2話 『異世界に降り立った最強天使の名は伊吹遊美奈』
「あ、寝る時間…もう、いいや。」
伊吹遊美奈は、眠気の限界を超えて倒れて眠ってしまった。
草原の青葉の香りが風で漂っているのが分かる。
夢じゃないかのように青々とした空を見ると、大きな鳥が飛んでいた。
しかも、こっちに向かって来ている。
「……ちょ!?えっ!?」
慌てて起き上がりその大きな鳥が遊美奈の頭上を掠るように飛び込む。
間一髪のところでギリギリ避けた遊美奈は、驚きが隠せなかった。
「あ、あぶな……危ない!?これ、死んじゃう!!」
ついさっきの自分が居た場所を振り向いてみると、軽いクレーターが出来ていた。
本当に死んじゃうやつだと、感じた遊美奈は、一目散に立ち上がって逃げることにした。
だが、その大きな鳥は追撃をするかのように追いかけて来ていた。
「いやいや、う、後ろに…後ろに着かれているんですけども!?」
真後ろで大きい鳥に爪が鋭利なのが分かる程、接近していた。
詰めの部分が若干、赤い色みたいなのが見えるのは気のせいかなって思うほど怖かった。
いや、現在進行形で恐怖が第二第三へと次々に起こっている。
「ちょ、此処ら辺…隠れるところが無い!?それと、崖がチラって見えるのは、気のせい!?」
真後ろに着かれていても、周囲をチラチラと見ていたのが幸運だった。
どうやら、遊美奈の体力を疲れさせて一気に襲うつもりなのだろう。
この大きな鳥、猛禽類の鳥頭にしては賢いやり方だと思わされる。
だが、人間である遊美奈は、非常にまずい状況がどんどん近づいて来ている。
「…それは…猛烈に、尿意が催したがっているのですが!?まずいまずいまずい!!」
人間、緊張感と恐怖感がマックスに達すると尿意の感覚に襲われると聞く。
非常にやばく、非情な光景を想像してしまったのが仇となってしまった。
「も、もう…駄目…逃げ回るのが限界な上に、膀胱が警鐘音を鳴らしている様ですよ!?」
もって、2分であの猛禽類からの窮地とトイレに駆け込む窮地を回避しなければならない。
だがしかし、猛禽類から逃げた後でのトイレ探しで時間が間に合わなかったら…。
更に、恐怖感が増していくに連れてある意味では、死に局面しかねない。(羞恥の意味でも)
あぁ、こんなことになるのならと走馬灯のように悲壮に駆られている最中、ある事に気づく。
「…し、仕方ない…遊美奈よ、羞恥心だけは…悔いが残るけど、スカーイ・ダイビーング!!」
こんなことはしたくはなかった。
そう、猛禽類との回避行動をとる選択肢を選んだのだ。
それは、《崖から飛び込んで運が良ければ川の中にドボン作戦》を敢行することに。
「…追いかけるのなら…追いついて…なん…だとっ!?」
崖から飛び降りることには、成功。
だが、場所がまずかった。
崖から飛び降りた場所、川じゃなく海だったのだ。
「ひょぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」
死に急いだんじゃないかと考えた遊美奈は、身投げの構えをし始めたその瞬間だった。
遊美奈のショルダーポーチからあるカード一枚が目の前に現れて、光りが迸った。
シュパァァァァァ
猛禽類が遊美奈の後から追いかけて来ていたので、目くらましにはなったのだが。
大きな鳥の猛禽類の後ろに遊美奈が現れたのだ。
何が起こったのか、まったくもって訳が分からないだろう。
「だが、しかし…実際に、現在進行形でそれが起こっているんですけどね!!」
猛禽類の目の前には、猛スピードで直滑降している状態で海面ギリギリで止まっている。
遊美奈はその猛禽類の尻尾を掴んで崖を地面の要領でブレーキ跡を残すような音と共に止まっていた。
その遊美奈の目の前であるカードが回転をしながら何かの発動をしている効果が見えていた。
“クイック・ストップ”
淡白く光っているそのカードを見ている遊美奈と猛禽類の大きな鳥。
一体何が彼女に起こっているのか不思議でならない女神もまた、その光景を光玉で覗いて観ていた。
只今の時刻、午前4時10分。
グレイ・ヒュスドス 怪鳥種族 猛禽類 オオワシ科に属する生態 速度神の守護霊獣 遊美奈の使い獣
技:直下滑空 速度付加