第16話 成り行きを装って
私は、さっき宿の店員に追い返された少年をつけてみることにした。
少年もどうやら宿に困っているようだ。
しかし、気になるのは少年の正体だ。
魔法を使って妖怪呼ばわりされるということは、普通の人間が使う技ではないということ。
それをこんな場所で使って追い返されているところをみると、どうにも世渡り上手ではないようだ。
しかし、あれだけ安定した光魔法はある程度魔法が使えなければ発動することができない。
ファンディオ出身者なのか、その場合どうやってここにたどり着いたのかが疑問だ。
少年は次の狙いの宿を見つけたようで、店に入った。
少年の会話が気になるので、私も店に入ることにした。
「すみません、つかぬ事をお聞きしますが」
「何だい、お客さん」
「妖怪って何なのでしょうか?」
これは、確定的だ。
私と同じ、“天地の落とし穴”で来たのではないのだろうか。
「そりゃあお客さん、近頃辺りで悪さをしている連中だろうよ。あまり深く知ることはないぜ」
「ところで、宿代なんですが……」
「払えないのかい?そりゃあないぜ、お客さん。他を当たりな」
「そうですか、分かりました……」
少年は悲しそうに店を出た。
「そっちのお嬢さんは何の用だい?」
もう少し少年のことが知りたいが、まずはこっちだ。
「私、他の村でメイドをしていたのですが、今日まさに、雇い主に解雇されてしまって……。行く当てがないのです。私のせいで解雇されたのは重々承知なのですが、今晩だけでも止めていただけないでしょうか」
「あんたも金がないのかい。はあ、まあいいよ。一晩だけな」
「ありがとうございます。それとさっきの少年のことなのですが」
「何だい、まったく」
「彼も泊めてあげてはくれませんでしょうか?これも何かの縁のように思えてしまって」
「分かったよ、さっきの野郎を見つけられたらな」
店主はため息をつきながら答えた。
「ありがとうございます!優しいですね、おじさんは」
私は軽く会釈して店を出た。
探知魔法でさっきの少年の位置は把握している。
とにかく、まずは情報を集めないと。
絶対的に、この世界で何かが起こり始めている。
私は、笑顔で少年に話しかけた。