第2話 魔物との戦闘
-シン視点-
話が聞けそうでひとまず安心したが、できるだけ不信感を与えずに情報を聞き出したい。
「無事でよかった。ところで君の名前は?」
質問をスルーしたことに対して不服そうな少女だったが、名前を教えてくれた。
「私はイザヤ・アカリと申します。旅で近くのクレイブ村に住んでいる最中で、山菜狩りをしていたところ日が暮れて迷子になってしまいました。救っていただきありがとうございます。ところで、どうして魔法の使い方をご存じないのですか?」
「実は俺、記憶喪失なんだ」
少し怪しまれる危険性はあるが、魔法だけじゃなくて何もかも知らないのだからこれが一番無難だろう。
「なるほど、そういうことだったんですね!それはものすごく納得です」
良い意味で期待を裏切り、簡単に信じてくれた少女はこの世界のことを話してくれた。
どうやら俺は現在、ファンディオ皇国クレイブ村の近くのクレイブの森にいるらしい。
気になる魔法についてだが、一度目の発動時は詠唱をして、その魔法の感覚を掴むのが基本らしい。
一度感覚が馴染んでしまえば、それ以降は無詠唱で使えるようになるようだ。
魔法を乱発しすぎると、魔力切れになって、魔法が一切使えなくなる上に魔法体制が著しく低下した状態となる。
俺はそのアカリという少女に炎魔法系統を基本から順に教えてもらった。
一度詠唱して使ってしまえば覚えられるようで、俺は次々と魔法を習得していった。
「速すぎる……」
アカリは焦心に駆られたような表情をした。
これも魂の記憶のおかげかもしれない。
「記憶を失う前は相当魔法を使えたのでは?」
かなり強引な納得の仕方をしてくれたようだ。
その後もアカリはほとんどの基礎的な魔法を教えてくれた。
「本当に信じられない速度です。ところで、お名前は覚えておられるのですか?」
「ああ、シンだよ、俺は。アマノ・シン」
隠す意味もないと思い俺は正直に答えた。
こんな場所で長い間話をしてくれていいのかと俺は気にかけたが、アカリは一切気にせず長々と魔法について話してくれた。
しかし、森の静寂の中、一際大きな気配が近づいてきたのを俺は感じ取った。
少し離れた場所でうごめく大きな影。体長5メートルほどのさっきの狼の親玉らしき生物が近づいてくる。
「こうなったら一か八か……」
アカリが小声でそう呟いた。
「シンさん、今から伝える魔法をあの大きなダークウルフに放ってください。おそらくはダークウルフたちのボスでしょうから、気を付けてください」
俺はアカリから聞いた“ヘルファイア”という魔法を詠唱し、放った。
大きな火炎が放射され、敵の体ごと焼き尽くした。
黒焦げになった巨大な狼の体はそのまま倒れた。
アカリに促されるまま魔法を使ったが、どうやらうまくいったらしい。
「さすがですね、シンさん」
俺たちはその現場を後にすることにした。
俺はとりあえずアカリが住み込んでいる屋敷を訪ねてみることにした。
ありがたいことに、アカリとしては俺の腕を見込んで俺の住む場所についてどうにか屋敷の持ち主に掛け合ってみたいらしい。
程なくして俺たちはユーズ・ケイレント・グロス卿の屋敷に到着するのであった。