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南の森



「ショコラ、大きくなったら絶対パパを背中に乗せて空飛ぶんだから!」

「頑張ってください、竜王様! 竜王様ならきっとすぐに今より大きくご立派になれますよ!」

「りゅうおうさま、がんばれ!」

「がんばるー!」

(ここは天国か?)


 シロの背中に乗って、南の森への移動ショコラが空からそんな事をぼやく。

 その隣をホークが羽ばたき、一定の距離で付いていく。

 南の森までは人間の足で二時間ほどかかるだろうとギベインに言われたが、白髪背に乗せてくれたおかげで一時間もせずに到着した。


「ここが南の森か。シロ、大丈夫か?」

「問題ありません」

「そうか、ありがとう。さて……早速その渓谷って場所を探すか。渓谷ってくらいだし、川の音を探せばいいんだよな?

『それは渓流の事?』

「…………」


 ギベインのツッコミに頰を掻く。

 渓谷と渓流を混同して考えていた自分、恥ずかしい。


「そ、そうか、渓谷と渓流って別物か」

『まあ、スキャンした地図だと川のようなものはあるけれど……痕跡だけだな。恐らく干上がっているんだと思う』

「……! じゃあ、ここにも結界を張っておけば川は復活するのか?」

『うーん、それは後回しにした方がいいんじゃないかな。ジークが現在進行形でバッテリー作ってるけど、その端末だとホントに電力消費激しいよ。一昨日はジークが魔力提供してくれたから分かりづらかったと思うけど……』

「そ、そんなにか? なんか難しくてよく分からないんだが……」


 確かに一昨日は山頂の源泉に結界の大元みたいなものを準備して、川に沿って電柱代わりとなる何かをみたいなものを設置していき、それらを電線のように繋ぐ事で【界寄豆】の根が近付けないようにしたのだが……それらは全て腕時計——ジークから提供された魔力で成されたらしい。

 ややこしくて話半分で聞いていたが、霊脈の魔力がどうたらこうたらと言っていて難しくてよく分からなかった忠直は「そういうものか」で聞き流してしまったのだ。

 難しくてよく分からなかったので、深く考えもしなかった。


『ボクはキミがよく分からないよ。契約の事は積極的に聞いていたのに、その辺りの事は『難しくて分からん』なんだから』

「だって魔力とか霊脈がどうとか、よく分かんねーよ。ジークだって小難しい説明は省くしよ」

『まぁ、素人に一から説明するのは確かに面倒くさいからね。ジークは面倒くさがりなところあるし。分かる』


 分かるのかよ、と内心突っ込みつつ、しかし水は大切だ。

 この辺りの事も、きちんと覚えるべきかもしれない。

 そして出来れば説明は分かりやすく簡潔にお願いしたい。


「えーと、じゃあ電力が足りないからダメって事か?」

『面倒いな。まあ、つまり電気もさ、発電所から電線で各家庭に送られるじゃん?』

「ああ。……それはなんかこないだも聞いたような?」

『聞いてんのかい。……仕方ないからもう一度説明すると、霊脈はその発電所みたいなもので、一昨日源泉と川沿いに設置していった印陣いんじんは電線の役割なんだよ。はいここまではオーケー?』

