第3話 ユーズ・ケイレント・グロス卿
グロス卿の屋敷にて。
俺は、アカリが話をつけている間、広間で待たされていた。
その間に一人の金髪の若い男が話しかけてきた。
「こんばんは、シンくん。初めまして。僕はユーズ・ケイレント・キースという者だ。君があのジャイアントダークウルフを倒したというのは本当かい?」
名前からしてグロス卿の跡取りだろうか、少し馴れ馴れしくダークウルフの親玉の件を訪ねてきた。
「ええ、まあ。アカリさんのアドバイスのおかげですけどね」
「アカリは賢いメイドだからね、うちの自慢だよ」
アカリの話によると、アカリはひと月前にこの屋敷に来たばかりの見習いメイドらしい。
「でも、調子には乗らないことだよ、こんなご時世だしね」
「こんなご時世とは、どういう意味ですか?」
「おや、君はあまり世間を知らないのかね。あちこちで新種の魔物が発生して、人々を襲い、魔物と戦うための人手不足だという状況だよ。ジャイアントダークウルフが倒せたからといって、世の中にはまだまだ上の魔物が沢山いるし、新種の魔物だって現れてきている」
アカリとキースの話を合わせると、俺が倒した魔物は一応この近辺では大物だということらしい。
「一時的にボス系統の魔物を討伐できたことに父上は喜ぶだろうが、すぐにまたボス系統の魔物が嗅ぎつけてくるだろうよ」
ボス系統の魔物が率いる魔物の一団が、一定の区域内を支配し、影響力を持つようだ。
「それと、今回助けになったからといってあまりアカリを当てにしないでほしいね。仮にもうちのメイドなんだから」
「あら、シンさんならもうお一人で十分だと思いますよ」
グロス卿との話を終えたらしいアカリが話に入ってきた。
「グロス卿がお待ちです、シンさんこちらへ」
俺はキースに軽く会釈してアカリについていった。
案内された部屋に入ると、金髪に白髪混じりの髪をしており、長髪の男が座っていた。
「こんばんは、君がジャイアントダークウルフを討伐してくれたというアマノ・シンくんだね」
「はい、初めまして。どうぞよろしくお願いします、グロス卿」
「うむ、どうやら君は旅をしていて偶然アカリと出くわしたようだが」
アカリが気を利かせて記憶喪失のことははぐらかしてくれたらしい。
「どうかね、しばらくはうちで雇われて、辺り一帯に現れた魔物を討伐するというのは?」
なかなか取っ付きやすそうな提案をしてきた。
「屋敷に住まわせていただけるのですか?」
「うちの屋敷に住んでもらおうと思ってはいるのだが、その場合報酬はボス系統の魔物を討伐した時のみにさせてもらうが、よろしいか?」
「条件はそれで大丈夫です。期間はどうしますか?」
「期間は好きなようにしてくれて構わないよ。こちらとしては、ボス系統の魔物がいない間に好きなことができるのでね」
「分かりました、ではよろしくお願いします」
こうして俺は、グロス卿の屋敷に世話になることになった。
「それと、キースはまだまだ未熟者だがぜひとも仲良くしてほしい」
少し気になるのはキースのことくらいか。
アカリに出会ったことと、いきなりボス系統の魔物を討伐できたおかげで、かなりの好条件で生活できることになったのであった。
そこから俺は、ファンディオ皇国クレイブ村、グロス邸にてこの世界、アイルスのことを知っていくこととなる。