第13話 インベル
俺は青白い火によって導かれた小屋へと入ると、そこには一人の女が座っていた。
白く長い髪に白い耳が頭から生え、後ろには尻尾も見える。
赤い和服から見えるその白い肌は、雪のようで妖しく光る。
その存在について疑問を投げかけようとしていると、俺より先にその女が口を開いた。
「わしはハクア、見ての通り妖怪の狐じゃ。お主、名は何という?」
妖怪、魔族とは違う存在なのだろう。
「俺はアマノ・シンです。ハクアさんがあの青白い火で助けてくれたんですか?」
「そう気を張らんでもよかろう。ハクアでよいぞ。そしてその通り、あれはわしの妖術の一つじゃ」
「そうか、助けてくれてありがとうな。でも、あの鬼たちはどういう存在なんだ?」
「お主の質問に答えてやるつもりじゃがその前にお主の正体を確認しておきたい。お主は異界からやってきたのであろう?」
ハクアは、俺が気になっていたことを質問してくれた。
俺がこの地に降りてきてから気になっていたこと、それを明らかにしておきたい。
「なら、魔法は知っているのか?」
「わしの知る限り魔法を使えるのは魔族という連中だけじゃ。お主の戦いぶりは見させてもらった。お主のいた世界では人間も魔法を使えるのじゃな?」
「そういうこと。俺も戦ったけど魔族は魔物という生き物を使役する、奴らは人間にとっての敵だ」
「それを聞いて安心したぞ。何分、魔族には悪い印象しかないのでな」
「それで、この世界について教えてほしいんだけど。この世界に呼び名はあるのか?」
「世界の名はインベルで、わしらが今おるのはランデリア王国じゃ。インベルは、妖怪と人間が共に暮らす世界よ。ところが近頃、妖怪と人間の間に小規模な争いが頻発しておってな。話は変わるがシンよ、鬼の使う術は手強かったであろう?」
俺はやはり異世界に来たようで、取り巻く環境は幾分か違うようだ。
「最初に見たときは驚いたよ。あれが魔法でないとするなら、この世界にある技なのか?」
「あれは妖怪に伝わる妖術じゃ。コツを掴めばどんな人間でも似たような技を使えるようになる。勿論、お主もな」
ハクアは意味ありげにこちらを見つめてくる。
「俺にその使い方を教えてくれるのか?」
「そのつもりでここへ呼んだのじゃが大切な条件がある。これは、その技を覚える者の責任とも言えることなんじゃが、妖怪と人間の協力関係を築くために尽力すること。それからこの世界で魔族について調べることじゃ」
「気になってたんだけど、魔族はこの世界にもいるのか?」
「ああ、奴らはこの地、カガン島にも来たことがある。何やら怪しい連中でな。人間たちを監視するために、妖怪を利用しようとしたのじゃ」
魔族はこの世界でも悪さをしているようだが、どうやってこの世界に来ているのだろうか。
「これはわしの勘じゃが、妖怪と人間との間に起こる争いも、魔族が関係しているのではと踏んでおる」
「大体の話は分かったよ。それで、俺は何をすればいいんだ?」
「まずは妖怪と人間との争いの原因について調べてほしい。それから、魔族の目的を探るんじゃ。具体的なことはまた話そう。お主は疲れておろう、今日はもう休め」
「そうだな、この世界についてもう少し知りたいから、明日ゆっくり聞くとするよ」
思えばグロス邸を出発してから一睡もしていないし、何より連戦で疲れた。
長い緊張が、ようやく解けると、俺は全身の疲れを感じ始めた。
俺はハクアに左腕の治療をしてもらい、横になるとすぐに眠りに落ちた。




