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拠点完成……?



 四日目。

 丸一日元の世界で契約や工具や食品の買い出し、店の掃除や自宅の洗濯などに費やして戻ってきた朝。

 なんと、昨日忠直が戻っている間にモンスター達がかなり頑張ってくれたらしく、拠点となる建物やビニールハウスはほぼ完成していた。

 ビニールハウスに至っては二棟目の建設に着手しているではないか。

 これはたまげたもんだ、と自慢気に笑うモンスターたちの頭を一体一体撫でてやる。

 彼らは意外と頭を撫でられるのが好きらしく、頭を撫でればご機嫌になった。

 さすがにドンは頭に届かないので、鼻や脚を撫でたが。


「よぅし、この調子で今日はビニールハウスを増やそう! まずは食糧確保だ!」

「「おお〜〜!」」

「あとは井戸か。こっちも結構出来ているな?」

「そこら辺はおいらたちがやるんだっきー!」

「細かいところは任せて欲しいっきー!」

「お、やる気があっていいな! 任せたぜ、悟空、孫!」


 語尾については突っ込まない。

 突っ込んだら負けな気がするので。


(……というか、スゲーな翻訳スカウターモード)


 昨日貰った端末のアプリ……『死神の鎌』に連動すると、耳に装着していたワイヤレスヘッドセットがバージョンアップする……らしい。

 使い方を昨日ジークに教わって、早速今朝から連動してみたのだが優秀すぎる。

 これまで『三体』と制限付きだったモンスターたちの言葉が全て分かるようになった。

 ちなみにやはりアイコンデザインについては「知らん。ギベインに任せた」との事なので犯人はAI。

 ろくなデザインをしてくれないものである。


(ちゃんと覚えられるかな。いや、覚えないとやばいんだよな。気を付けよう)


 昨日教えてもらった、この端末の使い方。

 アイコンの意味はこうだ。


『爆弾マーク』強化系生体兵器。

『死神と鎌』翻訳・通信機能。

『六母星』結界設置。

『血の付いた包丁』アイテムボックス(食材・腐敗防止機能付き)

『袋で殴られるハゲ』アイテムボックス(道具・受け渡し機能付き)


 主に一番上。

『爆弾マーク』が不穏すぎる。

 詳しく聞いたところ、戦闘が想定される世界の場合必ずこの機能を取り付ける事が契約内容に盛り込まれているのだという。

 それはサポート契約をした取引相手の生存率を上げる為でもあり、武器の類を扱えなくてもとりあえず『防御力』を上げておけば生還の確率が跳ね上がるからだとか。

 一日三回だけ、このアプリを起動させるとワイヤレスヘッドセットからナノマシンだかなんだかが排出され、耳からなんかがどうたらこうたらと説明を受けた。

 ナノマシンはヘッドセットの中へ、端末で生産されたものが転送される仕組みだとかなんとか……とにかくすごく体が硬くなる、的な感じだという。

 その分端末のバッテリー消費が早いので注意が必要らしい。

 翻訳・通信機能はこれまでの強化版。

 結界設置は安全地帯の確保に使用する。

 ただし、こちらも一日に使うタイプとハウスのように長期で使用するもので使用電力量が変わってくるので注意が必要。

 そして二種類のアイテムボックス。

 使い方はどちらもカメラ機能を使い、中にしまう場合はそれをなぞって収納。

 引き出す場合は引き出す量を決めて、カメラ機能で出すスペースを選定、排出する。

 食材と道具に分かれているので、注意が必要。

 また、地球からの物を出し入れする場合は一度『袋で殴られるハゲ』を通さねばならない。

 食材であっても、だ。


(……アイコンさえ……マシならなぁ……)


 なぜにハゲが袋で殴られているのか……。

 ジーク曰く、アイテムボックスは一つにしたかったらしいが「昨日突貫で設定から組み立てたから間に合わなかった」と、かなりとんでもない事をしれっと言っていたので何も言えなかくなった。

