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9.未亡人の男!

「ねぇ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? この弁当は誰にあげるのか」

 朝、くりくりした目で上目遣いに俺に向かってそう問う外見天使のようなショタ。俺は顔を背けて言った。

「父さんには関係ねーだろッ」



 町を歩けば俺の弟と勘違いされるこの人は、四捨五入すると50代になる俺の実の父親だ。昨日助けてもらったお礼にと、俺は今朝早くに起きて約束のお弁当を作っていた。どんなものが好きかもわからない。女性の好きそうなヘルシーで野菜の多い弁当を作ったが、はたして喜んでもらえるだろうか? そう思いながらふと後ろを振り返った俺はぎょっとした。によによと嫌な笑顔を浮かべる父親と目が合ったからだ。


 凛さんのことを言うのは照れくさいので突き放すが、彼はずっと俺にまとわりついて聞き出そうとしている。

「そんな事言わないでよー。ねえねえ、父さんに教えて教えてーっ」

「うっせー、中年親父!」

 途端に笑顔に影が差した。

「……ん?」

「ごめんなさい、お父様」

 どんなに可愛い顔をしたって、父は父。怒る時は、トラウマレベルに恐いので、俺はすぐに謝った。


「晃君、酷いなぁ、これでも父さんは、若い頃は行く先々の人達を虜にしちゃうくらい可愛くて、『魔性の男』って呼ばれていんだよ。ファンも凄くて、下駄箱に変な手紙入れるストーカーとかいたし。ね、光希ちゃん」

「えぇ。父さんは相変わらず、可愛いわ」

 いつも通り早起きしている歳の近い俺の姉は、優雅に朝のコーヒーを啜りながら言う。ロングの黒髪に、細長い猫目。僕と父さんの茶髪二重とは全く似ていないが、彼女は亡くなった母さん似である。


「光希ちゃん、日を追うごとに母さんそっくりに美人になっちゃって……」

「惚れても無駄よ。私は晃を娶ってあげなきゃいけないもの」

「知ってるよー。僕は母さん以外と結婚する気はないから安心してね、晃」

 ぱちんとウィンクをしてくる姉と父親。

 なにこの会話。実の家族の会話と思いたくない。


「ふ、ふざけんなッ! 俺は大和撫子の嫁をだな……」

「もー、夢みがちだなぁ! 性格は母さんそっくりなんだから!」

「ゆ、夢じゃねーよ! この弁当あげるのだって、大和撫子に……」


 言ってしまってから、ハッとした。姉貴がコップを落とし、父がにやにやした顔を俺に近づけた。

「ほほぉ。それはどんな娘かい?」

「晃、お姉ちゃんに会わせてくれるわよね? ねぇそうよね?」


「ま、真澄が待っているから行ってきますーっ」

逃げるが勝ち。帰ったら覚えてなさいよ、と物騒なことをいう姉を無視して、俺は急いで家をとび出した。



俺が真澄に弁当のことを話すと、彼は大きく頷いた。

「喜んでもらえるに決まっているよ。晃が一生懸命作ったものだから」

彼にそう言われるとほっとする。

「そうかな……。俺、じゃあ今日の昼休み、先に行って凛さんに渡すよ。迎えにきてもらったりしたら悪いし」

「頑張れ、晃。……あ」

校門前で真澄が不意に立ち止まり、後ろを向いた。首を傾げて俺は聞く。

「どうしたんだよ?」

「今、視線を感じて……」

「は? 先輩たちとはもう決着がついただろ」

「そうだよね……。いや、でも」

真澄は俯き、言葉を濁した。


微妙な空気が流れる中、俺達は下駄箱に到着した。

『下駄箱に変な手紙入れるストーカーとかいたしね』

父さんの言葉が頭に反芻する。

 ……そして、嫌な予感が的中した。


 俺の下駄箱に入っていた手紙が一つ。真っ白な封筒に、血のような赤文字で『晃様へ』と綴られている。


 中身は二枚の白い便箋があったが、それはほとんど白でなかった。冷や汗が伝う。

「なんだよ、これ……」

 俺の後ろから手紙をのぞき見た真澄も、言葉を失ったようだった。


便箋にはびっしりと汚い赤い文字で書かれている。



 『愛している。私が守ってあげるから。私とあなただけがいればいいの。ねえ、その女誰? どこ見てんの? 邪魔邪魔邪魔。私が一番あなたのこと分かっているのに。……』


 興奮して書いたのか、どんどん汚くなっていく字体。しかし、最後に書かれた文字はくっきりしていた。


  『迎えにいくね』


 その時俺は初めて、誰かの視線が背中に刺さるのを感じた。


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