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ショコラの世界



『地図が出来たぜ』

「地図?」


 シロが仲間になった直後にスキャンが終了しました、と腕時計が音声案内で喋る。

 そのスキャンが終わると、ジークがなにやら操作して半透明な、そして巨大な地図を照らし出した。

「これが世に言うプロジェクションマッピングというやつか?」と見上げると、『違う』と即否定される。


「こうなってるのか……」


 映し出された地図は、まるで雪の結晶のようだった。

 中央に小さなダイヤ型の島。

 それに連なるように、上下に二つ、斜め上下左右、に二つずつ。

 計、十一の島があった。

 そして、赤く光るポイントが現在地。

 どうやら中央の島と上部の島の、中間付近。

 奇妙なのはこの島の一部が黒く塗りつぶされている事。

 その黒く塗りつぶされたような点は、他にも上部左の二つの島のほぼ中央、右上部二つの島のほぼ中央、右下の先端の島、左下の中央寄りの島にもある。

 これらは大分大きい。


「この黒いところは?」

『【界寄豆】だ』

「! で、でかすぎないか⁉︎ 左下のやつなんか、下の島の半分ぐらいまであるぞ⁉︎」

『それだけ成長してるって事だろう。えーと、そこからだと北西だな。森の木々よりでかいんだ、目視出来るんじゃないか?」

「っ」


 指差された方向を向いてみる。

 言われた通り、そちらにはうっすらと巨大な大木が聳えていた。

 でかい。

 ここからでもその木が雲を突き抜けているのが分かる。

 大して、自分たちが落ちてきた場所の【界寄豆】はアレに比べればまだ小さいのだと感じた。


『多分、あっちの【界寄豆】は別な世界にもう届いている。どんな世界に頭を突き出したのかは分からないが、更に成長して別な世界に種子を飛ばし、新たに根付こうとするはずだ』

「な、なんて迷惑極まりない……。その世界はどうするんだ⁉︎」

『さあな。現代の兵器レベルがあれば【界寄豆】は燃やし尽くす事は不可能じゃないだろう。文明のレベル、その世界の生物のレベルによるって感じだな』

「……こっちの世界で、根元から切り落とせたなら……その世界も助けられるのか?」


 ほとんど呟きのような問いかけだった。

 ジークは無表情のまま、目線だけを忠直に向ける。

 それはどこか軽蔑するようなものに感じた。


『業腹だな』

「え、す、すまん?」

『勇者気分か? もう少し現実を見ろ。……こっちの世界はそろそろ一時間が経つぜ。そのドラゴンは確かに成長が著しく早い。だが、今日一日で【界寄豆】を燃やし尽くすまでに成長する事はさすがに不可能だろ。お前はこの世界に、何しに行ったのか忘れてないか? そのドラゴンを親許へ返すんだろう?』

「!」

『……時間は有限。目的を達成する事だけ考えた方がいい。せっかく地図を作ったんだ。少なくともそのドラゴンの親はその島にはいるだろう。その島に根付いた【界寄豆】から登ってきたんだからな』

「…………」


 冷たい眼差しに、スー……と頭が冷えていく。

 その通りだ。

 忠直がこの世界に来たのは、ショコラを心配しているであろう親許へショコラを返す為。

 親にショコラを返したら、契約を解除して元の世界へ帰る。

 それで、終わりだ。

 ジークの言わんとしている事を理解して、静かに頷く。

 危険な場所故に、こうして協力してくれる仲間が増えたのは喜ばしいが、自分は異物なのだ。

 膝を付いて、ねぎまとシロへ自分がこの世界に来た目的を話してやる。

 二匹は頷いて、納得したようにひと鳴きするが、やはりどこか寂しそうではあった。


「……よし、気合い入れ直してショコラの親を探すか。えーと……ねぎま、シロ、お前たちはドラゴンを見た事ないか? 多分ショコラをでっかくしたような姿だと思うんだが……」

「ウルル〜ゥ」

「くぅん、くぅん」


 二匹が同じ方向を指差す。

 北の方向。

【界寄豆】から、より中央へ行くようだ。


『待て、先にシロのステータスをチェックしておいた方がいい』

「あ、そうか……そうだな。えーと、ステータス表示」



【シロ】

 種族:フェンリル

 レベル:28

 HP:560/560

 MP:105/105

 ちから:105

 ぼうぎょ:69

 すばやさ:156

 ヒット:61

 うん:23

[戦闘スキル]