 昨日何かしていると思ったら、これを作っていたのだ。

 今後アップデートで改良していく、との事なので、恐らくどんどん使い易くなっていく事だろう。


「パパ、ショコラどこ手伝ったらいい?」

「そうだな……素材は大丈夫か?」

『それなら倉庫か何かを作って素材を貯めておいた方がいいんじゃないかな? アプリのアイテムボックスより、そっちの方がモンスターたちも自由に使えるものね』

「ああ、それはいい考えだな。……つーか、今日もギベインなのか」


 聞こえてきた子どもの声に腕時計を顎の高さまで持ち上げる。

 ウィンドウは映像が非表示で、声しか聞こえない。

 相変わらず、姿は見せないようだ。


『ジークは別な仕事があるからね。というか、キミに作った端末の携帯バッテリー作ってるよ』

「あ、ありがとう……。……けど、これの充電は特に必要ないとか言われたが……」


 普通のスマホなら充電しないなんてありえないだろう。

 だと言うのに、ジークはその端末に充電は必要ないと言い放った。

 これには驚いたものだ。

 なんでもその世界……『結晶島』はそれなりに魔力が豊富な世界だから、自然にある魔力を取り込んでエネルギーに変換してどうとかなんとか……。


『まあ、普通に使ってたら必要ないと思うよ。普通に使ってたらね』

「もしかして、体を硬くするやつと結界か?」

『そう、かなりごっそり使うから、その時用。命綱は一本でも多い方が良いだろう?』

「うん。それは間違いないな」

『まあ、なんにしても拠点が出来たのなら水と食料、それから排泄、寝床……ニンゲンが生活するのにある程度問題ないように拠点の中を改装したら良いんじゃないかな。今後モンスターを保護していく上で必要になるのは安定した食糧生産、安全の確保。ニンゲンはモンスターよりも弱くて繊細だから、自分が過ごしやすい場所にするべきだよね』

「……そうだな。うん、工具とかは昨日買い足してきたし、早速拠点の中を掃除して色々家具とか入れてみよう。ショコラ、木材ってどのくらいある?」


 というわけで今日は拠点の改装だ。

 拠点はジークが設計してくれたものを、かなり大雑把に組み立てた。

 床は石を敷き詰め、丸太をそのまま使い、その上に小石を敷き詰めた大雑把さ。

 歩くときしきし言うのはその為だ。

 だが文句言うまい。

 モンスターたちの精一杯の『人間の文化の真似事』なのだ。

 三日で仕上げたと思えば愛おしくさえある。

 壁も丸太を組み上げた、よく言えば木の素材をそのまま使用したコテージ。

 天井も丸太を組んだだけだ。

 もちろん、ちゃんと枝は落としてくれた。


(木の皮はそのままだけど……天井が落ちてこないだけマシだよな。……うん)


 と、思う事にして玄関ホールをジョリジョリと石を踏み鳴らしながら進む。

 玄関ホール中央には転移門ゲートがある部屋と左右にも部屋が二つ。

 一応、部屋にはなっている。

 それなりには、部屋に見える。

 大丈夫、丸太がはみ出ていても仕方ながないさ、きっと。

 どちらも二つの個室が……個室、そう、個室が付いている。

 ジーク曰く、二部屋それぞれにバスルームとトイレ用の小部屋を設計に入れた……そうだ。

 そう、本来はバス、トイレ付きの個室である。本来は。

 天井から枝が突き出ているが、切ればよかろうなのだ。


「…………」


 とはいえ、やはり掃除はどこから手を付けていいのやら。

 考え込んでいると、ギベインの声がする。


『これは建物なの?』


 ごもっともなご意見が。


「い、いや、みんな頑張って作ってくれたんだし……」

『馬鹿だなー、こんなの何かあったら秒で倒壊するよ。妥協と寛容は命取りだよ? 死ぬよ?』

「…………そうだな……」

『建設の指示はしてたけど、やっぱりモンスターの手じゃこの辺が限界かぁ』

「…………そうだな……」


 とはいえ、作り直すにしても忠直は日曜大工もまともにした事がない。

 どうしたものかと考えていると、ギベインが溜め息をつく。


『仕方ないなぁ。木材を別の物質に変換して、空間を固定しつつこっちで建設形態を再構築しよう。待って、一日でなんとかしてあげる』

「…………えーと、つまりそれはどういう事だ?」

『まあ、待っていなよ。必要なものも揃えてあげるから、石を8トンほど用意しておいてくれる? それをアプリに入れておいてくれれば、勝手に使うから』

「勝手に使えるのか、そっちから」

『まあ、アクセス権はジークに許可もらうけど。運営はジークだから』

「…………。ま、まあいい、分かった。この拠点をなんとかしてくれるんだな?」

『任せなよ』


 頼もしい。

 ジークと違って、とても協力的だ。


『その間、ハウスを確認してきたら? 新しく二棟目を建ててるみたいだけど……』

「そうだな。でもハウスは組み立てるだけだって聞いたぞ?」

『ああうん。ビニールハウスはよその世界でも良く使うんだ。まあ、ボクらが担当する世界って大体近未来か現代に近い世界が多いんだけど……こういう原始的な世界でも使えるから別にいいんじゃないかなーって』

