第35話 薪割り
-アキラ視点-
シンは呑み込みが速かった。
一日目の束打ちで少しでも木の束が折れるようになる人はあまりいないんじゃないだろうか。
シンが一つの束を全部折り切ったタイミングで、昼食の時間になった。
昼食は、本部から弁当が届けられる。
僕とシンとアカリは、外で一緒に弁当を食べた。
「シンさん、束打ちはどうでしたか?」
「見た目以上に難しかったよ、アキラはよくできるな」
「アカリは僕よりも上手なんだよ。やっぱり取り組み方が人一倍熱心だしね」
「そんな風に言わないでください。ただ、ガジマ隊長が束打ちは重要な基礎訓練だとおっしゃったので、束打ちばかりしていただけのことなんです」
「そういえば、二人は何番隊に所属してるんだ?俺は三番隊なんだけど」
「僕は四番隊だよ。最近は王都内の妖怪たちに関する情報を集めてる」
「私は七番隊で船について学んでいます。いつか役に立つ時が来るのではと思って……」
デクル教授があんな目に遭ったことから、僕は何よりも情報を集められるようにしておかなければならないと思っている。
インベルで、できるだけ情報を集める術を磨いておいて、いつの日かファンディオ皇国に戻ったときに、デクル教授を殺した犯人を突き止めたい。
その場合、デクル教授を殺した目的も探りたい。
きっと何か重要なことを、デクル教授は握っていたんだと思う。
「いずれは私もアキラさんも二番隊に移ると思います。シンさんもそうなるのでは?」
「本格的に妖力の鍛錬を積むならそうした方がいいんだよな。でもそのためには、他の隊である程度経験を積むしかない」
「いずれ同じ隊で任務につけるといいね」
僕らは、アイルスに関する話は一切しなかった。
周りに他の隊員もいて、聞かれたくはなかったからだ。
話に出さないのは暗黙の了解ということだ。
今後も大っぴらにはできないであろう。
アカリは昼食を終えると、隊舎の中に入っていった。
僕とシンも昼食の後、今度は薪割りに取り組んだ。
薪割りは体の使い方の練習と、妖力による軌道修正の技術の訓練を兼ねている。
シンは妖力を結構使いはしているが、効率よく薪割りをしていた。
しかし、妖力に頼りすぎてはいけないとガジマ隊長は言っていた。
「シンくん、妖力による軌道の修正はできるだけ最小限にした方がいいらしいんだ。やっぱり妖力は、奥の手としてとっておくのがベストだから」
「一度に使える妖力の総量は決まってるからな。使い切ってしまうことはないから便利なんだけど」
割った薪は、王都の住民に売り、和合隊の資金にもなる。
あまり足しにはならないようだけど、隊員の訓練と兼ねて一石二鳥というわけだ。
薪割りの作業は、日が暮れそうになるまで続いた。




