第三話 王宮
馬車と騎士の一団は森を抜け、王都へと入っていった。
高い城壁に囲まれた王都は西洋の石造りの町並みそのままで、重厚さと華やかさを兼ね備えていた。
馬車は石畳の道をガラガラと音を立てて進み、王都の中央に聳え立つ白亜の宮殿を目指していた。
ここに来るまでに、俺達を迎えに来たお姫様が説明してくれた。
彼女は本当にこの国の王女様で、召喚の儀で召喚された勇者を迎えに来たのだ。
この国の近くの大きな島で、魔王が誕生したらしい。
魔王とは、人間と敵対的な魔族という種族の中でも特に力の強い魔人達が競い合い、その中で最も優れたものが魔王となる。
魔族はただでさえ単独でも人間を遥かに凌駕する力を持っている。その中で魔王ともなれば、その力は格段に強く、一国など容易く滅ぼすだけの力がある。
そんなのが、この国の近くに出て来たのだ。
さらにこの魔王は人間国家に敵対的で、配下の魔人を使って、すでにいくつかの都市を占領していると言う。
そこで、この国の王は討伐軍を編成し、魔王軍との戦いに討ってでた。
戦況は、まあ、よろしくないらしい。
各国に協力を要請してみても、協力は微々たるもの。隣国の不幸は我が国の幸福といった感じらしい。また、自分の国に魔王軍が来たときのための軍備に追われている為、他国の援助は出来ないとのことだ。自分の尻に火がつかないと真剣になれないのだろう。
戦況は日に日に悪くなっていく。
そこで、起死回生の一手として、勇者を召喚したわけだ。
魔王を倒し、国民を救う、英雄の召喚。
しかし、勇者召喚の儀は代々伝承されてきたものとはいえ、伝承ゆえに完璧とは行かなかった。事故が発生し、本来召喚の魔法陣の中に召喚されるはずが、座標がずれてしまったらしい。結果、勇者達は平原のど真ん中に飛ばされることになる。
そして、その召喚に巻き込まれた間抜けな一般市民がいる。英雄の陰に隠れた、とても可哀想な被害者。つまりは俺だ。
そこまでの話を聞いている間に、馬車は王城に到着。どデカイ城門が開き、俺達は城の中に入った。
俺達は謁見の間まで通された。玉座の前で肩膝を付き、頭をたれた姿勢で待つ。
謁見の間の荘厳さと重厚感、整列した騎士たち、玉座の傍に控える重臣達、一国の正式なセレモニーだ。
その中に、パーカー姿で参列している俺の居心地の悪さといったら、相当なものだ。こんなことならスーツのままにしとけばよかった。
「アルバラード王国国王、エドムンド・エル・アルバラード陛下、御入来」
あまり待つことなく、王様が来てくれたようだ。
「面を上げよ」
玉座からの声で、俺達は顔を上げる。
玉座には、威厳を称えた四十代後半ぐらいの男が座っていた。体格もよく、王と言われれば納得がいくほどのカリスマを感じる。
その横には、先ほどのドレスとは違う、一層華麗なドレスを身に纏った王女様が控えていた。
「勇者よ、よく来た。突然の召喚で驚いたであろう」
「いえ」
翔流が神妙に答える。全て任せた。俺は隅で目立たない様に縮こまっておく。葛葉も美琥斗も雰囲気に呑まれたのか、大人しくしている。
「こちらも状況が切迫しておってな。無礼は承知で、召喚せざるを得なかった。許して欲しい」
「いえ、事情は道すがら伺いました。致し方ないことかと」
「おお、では、許してくれるか?」
「はい」
「事情は知っていると申したので、今この場では細かいことは説明せんが、我が国は現在亡国の危機に瀕しておる」
国王は沈痛の面持ちで国の状況を憂う。
「存じております」
「ならば、話は早い。そなたらには魔王を討伐してもらいたい。どうじゃ? やってくれるか?」
「……微力ではありますが、お役に立てるならば」
若干躊躇したものの、翔流は思ったほど悩まずに受け入れた。
受けざるを得ないよね。
「ただ、我らも非力ではございます。国王陛下のご助力無しでは、討伐はすることは叶わぬかと存じます」
慇懃には言っているが、『やってやるからあんたも協力しろよ』とかましやがった。翔流のヤツ、言うときは言うねえ。
「おお、勿論だとも。此度の問題は、我が国の問題。そなたらへの協力は惜しまん。必要なことがあれば、申し付けるが良い」
翔流の生意気ともとれる発言を受けても、王様は一向に気に介さず、それどころか破顔して、翔流の話を受け入れた。
「勇者よ、魔王討伐を引き受けてくれたこと、まことに嬉しく思う。後のことは、他のものに任せてあるゆえ、その者達の話を聞くが良い」
そう言って、王様は退席していった。
王様は退席したが、王女様は白髭の爺さん連れて、こちらに近付いてきた。
「勇者様、ありがとうございます」
「いえ、まだ何もしていません」
「いいえ、私達の国のため、立ち上がっていただくと言って下さっただけで、嬉しく思います」
「いえ。それより、俺達はどうしたら?」
「そうですね。まず皆様の現在の力を測定させてくださいませ」
王女様が促すと、白髭の爺さんが前に出てきた。手に大きな水晶玉を持っている。
「この宝玉に手をかざして下さいませ」
「こう、ですか?」
翔流が宝玉とやらに手を翳す。
「おお! レベル182に生命力24000、魔力量も5000以上ありますじゃ! さ、流石は勇者さま!」
爺さんの驚きの声に、謁見の間に集う人たちからざわめきが立ち上がる。
「素晴らしいですわ! 勇者様!」
王女様も白皙の美貌を紅潮させた。
そして、葛葉と美琥斗も測定したが、どちらも翔流同様に高数値をたたき出し、周囲をどよめかせていた。
葛葉はフフンと自慢げ、美琥斗はオドオドと恐縮している。
俺の番が回ってきた。
えっと……大丈夫かな?
翔流たちも不安そうにこちらを見ている。
や、やってやんよ!
俺は意を決して、宝玉に手を翳した。
「……」
爺さんは沈黙している。
「……」
「あの?」
「……」
「爺や、どうしたのかしら?」
「いえ、姫様、宝玉が全く反応しませんで」
「どういうことかしら?」
「恐らくですが、この者は何の力も御座いません。勇者ご一行とは違う者かと」
違う意味で翔流たちよりも大きなざわめきが上がった。
「あ~、すみません。その人は……」
翔流が取り成して、周囲が納得するまで、生きた心地がしなかったよ。騎士たちの剣呑な雰囲気に、重臣たちの疑念に満ちた表情といったら。
「魔王の討伐が成りましたら、元の世界へお帰し致します。それまでは王都の方にご滞在ください。こちらは滞在費になります」
王女様はにっこり笑いながらそう言って、金貨20枚入った金貨袋を手渡し、
俺を王宮から放り出した。