「お、おーけー」

『で、発電所から遠かったら電線引くの大変でしょ?』

「ああ、それは分かりやすい……って事は、この辺にはその発電所……えーと、霊脈? が近くにないって事なのか?」

『スキャン結果を見る感じそうだね』


 なるほど、大体理解出来た。

 遅いかもしれないが、霊脈という発電所から魔力を通す電線を引くのに、大量のお金……端末の電力が必要という事。

 大雑把に言えばそういう事なのだと解釈して、考える。


「それなら今回は石や木を採取するだけの方がいい、か?」

「そうですね、ペガサスたちにも一度拠点に来てもらった方が良いでしょうし」

「とはいえ、コブ持ちになってる可能性が高いんだよな? 戦いの覚悟はしておくべきか」

『ん、早速熱源反応を感知したよ。一体こちらにものすごいスピードで接近してくるね。これは確実に空からだ。西の方向から十秒後に接触』

「速い速い! 速すぎるだろそれ! 西!?」


 ここが拠点から見て南だから〜と、元来た道を振り返る。

 すると空から恐ろしい速度で何かが近付いてきた。

 それは——。


「何あれ!」

「馬!?」

「バイコーンです! ユニコーンの親戚的なものですが、体が大きく気性がとにかく荒い! 突っ込んできます!」

「みんな避けろ!」

「パパ!」

「おあ!」


 自分の事を忘れていた。

 ショコラに首根っこを咥えられて、引っ張られる。

 するとその場所に恐ろしい速度の塊が落下してきた。

 まだ森の入り口に立っただけだというのに、襲われるのが早すぎる。

 もくもく上がる煙の中から、巨体がヌッ、と顔を出す。

 グレーの体に黄金のツノが二角。


「ぶるるるるるるぅ!」

「突っ込んできた!」


 これまでも襲われる事は多々あったが、ここまで敵意むき出し、攻撃的なモンスターは初めてだったかもしれない。

 ショコラに引っ張られ、空へと浮かぶ。

 足下に長い方のツノが突き刺さった。


「っ!」


 そのままブォ、とツノが宙に浮いた忠直の足を引き裂こうと振り上げられる。

 寸前で、シロの牙がツノを捉えた。

 しかし体格差のせいか、そのままシロの体が宙を舞う。


「くう!」

「砂嵐!」

「!」


 飛ばされたシロは体を捻り、着地する。

 その着地を見届けた瞬間にホークがバイコーンの足下から砂嵐を発生させた。

 動きが止まり、悲痛な声を上げるバイコーン。


「パパ! コブ見付けた! ショコラが燃やす!」

「お、おう! やったれショコラ! で、どこだ!?」

「足の付け根!」


 砂でよく分からないが、ジッと目を凝らすと右後ろ足の内側、付け根部分にコブがあった。

 かなり大きいが、あの場所は——!


「待て! ショコラ!」

「!」

「……お前は撃つ準備を! ホーク! 俺がやめろと言ったら砂嵐を一旦止めてくれ! シロ! 奴の前足を狙って……」

「! 了解です、マスター!」


 小声で指示を飛ばす。

 そして、皆が頷いたのを確認してホークに砂嵐を「止めろ!」と叫んだ。

 瞬間、舞い上がっていた砂嵐は収まっていく。

 その時、を待っていたとばかりに、前足、後ろ足と強く地団駄を踏んでバイコーンが飛び上がる。

 そこを狙ってシロが前足に噛み付こうとすると、バイコーンは驚いて前足を高く上げた。


「ショコラ!」

「ファイヤーブレス!」

「!」

「!」


 シロが巨大な炎の壁に驚いて木の影へ飛び込む。

 あまりの威力に、忠直も驚愕する。

 あまりにも……。

 一昨日までこんな威力ではなかった。

 バイコーンの体を覆い尽くすほどの炎に、ショコラが声を上げる。


「嘘! 嘘! ショコラ……、手加減したのに……!? なんで……!」

「っ!」


 狼狽えるショコラの首に手を当てて、まず落ち着かせようとした。

 バイコーンを見れば、コブはおろか腹もやや焦げている。

 ドターン、と勢いよく倒れるバイコーンに、忠直たちは慌てて駆け寄った。


「お、おい、大丈夫か!?」

「異常状態『火傷』です! 俺のアイスグラウンドで少し冷やしましょう……! し、しかし……」

「たいへんだ、ごしゅじん! 『やけど』は『HP』がけずられていくんだ。『リペア』とか『キュア』のスキルがつかえるやつじゃないとなおせないよ!」

「っ……!」


 この場のモンスター、誰もそんなのは使えない。

 息が荒くなっていくバイコーン。

 保護対象に怪我を負わせてしまうなんて——!


