(7/13)前の彼女とはどうだったんですか?
「え? 前の彼女とどうだったのかって?」
困惑しきった顔でミツヒコが問いただした。
「そんなこと聞いてどうするの?」
紗莉菜は黒と白のボーダーの服を着ていた。下はゆったりとしたパンツで裸足である。仁王立ちになった。
「前の彼女ともああいう『ジメーットした』『意味のわかんない』付き合い方してたかってことだよ」
付き合って2年もたつとだいぶ可愛気も失せるのです。申し訳ない。
「いや、そんなこと聞くなんてお互いルール違反じゃない? どうしても前の彼女と比べちゃったりしない?」
「比べない。気にならない。どうでもいい」
『はぁ〜』とミツヒコがため息をついた。「まぁ紗莉菜はそうかもねー」
そうだよ! 馬鹿か! 昔は昔! 今はいま!
前だけ向いて進めよ後は見るな!!
紗莉菜は仁王立ちの上に胸をそらした。
「前の彼女ともそうだったけど」
やっぱり!
「大学生のときの彼女ね。同じバイト仲間だったんだけど。あっ! 紗莉菜に初めて会ったときにはもう別れてたよ! 二股なんてしてないからね!」
「そんなこと聞いてないわ。どうでもいいし」
「どうでもいいんだー」
「けっ小市民が」
「あっ! それオレが日頃から気にしてるやつ。わざわざ言わなくても」ミツヒコは悲しそうになった。
ふんっと紗莉菜は仁王立ちのまま明後日の方向を向く。
「楽しかったよ。バイト仲間と飲み会して、別々に帰るフリしてこっそり待ち合わせてバーに行ったりしたよ」
「はぁ〜!『バー』だって。どーせ小洒落てんでしょ。ああしゃらくさいっ」
「ボロカスだね……」
ちなみに中原の前の彼氏など聞かれたことはない。
いるわけがない
からだ。
@@@@
会社帰りに社長たちと飲み倒した後、ミツヒコが車で迎えに来てくれることもあった。
『朝までコースならいいけど、11時ごろ帰るなら呼んでくれる? そんな夜中に女の子が一人で。心配だよ』ということなのだった。
王子様はエスコートまで完璧なのだ。
しかし待ち合わせ場所につくとミツヒコは必ず周囲を見渡して「社長もういないよね」という。
迎えに来てもらってなんなんだけどイライラする。
酔ったついでに「なんなの? 芸能人のつもりなの?」と言ってしまった。
「だってさー。プライベートでも社長に会うとかやだよオレ。緊張しちゃうよ」
「気を使わなきゃいいんじゃないの?」
「社長に『気を使わない』って何?」
つい『この小心者めが!』と言ってしまいたくなる。
ああもう我慢、我慢。
思い出すんだ。ミツヒコのいいところ。よく気がつくとか。よく気がつくとか。よく気がつくとか!!
だーーーーっ!
腹立つほど気がつくとか!
【次回】『防犯カメラだって!?』です。