第30話 妖火刀
すべて先を読まれるということは、考えてから動いたのでは遅いということだろうか。
純粋な剣術はこの人形にすら劣ってしまうというのは悲しいが、このからくり人形だって妖力で動いている。
特殊な力に頼っているという点では純粋な剣術ではないと納得するしかない。
それに今は入隊試験中みたいなものだ。
できるだけ力を使わず人形ぐらい倒してしまいたかったが、この和合隊本部の舞台に相応しい力は使うとしよう。
俺は、剣を一度鞘にしまい、妖力を剣に集中した。
そして、剣が刀となったところで刀を抜く。
俺は、刀を横に振るった。
からくり人形は俺に反応し、木剣で受ける。
木剣に焦げ目がつくが、木剣を破損させることはできず、俺はそのまま魂の記憶を発動させた。
俺が一撃、二撃とからくり人形に傷を与えていくが、それに呼応して、人形の動きも加速していく。
さらに意表を突かれたのは、人形がいきなり攻めに転じてきたことだ。
凄まじい攻防の中で、俺は何より自分にダメージが与えられないことを重要視した動きを貫き通した。
そして、俺の刀から発される火によって、からくり人形が徐々に燃え上がり、破損していく。
妖火刀、それがこの刀の名前だ。
切りつけたものを燃え上がらせるという特性があるが、火炎斬のような切れ味はなく、相手にダメージを蓄積させていくという持久戦向けの武器だ。
なお、妖力によって作り出される武器と能力であるため、魔力は一切消費しない。
よって、自分で刀を握っている限りは時間制限はない。
この能力を存分に発揮させるためには、刀を当てるという技術が必要になるため、今のところかなり魂の記憶に頼ってしまいそうだ。
それでも、手強いからくり人形にダメージを蓄積させているところをみると、魂の記憶との相性はいいみたいだ。
からくり人形と俺の攻防が激化する中で、俺の刀とからくり人形の木剣が両方ともお互いの腕に命中する。
そして、妖火刀の能力のおかげで、相手の右腕を切り落とすことに成功した。
「そこまで!凄まじい剣捌きだったよ、シンくん。それに、素敵な刀と妖術を持ち合わせているね」
「ありがとうございます。かなり妖力に頼ってしまいましたが。それにしても、強いからくり人形ですね」
「気づいたかもしれないが、相手の強さに応じて強くなるよう設定されているんだ。その追い上げにも動じず、見事な戦いぶりだった。私は彼を入隊させてもいいと思うんだが、どうだ?ガルク」
「ああ、実力は申し分ないだろう。ところで、妖力はどこで覚えたんだ?シン」
「妖力はとある妖怪に教えてもらったんです。それまでは全く何も知りませんでした」
カガン島のことは伏せておけとハクアが言っていたし、アイルスのことも言えない。
少しばかり不信感を与えることがあるかもしれないが、それは仕方ないだろう。
「そうか、分かった。じゃあオレとジェスタを見届け人として、お前は晴れて入隊だ、シン。喜べ」
「ありがとうございます。ガルクさんこれからもどうぞよろしくお願いします」
こうして俺は、無事和合隊に入隊することができた。
あとは、魔族と妖怪、それに妖力についてもっと知ることと、テンミョウ・シュウに会うことだ。
「所属する隊については考えなければならないだろう。一度三番隊隊舎に移動しよう」