『かみつく』

『引き裂く』

『アイシクル』

『氷爪』

『アイスグラウンド』

[特殊スキル]

『素早さ強化』

『吹雪』



「え? なんか強そう」

『いや、多分かなり強い。よく勝てたな』

「くーん」

「……そうか、お前も苦しかったのか」

「……」


 頭を撫でる。

 シロのレベルはショコラとねぎまの倍だ。

 普通なら勝てるわけがない相手だったという事。

 それでも勝てた、という事は……シロが手加減をした。

 シロ自身が、コブが原因で自分がおかしくなっていると理解して抗っていたのだろう。

 そして、恐らくそれはねぎまも……。


『? どういう事だ?』

「いや、だからさ……ねぎまもシロも自分の意思で俺たちを襲ってきたんじゃないんだと思う。コブのせいで自分らしくない事してるって、分かってたんだ。そうじゃないのか?」

「ウルル!」

「アオーン」

「な?」

『…………』


 ジークが腕を組み人差し指を唇に当てがい、思案顔になる。

 そして、目線を外してから数秒。


「ジーク?」

『……なるほど。……さっき通訳機能の事を言っていたな?』

「え? あ、ああ……」


 動物の言葉が分かるようになる方法の事だ。

 確か追加オプションで百万と言われたような?


『想像以上にそいつらは知性が高い。良いだろう、サービスだ。お前が仲間にした三体限定で通訳機能を使えるようにしてやる。魔力は俺持ち。土下座して額を大地に擦りつける程感謝して崇め奉れ』

「……え、ええ……」


 そこまでするの?

 聞き返しそうになると、突然腕時計が光り始める。


『通訳機能展開開始、と言え』

「あ、ああ、サンキューな? え? 金払わなくて……」

『いい。サービスと言っただろーが』

「! ……通訳機能展開開始!」


 叫ぶと、スマートフォンをワイヤレスで通話出来るヘッドセットの様な器具が現れた。

 腕時計の真上に浮かぶそれを、ドキドキワクワクしながら手に取る。

 きちんと感触があり、何もないところから現れたそれに感嘆の声が漏れた。


「ど、どーなってんだ?」

『お前に説明しても分からないだろう?』

「う……。……え、えーと、こう使えばいいんだよな?」

『ああ』


 ヘッドセットを耳に付ける。

 特に違和感があるわけでもない。

 軽く、付けた感覚もあまりなかった。


「えーと……んん、俺の言ってる事分かるか?」


 と、三匹に聞いてみる。

 満面の笑顔、のような目の輝きをした三匹に見上げられ、思わず顔が緩む。


「分かるー!」

「分かるよー!」

「俺たちの言ってる事も分かるようになったのか⁉︎」

「うおおおおおおお⁉︎」


 三匹の声が聞こえてきた。

 思わずおののいて、そして一気に喜びが押し寄せる。

 きっと今、自分の顔は今の三匹の瞳の様に輝いてる事だろう。


「聞こえる! 分かるぞ! すげぇな!」

「パパー!」

「!」


 ショコラが飛び付いてくる。

 自分の事を「パパ」と呼び、首にしがみ付いて顔をすりすりと擦り寄せてきた。

 その時の、言い知れぬ感覚。

 どこかで置き去りにされていた、父としての感情を揺さぶり起こしてきた。

 父性というものだろうか。

 じんわりと胸に広がっていく温かなものが、いつしか目頭まで熱くする。

 抱き締め返して、尻尾の下に腕を回す。

 ああ、懐かしい。

 体の弱かった娘を抱き上げた時の事を思い出した。


「ああ、ショコラ……重くなったなぁ……」

「……♪」

「ずるーい! ピィも抱っこして〜!」

「おいおい、甘えてる場合じゃないだろう? マスター、ドラゴンは竜王しかいないが、この島の中央にドンがいる。ドンは竜王とも知己だったはずだ。きっと何か知っている」

「!」


 シロの言葉で「やばい忘れてた」と我に帰る。

 ショコラを降ろして頭を撫でたあと、シロの言葉の中で気になる点を口にした。


「……ドン?」

『竜王?』


 ジークも口を挟んでくる。

 ああ、それも確かに、と一度腕時計に目を落としたあとシロへ向き直った。

 ドンと、竜王。

 竜王……つまり、竜……ドラゴン。

 それはショコラの関係者なのではないのか?

