熱の中で
第2章はじまりはじまり
と言いながら何も始まってないごたごたしてるだけな感じですみません。
そんな第9話です。
佐々木と別れ、桜花の部屋に戻ってきた詞葉は、扉を開いた瞬間、まるでサウナを開いたような熱風に思わず後ずさった。
「ちゃい」
「あ、おはよ瑞樹ちゃん、ちょっと暑かったね大丈夫だよ。」
その熱気に目を覚ました瑞樹にフォローを入れながらも困惑を隠せない、
(まさか、とは思いますけど、火炎の熱で乾かそうとしたとかそういう…?)
あまりの暑さに中には入らずに覗き込むとちゃぶ台の横に立っている半裸の桜花が汗をかきながら両手を床に向けているのが確認できた。どうやら’まさか’が的中してしまったようだ。
「…もどりました…桜花様燃やしてるんですか?」
「燃やしていない!火炎を出さずに熱を上げることで乾かそうとしているんだ。」
「熱を…」
想像よりはまとも(?)な方法であったことに安堵しながらも、扉を開けっぱなしにしていてもし、誰か通りでもしたらさらしにパンツ姿(ついに半ズボンすら脱いでいた)の桜花様が見えてしまうことに気づいた。仕方なく入るだけでも汗が吹き出しそうな熱の中に一歩入り扉を閉める。
「すごい暑さですね」
「うううう」
真夏の日差しの中?サウナ?熱い場所があまり思いつかないけれど数秒で頭がぼーっとするくらい熱い、これがずっと続いていたのであればもう乾ききっているような気がする。
「まだ乾いていないんですか?」
「すぐに乾いた、だが失念していてな、私は熱を上げることはできるが、何も持っていなければ下げる術がないのだ、だからこうして発火するのを止めている。」
「…。」
説明を聞いて大きく肩を落とした、熱のせいだけではない頭痛を感じる。
(魔法ってそんな感じかーファイアボールするのと消すので別の魔法使わないとだめなのかー!しかもそれはできない?)
「魔法ってできることとできないことがあるんですね。」
「魔法力量や得意能力によるからな、普通の人間は何も持たなければ得意能力以外を使うのは大変だ、そして私はできん。」
「桜花様が特殊なのかこの世界が特殊なのかわからないですね。」
「なに?」
桜花が目をぱちくりさせながらこちらを見ていたが気にせずなるべく離れたところにベビーカーを置いて暑がる二人を扇ぎながら何かできることがないか探す、桜花様に近い場所の床は裸足で歩けばやけどしそうな熱気を放っている。
「貴様達の能力はなんだったんだ?」
「瑞樹ちゃんは草、蒼士くんは水でした。私のはわからないんだそうです。」
「そうか…ならしかたないな、山下を呼ぼう。手が届かないからそれで山下を呼んでくれるか?」
自分の能力がわからないということは桜花様的には特殊ではなかったようで、何も深く尋ねられることもなく頼み事をされてしまった。
「パネルですか…?」
「さっきもそう呼んでいたな、魔法力板だ。」
「どうやって使うんですかね。」
「通話もしたことないのか…?」
桜花は汗をぬぐいながらあきれたように言っているのが少し癪に障るが、暑さに二人が唸りはじめているのでそうも言ってられず瑞樹を片手で抱いてすり硝子のようなパネルの前に立って桜花に目を向ける。
「指を触れて魔法力を通し、食堂の印…丸の中に縦に2本線を引いた印を描いてから、3-A鈴木が呼んでいる、と言えば伝わる。」
「丸の中に縦2本…」
やり方を聞いてしまえば電話と大差ないな、と感じながらも、言われた通り少し暑いパネルに指で印を描き、恐る恐る声をかける。
「3-A鈴木…です、用事があるので申し訳ないですがちょっと来てもらえますでしょうか。」
「承知しました。」
間髪入れずに平太の声が返ってきてビクッ、となってしまったが言われたことは成功したようだ。
「感謝する。」
「平太くんくるのにズボンは…」
「大丈夫だ、気にするな。」
「はーい」
なんならズボンを履かせることを手伝おうと思って声を掛けたが、桜花は全く気にした様子もなくそう答え、心の中で(桜花様は裸族)と決めつけることで納得する。そして一番離れた床の温度を確認し、触れても大丈夫だと判断してからカバンと瑞樹を下ろした。
「どうした?」
「そういえば1時間以上紙パンツ替えてないなって気づいたので、この部屋がまともになったら替えようかと思いまして。」
保育園(私のいた)では布おむつが基本、本来ならおむつは30分に一度確認だったため、こんなことがバレてはお叱りをうけてしまう。そう考え、汗をぬぐっておむつ替えの用意をようとしてはたと思い出す。
カバンの中から覗いているのは紙パンツが5枚、おしりふきが1袋(ほとんど新品)、布おしめとおむつカバーが2枚ずつだけ、そもそも公園に行くのに布おしめとおむつカバーが入っていたこと自体が奇跡だ。
(紙パンツをここでつかってしまうともう手に入らない危険性が高い…かといってこのたった2枚のおしめを永遠に使い続けるのは衛生的にも問題が多い…これは早急に布おむつの手配をしなくては!)
