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02、 ゲームで稼いだお金が現実世界でも使える


 周りが徐々に明るくなり、ゆっくり瞬きをして目を慣らしていく。そして、目の前に扉があるのがわかるようになったところでゆっくり歩き出し、そのまま廊下に出た。つけていたVRゴーグルを外して、扉の横の使用済みの棚へ置いたところで声がかかった。



「あれっ、海人くんも来てたんだ!今日は稼げた?」



 通路の奥から声をかけてきたのは、同じバイト仲間の大村先輩だった。彼女の見た目はギャルっぽい感じのため、初対面のときはなんとなく避けてしまった。しかし、誰にでも気さくに話しかけるタイプみたいで、後輩で年下の俺なんかには壁なんてないのか、見かけるとほぼ毎回話しかけてくれる。

 そのおかけで、大村先輩を通して他の人とも話ができるようになったのは本当に感謝だ。ルコを召喚したことでソロでやっていこうと決めたのを考えると、もしかしたらこのバイト先で仲良くなる人ができることはなかったかもしれない。

 今だと、このバイトについてのアドバイスをもらうこともある。しかし、基本出勤時間が自由な職場なこともあり、大村先輩だけでなく仲良くなったバイト仲間と偶然会うことは珍しい。



「大村先輩、お疲れ様です。今日は3時間もログインしてないんですよ。中で買い物もしてたからクエストは1つしか受けなかったのもあって、稼ぎはそうでもないですね。先輩はどうだったんですか?」

「私?今日の朝からずっとクエストやってたからヤバイよ〜。AランクとBランク1つずつ受けて、どっちも成功報酬高かったから30万円近く稼いじゃった〜!もう少しでAランクに上がれるかも!」

「Aランクですか!凄いですね」

「なんだかんだ6年目だからね。早い人だと5年もかからないでAランク行く人もいるから、そこまで凄くないよ。海人くんだって、強そうな悪魔召喚してたしすぐランク上がってくって!」



 軽く俺の背中を叩いてから「またね〜」と、手を振って出入口に向かっていった。

大村先輩は謙遜していたが、低い方からF、E、D、C、B、A、Sの7つの段階が確認されている中で、Sランクは世界で50人もいないから、ほぼAランクが最強と言ってもいいのだ。今後SSランクも出るのではないかと言われているが、まだまだ先のことだろう。

 簡単にランクが上がっていかないからと普通のゲームに戻る人もいる中で、大村先輩は高校生の時から続けていて、現在Bランクでもかなり上位にいるのだからやっぱり凄い。

 ちなみに、上位といったがアニマートにはランクや職業でランキングがあるわけではない。ただ、強い人や貢献している人は話題に登ることが多く、知名度が高いのでプレイヤーやファンの中で勝手にランキングを作っていたりする。

 それは個人サイトで独自に作っている人もいるが、多くのアニマートの攻略サイトにも載っていたりするので暗黙の了解になっているようだ。そこに先輩のプレイヤーネームである「ダイソン」が日本人プレイヤーの上位に載っているのだから、本当に強いと評価されている人なのだ。


 そんなことを考えながら俺もカードを持って出入口に向かう。ちょうど受付のところには30〜40代くらいの男性が3人座っていた。俺が入ったときは女性だったはずだから交代したのだろう。カードを渡して「おつかれ様です」と声をかけ、一度頭を下げてから出る。

 時計を見ると18時を過ぎたくらいだった。約束は19時だから、一度帰ってシャワーを浴びてから向かっても間に合いそうだ。

 俺は一度振り向いて、今出てきた『Animate―アニマート』と書かれた建物を見る。

 10年ほど前に世界各国のトップ達が突然始めたビジネスで「ゲームで稼いたお金を現実でも使うことができる会社」だ。



  ◆ ◇ ◆ ◇



 元々、お偉いさん達が水面下で計画していたのかわからないが『Animate―アニマート』は、VRゴーグルをつけてプレイするMMORPGだ。

 自分がゲームで稼いだお金が現実世界でも使えるようになるとのことで、当初はかなり話題になっていた。

 それこそ世界中でほぼ同時に出来るようになったのも驚きだが、何よりかなりリアルな世界を体感できるゲームであることが世間を驚かせた。

 自分が動いたとおりにキャラが動いて進めていけるということで、身体能力は勿論必要だが、クエストによっては専門的な知識がないと解けないようなものもある。アバターの見た目はいじれるが、体型をかけ離れたものにしてしまうと、攻撃を避ける範囲が把握できなかったりするらしく、そこもリアルに近くなる。