 しかし、ショコラのようなドラゴンはいない。

 意味がよく分からなくなってきた。


「えっと、ドンってのは?」

「ドンはこの島のヌシ。島にはそれぞれ主がいるそうだ。ドンがそう言っていた。そして、この世界には竜王という唯一無二の最強の存在が君臨している。だが、見たものはいない。ドンなら何か知っていると思う。ドラゴンに関しては……そのぐらいしか分からない。すまない」

「いや、十分だ」

『…………』


 ジークが思案顔で指先を唇に当てがう。

 何にしても、やはりその情報だけで十分だ。

 シロの頭を撫でて、次に聞くべきはその『ドン』の居場所。


「島の中央、と言ったな? ええと、ここからだともう少し北か?」

「そうだ、こっちだ。俺が案内する」

「ありがとう! 助かるぜ、シロ」

「ありがとう! シロ!」


 ショコラもシロへとお礼を言う。

 なんていい子なんだ、とショコラの頭を撫でて褒めてやる。

 次の目的地はこれで決まった。


「ジーク、そのドンに会いに行くが構わないよな?」

『目的はそのドラゴンの親探しだからな。……だが、今の話を聞いて親を見付けるのは絶望的になった』

「え? どういう事だ?」

『ショコラのステータス……称号スキルとかいうのを見てみろ』

「ん?」


 首を傾げるショコラ。

 そのショコラのステータスを開いて見てみる。

 下の、下の、一番下。

 そこにあったのは——。


[称号スキル]

『竜王の転生者』

 効果①経験値取得量を増やす。

 効果②敗者を従属化させる。

 効果③————

 効果④————

 効果⑤————


「……こ、これは……」


 そこにあったのは『竜王の転生者』の文字。

 転生者……『竜王の転生者』。

 つまり——。


「……ショコラ自身が、竜王……?」

『まあ、文字通りに受け取るのならその前世がそうだったんだろう。神竜レベルのドラゴンになると、死んで卵に戻り、生まれ変わるやつもいる。有名どころだと不死鳥だな。アレも一部の世界では一種の幻獣種、竜種だと言われているから。……シロの話が本当なら、ドラゴンはこの世界に『竜王』()()いない。そして、ショコラのステータスには『竜王の転生者』とある。ねぎまとシロが仲間になりたがったのは、このショコラの称号スキルの効果と思って間違いないだろう。成長もふざけた速さだ。あっという間にねぎまに追い付いたからな。つまり、称号スキルは“機能している”。本物という事だ』

「…………!」

「⁉︎ ま、待て、小さい箱の中のやつ! それではこの小さいやつが竜王という事か⁉︎ 竜王は転生して……こいつになったのか⁉︎ それじゃあ竜王は……」

『そうだ、死んだんだ』

「……っ!」


 その場が凍り付いた。

 唯一、会話の内容がよく分かっていないらしいショコラだけが首を傾げている。

「どうしたの」と呑気にねぎまに話しかけているほど。


「…………そんな……」


 忠直の口からほとんど音のように言葉が漏れた。

 ショコラに親はいない。

 ショコラ自身が『竜王』。

 この世界で最強の存在。

 それが、死んでショコラになった。

 親のいない子ども。

 口を手で覆う。


「…………」


 それは、ショコラが家族の元へと戻る事は絶対にないという事。

 そう考えたら、涙が出てきた。

 この子は…………。


「っ……」

「パパ? どうしたの? パパ……どこが痛いの?」

「……い、いや……違う」


 膝から崩れるように地面に座り込み、ショコラを抱き締めた。

 家族どころか、この子には同族さえいない。

 そんな中でジークがとどめのような事を言う。


『ドンというのには、会いに行くべきだろう。そこにそいつを預けて戻ってきな。それで終わりだ』

「……っ!」

『そういう約束だろう? 残りたいなら残ればいい。ただし穴は閉ざす。異世界とと繋がったままはこっちにどんな影響が出るか分かったもんじゃないからな』

「…………」

「……パパ……」


 見上げてくる小さなドラゴン。

 その目許を優しくなぞる。

 そんな風に呼んでもらう資格など、自分にはない。

 小さく「すまん……」と呟いた。





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