(6/13)秘密のオフィスラブ
だがしかしである。その分会社では一切話しかけられなかった。
朝出勤するときなどにたまたま会えば挨拶してくれる。しかしそれが紗莉菜は嫌だった。
あの爽やかな笑顔で「おはよう! 中原さん!」と言われるのだ。
こちらもその流れを読んで「おはよう花沢くん」と言うわけだ。他人行儀だ。
『おはよう紗莉菜〜』って言って欲しい。もう付き合って2年なのに、そのときだけは昔の、片思いしてたころの、ろくに話もできなかったころに戻った気がする。
たまたま社食で同期と同じ席になったりする。こちらは宮野カオリと、太田美穂と、中原紗莉菜。向こうは上条誠也と、大倉敦士と、花沢光彦。
自然と6人で話をして、休みの日は何をしてるという話になった。
「最近はー。式場探しだよねー」宮野カオリのうんざりした声。
「ねー。誠也ー。20件くらい回ってもう面倒くさいよー」
嘘つけ!!! 本当はルンルンのくせに。
『あ〜ついに捕まったかー』とミツヒコは思う。『同期も親も完全包囲網だったもんなー』と上条に同情の視線を送った。
「参ったよ。どの式場も同じにみえる」こっちは本当に参ってそうだ。
「全然違うよー。レストランとか、一軒家とか、ホテルとかいろいろあるんだからー」まぁ宮野の嬉しそうなことと言ったら。
「で? 中原さんは何をしたの? 先週の日曜」とミツヒコの明るい声がした。
『アンタん家だよ!! 先週も先々週も先々々週もアンタち! アンタが1番知ってんだろうが!!!』
という怒りをグッとこらえて「家でゴロゴロしてた。あとドラッグストア」とぶっきらぼうに言った。
全員で『ふふふふ』って感じになる。『中原さんならねー』
『こいつ絶対楽しんでんじゃん!』と思う。
心ん中で『実はオレの家だけどね〜』って思ってんじゃないかと。
そう。どうやらミツヒコはそっち側の人間のようだった。『秘密のオフィスラブを楽しむ側の人間』なのだった。
誰にも内緒にして。
周囲を見計らってコッソリ手をつないだり、メモを交換したり、2人だけの合言葉を使う。
そういうことが『楽しい』と思える人種なのだった。
だーーーーっ!!!!!
なんっにも楽しくない。秘密の『オフィスラブ』とかしゃらくさいっ。
もっとこう。太陽の下で堂々とオープンに生きていきたい。『意味はわかるけど意義はわからない』ただただ腹立つ。
紗莉菜はあまりに腹が立ったのでミツヒコの家に行った時に聞いてみたのだった。
【次回】『前の彼女とはどうだったんですか?』です。