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7.戦いの男達

 晃と凛の恋を、僕は心から応援している。二人はとてもお似合いだと思う。その上で、彼らの問題点が分かってきた。それは、晃は素直じゃない事、そして彼が恋に対して疎い事だ。


「晃君ってば、彼女にお弁当作るのッ?」「先生なんでここにいるんだよ!」

担任の先生が、三年の教室を出た晃に声をかけた。

「晃君の恋、順調ね! まず曲がり角でぶつかるっていう出会い的に、やっぱり運命だったのよ」「なんでそのこと知ってるんだよ!」

「まあ、恋の相談ならいつもするわよ〜」

「別に好きな訳ではないっ!」

 担任の先生の長い茶髪の後ろ姿に向かって、晃は叫ぶ。先生は気にした様子もなく三年の教室に入っていく。


(『ただ憧れているだけだッ!』って心の中で叫んでいるんだろうね……)

 僕は恋の基準を知らない。でも、晃と凛の間にはふわふわした温かい雰囲気があって、それがずっと続いたら良いな、と僕は思える。これが恋の空気だと、晃も認めれば万事解決だ。


 晃は、階段の近くで待っていた僕に気づいて、駆け寄った。

「ごめん、待ったか、真澄?」

「ううん、全然。それより晃、今日俺、生徒会なんだけど……」

「あ、悪い。今日姉貴の買い物に付き合う約束があって……先帰るな」

「分かった。あ、でも、……本当に、大丈夫? 最近、つけられているような視線を感じるよ……」

 僕の言葉に、晃はきょとんとした。僕は、三年の教室をちらりと見る。晃はそれをみて、前囲んできた三年の先輩達を思い出したらしい。


「先輩達の事か? 大丈夫だよ、俺男だし、なんかあったって逆にやっつけてやる!」

「晃の体育の成績じゃそれは無理だよ……」

 僕の言葉に気分を害したらしく、晃は不機嫌そうに言った。

「じゃあ、頭脳でうまく撒いて……」「晃の教養の成績じゃ……」

「うるせーッ! とにかく大丈夫なんだッ! とっとと教室行くぞ!」

 晃は、渋い顔をして、2年の教室に走っていった。僕も心配ながら、ため息をついてそれに続く。



 放課後、僕は帰路を走っていた。

 テキパキとした会長の進行ですぐに生徒会は終わったが、僕がロボットだからと仕事を押し付けようとした同学年の人達に絡まれ、遅れてしまった。凛さんが気づいて助けてくれなければ、もう少しかかっただろう。

(晃は……?)

 案の定、帰宅の途中の道の人通りの少ないところで晃は先輩達に絡まれていた。


 予想通りの展開だが、一つ想定外の事があった。

 先輩の数が、四人から十倍ほど増えていたのだ。さすがの晃もあんぐりと口を開けている。

(何人いるんだ、これ……)

「やっちまえーっ!」

彼らは武器は持っていないようだが、一斉に飛びかかる男どもはホラーである。晃は足がすくんで動けないようだ。

「晃っ!」

僕がそう叫ぶと、晃も我に返ってこちらに向かって走ってきた。そして、彼を案内するように僕も走り出す。


 ジグザグと入り組んだ道を行き、薄暗い壁に囲まれたところで二人で息を整えた。

「一応、できるかぎり撒いたけど、時間の問題だね」

「真澄、悪い……」

「平気。今、応援頼んだ。晃が意外と持久力あってよかった」

「毎日朝に、トレーニングしているから、当たり前だろ……」

 元気がない彼の頭を優しく撫でる。彼は、ぽつぽつと話しだした。


「俺を締めるために、その場であれだけの人数が集まったんだって……」うん……。「俺、今までそんなに嫌われた事なくて……」……。「なんだか、みんな俺の敵な気がして」……うん。「真澄が来て、ほっとした」……うんっ。


「僕も、晃が無事でほっとしたよ」

そう僕が言うと、晃はやっと、いつもの調子が戻ったようで、笑った。


 晃が落ち着いてきた頃、先輩達が数人たどり着いた。

「真澄、喧嘩した事あるか……?」

「ないよ。でも一応、学校の体術ではそこそこの成績だけど」

「悪い。俺……」「晃が体術が苦手な事はよく知ってるよ、大丈夫。僕に任せて」

 僕は肩を軽く回す。たどりついたうちの一人が、前に進み出てきた。前会った時の四人の中にもいた、金髪の男だ。

「悪いね、女子供は殴らない主義なんだが」

 なんて代表的な悪役の台詞だ。ツッコむのもめんどうくさくて、僕はスルーした。

「晃に手を出さないでください」

「そうもいかねーよ。ソイツこっちに引き渡してくれないか?」

「無理です」

「そうつれない事言わずに……っさ!」

金髪がいきなり回し蹴りをしてきた。しかし、僕は最小限の動きでそれを避ける。金髪男がその事に驚愕した。

「俺のスーパーミラクル青龍拳風林火山回し蹴りを避けただと……っ」

「名前ださいな。つか、どこの国の技か決めろよ」

余裕の出てきた晃がツッコミをいれる。

 金髪の先輩に精神的ダメージ! クリティカルだ!

