第二話 酷似
平原を走っていると、前で空を焼かんばかりの轟炎が立上った。
なんだなんだ!? ヤバげじゃないか?
俺はすぐさまスニーキングスキルを使ってしゃがみ込んだ。Lv10のスニーキングだから目の前を通っても気付かれないだろう。
大災害を起こしそうな炎は、勢いに反して、あっさりと消えてしまった。不自然なまでの消え方だ。風に乗って、煙と焦げた匂いが漂ってくる。
俺はスニーキングしたまま、姿勢を低くしてカサカサと火元に駆け寄った。
そこには三つの人影があった。
一人は、銀髪の白人。悔しさを感じることも出来ないほどの美男子だ。長身痩躯に、黒い鎧とかプロテクターとかロングコートとかを融合させたようなハイファンタジー系の中二心をとても擽る鎧をまとっている。普通の人間にはとてもこんな鎧は似合わないが、この男には似合っている。
もう一人は、金髪を背中まで流した美少女で、ちょっとつり目気味の瞳が勝気そうだ。こちらは背中と胸元がぱっくり開いた黒いロングドレス風な衣装をまとっている。要所要所をプロテクターで守っているようだが、やや露出度が高め。スカートのスリットから覗く白い太ももが眩しい。
最後の一人は、濃い青色の髪をした美少女で、幼い顔立ちとそれに見合う背丈、三人の中で一番年下のように見える。純白の鎧を身に纏っているが、幼い顔立ちに反して、体つきのほうは発育が良かった。ロリ巨乳というヤツだ。
「道楽院、やりすぎだよ。初心者フィールドの平原で、フレイムタイラントはオーバーキル過ぎる」
銀髪の男が日本語で言った。
「ごめんごめん。ちょっとびっくりしちゃってさ」
金髪の少女が悪びれた風もなく答える。
「ふぇー。みんな消し炭になって消えちゃいました~」
ロリ巨乳が黒焦げになった一面を見回しながら、間延びした口調で言った。
日本人とはかけ離れた容姿をした人たちから日本語が出てくることに非常に違和感があるが、とりあえずコミュニケーションはとれそうだ。いきなり襲われることはないだろう。話せばきっとわかってくれる。
「おーい!」
俺は立ち上がって、3人に手を振った。
俺は3人と合流した。互いに自己紹介しあう。
男は草薙翔流。金髪娘は道楽院葛葉。ロリ巨乳は妃咲美琥斗。3人とも変わった名前をしていた。人のことは言えないが、俺の名前の斉藤蔵人は丸目蔵人から貰った由緒正しい名前だ。
3人も俺と同じで、VRゲームをしていたら、この平原に跳ばされたそうだ。
「じゃあ、ここがどこだかわからないか」
俺は少し落胆した。しかし、同じ境遇の人がいるとちょっと安心する。
「いや、わかるよ。多分セラエル平原だね、ここ」
翔流があっさり答えた。
「そうですね~。初期の頃しかいたことなかったけど、見覚えありますし、セラエル平原です」
「初期過ぎて、私は忘れちゃった」
「セラエル平原? なにそれ? ていうか、何でわかるの?」
「ここ、俺たちがプレイしてたVRMMO『クリムゾン・ロード』の世界と同じような気がするんだ。景色が見覚えあるし」
「なんじゃそりゃ。日本じゃないどころか地球じゃないのかよ……」
「なんか、とんでもないことになったわよね……」
道楽院葛葉が不安そうに言った。
「セラエル平原って、どこ?」
「『クリムゾン・ロード』の開始直後のフィールドだね。初心者用のフィールドだから、敵は弱め。山のほうに行くとゲーム開始地点である初心者村。森を抜けるとアルバラードの王都があるよ」
「『クリムゾン・ロード』やったことないの?」
「ないね」
そもそもVRMMO自体もてはやされたのは最初の1、2年ぐらいで、それ以降は急速に廃れていったでしょ。普通はやんないよ、VRMMOなんて。VRオンラインのメジャージャンルはシューティングでしょ。VR前世代の時もFPSとかいって、流行ってたし。
「しかし、変な感じだな。プレイしてたVRMMOと酷似した世界に飛ばされるなんて」
「アバターのまんまだけど、つねると痛いしね」
「夢かと思って何度もつねっちゃいました」
妃咲美琥斗が細く白い腕を見せてきた。つねった箇所が赤くなっている。というか、重要なことをさらっと言ったよな?