 特殊なVRゴーグルの効果もあって嗅覚も感じられることもあり、食べ物の匂いや異臭を放つモンスターへの対応もかなり素のものになる。

 プレイヤーだけでなく、NPCとして存在している住民の中にはスタッフが入っているキャラもいるようで、普通の会話ができたりレアなクエストを受けることもあるそうだ。

 プレイするのは全員個室だし、歩いたり戦ったりしているわけだから、床とかどうなっているのか気にはなるが「ゴーグルをつけていないと部屋に入れない」ようになっているので、いまいち謎のままだ。

 他にも、ゲームをする前に全てのプレイヤーが必ず保険に入らないといけない規約になっている。何故かと言うと、モンスターに倒された場合、本当に死んでしまったような感覚が残るのだ。

 その場合、回復魔法とかでは治せない。死んでしまうような傷や精神的なダメージを治す魔法やアイテムはない。だからこその保険なのだ。

 致命傷を受けた場合、自動的に教会で復活するがその都度保険料を払わないといけない。保険料は5万円位なのだが、ゲームを始めたときのみ前借りができ、ゲームで稼いだら返済する形だ。

 しかし、当時はゲーマーの中でも賛否あり「ゲームとして楽しめなくなる」との意見もあったのだが「ゲームでもあるが、誰でも仕事にできる」という見解が増えるにつれて、今では「一度はやってみたい仕事」として人気がある。


 登録できるのは日本だと15歳から。他の国だと12歳位から登録ができるところもあるが、そういう国は就職率が低かったり貧困問題を抱えているところが多い。

 ゲームではあるが、かなりリアルな体験ができることがトラウマになりかねないという意見や、保険料がかかることで日本では一応15歳からなのだという。

 そうは言いつつも、ほとんどの場合は親が反対することが多いから高校を卒業するあたりの18歳くらいから始めるプレイヤーの方が多い。俺も自由登校になる高校3年の2月から始めた……大村先輩は当てはまらないけど。

 今ではかなり一般的な職業となっていて、支店もコンビニ並みにある。新築もあるが、古くなったアパートやお店をリノベーションしているようで、空き家問題とかもだいぶ減ったとのことだ。数だけでなく、営業時間もコンビニと同じく24時間休み無しなので、俺たちは本当に好きなときにプレイすることができる。

 ただ、その支店も含めてスタッフとして働く正規の職員は国家公務員のみとなっていてプレイヤーはバイト扱い。

 それでも稼ぐ人は月に500万円を超えるというから、夢のある仕事として人気がある。



  ◆ ◇ ◆ ◇



 シャワーを浴び終わり、準備をしてから約束している居酒屋へ向かう。家を出るときに母親に声をかけられたが「いつもの二人とご飯」というと、それ以上は何も聞かれなかった。それだけよく遊ぶ二人なのだ。

 19時まであと10分くらいあるから、丁度いい時間だ。あのタイミングでログアウトできたのは有り難い。

 店について予約したであろう友人の名前を言うと、個室に通されたがまだ誰も来ていなかった。

 みんなが来るまでスマホでゲームをする。元々、ゲームが好きなこともあって始めたバイトだが、実家暮らしのおかげて生活ができているくらいしか稼げていない。

 強い召喚獣が相方になったから、大村先輩も言っていたように頑張れば結構稼げるとは思う。しかし、その召喚獣であるルコのことで、ちょっと思うことがあってガンガンクエストを進めていこうとは思えないのだ。



「あれっ、美濃が一番?なんか珍しいね」

「川瀬先輩、お疲れ様です。珍しいとか酷くないですか?」

「ごめんごめん。いや、あのバイト始めてから間に合わないこともあっただろ?だから思わず口から出ちゃった」



 そう言って俺の前の席につくと、そのまま注文用のタブレットでメニューを選び始めた。

 川瀬千弦先輩。俺の一つ上で、元々は高校の時の部活の先輩だ。話しやすくていろんな相談をしているうちに、めちゃくちゃ仲良くなった。

 顔もイケメン?というか男前な感じで、趣味は肉体改造かと思うくらい筋トレをしている。でも、ゴリゴリにならないようにしているからかモテるし、彼女が切れたことは俺の知っている限りない。髪は染めていないものの、流行りに合わせてよく変わり、服装も落ち着いた感じでできる男感がある。そんな人だが、しょっちゅう俺たちと遊んでくれる。