「へえ、そうなのか……」

『どの世界だろうと、生き物が食べ物を必要とするのは割と普通だものね。今のところ全身ロボット世界っていうのには遭遇した事ないし。でもどこかにはあるのかな? それとも、そこまでになると生殖が出来ないから滅ぶしかないのかな? ふふふ、異世界でそういう道を選んだ人類の末路が調査出来たら最高に面白いんだけど……なかなか当たらないよね』

「…………」


 前言撤回。

 やはりジークと同類だ。


「そ、そ、それより、ギベインって何者なんだ? ジークの助手的な?」

『種族の事? ボクはヒューマノイド。ジークが運用するあるシステムの管理者だね。と言っても分からないと思うから人造人間的なものだと思ってくれて構わない』

「人造人間!?」

『多分キミが想像しているものとは些か異なると思うけど、現代の単語ではこれが一番適切だと思う。大丈夫、ニンゲンの味方として造られたんだからボクはキミたちを裏切る事はないよ。ボクはね』

「……な、なんか含みのある言い方だな……」


 そう思いつつ、表に出るとショコラがすぐに気付いて駆け寄ってくる。

 しかし、以前のようには走れないらしく、すぐに翼を使って浮き上がり、こちらまで近付いてきた。


「おお、かっこいいな!」

「えへへ、飛び方覚えてきたよ。ホークやハッピーが教えてくれたんだ」

「そうか」


 笑みがこぼれる。

 娘がどんどん成長していく。

 頭を撫でていると「パパはどうしたの?」と聞かれて思い出した。


「ああ、石を探そうと思ってな。デカめのやつが良いんだが……」

「じゃあ昨日の山にもう一度行く? あのね、木も近くの森はこれ以上ダメなんだって。それでなくとも枯れやすくなってるから、これ以上持ってきちゃうと森が枯れちゃうってドンが言ってた」

「そうなのか」

「うん、だから木は、少し離れた川向こうの南の森か、源泉のある山の方から持って来なきゃって」

「……。分かった、ドンに相談してみよう」


 石、というより岩は確かに源泉のある山頂付近にゴロゴロしていた。

 だが、木……倉庫として使いたい建物用に、まだ木は必要だ。

 岩の穴にいるドンへ会いに行くと、シロとホークが話しているところだった。


「よお、ちょっといいか」

「マスター! 拠点はいかがでしたか!」

「ぼくたちがんばりましたよ!」

「うむ。儂の鼻で建てたようなものよ。なかなかのものであろ?」


 ドヤ顔。

 ちなみにホークがこのように胸を張る理由は、主に木の枝を根こそぎ落とす役目を果たした為だ。

 ソードホークは翼を刃物のように変化させ、刃物のように扱えるモンスター。

 これには期待したものだが、期待のしすぎは良くなかった。

 飛びながら切り裂いて攻撃したり、葉肉を切り落として採取するらしく、枝を落とすのにも滑空しなければならなかったのだ。

 いや、しかし彼らは頑張った。

 その頑張りは褒めねばなるまい。


「ああ、形は完璧だ。でもあのままじゃあ木の皮に引っ掛けて怪我しそうだからギベインが整えてくれるってさ。家具も色々付けてくれるらしいから、石を採ってきたいんだが……この近くに木と石、どっちも採取出来そうなところはあるか? ドン」

「ん? んうむ、そうか……そうだな、倉庫を作る話もしておったな。石ならば山の上か、少し南の森の渓谷だろう。近隣の森は採れる分採ってしまったからな、そこまで行かねばならんだろう」


 やはり南の森という場所に行かなければならないらしい。

 仕方がないな、と頷いて今回もショコラとシロに同行を頼む事にした。


「待て、王の契約者。風属性の者を一体で良い、連れて行け。南の森にはペガサスやユニコーン、バイコーンなどの土属性モンスターがいる。あ奴らも恐らく食糧不足で【界寄豆】の種子を食っているかもしれん」

「馬系のモンスター! そりゃいいな。乗り物代わりになってもらえると移動が楽だ」

「乗り物代わり……」


 馬。

 正直少し憧れがある。

 競馬のCMを観る度に、侍にでもなったかのようなジョッキーたちの姿を羨ましく思っていた。

 だが、そんな忠直の反応に興味を示したのがショコラだ。


「パパ! ショコラに乗ってもいいよ!」

「え? いやいや、ショコラには乗れないだろう。まだギリ俺の方がでかいんだから」

「そ、そんな事ないよ! ……ううう、あんまり大きくなりたくなかったけど、パパを乗せて飛ぶと思ったらもっと大きくなりたいし……ぶぅー!」

「……複雑な乙女心だな」

「では出発致しましょうか!」

「いく! いく!」

「……シロとホークは意外とマイペースな?」




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