【後編】
全3話中の2話目になります。
王女と侍女との楽しい夜を過ごした俺は、夕方を過ぎてからようやく目を覚ました。
昨日は王女の妊娠にテンションが上がり過ぎて、二人のロリ美少女をだいぶ荒々しく抱いてしまったからな。
激しくしてやったぶん、俺の身体にも疲れってやつが溜まってたってわけだ。
俺の部屋に、すでに王女と侍女の姿はなかった。
あいつらも疲れてるはずだが、この俺を置いたまま仕事や公務のために早起きでもしたんだろう。
だが、王女のやつは俺の子を孕んでるんだ。
少しは休ませるように、ちゃんと王に進言しておいてやらないといけないな。
そこまで考えたところで、俺はふと気がついた。
王女を抱くときに、いつも王女が左手の薬指に嵌めていた指輪―――あれは、結婚指輪なんじゃないのか?
そう思えば思うほど、記憶のなかの王女が左手の指輪を大事にしていたように思えてきて、俺は怒り狂った。
褒美として渡されたとき、王女は処女だったはずだ。
じゃあ、俺が勇者として戦ってる間に浮気でもしてやがったのか?
―――そうだったら絶対に許さねえ!
俺は剣を手に取ると、過去に『ラーニング』した『隠密』スキルを使いながら王女を探すことにした。
姿を隠しながら王女の周囲を調べて、もし本当に浮気してやがったら、ぶっ殺してやる!
そんなことを考えながら探していると、王女の姿はすぐに見つかった。
しかも、浮気の絶賛真っ最中だ。
調べようとしていた浮気現場をこんなすぐ見つけてしまうなんて、さすがは勇者のこの俺といったところか。
そして、驚くことに王女が愛欲に濡れた瞳―――まさに、浮気の証拠だと言える瞳を向けていた相手は王だった。
王城のテラスで見つめあう二人の雰囲気は、決して親子って距離感じゃあない。
王の野郎は、とんだ近親相姦野郎だったってわけだ。
「勇者の子など厄介事の種にしかならん。堕ろしてしまえ」
王のその言葉に王女が頷くのを見た瞬間、俺は剣を抜いて二人に斬りかかっていた。
だが、俺の一撃は王の周囲に張り巡らされていた防御魔法によって弾き返されてしまった。
弾き返された衝撃で剣を落とし尻餅もついてしまった俺だが、それでもまだ負けていないと王女をにらみつける。
「どういうことだ! テメエは俺を愛していたんじゃなかったのかよ!?」
そんな俺の怒りがまったく気にならない様子で、王女は甘えるような仕草で王の野郎にしなだれかかった。
それだけでも俺には十分衝撃的な光景だったが、王女が続けて放った言葉はもっと衝撃的だった。
「なに馬鹿なことを言っているの? そんなわけないじゃない。だって、私は『魔王』様のものなんだから」
「……は? 王の野郎が、まさか『魔王』だったとでも言うのかよ?」
王女の突然の言葉に、俺は思わず真顔で聞き返す。
そんな俺を、見せ物小屋の獣かなにかでも見るような目で見下して王の野郎―――『魔王』が哄笑を上げた。
「その通りだ。勇者シュヴァルツよ。この国が勇者を異世界から召喚した瞬間に王城を支配して、国王に成り代わったのだ。そして、召喚された勇者を勘違いさせて人間を殺させるこの遊びは、貴様の自信過剰さがいかにも滑稽で思いの外楽しめたぞ」
「もう! 『魔王』様ったら! 勇者が生意気な態度を取るたびに私がどれほど苛ついていたか、わかってくださらないんですか?」
子供みたいに頬をぷーっと膨らませて、王女は不満を口にした。
そんなむくれた態度の王女だったが、『魔王』が王女の腰に手を回して抱き寄せた瞬間、すぐに感極まった声を上げる。
「ああ……『魔王』様……」
俺は、王女のあんなむくれた態度も、いまみたいな感極まった声も知らない。
愕然とする俺に、『魔王』は憐れみの表情を見せた。
「しかし、いまの話を聞かれてしまったとあってはこの遊びは終わりだ。真実を知ってしまった以上、いくら貴様のような低能であってもこれ以上は騙されぬだろう?」
「当たり前だ……!」
本性を表した『魔王』の圧倒的な魔力に気圧されながらも、俺はじりじりと後退して剣を拾おうとする。
「まさか、全部嘘だったとはな。俺がいままで出会ってきたこの城の奴らも、全部テメエの配下のモンスターかなにかだったってわけだ……ふざけんじゃねえ!」
剣を握って振りかぶった俺だったが、俺の攻撃が届くよりも先に『魔王』の攻撃が俺の胸を貫いていた。
「……これでお別れだ。勇者シュヴァルツ。冥土の土産にひとつだけ教えておいてやろう。この城の者たちは皆人間だ。彼女らも、この国の本物の王女と侍女だ」
「だったら、なんで……?」
たかが一撃で倒されてしまった俺には、もはや掠れた声で問いかけることしかできない。
「対象を意のままに操る隷属魔法を私がかけているからだ。魔法を込めたアイテムを対象に身につけさせておかねば解けてしまう欠点の多い魔法ゆえに、勇者である貴様には使わなかったがな」
「このように簡単にやられてしまうなんて、なんて弱い勇者様なのでしょう。これまで『魔王』様に生意気な口を利いていたぶん、私が死ぬまでの間なぶってさしあげますわ」
『魔王』がそう説明をしている間に近づいてきた王女が、蔑みの目で俺を見下ろす。
王女は、そのままサンドバッグでも蹴るかのような容赦のなさで俺を足蹴にしてきた。
だが、俺は王女のその目に涙が浮かんでいることに気づいていた。
きっと、『魔王』の魔法に操られながらも、王女は心の中でこの現状を悲しんでいるのだ。
「絶対に許さねえ……」
『魔王』を中央に捉えた視界がだんだんと暗くなっていくなか、俺は最後のチートスキル『ニューゲーム』が発動したのを感じていた。