「飲み放題でいい?いつも食べてるようなの選んでおけば津田も適当につまむだろ」

「あ、俺今日は結構お腹減ってるので、ご飯ものも頼んでもらっていいですか?」

「おっけ〜」



 川瀬先輩はそのまま適当に選んで注文していた。いつもだと、アルコールを飲むときはつまめるものがメインでお腹にたまるものはあまり頼まない。食べずに飲むのは身体に良くないのは知っているのだが、つまみの種類をたくさん頼むのでおそらく問題はないはずだ。

 店員さんがビールを3つ持って来たタイミングで、最後の一人も丁度着いたようだ。



「今ちょうど19時になったところなのに、二人共もう注文まで終わらせてるの笑える。でもすぐ飲めるの有り難い!」

「津田、おつかれ〜。流石のタイミングだろ?じゃあ早速乾杯しよう」



 昌大も座ったところで「よし、んじゃ乾杯!」との川瀬先輩の一声で飲み会が始まった。

 今回、この飲み会の予約をした友人である津田昌大は俺の同級生だ。小学、中学、高校とずっと一緒なのだが、仲良くなったのは中学からだった。理由は川瀬先輩のときと同じく、部活が一緒でポジションも同じだったのもあり仲良くなった。ちなみに部活はバスケ。

 昌大もイケメンの部類だと思う。川瀬先輩よりちょっとチャラい感じはするが、彼女がいたこともあったはずだ。タレ目で明るい茶髪というのもあって、チャラいどころか遊んでいそうと勘違いされがちだが、真面目で一途なやつだ。

 川瀬先輩と昌大とは、こういう飲み会の他に、家で集まったりドライブに行ったりするのも含めると、多いときは週に2〜3回は会っている。ちなみに高校のときはアルコール無しで、お互いの家やカラオケ、ゲーセンがメインで遊んでいた。


 俺が生まれる頃に成人年齢の見直しがあったようだが、8年ほど前に飲酒と喫煙の年齢も成人の年齢に合わせることに法律が変わった。

 俺は、アニマートのおかげもあるのかなと思っている。だってゲームの中で、食堂の料理を食べることもできるのだが、アニマートの飲酒が元々18歳以上となっていたのだ。

 勿論、ゲームなので満腹になることも無ければ酔うこともない。でも気持ち的には「いけないことをしている」ってなってしまうのが日本人だ。時期的にもアニマートがプレイできるようになってから2年後だし、関係ないとは思えない。

 なんたって世界中のお偉いさん達が動かしているのがアニマートなんだ。やりづらいと思われてプレイする人がいなくなったら意味がないだろう。日本だと政治家が新しい部署まで作って運営しているはずで、だからこそ職員全員が国家公務員というエリートなのだ。

 ただ、飲酒が18歳以上となったとはいえ、暗黙の了解みたいな感じで、外で飲むのは高校を卒業してからって人が多い。タバコもそうだけど、制服姿では控えるって感じだ。



「いや〜、なんで毎日問題が起こるんだろ。一つ一つは小さいものだから、負担自体はあんまないけどさ。そろそろ一人じゃきついかな」

「そんなこと言って千弦先輩はまだ誰も雇うつもり無いんでしょ?もう少し周りの人に頼ってもいいんじゃないっすか?」

「そうですよ。昌大は難しいかもしれないけど、俺とか時間に融通ききますよ?川瀬先輩と同じ通信制の大学だし、仕事は自由だし」

「そうは言っても誰か雇うってなると、その事務処理がめんどくさくてさ。今の時点でも税金関係は会計事務所に丸投げ状態なのに、雇用するってなったら契約書から何からきちんと作らないとだろ?そういうのがなぁ〜」



 そう言って川瀬先輩はため息を付きつつ枝豆をつまむ。

 ブツブツ言っているが、元々頭のいい先輩なのですぐに何でもできてしまう。しかし、何でもできてしまうからなのか、興味のあること以外をほとんどしない人なのだ。「やりたいことだけしたいから起業する」と言って、高校在学中に構想を練って卒業と同時に立ち上げた会社は、ネットをメインにしているのもあってか、都会とは言えない地元でも問題なく需要があり急成長中だ。

 大学だって、会社メインに動けるようにと考えて、日本最難関の国立だって行けたのに通信制のところに行っている。

 …まぁ、その先輩の姿を見て、仕事と両立させるなら通信制の大学もいいなと考えて、同じ大学に入ったのは俺だ。

 ちなみに昌大は、たくさんの本を読みたいって理由だけで、さっき話した日本最難関の国立大学も考えたようだが、先輩だけでなく俺も地元から出ないことがわかると、地元の国立大学に志望を変更したようでそこに通っている。

 ……俺の友人たちは頭の作りが俺とは違うのだ。

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