 彼はぐったりと倒れた。

「さすが20××年男子ッ! 精神がもろいなっ!」

「ガラスの、ハートと、言って、く、れ……」

 とどめを入れた晃に、金髪の先輩は苦々しそうにそう言って気を失った。


「課長ーッ!」「貴様ら、課長に何を!」

試合を見守っていた外野の子分達がわらわら集まってくる。

「課長ッ? なにそれ金髪男のあだ名ッ?」

 晃の問いには答えず、彼らは騒ぎだす。

「あ、部長と専務だ! 部長と専務が到着したぞ!」「貴様らの終わりだっ!」

 子分達の間から割って出るように、以前会った巨体と眼鏡が現れた。どうやら部長と専務と呼ばれる人らしい。前囲んできた四人はどうやら子分達より上の立場のようだ。


「ふふ、私の出る幕はありませんね。ささ、やってしまいなさい、部長!」

 眼鏡をカチャカチャ言わせて、専務らしき人が言う。

 巨漢が僕の方に向かってきた。コイツは強そうだ。拳をふるわれるが、間一髪で避ける。双方睨み合うその時……。


「専務ーっ! 専務が攫われたっ!」「なんて野郎だ! 俺達の意識が部長達の方に向かっている時に!」

 驚いて先ほど専務がいた方を見た。すると、晃が何かを掲げてドヤ顔をしている。……『眼鏡』だ。

「卑怯め!」「非道だ!」

外野がやいのやいの言っている。

 だが、当の専務だったものが地面を手探りで探して『めがね、めがね……』としている事に何も触れない子分達も酷いと思う。専務を眼鏡としか認識していないのだろう。

(案外、コイツらチョロいんじゃないか……)


「専務を返せっ、小童!」

 巨漢が晃に向かって走ろうとする時に、隙ができた。チャンスだと思い、僕はそいつに向かって蹴りを繰り出す。が、その的は彼から外れ、壁に大きなひびが入るのみだった。

「あれ……」

 僕が的を外れるはずがない。もう一度殴るが、彼にあたらず、壁に拳がえぐり込む。威力はあるのにどういうことだ。


子分達も、部長も、状況が理解できず、ぽかんと口を開ける。微妙な空気になった中、晃がはっとしたように叫んだ。

「真澄、お前、もしかして、ロボットだから人を殴れないようにプログラミングされているんじゃ……ッ!」


 ロボット工学三原則。

第一条ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

  出典:『われはロボット』アイザック・アシモフ著、小尾芙佐訳(1983年)


 脳裏に浮かんだ情報に、自分の顔が青ざめるのが分かった。

(今更、そんな変な設定なんて……!)

「ロ、ロボットだったのか!」「つまり向こうは攻撃できないってことか……!」

 騒ぎだす子分達。


 チャンスだ、部長! 部長! B•U•T•Y•O•U!

「空手部部長の意地見せたれー!」「いけいけー!」

「本当に部長だったのかよっ! って、ツッコんでいる場合じゃねー、逃げろ真澄!」


 ピンチ到来。僕は蒼白のまま、部長の方を見た。……しかし、なぜか部長も真っ青な表情をして僕を見ていた。

「君、女じゃ、なかったの……?」

「僕はロボットですが」


 何かがパリンと割れる幻聴が聞こえたと思ったら、その瞬間に部長が倒れた。

「部長ーっ!」「ま、まさかあなたコイツに惚れて……!」

子分達が囲む中、ふっと光のない目で微笑む部長。

「もう恋なんてしないなんて……」

そう呟いて、彼は息絶えた。

「言わないでください、絶対ーっ!」

 子分達の叫び声が響き渡る。

 なんとなく申し訳なくて、僕も小さく合掌した。


 ……またざわざわしだした子分達。またモーゼの海割りのように道を作る。

「来たぞ!」「今度こそ貴様らの終わりだ!」


 万策尽きた僕たちの前に次に現れたその人は、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。



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