(3/13)中原のやらかしとその顛末
城田から報告を聞いたシステム事業部小和田部長は色を失った。
もう、午後の9時だったが、懇意にしている同級生のデパート部長に電話する。
そのまま閉店したデパートを特別に開けてもらい、小和田自らお詫びの品を買った。
朝一番で鰐淵が社長の『鰐淵産業』までタクシーで行った。ちなみに汐留にあるビルの25階である。
車中で課長の城田と共に
「とにかく土下座しろ!! 社長が顔を上げろと言っても絶対上げるな。俺も城田も土下座する。3人で土下座だわかったか!」と怒鳴った。
あろうことか。中原はやや不貞腐れた風情なのだ。お前のせいなのに!
『中原! 鰐淵産業は社格こそ下だけど、大事なお客様だ。お前の首が飛んだぐらいじゃすまないかもしれないんだぞ!』
待合室で待たせてもらい社長が出社したと連絡を受け社長室に3人で転がるように入る。
「申し訳ありませんでしたぁ!!」と最敬礼。そのまま土下座の体制に入ろうとした。
「なかはらーっ!!!!」
鰐淵は部長も課長も無視した。ドスドスと音を立てて中原まで一直線に向かってくる。
そして中原の腰をバシィィィ! と叩いた。
「気に入ったぁ!!!!」
へ?
鰐淵が満面の笑みで中原の肩をギュー! っと抱いた。
「お前には見込みがある!! オレも昔は取引先とケンカしながら仕事したもんだ!! お前の言う通りだ! もう男とか女とか関係ないぞっ! 仕事もするし殴りもする! それでいこう!!!」
えええ………。
鰐淵の笑顔を受けて後頭部の光もいつもより輝いている。
「社長!! 昨日はすみませんでした!!」
中原がはつらつとした顔になった。
「お詫びに今日は昨日の3倍飲みます!!」
「おうっ! 吐くまでいくぞ!!」
ええ…………。ここだけ時間が昭和に巻き戻ったの?
2人で肩を組んで、なんか窓の高層ビルとか見ながら
「ガッハッハー!!!」と笑っているではないか。
部長の小和田と課長の城田はお詫びの品を持ったままその場に立ち尽くしていた。
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そこからが中原紗莉菜の快進撃の始まりだった。鰐淵の飲み会に行けば別の社長を紹介される。さらにその社長が他の社長を紹介する。さらにさらにその社長が他の社長を紹介して……。
中原はとにかく酒が飲めた。
2次会、3次会は当たり前。4次会5次会下手すると6次会まで付き合える。
最後はどこかの社長と抱き合って居酒屋の隅で寝てたりする。
それに『逆立ちして酒を注ぐ』という仰天宴会芸まで持っていた。
178センチの高身長で目立つし男っぽい。たまに酔っぱらった社長に胸を揉まれたりしたが
「何すんのよっエロジジィ!」
ピシャッと社長の手を平手打ちしたりする。そういうところがまたウケた。
凄まじい勢いで売り上げをあげていくのを、中原の同期22名はポカンと眺めているしかなかった。
【次回】『悪いことをしているわけでもないのに』です。




