持ち物チェックです
第6話
どうしても硬くて食べられない部分があったのだが桜花は残さずに食べているようなのでバレないように皿の底に隠してご馳走様をする。二人はそれぞれ瑞樹は洗ったシチューを半分ほど残し、蒼士はサラダをほとんど残した。
(そもそも生のサラダなんて保育園では出ないから食べたことないけど家では食べたことあるって言ってたし大丈夫かな…ちょっと様子みとこ)
たぶん〇〇のようなものといって食べさせたものの成分が違う物だったりしてアレルギーが起きないとは限らないので今のうちに服をめくって全身を視診するが特に発疹のようなものは出ていない。
「ちょっとしてからまた見ようか、おもちゃなにかあったかな?」
よし、と一息ついてごはんも多少食べて機嫌もよくなってきた蒼士を見える位置の床に座らせ、
自分で座るのを嫌がる瑞樹はおんぶ紐をつかっておんぶをしながらベビーカーに乗せていた荷物を確認する。
桜花は食べ終えた皿を重ねて扉の近くにある小さな机のようなものの上に置いてから最初に頼んだ時と同じようにパネルに手を触れて何か声を掛けているので放っておいても大丈夫だろう。
荷物。
近所の公園に行くだけだったため本当に私物が無く、二人のストロータイプの水筒と自分の750ミリリットルタイプの水筒、おんぶひも2本と紙パンツが5枚、おしりふきが1袋(ほとんど新品)、布おしめとおむつカバーが2枚ずつ、タオル、ビニール袋が多分30枚くらいのセット、ティッシュ1箱(大体3分の2くらいあまってる)トイレットペーパー1ロール、音の鳴る手作りマラカスが5つ、消毒液1、絆創膏が大小合わせて18枚?くらい、ムヒ1つ、体温計1本
…
「うーん…」
カバンを床に置いて一応出して見ているといつの間にか戻ってきた桜花がものすごく興味あり気にのぞき込んでいた。
「不思議な紙だな…作り手は相当繊細な魔法力の持ち主か?」
トイレットペーパーが気に入ったようで手は触れずにじーっと見つめている、勝手に持ち物に触ってこないあたりすごく人に対して丁寧な対応ができる本当にいい人だ。
「あ、別に触っても大丈夫ですよ!後、よければ似たものがあるかどうか教えてもらえませんかね…」
何を言ってもどうにも桜花には異世界人ということは理解してもらえないようなので、もう気にせず現代の物を見せることに決めてそう声を掛けると、桜花は喜んでトイレットペーパーを拾い上げ破れないように気を付けながら広げたり戻したりして楽しんでいた。
「ほほお、これはすごいな、よく見ればトイレ紙の一種なのか?」
「おぉ(あってる)」
「トイレ紙よりだいぶ薄いしまとまっているようだがなんのためにこのようにしたのかわからんな。」
(この世界のトイレはダブルロール型か。紙ちゃんとあってよかった。)
「そーですね。」
「だが…うん、見た目は良いな。すごいトイレ紙だ。」
かなり気に入ったようでずっと見ている桜花は横に置いておき、自分はポケットからメモ帳を出し同じく入っていたボールペンでメモする。
(そうだ)
ポケットの中身も確認し、出す。ズボンの右のポケットにはメモ帳とボールペン、そして消しゴム付き修正ペン。左のポケットにはスマートフォン。コートの右ポケットには駅チャリくんの番号札付自転車のカギ、左のコートのポケットは空。
(…スマートフォン…使えるかなぁ…)
出したスマートフォンを開く、当然電波はない為電話など通信以外は普通に使えるようだ。などと考えながらもう一度ポケットに戻そうとすると、トイレットペーパーからようやく目を離しこちらを見た桜花が
「なんだ貴様佐々木と知り合いだったのか。」
と言いだし、戻そうとした手を止めてすぐさま桜花の目の前に見せる
「こ…これ持ってる人がいるんですか?」
(今の感じ完全にこれ持ってる人知ってるってことだよね、スマートフォン持ってるって絶対元の世界の人でしょ!)
