第四話 冒険者
王城に招かれたその翌朝、俺は金貨20枚と共に城から追い出された。
「魔王の討伐が成りましたら、元の世界へお帰し致します。それまでは王都の方にご滞在ください。こちらは滞在費になります」
王女はニッコリと笑ってそう言いながら、手を振って、あっさりと俺を切り捨てたのである。とは言え、厄介払いにしては、当面の費用を持たせてくれた上でのことだ。
こちらとしては、魔王退治なんざご免こうむりたいところだし、ありがたいにも程がある。俺が勇者一行とは関係ないただの巻き込まれた一般人だと知れた時の、針の筵感はハンパなかったからなぁ。
昨日の勇者歓迎の晩餐会では、重臣達から空気扱いされ、唯一話しかけてくれた王女も二言三言で翔流達のところへ行ってしまった。
それでもあそこに残っていられるほど、俺は神経図太くない。
翔流たちには悪いが、こちらとしては、魔王が倒されるまで。悠々自適のファンタジーライフを楽しませてもらうかね。
王城は王都の中心にあり、その付近に行政に関連した施設が立ち並んでいる。その区画を囲むように第一の大きな城壁が囲んでおり、そこから放射状に大きな道が伸びている。
第一城壁の外に貴族や高級官僚などの邸宅があり、貴族街という名で富裕層の住宅街を形成していた。
この貴族街も第二の城壁で囲まれている。
そして、その第二城壁の門をくぐった俺の目の前に広大な城下町が現れた。
どこまでも続くかと思われる石造りの町並み。大通りは馬車や人がひっきりなしに往来し、喧騒に満ちている。
西洋の生きた町の姿に俺は圧倒された。
いや、多分、規模で言えば日本の街のほうが大きいのだろうけど、ここに広がる景色は日本では見られない、西洋ファンタジーの景色であった。
異世界の都市の景観に呆然としながらも、俺は歩き出した。
まずは冒険者ギルドに行こう。この世界は、翔流たちがプレイしていたMMOに酷似した世界だといっていた。
翔流たちの格好をみるからに、海外製のゴリゴリのファンタジーMMOではないはず。あと、俺がやっていたフォームソフトウェアのダークファンタジーRPGでもありえない。
日本人なら誰もがイメージするような中途半端な西洋ファンタジー感がある。
であれば、冒険者ギルドに登録して、クエストをこなしていれば、ある程度食いつないでいくことは出来るだろう。
街の人に道を尋ねながら、冒険者ギルドの建物まで来た。
中に入ると、ロビーの様になっており、受付のカウンターと掲示板がある。そのほかにはテーブルがいくつか置いてあった。
中はそこそこ盛況なようで、掲示板を見ている人や、テーブルを囲んで幾人かで談笑している人たちもいる。皆、冒険家のようだ。それぞれおもいおもいの鎧に身を包み、腰に武器を下げている。
むしろ、俺のように一見丸腰の人間は居ない。しかも、パーカーにジーパン。
カウンターには受付の女性が立っていた。ネコミミで、少しきつめの目元がセクシーでグラマラスな美人だった。クールビューティーといったところか。受付巨乳の法則により、胸元から覗く深い胸の谷間へ目が行かないようにするのは大変な苦労だった。
でも、胸を見てだらしない顔してるのはバレバレなんだろうな。
少し恥ずかしさを覚えながら、受付のネコミミ美人に話しかける。
「冒険者の登録を御願いしたいのですけど」
「わかったニャ。こちらに氏名など記入するニャ」
きつそうな美人なのに、表情もクールなのに、語尾がニャなのかよ。あざといな! いかにもなキャラならニャでも気にならないけど。あざといな!
