑑定を持っている方も、私を鑑定することはレベルが違いすぎるので測定不能となりますので不可能です。また、私自身の能力も可能な限り制限をして、目立つことのないようにいたします。しかし、危険が及ぶ場合は制限の解除をさせていただきますね。姿は、獣でも人形でも『召喚獣』なので周りからの認識の度合いは変わらないのですが、意思疎通を取りやすいのでこちらの姿のままでいようかと思っております。私は、我が主の望むままに従いますので、お側においていただければ幸いにございます」



 やはりきちんと言葉にしてよかった。これで無知な俺でも目立つことなくルーキーとしてこのゲームを楽しめそうだ。それでも、他人を信じられるまではパーティーを組むのはやめておこう。どこから情報が漏れるかわからないから、慎重にプレイしなくては。

 俺が立ち上がると、マルコシアスも立ち上がってこちらを見つめる。



「俺は海人。我が主とか畏まらずに、気楽に海人って呼んでほしい。自己紹介もしないで悩んだりして、頼りにならない主人かもしれないがこれからよろしく」

「海人様、頼りにならないなんてことはございません。私のことはお好きなようにお呼びください。私の方こそ、宜しくお願い致します」



 そう言ってマルコシアスは左手を胸のあたりに当てて一礼した。

 ひとまず、マルコシアスが現実にもいるキャラなのかが不明(マルコシアスも現実にいるのかまではわからないとのこと)なので「ルコ」と呼ぶことにして、クエストを受けるためにギルドに向かうことにした。時間の確認は左上に出ているのだが、既にログインしてから30分以上経っている。俺は時間なんて考えずに悩んでしまったようだ。

 登録から考えると2時間近く経っている。初めてのログインということも考えて、元々長くても3時間位でやめておこうと思っていたのもありちょっとだけ急ぐことにした。

 ルコに確認すると、この場所アニマートの中でもプレイヤーが来ることが本来できない島?国?…だそうで、はじまりの街へは転移を使うことになった。そんなところに人を連れて瞬時に来れるものなのかと思ったが、そこはルコが本当に規格外の存在なんだと改めて思うだけにした。

 瞬間移動も転移魔法も出来る人はいるようだが、初心者ではほぼいないようなので人目につかない所で行う。これは便利なので、使わないのではなく隠す形で使用を許可した。制限をかけすぎるより、便利なものは隠れて使う方がいいと判断したからだ。


 ここに来たときのように、一瞬ではじまりの街の人気の少ない路地裏に場所が移った。

 変わらずメインストリートは活気づいているので、こちらを気にしている人はいない。まぁ、もしいたとしたら、ルコがこの場所に転移することはないだろうけど。

 そこからギルドに向かうまで、軽くこの街の話を聞いた。ここは日本が管理している【大和―やまと】という国だそうで、思わず「そのまんま…」と呟いてしまった。俺自身にもネーミングセンスがないので、それ以上は何も言わないが。

 大和に限らず、アニマートにある国は全て10個の町で出来ているそうだ。レベルが上がると次の町へ移動ができるので、人の多い町もあるとのこと。

 はじまりの街の名前は【蜂蜜】という。言われてみれば黄色が基調になった街並みになっている。大和は10個の街それぞれに基調となる色があるそうで、8番目まではわかっているそうだ。現在、大和にSランクの人は2人いるそうだが、パーティーを組んでいるそうでそのメンバー全員が上がってから進む予定とのこと。

 街の数が合わないと思ったが、人数が多くなるEランクとCランク、最高ランクであるSランクは2つ分の街が行けるようになるそうだ。アニマートではランクは上がりにくく、Eランクに上がるまでに1年ほどかかる人が多いようだが、一番最初の目標になるため人が多くなる。Cランクが多いのはちょうど真ん中のランクなことと「行ける街が一気に増えるところまで」を目標にしている人がほとんどで、そこに人が集中しているとのことだ。

 Sランクになって入れる街については該当する人数が少なくてなんとも言えないが、他の国の情報だとかなり強いクエストやレアなアイテムが手に入るだけでなく、桃源郷があるという噂もある。9番目と10番目はおそらく天国と地獄なんじゃないかとのことだ。

 ちなみに、ルコはそこに行けるのか聞いたのだが「行くことは可能と思いますが、海人様と共にと思っております」と言われた。今まで興味を持つ召喚士が現れると思っていなかったらしく、召喚獣だけがいるあの場所以外は特に詳しく調べていないと話していた。

 俺としても冒険を楽しみにしたいから、それぞれの街については詳しく調べなくていいと伝えたところで、ログインした時の広場に戻ってきていた。そこから見えるギルドには【檸檬】という名前が看板に書かれていた。

 俺とルコは「なにか1つクエストをクリアして報酬を受け取る」というのを今日の目標にしたので、ギルトの扉を躊躇いもなく開けて入った。




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