「なんだそれはスマホじゃないのか?」
「スマホ!!」(しかも略称まで一緒!!!これはもう勝ち確なのでは!!?)
「ん?魔法力学者の佐々木が開発した’透ける・魔法力・保存量計測器’略してスマホじゃないのか?」
…
「…すまほ…」
望みを持ってしまった自分がバカだった、と深く息を吐いて静かにうなずく。
「そんな機能これにはついていないですね…その機能貰いに佐々木さんに会いたいなー(棒)」
「佐々木なら城の2ーIだと思うぞ。」
こっそり魔法力学者について聞いてみればこれにもなんの警戒もせず答えてくれる本当に人が良くて心配になるくらいのいい人な桜花様。
「…ところでさっきも3-Aだーとか言ってましたし今も2-Iとか言ってますけど…それは部屋番号とかですか?」
「あぁそうだ、住所録の方も同じだろう?城内も階数と部屋の順番をA,I,U,E,Oで分けているんだ。」
「あ、い、う、え、お。」
「どうかしたか?」
「いえ。」
放心状態になって現実逃避してしまいそうになるのをこらえてメモを続ける。
(日本語なんだ、そう標準語が日本語なんだもの、しかたない。そう、ここは少し昔の日本だと思おう、ローマ字を初めて知って使いたがってる日本なんだよ。)
自分を無理やり納得させて深く何度もうなずきスマートフォンはしまう。これ以上桜花に訪ねるのは得策ではないとの判断だ。
(にしても魔法力学者…名前の響きだけでもめっちゃかっこよさそう。賢者みたいな感じなのかな、めっちゃくちゃ魔法使えたり?うわぁ会いたい。)
考えをそちらにシフトして楽しい妄想に浸る、先ほど見た平太の使用していた魔法のように華やかで夢のある魔法が見たいものだ。
「あ、桜花様はどんな魔法が得意とかあるんですか?」
出したものをまた片付けながらふと尋ねると桜花はトイレットペーパーをまだ持ったまま渋い顔をしていた。
(あれ、地雷踏んだ?魔法は普通に使えるって言ってなかったっけ?)
「…私は…騎士だが…」
目をそらしてぽつりと返す言葉は今までになく小さく耳を傾けないと聞き取れない、しかし表情はやけに真剣で、それを指摘することもできず、静かに待った。
「得意能力は火炎だ…」
「…」
重い沈黙が続いたが脳内には一つの言葉だけが大きく響く
(知ってた。)
今日一番の裏切りのない結果に衝撃を受けながらも相手のテンションに合わせて静かに心にしまい
「そうなんですか…一体それの何が問題なんですか?」
と返しておいた。
(…いや、うん、髪も目も真っ赤だしだいたい炎系だろなーって言ってもいたけど本当にそうなんだ、そしてそれが何故騎士だとだめなの?落ち込む意味がわからない、いやもう何もかもわからないけど。)
「火炎だぞ!?騎士たるものこの剣で戦い尽くす得意能力が必要なのに!私はまるで料理人や葬儀屋のような能力でしかない!!」
「え、えぇ…(な、なんでなんですかー炎魔法が料理人用とか葬儀屋用とか聞いたことないわ。どういう認識?)」
桜花が歯を食いしばって怒り気味に叫んでいる一方で完全に困惑状態に陥りながらも魔法の認識について詳しく話を聞こうとしていたが、次第に桜花の声に怯えた瑞樹がまたなきぐずり始めた。
「うわぁぁぁんあぎゃーーー」
「あ、ごめんごめん怖かったね、大丈夫だよー。」
急いでおろそうとするが泣いて暴れている子を後ろから独りで降ろすこともできず、突然の鳴き声におろおろしている桜花を呼ぶ
「あ、桜花様お話し中にすみません、ちょっと瑞樹ちゃん抱いてもらってもいいですか?」
「なっ!!なんだと!私に赤子を抱けだと!?どうやってだ!」
しかし、ほんの数秒抱き上げてほしかっただけなのに桜花は恐ろしく狼狽し近づくどころか一歩下がってしまう。
