第17話 カガン島から再出発
-シン視点-
鬼から逃げ延びてから一か月の間、俺はハクアに妖力の使い方を教えてもらっていた。
カガン島には妖怪同士の縄張りがあるらしく、鬼は特に夜にしか行動しないらしいので、あれ以来鬼には出くわしていない。
妖力は魔力に比べて扱いにくく、妖力によって発揮される効果に個人差があるのが特徴だ。
ハクア曰く、「お主が使う魔力は攻撃の直接的な強化につながっておるが、妖力は状態の変化、もしくは効果の付与を行う。そこが決定的な違いじゃ」ということらしい。
ハクアには鬼から逃がしてもらっただけでなく、妖力の使い方まで教えてもらい、世話になったのだが、最近やけに密着してくる。
一緒に寝たがったり、温泉に入りたがったり。
あまり人が来ないというのもあるのだろうが、これ以上一緒にいるとお互い変な気を起こしそうになるのではないかと心配だ。
ハクアは仮にも妖怪だ。
そんな存在に心を奪われてしまえば、どうなってしまうのか予想がつかない。
そんなわけで、一通り妖力の使い方を覚えた俺は、早々とこの地を離れることにした。
「もう行ってしまうのか。寂しくなるのう」
「いろいろ教えてくれてありがとうな。またいつか会いに来るよ」
「困ったことがあればいつでも訪ねてくるがよい。それと、何度も言うが魔力の扱いには気を付けるのじゃぞ」
「ああ、それは肝に銘じておくよ。早いとこ妖力をもっと使えるように練習するようにする」
魔力について知る者はこの世界には少ないが、知っている場合は魔族が使うものという印象が強いので、誤解を避けるためにも魔力を使うのはいざというときだけにしておくようハクアに言われている。
とは言っても、妖力は知ってからまだ日が浅く、扱いには自信がないので、妖力の扱いに慣れるまではできるだけ困難な戦闘は避けたい。
できるだけ戦闘をせずに、王都ネスピアまでたどり着き、テンミョウ・シュウなる人物に会えるといいのだが。
「妖怪にも良い妖怪と悪い妖怪がおる。その見極めは思いの外難しいじゃろう。妖怪の選別ができるようになるまでは、あまり妖力にも頼りすぎんことじゃ。特に霊視はな」
妖怪かどうかは慣れれば一目見れば分かるらしいが、一般人は妖怪と知らず接している場合も多いらしい。
「妖怪ってどのくらい一般人に紛れ込んでいるんだろうな」
「わしもカガンの地に入ってから随分と長い時を過ごした。人里がどうなっておるのか直接は分からんのじゃ」
「とりあえず王都に行って和合隊の人に会えばいいんだろ?何が起きているのかはその後じゃないと分からないだろうけど」
「あまり先を急ぐでないぞ。わしが教えたことを思い出して、生き延びることを最優先とするのじゃ。特に魔族には気をつけろ」
「ああ、分かった。じゃあそろそろ行くよ」
「まずはナラクの橋、気を付けて渡るのじゃぞ」
俺は頷いて、手を振りながら小屋を後にした。
俺は小道をずっと北に走った。
ナラクの橋は、霧が深く、日中に渡るのが最善ということらしい。
この小道は妖怪の縄張りに入っていないらしく、妖怪と出くわすことはなかった。
昼はかなり平和な島だなと思っていると、程なくして霧が深くなり、石製の大きな橋が見えてきた。
ナラクの橋、人間がカガン島に入らないようにできた橋らしい。
この橋は、妖怪と人間がもっと協力していた時代に、妖怪と人々の力によって作られたらしい。
人間にとってどれほど渡りにくいものなのか、試してみることにする。