表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

序話 ゲームクリア

短めの話です。

完走できるよう頑張ります。

 自動ドアのガラスに俺の姿が映っている。

 敵陣に乗り込むんだ。折角だからとスーツでビシッと決めることにした。その上に黒いロングコート。サングラスを掛けた俺の姿は、どう見ても堅気じゃない。まあ、ここでは堅気じゃないんだけどね。

 自動ドアが開き、俺はビルのロビーへ大またで歩き出した。

 俺の姿を見て反応した警備員がこちらに駆けて来る。右手をコートの裾から潜り込ませて腰のヒップホルスターからデザートイーグルを抜くと、警備員に向けてぶっ放した。

 腹に響くマグナムの銃声と共に警備員が吹っ飛ぶ。

 左手でももう一丁デザートイーグルを抜き、もう一人の警備員に発砲する。

 警備員が床に倒れると同時に、周りから悲鳴が上がり、ロビーにいた人々が逃げ惑う。警報が鳴り響き、ロビーは喧騒に包まれた。

 エレベーターから黒服の男たちが出てくる。この辺りを支配するギャング、ルッツエルンのヤツラだ。サブマシンガンを俺に向けて連射してきた。

 俺はすぐさまロビーの柱に向けて走り出した。

 目を焼くように断続的に瞬くマズルフラッシュと、弾丸が空気を切り裂く音が俺の傍を駆け抜ける。

 走りながら、デザートイーグルで応戦する。3人の男が苦鳴を上げながら吹っ飛んでいく。

 何とか柱の影に滑り込み、銃弾の雨をやり過ごした。


「ふう。やれやれ。大変だ、こりゃ」


 流石、敵の本陣だけはある。警備が厚い。

 だが、乗り込んだ以上はやるしかない。

 俺は二丁のデザートイーグルを構えなおすと、柱の影から飛び出し、デザートイーグルを連射しながら、黒服の男たちの中に飛び込んでいった





 斉藤蔵人さいとうくろうど。17歳。どこにでもいる高校2年生。

 それが俺だ。

 成績は、そこそこの進学校の中で、中の上をやっとこさキープしている。部活はしていないが、美化委員会に所属している。というかさせられた。

 友人はそこそこいるが、彼女はいない。典型的な非モテ系リア充と言うヤツだ。

 趣味は、これと言ったものはない。外で遊ぶこともあるし、ゲームもやる。ドラマも見れば、アニメも見る。本も読むし、漫画やラノベだって嗜む。

 今も、最近ハマッているVRゲームをやっているところだ。

『クリムゾン・ロウ』というゲームで、オープンワールド系のVRゲームだ。


 この『クリムゾン・ロウ』は、ギャングが蔓延る街ロイヤルポートを舞台にしており、3つのギャングが抗争を繰り広げているという設定になっている。

 そのうちの一つクリムゾンに属する主人公が暴力で成り上がっていき、他の2つのギャングも潰して、ロイヤルポートを支配していく様を描いている。

 そろそろお察しの人もいるだろうが、このゲームは当然Z指定ゲームで、おいそれと俺がやっていいゲームじゃない。

 暴力性と残虐性のため、エロがないのに18禁のゲームなんだ。

 やってて思ったけど、まあ相当に酷いね。規制されて当然だね。ていうかVRゲームにしてはいけないゲームの一つだね。

 街を歩く敵ギャングにいきなりロケットランチャーぶっ放して、銃撃戦を仕掛け、逃げ惑う住人を巻き添えにぶっ殺すことなんてザラで。さらには、騒ぎを聞きつけて、駆けつけたはずの警官がいきなり無関係の通行人に発砲して射殺する。もう、阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことだろうなぁ、と騒ぎを起こしたプレイヤーでさえ呆れてしまう。

 街中の移動は、主に車(当然、盗難車)なんだけど、カーブをドリフトで曲がろうとして、曲がりきれずに歩道に突っ込み、通行人を跳ね飛ばすことなんていつものことで、そして、逃げ惑う通行人が一般車両に跳ねられ、駆けつけた警官が通行人を射殺、阿鼻叫喚。紛争地帯でももう少しマシなんじゃないかと思えるぐらいだ。

 もし本当にロイヤルポートが現実にあったら、絶対に住みたくない。


 良識ある人からすると、このゲームをやっているってだけで、残虐な異常者に思えるだろう。

 しかし、このゲーム、クライム物、ノワール物として意外と面白いんだ。

 仲間との友情と裏切り。

 友の死と復讐。

 宿敵ともいえる刑事との反目と共闘。

 メインミッションも盛りだくさんで、銃撃戦だけでなく、カーチェイスやスナイピング。ヘリからのヘイローなどなど。

 一方、サブミッションやDLCミッションはシュールなギャグに満ちていて、シュールを通り越してぶっ飛んでいたりする。

 ジョッキー博士の超絶有頂天絶頂委員会なんてものもあるし、ゾンビとバンパイアとゴーストが街の一区画を占領したり、宇宙人が攻めてきたりと、本編も若干ぶっ飛んでいるが、サブミッションは開発が好き勝手やっているとしか思えない内容だ。開発会社は海外なのだが、日本人には理解できない感性をしているよ。