「え? みんなアバターのままなの?」
「流石に銀髪の日本人はいないと思うよ」
「あたしも金髪じゃないしね」
「マジかよ! 俺だけアバターじゃないの? 『クリムゾン・ロード』のプレイヤーじゃないから?」
「たぶん、そうだからじゃないですかね~?」
そんな……。俺だけ典型的な日本人高校生だなんて……。
ん? ちょっと待てよ。草薙翔流と道楽院葛葉はいいとして、妃咲美琥斗のアバターがロリ巨乳? ロリ巨乳はほぼ100%……。
いや、俺がどうこう言うことじゃないし、知りたくもない。
「まあ、いいか」
「僕としては、純日本人の姿している蔵人を見ると、ほっとするよ」
「実はあたしも」
「おう。存分にほっとしてくれ。それより、どこに行くの? 出来れば、俺も連れて行って欲しいんだけど? みんな『クリムゾン・ロード』プレイしてるから、結構この世界のこと知ってるんでしょ?」
「そうだね。そこそこ廃プレイして知ってるし、案内できると思うよ。一緒に行くことには賛成かな」
「あたしもいいわよ。初心者を教導するのも上級者の務めだしね」
「みんなで行きましょう~。大勢のほうが楽しいです」
「ありがとう~。助かるよ~」
俺は若干泣きそうになってしまった。
「僕達は王都のほうへ行こうとしてたんだ。そろそろ出発しようか」
草原を少し歩くと、草原を貫くように森から山の麓までを繋ぐ街道に出た。
街道を王都のほうに歩きながら、3人から『クリムゾン・ロード』と言うゲームの説明を受けることにした。
自由度の高さが売りの中世ファンタジーを舞台としたスキル系VRMMO。
ほぼなんでもできるようにスキルが用意されているらしい。
また、したいことを運営に申し出て、OKが出れば半年後ぐらいに実装してくれるし、バグや不正に対する運営の対応のよさが評判。また、月額課金制なので変なのが湧き難い。これなら、確かにVRMMOとして少しは流行るかもしれない。
ただ、コストが凄いことになりそうだが、課金も凄いことになりそう。
スキル系を謳い文句にしているだけあって、戦闘系、生産系、芸能系どころか炊事洗濯などの生活系スキルまであるそうだ。何をやるにしてもスキルが必要になるらしい。
VRMMOだし、フィールドを歩いていれば、敵も湧く。
セラエル平原では、ブラッドラビットという敵が湧くらしい。初心者用フィールドだけあって、はっきり言って弱い。
今も翔流の剣によってあっさり真っ二つにされていた。
何匹も出てきたが、翔流の剣だけでなく、葛葉の魔法ファイヤーボールや美琥斗の奇跡ライトニングで次々と死んでいく。俺? 俺は何もしていない。するまもなく、敵が死んでいくんだもの。
「また、オーバーキルだよ……」
翔流が苦虫を噛み潰したかのような顔をする。オーバーキル分のダメージは死体の損壊に回るらしく、あまりダメージを与えすぎると剥ぎ取りが行えない。
「アイテムストレージに売れるものはあるんだし、あまり気にしてもしょうがないわよ」
「先のことを考えると、あまり手持ちは売りたくないんだよね」
「適正エリアまで行けば、お金は何とかなりますよ~」
そこで3人は俺を見た。
「いや、俺だって、戦えば何とかなるよ!」
ブンブンと野球バットを素振りしながら、戦えるよアピール。あまり、共感は得られなかったらしい。
「野球バットじゃねえ……」
「野球バット最強伝説なんだって! マジツエーから!」
「いや、強いのはわかったんだけど」
一回、野球バットでブラッドラビットを叩いてみたんだが、水風船のようにバシャッと弾けるてしまったのだ。剥ぎ取り以前の問題である。俺には見慣れたものだが(人体でやってるからね)、3人には刺激が強かったらしい。
「あんまり見たくないです~……」
美琥斗は怯えたように血に染まる野球バットを見つめた。なんだよ、お前らの攻撃だって大差ないグロさだろ。
そうこうしているうちに森の入口に着いた。街道はそのまま森の中へと続いている。
そのとき、森の中から、多数の蹄の音が聞こえてきた。まっすぐこちらに向ってくる。
俺達は街道の脇により、警戒しながら、待ち構える。
しばらくすると、森の中から多数の馬に乗った騎士と騎士たちに囲まれた豪奢な馬車が目の前を通り過ぎていく。
馬車には何かの紋章がついており、それは騎士たちのマントにも着いていた。
「アルバラード王家の紋章だ。王族と近衛兵団?」
翔流が訝しそうに呟いた。
馬車は目の前を通り過ぎたが、すぐに止まった。騎士たちも止まり、馬を下りて整列する。
馬車の扉が開き、一人の女性が降りてきた。
一目でわかった。お姫様だ。輝くような気品。芸術的な造詣の美貌。慈愛に満ちた表情に眩しい笑顔。金の髪は金粉を塗した様に輝いている。上品でありながら淡雪のように可憐なドレス。清楚なたたずまいとは相反して、スタイルは良い。
お姫様はこちらに歩いてくる。俺達の前に立つと、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「勇者様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ。お迎えに上がりました」
そう言って、お姫様は翔流の手を取った。
ですよね。
誰がどう見てもそっちが勇者ですよね。
どうやら俺は巻き込まれただけらしい。