第36話 アイルス出身者
-シン視点-
薪割りを終えると、俺はアキラとアカリと一緒に和合隊本部に帰っていた。
「夕日が綺麗ですね」
その帰り道、日が沈みかけていて、とても綺麗だった。
思えばインベルに来てから、未知の世界を理解することに全力で、のんびりと過ごす時間はなかったように思う。
インベルでは、一般人は妖怪を警戒し、妖怪を知る者と妖怪は魔族を警戒しており、どことなくピリピリとした緊張感がある。
アイルス出身者ならではの雰囲気があり、俺はアイルスを思い出していた。
「二人は、アイルスに帰りたいとは思わないのか?」
「私は、とりあえず今の環境に慣れるのに精一杯で。ただ、私たちの身に何が起きたのかを突き止めたいとは思います」
「僕はインベルに来る直前、正体不明の敵に襲われたんだよね。だから、すぐにアイルスに戻っても危険かもしれない。いつかは敵の正体を暴くために帰りたいけどね」
魔族がインベルにも存在する以上、何らかの方法でアイルスとも行き来できるのではないかと思っている。
最も、魔族がその方法を教えてくれるとは到底思えないが。
しかしそこで気になるのは、インベルとアイルス以外にも世界は存在するのではないかという点だ。
この謎多き世界、これ以上未知の要素が加わるのであれば、かなり複雑な仕組みとなっているということだろう。
「敵の強さは分からないけど、もしもアイルスに戻っても妖力を使えるのであれば、勝てるかもしれない」
「その点では、インベルに来られたのはラッキーかもしれませんよね」
「ああ、できるだけ多くのことを学べる内に学んでおかないといけないよな」
インベルに来たときのように、いつまた世界間の移動が起こるか分からない。
だから、妖力に関しては抜かりなく身につけておきたい。
勿論、ハクアに言われた妖怪と人間との和解も念頭には置いておくが。
「妖怪と人間との争いの原因は、魔族や魔物にあるんだよな?」
「大半はそうだと言われていますけど王都に関しては事態は複雑なようですよ。ですよね?アキラさん」
「そうなんだよ。人間に対して非協力的な態度の妖怪も勿論いるし、人間側だって妖怪に対して敵対心を抱く人もいるからね」
「妖怪と人間が分かり合うっていうのは難しいことなのかもしれないな」
「一括りにはできないと思うよ。やっぱり、分かり合うことのできる妖怪と人間もいればそうでない場合もある。大事なのは見極めることかもしれないね」
「アキラさんは最近、王都内での妖怪の動きを調べていらっしゃるんですよね」
「そうなんだよ。最近、和合隊の隊員の中にも行方不明者が出ていてね。妖怪の動きが関係しているんじゃないかって話なんだ」
「和合隊の隊員が行方不明なのか。魔族も関係しているんじゃないのか?」
「それはまだ分かってないよ。でも、王都内ではまだ魔族の動きは見られていないから、その可能性は低いかもね。ただ、近いうちに任務に就くことになるかもしれないよ」
俺たちは、夕焼けを見ながら和合隊本部まで帰った。
その後夕飯時も共に過ごし、俺とアキラは同じ隊員寮の部屋に戻った。
「それじゃあシンくん、おやすみ」
「おやすみアキラ、明日もよろしく頼む」
今日は俺たちはお互いをよく知ってから眠ることになった。