 また、DLCやMODも充実している。

 結構マイナーなゲームなのだが、かなりコアなファンが付いているゲームなのだ。


 噂を聞いて、俺も興味をそそられて、こっそりやってみた。そして、最初はあまりの暴力性に閉口したものの、やっているうちにハマッてしまった。全てのスキルを取得した上、DLCやMODを導入したりして、なんだかんだで4周はやっている。オンライン要素もないゲームで200時間を費やしたのは初めてだ。

 俺は200時間も何やってんだ……勉強しろよ……。

 ということで、5周目のこれでラストにして、このゲームはアンインストールする。持ってるのがばれたら大変だしね。

 そして、今、最後のミッションで、宿敵ルッツエルンの本拠地に乗り込み、ルッツエルンのボス、アントニオと対決するのだ。





 んで、色々すっ飛ばして、ラストシーン。

 なにしろ、ビルの最上階まで上り詰めて、やっとこさ対面したかと思えば、ヘリで逃げられ、ヘリチェイス。ヘリを撃墜したかと思えば、車を奪って逃走で、カーチェイス。港の工場に逃げ込まれ、追いかけてみれば、待ち伏せの残党が多数。待ち伏せを全滅させて、ようやく対決できるようになる。その間、逃げるアントニオの背中にどんだけ銃弾をぶち込んでも死なないどころか、フルハベル並の強靭さで怯みもしない。


 工場で追い詰めて、俺達二人は対峙した。


「君もしつこい男だな。深く感銘を受けてしまうよ」

「あんたの逃げっぷりには及ばない」

「戯言を」

「本気さ」


 ゲームなので、別に答える必要はないのだが、これもRPと言うヤツだ。ノリノリでRPすれば意外と楽しい。他人に見られたら死にたくなるけど。


「仕方がない。私自ら、決着をつけるとしよう」


 そう言って、アントニオは銃を抜いて俺に狙いを付ける。

 アントニオの手にある銃。ゲームのあるNPCの銃だ。ケツ顎で下睫、トレンチコートとソフト帽がトレードマークの刑事だ。いつもは俺を逮捕しようと付けねらっているが、ときに共闘することもある。正義感の強い真っ当な刑事。ある事件を追っている際にルッツエルンの凶弾に倒れる。

 アントニオはその刑事の愛銃を戦利品として持っているのだ。


 コルト・ガバメント コインフレームスペシャル。


 スライドに寛永通宝が刻印されたこの銃は、プレイヤーの間では『銭形スペシャル』と呼ばれている。

 この銃こそ、いくら銃弾を受けても死なないアントニオを殺し、このゲームを終わらせるための銃なのだ。

 アントニオから銭形スペシャルを奪い取り、それでアントニオを撃つ。それが最後のミッションだ。


 アントニオは俺に銃を突き付け、勝利を確信して口元を歪めている。

 アントニオが引き金を引こうとした瞬間、俺は横に倒れこみながら、クイックドロウでデザートイーグルを抜く。

 ガバメントが火を噴き、俺がいた場所を弾丸が貫いた。

 時間が引き伸ばされるのを感じながら、ガバメントに狙いを付ける。すべてがスローモーションになったかのようだ。

 当たる。その確信を持って、引き金を引く。

 狙い違わず、ガバメントを弾き飛ばした。

 そして、デザートイーグルを放り出し、ガバメントに飛びつくと、その銃把を握り、身を捻って起き上がると、アントニオに銃を突きつけた。


「ばかな……」


 フロントサイトの向こう側でアントニオが呻く。


「じゃあな」


 俺はガバメントの引き金を引いた。銃声と共にアントニオが倒れる。


「とっつぁん、仇は取ったぜ」


 俺はガバメントをホルスターに納めると、アントニオに背を向け、工場を出た。

 その瞬間、すべてが暗転し、スタッフロールが流れ始める。ゲームクリアだ。


 いつもなら、スキップするんだけど、これで最後だし、折角だから終わりまで見るか。

 でも、スタッフロールって、見てると眠くなるよね。

 例に漏れず、すぐに眠くなってきた。

 いや、最後なんだし、頑張ってスタッフロール見てあげよう。


 ……


 ……ぐぅ……



オープニングテーマは、元ネタから、

可児江西さんの『POWER』にしようかと思いましたが、

クリムゾンつながりで、キンクリの

『21st Century Schizoid Man』もいいかも。

お好きなほうをどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