(1/13)『新人殺しの芹田』と花沢光彦
同時期に入社しても、23名もいれば様々な個性がある。
特に好対照なのがこの2人。
中原紗莉菜と花沢光彦だ。
中原紗莉菜はスタンドプレイヤー。どんどん乗り込んで、どんどん売りこんで、どんどん成果をあげるが、とにかくミスが多い。
猪突猛進。勇猛果敢。前しか見ない、左右は見ない、当然後ろは見ない。
『進めー! 進めー!!!』
そんな女だ。
対する花沢光彦は『チームプレー』を大事にする。前も見るし左右も見るし後ろも何度も確認する。
目立った成果もないがミスもしない。1歩1歩進むタイプだ。
今回はこの2人の仕事について話そうと思う。さらに入社後3年。仕事で組んでしまったがために同期をパニックにおとしいれた話をしようと思う。よろしくお付き合いいただきたい。
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まず、花沢光彦の最初の上司は芹田進という人であった。この芹田は別名『新人殺しの芹田』と言われていた。とにかくいびる。ミスを見つける。ネチネチ責める。何人もの新人が潰れてしまう。
そこに花沢光彦が配属されたわけだ。
この花沢というのが!
やたら愛想のいい無能そうな男で、芹田は内心『こいつは指導しがいがありそうだぞ』とホクホクした。
入社成績も聞いたがたいしたことない。新人研修でも光るところはなかったらしい。
『あの中原紗莉菜が来なくてよかった!』と芹田はホッとした。中原紗理奈は人事の知り合い曰く『10年に1人の逸材』なんだそうだ。筆記試験も突出してたし、研修でもリーダー格、役員面接に至ってはほぼ満点だったらしい。そんな優秀な奴に来られても困る。
ところが1ヶ月もたたないうちに芹田課長は調子を崩すようになった。
入部1週間程でそれとなく花沢の仕事ぶりを部下に聞くと
「課長! あいつはいいですよ!」と大絶賛。
何がいいかと聞くと『物覚えがとにかくいい』とのことだった。
教える仕事は1回で覚えてしまうらしい。しかもミスしない。渡した資料はざざ〜っと見ただけでだいたいの概要をつかむそうだ。その上親切。
『え? 前評判と違くない?』
芹田は焦る気持ちになった。
1ヶ月ほどたって初めての出張を芹田と花沢で行くことになった。
とは言っても花沢は単なるカバン持ちである。ほんの2ヶ月まで大学生だった男だ。誰も期待していない。
芹田は出張の内容など何も教えず(意地悪)花沢のミスを待った。
出発30分ほど前だろうか。花沢がやや慌てた様子でやってきた。
「すみません! 芹田課長!!」
『キタ〜!!!』と思った。『あいつミスしやがった〜!!!』と思った。
「なんだぁ!! 花沢!! こっちは忙しいんだ! 大事な商談なんだ!!!」と怒鳴ってやった。
「申し訳ありません!!」花沢が最敬礼する。
「こちらにハンコお願いします!」
『ん?』となった。書類を見る。
あ……。商談に持っていくハンコ。自分の欄押し忘れてた…………。
バーン! と乱暴に押してやった。機嫌が悪くなる。
商談はとてもうまくいったのに、その日1日芹田課長の機嫌は直らなかった。
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そして1年もたたないうちに、花沢は最初の部から『システム事業部第3課』に異動させられた。場所的には中原紗莉菜の2つ向こうの課である。
「あいつほんと使い物になんない!!」と芹田は怒っていたが、会社の全員がわかっていた。
あの『新人殺しの芹田』に初めて潰されなかった、新人だと。
ちなみに、芹田の下には今度こそ無能な部下がついた。芹田は毎日新人をいびり、水をもらった観葉植物のように輝きを取り戻した。
【次回】「温厚で謹厳実直な上司と中原紗莉菜』です。