「任せるダワ!」

「!? お、お前は!」


 ふわ、と木の上から現れたのは光振りまく妖精……リリィだった。

 リリィは小さな手をかざすと「リペア!」と叫ぶ。


(そうか! リリィは『リペア』が使えたのか!)


 モンスターたちのステータスは大体見たが、すっかり忘れていた。

 緑色の光がバイコーンに降り注ぐ。

 すると、火傷は綺麗に治癒された。


「「「おおおお〜〜!」」」

「待ってて、今『ヒール』でHPも回復させるから」

「リリィ……ぐすっ、ありがとう……ぐすっ」

「ああ、もう泣かないで竜王様! わざとじゃないんでしょ? 分かってるのダワ!」


 ついに泣き出してしまったショコラ。

 その首や頭を撫でて、とにかく慰める。

 拠点に置いてきたはずのリリィがどうしてここに、とか、なんでファイヤーブレスがあんな威力になったのか、など考えるのは今は後回しだ。

 リリィの施す治療を、皆固唾を飲んで見守る。


「……これで大丈夫ダワ。おかげでリリィのMPゼロになったけど、少し休めば戻るダワ。だからマスター、リリィも付いてっていいダワ?」

「え? ……もしかして付いて来たくて……?」

「そうダワ! せっかく竜王様の家来にしてもらったのに、あんな重いものを運んだりするお仕事、リリィ向いてないダワもの!」

「呆れたものだ。それで追いかけて来たのか?」

「そうダワ! でも、役に立ったでしょう?」

「むう」


 シロがやや呆れ顔で言うも、実際リリィのおかげでバイコーンは治療された。

 大泣きしながらリリィに抱き着こうとしたショコラは、とりあえず引き留めておくとして……。


「そうだな。リリィがいてくれると心強い」

「うん! うん! ありがとう、リリィ!」

「うふ、うふふふふ」

「……けど、あんなに威力が出るなんてな……一体どうしてまた、こんな事に……」

『進化後、ステータス確認したのかい?』

「……え? いや……」


 腕時計から聞こえてくるギベインの声に指摘され、ちら、とショコラと目を合わせる。

 そういえば、進化した後のステータスの確認は行なっていない。

 嫌な予感を感じ、慌ててショコラのステータスを開いてみた。



【ショコラ】

 種族:ドラゴン(成長期)

 レベル:31

 HP:5369/2369

 MP:1860/1840

 ちから:2835

 ぼうぎょ:2452

 すばやさ:1693

 ヒット:61

 うん:162

[戦闘スキル]

『頭突き』

『ファイヤーブレスレベル9』

『ドラゴンパンチ』

『ドラゴンキック』

『ドラゴンクロー』

『ドラゴンテイル』

『ファイヤーボール』

『ウォーターボール』

『ウインドショット』

『グランドボール』

『エナジードレイン』

『メタルパンチ』

『アイシクル」

『サンダーショック』

『ブラッドボール』

[特殊スキル]

『力強化レベル2』

『防御強化レベル2』

『鱗強化レベル2』

『素早さ強化レベル2』

『経験値取得増』

『全属性耐性』

『毒耐性』

『裂傷耐性』

『火傷耐性』

『凍傷耐性』

[称号スキル]

『竜王の転生者』

 効果①経験値取得量を増やす。

 効果②敗者を従属化させる。

 効果③レベル15以上で全属性の技が取得可能。

 効果④レベル30以上全属性耐性を取得。

 効果⑤威圧(自身よりレベルが低い相手を行動停止にする)

 効果⑥————

 効果⑦————




「…………なんか怖い事になってる……!」


 ショコラが涙をにじませたまま自分のステータスに対して放った最初の一言である。



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