「瑞樹ちゃん天才になって突然トイレいけるようにならないかな…」
ぼそっと非現実的な願いをこぼしながら汗と尿でびたびたになっていた紙パンツが脱がされ、開放的になったことで動こうとしている瑞樹を抑え、おしめとおむつカバーに替える。
「子どもの着替えとか買いに行かないと…っていっても私この世界のお金持ってないしな誰か親切な人貸してほしいなー(チラチラ)」
こんなことを自分の魔法を止めることに必死な桜花に言うのもなんだかなぁ、と感じながらも今は頼れるのは桜花と萌果しかいないためしかたない。
「なんだと、金すら持たずに家を出たのか…嘆かわしい、いくらでも使うといい。」
「ほんと桜花様悪い人に騙されてませんか…?」
今日一日で何度思ったかわからないことを考えながらも好意に甘えることを決め先に頭を下げておく。
「どういう意味だ…」
「お気になさらず、がんばって続けてください。」
「ぐにゅー」
少し暑さでぐったりしている瑞樹に水筒のお水をあげて座らせたままにし、ベビーカーでくったりしている蒼士にも水を飲ませてあげてから抱き上げる。
「蒼士くんよく寝てたねー、おなかすいてない?…っていってもおやつないんだけど。」
瑞樹の横に下ろしてこちらもバタバタになっている紙パンツをなけなしの布おむつへと替えながら声をかける。
15時にはおやつを食べるのが日常だが今の時間はもう15時は過ぎているし、おやつがそもそも手に入らない。果物でもあればいいが似たような果物がなければ食べさせられるかもわからない。(果物はアレルギー物質が多いから軽率には食べさせられないし)
そうこうしているとかちゃり、と扉が開く音がした。
「なんですか。」
「来たか、ちょっと風でこの部屋を冷ましてほしくてな。」
入ってきた平太は先ほど来た時と全く同じ無表情で、桜花の姿を見ても眉一つ動かすことも無く、それどころか頼み事の内容を聞いてため息をつく始末。
「また部屋で火炎使ったんですか…鈴木さん、少しは学習してください。」
やれやれ、といったような雰囲気で語っているだけのように見えたが、開いた扉から涼しい風が入り込み風が部屋の空気を総替えするように強すぎず弱すぎず吹いていく。とても心地のよい風に包まれているうちに部屋の温度は元に戻っていた。
「魔法力も無限ではないんですから、あまり無駄なことに使わせないでくださいね。」
「うむ。」
桜花はようやく両手を動かせるようになったのかのびをしながら適当に返事し、平太に手を振る
「いつも感謝する、どうも私は魔法力の操作が下手でな。」
「知ってます。」
「う、うむ。」
肩をすくめる桜花に対し淡々と平太は言い放つ、そしてそのまま帰っていこうとするので思わずこれはチャンス、と声を掛けた。
「あ、あのっ!」
「なんですか?」
「子ども向けの料理について聞きたいことがあって。」
…☆…
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