「え?ちょっと、なんでですか?!」
「無理だ!折れる!触れるわけないだろう!?」
「だったら瑞樹ちゃん泣きっぱなしにするんですか!」
「うわあああんん」
「ほら!!」
説得する合間も瑞樹は泣き続け(桜花に向けられているのだから当然といえば当然)無く度に桜花は手をわたわたさせて一歩逃げる
「ぐぐぅ…赤子なんて生まれてこの方触れたこともないんだぞ!もし私が触れて壊れたらどうするんだ!」
「どんな人生ですか!そんな言い訳ばっかりしてないでちょっと降ろすの手伝ってくださいよ!!ほんの5秒でいいですから!!」
泣き叫ぶ瑞樹を背負ったまま後ろ向きに近づいていくという、恐ろしくシュールな状況が生まれてしまっているが、そんなことを言っている場合ではない。
「くっ…」
「うにゃああああああんんん」
「あぁほら!元はといえば桜花さんが火炎魔法のことで叫んだりするからですし!!」
「うっ…」
「だからほら!とりあえずみずきちゃんを下ろさせて!!」
目を閉じて悩むようなし草を見せた桜花の手元におんぶひもごと瑞樹を押し付けると、恐る恐る手を震わせながらもなんとか瑞樹を抱くことに成功した。
瞬時にベルトを外し振り返り、今にも落とされそうな瑞樹を抱き上げ桜花から一歩離れる、この間僅か2秒である。
「はあ…はあ…」
「なんでコンマ数秒両手の上に赤子乗せただけで息切れしてるんですか!?まったく!」
「う…。」
この瞬間だけは命を救ってくれたとかここに住まわせてくれると言ってくれたことなどすっかり頭からとび瑞樹を抱っこしたまま声音だけは優しくまくし立てる。
「背中で抱いている子が全力で泣いているときの頭わかります?!もうまるででかい鐘の中にいるような音響!ライブもびっくりの音声!それが長引けば長引くほどにたまるストレス!例え子供が大好きでもこれは耐えるの大変なんですよ!世のお母さま方本気と書いてマジすげぇ!って思わされる瞬間でもありますけど!」
桜花は何を怒られているのかさっぱりわからないようで目をぱちぱちさせながら眉尻を下げている
「それにそもそも火炎魔法とかめっちゃメジャーなやつ使えるとかすごいのになに文句いってるんですか?!後、能力とか使い方次第でなんでも使えると思うし料理人だって葬儀屋だって相性よくて使ってるだけなんじゃないですかね!?」
最後は息切れしそうになりながらわけのわからないことを言ってしまったが桜花はしょぼくれた顔をしながらも首を一度縦に振ったので気迫だけは伝わったようだ。
「す、すまない。」
そしてぺこりと頭を下げられ、それをみてようやく理性を取り戻し’はっ’として頭を下げかえす。
「…あ、いや、こちらこそ桜花様にはよくしてもらってす、すみません!!」
「いや、いいんだ。たしかに貴様の言うことには一理あるし…赤子を二人も一人で育てるのは相当大変だったんだろう、母の重みを感じた…」
何度もうなずきながら言われるが(私、母じゃない!!…でもややこしいから黙っておこう。)
「つ、つまり何が言いたいかというと、桜花様も自分の魔法に是非自信をもってくださいねってことで!!」
笑顔で無理にいい方向に持っていたのだが桜花も微笑んでその言葉を受け入れてくれて妙にしっくりくることに違和感を感じる。
(ほんとに…いい人すぎない?桜花様良い人すぎない?この世界の人みんなこんな感じなの?え?あんぱん界かよ。)
あはは、と同じように笑い合いながらふといつの間にか泣き止んでいる瑞樹をみると腕の中で泣き疲れて眠りに落ちていた。
主人公が突然の短気を起こしますがちゃんと理由があります。
ほんとは穏やかな性格ですし子どもに短気をぶつけることは無いです。
お読みいただきありがとうございます。