出てきた書類や注意事項が書かれた書類は全部日本語だったので、意外と滞りなく登録は済んだ。
ギルドのシステムとしては、掲示板にクエストが張り出されているので、自分のランクとスキルに見合ったクエストを選び、受付で申し込むとクエスト発行券がもらえる。
その際には、担保としてランクに応じた金額をギルドに預けなければならない。クエストを棄権すると半額が返され、達成すると全額返ってくる。クエストには期限があり、期限を過ぎるとお金は返ってこない。
クエストを達成するとクエスト発行券を報酬に換えてもらえる。
冒険者ランクはS~Eまである。クエストは冒険者ランク以下か一つ上のものなら申し込むことが可能だ。
クエストには、難易度に応じてポイントがあり、ポイントを貯めると、冒険者ランクが上がることになる。
説明するまでもない、実にテンプレなシステムだ。
「よし。こちらが冒険者登録証になるニャ」
「どうも……」
VRゲームでもコアなファンを持つNANDA・COREシリーズの、NANDACORE-forAnswer-で登場するオペレーターが語尾にニャをつけてるぐらいの違和感がある。
オペ子、いや受付の美人から冒険者登録証を受け取る。何の変哲もない金属製のプレートに俺の名前などが記載されている。
登録を済ませると、掲示板に行き、クエストを探してみることにした。
俺は草原にいた。
ガサリと草が動く。目を向けると血のように赤い毛皮の角が生えたでかいウサギがいた。ブラッドラビットだ。
ドンッ!
左手のデザートイーグルが火を噴き、ブラッドラビットは着弾の衝撃で5メートルほど吹っ飛びながら、ばらばらに飛び散ってしまった。
一発でオーバーキルだ。死体も残っていない。
連射すれば、武装ヘリすら打ち落とせるハンドガンだ。(本物はどうか知らないけど、ゲーム中ではフル強化すると、ヘリが落ち、車も吹っ飛ばせる)
特殊な効果も付加されており、デザートイーグルは着弾時に小爆発を起こして相手を吹っ飛ばす。二丁拳銃すると人間でジャグリングが出来るほどだ。
俺は草原を歩きながら、目に付くブラッドラビットを撃ち殺していた。
ドンッ!
ドンッ!
腹に響く銃声が草原に轟く。
左右のデザートイーグルが火を吹くたびに、ブラッドラビットが打ち上がり、バラバラの肉片に砕け散り、吹き飛んでいく。汚い花火のようだ。
俺がやっているのは、ブラッドラビット15匹討伐のクエストだ。
ランクはDで、冒険者初心者向けの討伐クエストだ。ブラッドラビットを見つけるのがめんどくさい割りに、報酬はあまり良くない。銀貨1枚だ。
最初はもっと簡単で安全な近場の薬草採取クエストをやろうと思っていた。
が、採取スキルがなくて、採取できなかった。
冒険者ギルドのスキルトレーナーから採取スキルを習えるのだが、いくら教わっても、スキルを覚えられず、採取できる薬草を見つけられない。
違うゲームから来たためか、この世界のスキルを全く覚えられない。
この世界では、何をするにしてもスキルが必要になる。倒したモンスターからの剥ぎ取りにすらスキルが必要だ。
俺は剥ぎ取りすら出来ない。
「お前、やる気あるニャか?」
オペ子、いや受付の美人に冷たい目で言われたとき、ゾクッとして新たな扉が開きかけたが、それ以上に愕然とした。
魔法も、剣も、生産も、何も出来ない。
俺に出来ることは、銃を撃つことだけ。
ドンッ!
ドンッ!
ブラッドラビットが弾け飛んでいく。
ウサギを見つけて撃つ。
ただそれだけだ。
クエスト発行券を確認する。クエスト発行券には、どういう仕組みかわからないが、今15匹中何匹倒したか表示される。
いつの間にか、15匹以上倒していたようだ。
俺は王城に戻ることにした。
「初めてにしては、良くやったじゃニャいか。だが、調子に乗るニャよ」
オペ、受付の人が温かい目に厳しい口調で言いながら、クエスト発行券を受け取り、報酬を渡してくれた。
「どうも、ありがとう」
銀貨一枚、受け取った後、ロビーの椅子に座った。
王城のクエストはあまり美味しくない。
王城近くのモンスター討伐は王国の兵士たちが狩っているからだ。
俺は討伐クエストくらいしか受けられないから、仕事が国の兵士と被ってしまう。
「拠点を、移すか……」
正直、王城の近くにはいないほうがいいかもしれない。
王女にしても、翔流たちにしても、目障りにならない距離が必要かもしれない。
悠々自適のファンタジーライフ、か……。