第78話 脱出するために
大広間へと出た後、檻を運ぶ男の内の一人は奥の椅子に座る白髪の男に声をかけた。
「銃騎士長、失礼します。子どもを一人牢屋へ連れていきます」
「ああ、分かっている。ネズミが入り込んでいるようだから気を引き締めておけ」
聞き間違いではない。この男は確かにネズミと言った。
僕たちの侵入に気づいているのか。
「そうなのですか?その割には静かですね」
「予定されていない隠し通路の開閉があったようだ。何者かは分からない、お前たちも注意しろ」
「分かりました。銃騎士長もお気を付けて」
檻はそのまま広間を通り、奥の通路へと進む。
僕たちの侵入がバレていいるのであると話が変わってくる。
おそらくシュウとアカリは敵と戦うことになるだろう。
二人の強さからして、敵の注意を逸らすことはできるだろうから、その隙に人魚姫を連れ出すべきだろうか。
しかし、気になるのはさっきの銃騎士長と呼ばれていた男だ。
銃騎士長と呼ばれていることからして、かなりの実力者ではないだろうか。
そんな男の目の前を、人魚姫を連れて通れるとは思えない。
となると、シュウたちがさっきの大広間まで来てくれるのを待つべきか。
僕が思考を巡らせていると、どうやら牢屋へとたどり着いたようだった。
牢屋はいくつも部屋が分けてあり、意外にも多くの人が入っていた。
僕は、檻を運んできた男たちが去った後、牢屋の部屋を見て回った。
ほとんどの牢屋には子どもが入れられていたが、一つの部屋の前で僕は止まった。
腰から下が鱗に覆われた尻尾の形をしており、下に俯く碧い瞳は悲しく煌めく。
少し巻き癖のある長い金髪をしたその美女は、紛れもなく人魚姫だろう。
僕は、姿を現して人魚姫に声をかけた。
「人魚姫様、僕はアキラ。コッジに頼まれてあなたを助けに来ました。まもなくタイミングがくればあなたをここから連れ出します」
人魚姫は突然現れた僕に一瞬驚いたが、状況を把握したのか口を開いた。
「そうですか、コッジが。しかし私がここに来たのも何かの縁。一緒に子どもたちを連れ出してはいただけませんか?」
人魚姫は予想していなかった提案をしてきた。
人魚姫だけならまだしも、子どもたちを連れて警備兵が多くいるこの場所から逃げ出すことなんてできるだろうか。
僕は少しの間考えたが、現実的に考えて出した結論を冷たく人魚姫に言い放った。
「人魚姫様、脱出は極めて困難です。子どもたちを連れ出すのは不可能と思われます」
「コッジだけでなく他の仲間も駆け付けてくれるはずです。みんなで協力すれば子どもたちを救えます」
人魚姫の言い分に僕が困っていると、隣の部屋で寝ていた子どもがこちらに話しかけてきた。
「僕らはほとんどが親に売られてここに来てるんだよ。ここを出ても生きていくのは難しいんだ。だから、助けてもらわなくていいんだよ、お姉さん」
子どもの話を聞いて人魚姫は眉間に皺を寄せ困った顔をしていたが、渋々納得したようだった。